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第2章【交わる二人の歯車】
6罪 静の協力①
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「忘れ物はない?」
「ないよ、大丈夫!」
「というか、ほとんど持ち物なんてないのだから問題ないでしょう」
ヴェル君の問いかけに私は元気に答えた。そして、静の言葉に確かにと同意した。
だって、服に関しては今着ている一着しかない。野宿などに必要な物などはヴェル君の使う生活魔法の一つ“空間魔法”で異空間に収納してある。
「それで、まずはどこに向かえばいいんだ?」
「どこに向かおうと戦う事になるんだから関係なくない?」
「その事なんだけど……」
「前に考えがあると言っていたわよね、ヴェルくん」
真兄と私の言葉にヴェル君が何か考えがあると呟いた。そこで静が思い出したヴェル君の以前の言葉。
確かにヴェル君は前に考えがあると言っていた気がする。
「うん。ちょっと卯ノ国にまずは行こうかなと思って」
「卯ノ国?」
「神国は王都以外に12の国があるんだけど、その中の一つだよ」
「え⁉ しょっぱなから戦うって事⁉」
ヴェル君の提案に私は驚いた。確か、妖がいるという話で、その妖と戦う事になるかもしれないと言っていたはずだ。だからこその考えがあるという話だったような気がしたんだけど、気の星だったのだろうか?
戦う術なんてない今の状態で向かっても大丈夫なのだろうかと疑問に思った。だけど、自信満々に笑うヴェル君の様子に、もしかしてその心配は杞憂なんじゃないだろうかとも思った。
「戦う事にはならないはずだから、そんなに気構えなくても大丈夫だよ」
「え?」
「まあ、着けばわかると思うよ」
ヴェル君の言っている意味が、私も静も真兄も理解できなかった。顔を見合わせて首を傾げた。だって、妖とは戦う事になるって言っていたはずなのに……
「まあ、今悩んでもどうしようもないわね」
「確かにそうだな。ヴェルがそういうんだから、問題はないんだろうしな」
静と真兄は大きくため息を吐き、まるでついてからのお楽しみと言わんばかりのヴェル君の言葉を飲み込んだ。おそらく、問いただしたところで答えないだろうと結論付けたのだろう。
「じゃあ、行こうか」
「うん」
* * *
月の塔を出発し、魔国を覆うように広がる森を抜けた。その先はもう神国だ。いつ、どこから追手が来るかもわからない。いつなんどき、戦闘が始まるか分からない。そんな不安を抱えながら私たちはヴェル君の言った“卯ノ国”を目指した。
といっても、そう遠くはないらしい。卯ノ国とは、名前の通りウサギの妖のいる国だそうで広い雪山があるらしい。つまり、雪うさぎって事なのかな? なんて思った。
「雪ちゃん大丈夫? 疲れてない?」
「うん、私は大丈夫だよ。静と真兄は大丈夫?」
先を歩くヴェル君が振り返り私の心配をしてくれた。その心遣いが嬉しくて、何より“好き”だと自覚した私にとってヴェル君が私を心配してくれているという事実が凄く嬉しい。
嬉しいけれど、ヴェル君が心配してくれたように疲れているわけではないから、そこだけははっきりと返事を返した。そして、同じく現代人である静と真兄に同じ疑問を投げかけた。もしかしたら、二人は疲れ果てているかもしれない……そう思ったから。
だけど、それは杞憂だったようで、心配して視線を向けた先にいる二人は元気に笑顔を返してくれた。
「大丈夫よ、雪ちゃん。心配してくれてありがとう」
「俺は静や雪と違って体力もある。大丈夫だ。雪こそ無理はするなよ」
「うん、ありがとう。疲れたかなって思ったらすぐに言うね」
変わらず私の心配もしてくれる二人に、私は安堵しながら嬉しさで笑みがこぼれた。うん、やっぱり二人は優しい。そう再確認した。
「ないよ、大丈夫!」
「というか、ほとんど持ち物なんてないのだから問題ないでしょう」
ヴェル君の問いかけに私は元気に答えた。そして、静の言葉に確かにと同意した。
だって、服に関しては今着ている一着しかない。野宿などに必要な物などはヴェル君の使う生活魔法の一つ“空間魔法”で異空間に収納してある。
「それで、まずはどこに向かえばいいんだ?」
「どこに向かおうと戦う事になるんだから関係なくない?」
「その事なんだけど……」
「前に考えがあると言っていたわよね、ヴェルくん」
真兄と私の言葉にヴェル君が何か考えがあると呟いた。そこで静が思い出したヴェル君の以前の言葉。
確かにヴェル君は前に考えがあると言っていた気がする。
「うん。ちょっと卯ノ国にまずは行こうかなと思って」
「卯ノ国?」
「神国は王都以外に12の国があるんだけど、その中の一つだよ」
「え⁉ しょっぱなから戦うって事⁉」
ヴェル君の提案に私は驚いた。確か、妖がいるという話で、その妖と戦う事になるかもしれないと言っていたはずだ。だからこその考えがあるという話だったような気がしたんだけど、気の星だったのだろうか?
戦う術なんてない今の状態で向かっても大丈夫なのだろうかと疑問に思った。だけど、自信満々に笑うヴェル君の様子に、もしかしてその心配は杞憂なんじゃないだろうかとも思った。
「戦う事にはならないはずだから、そんなに気構えなくても大丈夫だよ」
「え?」
「まあ、着けばわかると思うよ」
ヴェル君の言っている意味が、私も静も真兄も理解できなかった。顔を見合わせて首を傾げた。だって、妖とは戦う事になるって言っていたはずなのに……
「まあ、今悩んでもどうしようもないわね」
「確かにそうだな。ヴェルがそういうんだから、問題はないんだろうしな」
静と真兄は大きくため息を吐き、まるでついてからのお楽しみと言わんばかりのヴェル君の言葉を飲み込んだ。おそらく、問いただしたところで答えないだろうと結論付けたのだろう。
「じゃあ、行こうか」
「うん」
* * *
月の塔を出発し、魔国を覆うように広がる森を抜けた。その先はもう神国だ。いつ、どこから追手が来るかもわからない。いつなんどき、戦闘が始まるか分からない。そんな不安を抱えながら私たちはヴェル君の言った“卯ノ国”を目指した。
といっても、そう遠くはないらしい。卯ノ国とは、名前の通りウサギの妖のいる国だそうで広い雪山があるらしい。つまり、雪うさぎって事なのかな? なんて思った。
「雪ちゃん大丈夫? 疲れてない?」
「うん、私は大丈夫だよ。静と真兄は大丈夫?」
先を歩くヴェル君が振り返り私の心配をしてくれた。その心遣いが嬉しくて、何より“好き”だと自覚した私にとってヴェル君が私を心配してくれているという事実が凄く嬉しい。
嬉しいけれど、ヴェル君が心配してくれたように疲れているわけではないから、そこだけははっきりと返事を返した。そして、同じく現代人である静と真兄に同じ疑問を投げかけた。もしかしたら、二人は疲れ果てているかもしれない……そう思ったから。
だけど、それは杞憂だったようで、心配して視線を向けた先にいる二人は元気に笑顔を返してくれた。
「大丈夫よ、雪ちゃん。心配してくれてありがとう」
「俺は静や雪と違って体力もある。大丈夫だ。雪こそ無理はするなよ」
「うん、ありがとう。疲れたかなって思ったらすぐに言うね」
変わらず私の心配もしてくれる二人に、私は安堵しながら嬉しさで笑みがこぼれた。うん、やっぱり二人は優しい。そう再確認した。
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