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第2章【交わる二人の歯車】

7罪 嫉妬①

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「よし、出来た!」

 パンパンと両手を叩くようにして手に付いた土埃を落とす。
 焚火を中心に東側に静と真兄のテントが張られ、西側に私のテント。そして焚火から南側にヴェル君のテントが張られた。

「それぞれのテントに室温調節魔法と防音魔法と侵入妨害魔法をかけておいたから、安心して眠れると思うよ」

 室温調整魔法はテントの中の気温を一定に保てる魔法で、防音魔法はその言葉通り中の音が外に漏れない魔法、そして侵入妨害魔法というのはテント所有者に無断で中に入ることが出来ない魔法らしい。これも生活魔法の一つだとヴェル君が説明してくれた。
 そんな便利な魔法があるなんて、本当にこの世界は凄いなあと改めて思った。私の世界だったら、室温調整魔法はエアコンだろうし、防音魔法は……防音設備になるのかな?でも、たぶん魔法と比べたら防音設備はそこまで完璧に遮断できるわけじゃないと思う。そして、侵入妨害魔法はセキュリティー関連だろうなと思った。

「ヴェル君、ありがとうね。これで寝言とか気にせず寝れるよ」

 寝言にイビキ、結構地味に気になっていたからヴェル君の魔法は本当に大助かりだ。

「どういたしまして。それじゃあ、ご飯食べてケア魔法で服と体を綺麗にしたら寝ようか」

 そう言うと、異空間から今度は鍋とお肉と野菜を取り出した。水は生活魔法で出せると言っていたし、調理はヴェル君に任せるしかないのかな?

「何か手伝えることってある?」
「うーん……火加減とかも俺がしなきゃだし、特にないかなぁ? 近くに座って待っててくれていいよ」

 焚火に鍋を置いて、水を注いでいるヴェル君に近づいて声をかけたが、やはり手伝えることは何もないらしく、少しだけ肩を落とした。
 何でもかんでも彼にまかせっきりな気がして申し訳ない。

「そんなに気にする事ないよ、雪ちゃん」
「だけど……」
「雪ちゃんはこれからいろいろと大変なんだから、こういうことくらい俺に任せてよ」

 何も出来ない自分がもどかしくて、申し訳なくて、きっと見るからに肩を竦めている様に見えるだろう。そんな私をヴェル君は軽く笑ってポンポンと私の背中を叩いてくれた。彼のそんな対応が、凄く私の心を軽くしてくれたのが分かった。申し訳ないという気持ちはあるものの、じゃあお願いしようかなと前向きに思えるようになった。

「腕によりをかけて美味しいのを作るから」
「期待してるね!」
「あんまり期待しすぎないでもらえると嬉しいかなー」

 なんて軽口を叩き笑いあった。そしてヴェル君は料理に集中し、私はそんな彼を少しだけ見つめたあと近くに腰かけた。静と真兄も近くに座っていて、笑いながら何か話をしていた。だけど、その輪の中に入る気にもなれず、私は料理をする彼を見つめ続けたのだった。

* * *

 ヴェル君の料理を食べて、ケア魔法で服と体を綺麗にしてもらい、あとは寝るだけになった。パチパチと火が弾ける焚火の音が耳に残る。
 緊張しているのかなんなのか、眠れず私はテントの中で起きていた。

「……あら、まだ寝ていないの?」
「静ちゃんか。あんたも寝ないの?」
「私もなかなか寝付けなくて」

 焚火の音の中に聞こえてきたヴェル君と静の声に、私は無意識に息をひそめ耳を澄ませていた。

「少しだけ話し相手になってもらってもいいかしら?」
「ああ、構わないよ」

 静とヴェル君が二人きりという状況に、少しだけ胸がざわざわした。確かに彼女がヴェル君との恋路を協力すると言ってくれていた。いろいろと聞き出してくれるとも言っていた。だからこそ、二人きりになるのは理解できるし、そうじゃなければ聞き出すことなんで難しいだろう。
 頭で理解はしているものの、やはりその状況が目の前で繰り広げられていると心穏やかではいられなかった。協力してくれているだけなのに、そんな静に嫉妬心を向けるなんて凄く申し訳ないなとも思った。

「今日の夕飯はありがとう。とても美味しかったわ」
「口にあったなら良かったよ」
「肉野菜スープ、スパイスが効いてて結構好みだったわ。ヴェルくんもそういう味が好きなの?」

 その問いかけが私の耳に入り、本当に静はヴェルくんの好みを聞き出そうとしてくれているという事が分かった。だからこそ、嫉妬しているのが申し訳なかった。こんなに私のために頑張ってくれているのに、そんな風に静の事を思うのは彼女の気持ちを裏切っている気がしてならなかった。
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