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第1章【はじまりのモノガタリ】
1罪 召喚③
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「……静っ」
「真兄さんっ」
「二人ともっ……‼」
周りが何も見えなくて不安だった。そんな中で聞こえた二人の声に私は反射的に声を上げて手を伸ばした。けれど、私の手は誰にも触れることはなかった。ピンクで埋め尽くされていた視界が、一瞬だけ開けた。その瞬間に見えたものは、未知なる現象に怯え真兄にしがみつく静の姿と、そんな静を優しく包み込むように抱きしめている真兄だった。
真兄が静を好いていたことは知っていた。前に真兄に「静の事が好きなの?」と聞いたことがあり、その時に「魂が引き寄せられたように、静に惹かれた」と教えられたからだ。だから、真兄が静かに手を差し伸べるのは理解できた。彼女を抱きしめるのも理解できた。けど、静は?
「大丈夫だ……大丈夫だから」
真兄が優しい声色で呟き、静の背中をゆっくりとさすった。真兄の腕の中で、静がどんな表情をしているのかは、私には見えない。だけど、きっと安心しきった表情を浮かべているんだろうなっていう事だけは容易に想像できた。二人は大切な親友で大切な幼馴染。だけど、二人にとって最も大切で優先すべきなのは、私以外…真兄は静で、静は真兄だったという事を突き付けられたような感じがして、少しだけ寂しかった。だけど、それは仕方ない。だって、相手は静だもん。
「……二人とも、大丈夫?」
視界が少しずつ開けていくと鳥のさえずりが聞こえ、木々の香りが鼻をかすめ、足と手に土の感触を感じた。さっきまでいたのは通学路…つまりコンクリートだったはずなのにも関わらず、触れている手が感じるのは柔らかい感触。そして指の隙間に細い何かが触れる感覚。コンクリートではなくて土? 草? そんな風に思いながら、私は二人の無事を確認するように問いかけた。
「ええ……私は大丈夫よ。真兄さんに雪ちゃんは大丈夫?」
「俺も大丈夫だ。雪は?」
「私も大丈夫だよ」
三者三様に答えた瞬間、視界が完全に晴れた。目の前に広がる景色は、私たちが見慣れた住宅街でもなくて、これから通う予定の通学路でもなくて、ただただ草原が、草木が…広がっていた。電信柱もない、電線が空を通ってもいない、ビルやベランダに干された洗濯物だってない。見たこともない景色に私たちは言葉を失った。
え、ちょっと待って……こ、ここは……どこ?
「……さっきまで家の前にいた…よね?」
「そうだったはずだけど……」
立ち上がり周りを見渡してみても見覚えのない景色ばかりが広がっていた。見覚えのない草木が生い茂り、見覚えのない実が生っている。
「グルルルル……グギュルルルルルルル……」
突如聞こえた聞き覚えのない唸り声に、私はビクッと肩を震わせた。これが私一人だったら、きっと“これは夢だ!”と思っていただろう。だけど、ここには私だけじゃなくて静や真兄もいる。そんな中で“夢”だなんて言えるはずがない。“夢じゃない”要素ばかりがたくさんあった。
「な、なに⁉」
「キャアアアアアアア」
慌てて振り返ると、そこには真っ黒の狼のような獣が威嚇をする体勢でこちらを見ていた。よくよく見るとその狼には一本の鋭い角が生えていて、口からのぞく牙は狼の顎のあたりまで鋭く伸びていて、それがより一層私たちの恐怖心を煽ってきた。こういう生き物を、きっと魔獣とでも呼ぶんじゃないだろうか。
「グルルルル……」
助走をつけようと地面をける足の爪も鋭く伸びていて、土をえぐる様に突き刺さっていた。それを目の当たりにしてしまうと恐怖がより濃くなり、足が動かなくなる。それは私だけじゃなかったようで、静も真兄も寄り添うようにくっついていた。真兄の腕は静を守る様に彼女の肩を抱いて、半身彼女より前に身を乗り出していた。静も彼を頼る様に縋り付いていた。
「グギャアアアアア‼」
喉を震わせ唸り声をあげ、狼のような魔獣は地面を爪でえぐって勢いよくこちらへ飛びかかってきた。こんなの避けられるわけもない。逃げられるわけもない。ただただ捕食される未来しか予測できない。
「真兄さんっ」
「二人ともっ……‼」
周りが何も見えなくて不安だった。そんな中で聞こえた二人の声に私は反射的に声を上げて手を伸ばした。けれど、私の手は誰にも触れることはなかった。ピンクで埋め尽くされていた視界が、一瞬だけ開けた。その瞬間に見えたものは、未知なる現象に怯え真兄にしがみつく静の姿と、そんな静を優しく包み込むように抱きしめている真兄だった。
真兄が静を好いていたことは知っていた。前に真兄に「静の事が好きなの?」と聞いたことがあり、その時に「魂が引き寄せられたように、静に惹かれた」と教えられたからだ。だから、真兄が静かに手を差し伸べるのは理解できた。彼女を抱きしめるのも理解できた。けど、静は?
「大丈夫だ……大丈夫だから」
真兄が優しい声色で呟き、静の背中をゆっくりとさすった。真兄の腕の中で、静がどんな表情をしているのかは、私には見えない。だけど、きっと安心しきった表情を浮かべているんだろうなっていう事だけは容易に想像できた。二人は大切な親友で大切な幼馴染。だけど、二人にとって最も大切で優先すべきなのは、私以外…真兄は静で、静は真兄だったという事を突き付けられたような感じがして、少しだけ寂しかった。だけど、それは仕方ない。だって、相手は静だもん。
「……二人とも、大丈夫?」
視界が少しずつ開けていくと鳥のさえずりが聞こえ、木々の香りが鼻をかすめ、足と手に土の感触を感じた。さっきまでいたのは通学路…つまりコンクリートだったはずなのにも関わらず、触れている手が感じるのは柔らかい感触。そして指の隙間に細い何かが触れる感覚。コンクリートではなくて土? 草? そんな風に思いながら、私は二人の無事を確認するように問いかけた。
「ええ……私は大丈夫よ。真兄さんに雪ちゃんは大丈夫?」
「俺も大丈夫だ。雪は?」
「私も大丈夫だよ」
三者三様に答えた瞬間、視界が完全に晴れた。目の前に広がる景色は、私たちが見慣れた住宅街でもなくて、これから通う予定の通学路でもなくて、ただただ草原が、草木が…広がっていた。電信柱もない、電線が空を通ってもいない、ビルやベランダに干された洗濯物だってない。見たこともない景色に私たちは言葉を失った。
え、ちょっと待って……こ、ここは……どこ?
「……さっきまで家の前にいた…よね?」
「そうだったはずだけど……」
立ち上がり周りを見渡してみても見覚えのない景色ばかりが広がっていた。見覚えのない草木が生い茂り、見覚えのない実が生っている。
「グルルルル……グギュルルルルルルル……」
突如聞こえた聞き覚えのない唸り声に、私はビクッと肩を震わせた。これが私一人だったら、きっと“これは夢だ!”と思っていただろう。だけど、ここには私だけじゃなくて静や真兄もいる。そんな中で“夢”だなんて言えるはずがない。“夢じゃない”要素ばかりがたくさんあった。
「な、なに⁉」
「キャアアアアアアア」
慌てて振り返ると、そこには真っ黒の狼のような獣が威嚇をする体勢でこちらを見ていた。よくよく見るとその狼には一本の鋭い角が生えていて、口からのぞく牙は狼の顎のあたりまで鋭く伸びていて、それがより一層私たちの恐怖心を煽ってきた。こういう生き物を、きっと魔獣とでも呼ぶんじゃないだろうか。
「グルルルル……」
助走をつけようと地面をける足の爪も鋭く伸びていて、土をえぐる様に突き刺さっていた。それを目の当たりにしてしまうと恐怖がより濃くなり、足が動かなくなる。それは私だけじゃなかったようで、静も真兄も寄り添うようにくっついていた。真兄の腕は静を守る様に彼女の肩を抱いて、半身彼女より前に身を乗り出していた。静も彼を頼る様に縋り付いていた。
「グギャアアアアア‼」
喉を震わせ唸り声をあげ、狼のような魔獣は地面を爪でえぐって勢いよくこちらへ飛びかかってきた。こんなの避けられるわけもない。逃げられるわけもない。ただただ捕食される未来しか予測できない。
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