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第1章【はじまりのモノガタリ】
1罪 召喚⑤
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「ええと……助けて下さって本当にありがとうございました。お名前…お聞きしてもいいですか?」
私の事をギュッと抱きしめたまま、静は少年に向かって問いかけた。確かに彼の名前はとても気になっていた。命の恩人の名前を知りたいと思うのは至極普通の事だと思う。私は静の胸に抱きしめられながらコクコクと頷き。
「私も……聞きたいです。教えてもらえませんか?」
顔を横に向け、静の胸から顔を出す形で彼を見つめて問いかけた。真っすぐに彼を見つめれば、同じようにして彼も視線を交わらせてくれる。すると、彼は肩を竦めながらふぅっと息を一つ吐き捨てた。
「別に構わないし、なんなら敬語じゃなくてもいいよ。それに」
「それに?」
「俺はあんた達を連れていきたい場所があるんだ」
そのためにも、お互い自己紹介は必要だろ? と少年は苦笑を浮かべながら呟いた。
「連れていきたい場所?」
「……そう言って連れて行った俺たちを殺すんじゃないだろうな?」
少年の言葉をオウム返しで呟く私の言葉のすぐあとに、真兄のごもっともな疑いの発言。私は命の恩人に向かって失礼じゃないかと思うのと同時に、真兄の言葉も一理あると納得してしまう部分もあった。真兄の言葉の直後に、呼応するように私を抱きしめる静の腕に力が籠った。思いがけない力強い抱擁に、私は小さく「うっ」とうめき声を上げた。
少年はと言えば、別に機嫌を損ねたわけでもなく、なんともない表情を浮かべたまま私たちを見つめていた。ただ、真兄の言葉に「そうだ」とも「違う」とも何も答えを出さない。ただ無言で見つめてくるだけ。それがかえって不気味にも思えるのだけど、今この現状で否定しても肯定してもただ怪しいだけには変わりないという事に気付いた私は、恐る恐る言葉を口にした。
「殺そうと思ってる人が肯定するとも否定するとも思えない……し、何より殺そうと思ってるならさっき私たちを助ける意味だってないと……思うんだけど」
私の考えがあっているかどうかは分からない。情報がなければ自信の持ちようもない。
「ははは、確かにその通りかもしれないね。とりあえず、信じてはもらえないかもしれないけど、殺すつもりかどうかについては“否”と答えておくよ」
それで構わないかな? と笑う少年に、私たち三人は顔を見合わせてゆっくりと頷いた。ここに三人だけで放り出されても、死ぬのは時間の問題だと思う。あんな魔獣が他にもうじゃうじゃ居るのだとしたら、闘う術のない私たちにはどうしようもない。だったら、今のところは助けてくれた彼を信じてついていくしかない。
「信じてもらえたようで嬉しいよ」
「命の恩人ですし……ううん、命の恩人だし、今は他に手もないわ。信じてみるほかないのよ」
少年の言葉に、静はそう言いながら私を抱きしめる腕の力を緩めた。静の抱擁から解放された私はゆっくりと静から少しだけ距離を取り大きく息を吸った。緊張から上手く息が吸えていなかったのか、安堵した今息苦しさを強く感じた。酸素を求めて深呼吸、といったようにたくさんたくさん息を吸った。
「でも……私は助けてくれた貴方を信じたいと思っているわ」
「信じてくれると嬉しいけどね」
静は微笑みながら少年に近づいていき、彼の肩にぽんと触れた。そして彼も近づいてきた静を真っすぐ見つめ微笑んで見せた。
「じゃ、連れていきたい場所に案内がてら自己紹介でもしようか」
「そうだな」
私の事をギュッと抱きしめたまま、静は少年に向かって問いかけた。確かに彼の名前はとても気になっていた。命の恩人の名前を知りたいと思うのは至極普通の事だと思う。私は静の胸に抱きしめられながらコクコクと頷き。
「私も……聞きたいです。教えてもらえませんか?」
顔を横に向け、静の胸から顔を出す形で彼を見つめて問いかけた。真っすぐに彼を見つめれば、同じようにして彼も視線を交わらせてくれる。すると、彼は肩を竦めながらふぅっと息を一つ吐き捨てた。
「別に構わないし、なんなら敬語じゃなくてもいいよ。それに」
「それに?」
「俺はあんた達を連れていきたい場所があるんだ」
そのためにも、お互い自己紹介は必要だろ? と少年は苦笑を浮かべながら呟いた。
「連れていきたい場所?」
「……そう言って連れて行った俺たちを殺すんじゃないだろうな?」
少年の言葉をオウム返しで呟く私の言葉のすぐあとに、真兄のごもっともな疑いの発言。私は命の恩人に向かって失礼じゃないかと思うのと同時に、真兄の言葉も一理あると納得してしまう部分もあった。真兄の言葉の直後に、呼応するように私を抱きしめる静の腕に力が籠った。思いがけない力強い抱擁に、私は小さく「うっ」とうめき声を上げた。
少年はと言えば、別に機嫌を損ねたわけでもなく、なんともない表情を浮かべたまま私たちを見つめていた。ただ、真兄の言葉に「そうだ」とも「違う」とも何も答えを出さない。ただ無言で見つめてくるだけ。それがかえって不気味にも思えるのだけど、今この現状で否定しても肯定してもただ怪しいだけには変わりないという事に気付いた私は、恐る恐る言葉を口にした。
「殺そうと思ってる人が肯定するとも否定するとも思えない……し、何より殺そうと思ってるならさっき私たちを助ける意味だってないと……思うんだけど」
私の考えがあっているかどうかは分からない。情報がなければ自信の持ちようもない。
「ははは、確かにその通りかもしれないね。とりあえず、信じてはもらえないかもしれないけど、殺すつもりかどうかについては“否”と答えておくよ」
それで構わないかな? と笑う少年に、私たち三人は顔を見合わせてゆっくりと頷いた。ここに三人だけで放り出されても、死ぬのは時間の問題だと思う。あんな魔獣が他にもうじゃうじゃ居るのだとしたら、闘う術のない私たちにはどうしようもない。だったら、今のところは助けてくれた彼を信じてついていくしかない。
「信じてもらえたようで嬉しいよ」
「命の恩人ですし……ううん、命の恩人だし、今は他に手もないわ。信じてみるほかないのよ」
少年の言葉に、静はそう言いながら私を抱きしめる腕の力を緩めた。静の抱擁から解放された私はゆっくりと静から少しだけ距離を取り大きく息を吸った。緊張から上手く息が吸えていなかったのか、安堵した今息苦しさを強く感じた。酸素を求めて深呼吸、といったようにたくさんたくさん息を吸った。
「でも……私は助けてくれた貴方を信じたいと思っているわ」
「信じてくれると嬉しいけどね」
静は微笑みながら少年に近づいていき、彼の肩にぽんと触れた。そして彼も近づいてきた静を真っすぐ見つめ微笑んで見せた。
「じゃ、連れていきたい場所に案内がてら自己紹介でもしようか」
「そうだな」
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