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第1章【はじまりのモノガタリ】
3罪 前世を思い出す方法①
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「うっわぁ~……」
月の塔の中へ入って、開口一番に出た言葉はそれだった。いや、本当に凄いんだって。外で見た以上の広さで、塔の中央には上へ続く螺旋廻廊。上を見上げれば斜めに昇っていく天井。そこにきっといろんな人の部屋があるんだろうなって思った。つまり、この塔は魔国に住んでいる人たちが共同で暮らす場所……という事だ。
「住人の部屋の他に、食堂、浴場、図書室、武器庫、鍛冶作業場、食糧庫兼解体場、応接間……そして、今は不在の王の間があるよ」
「結構いろいろあるんだ……」
「食べ物は森の中で木の実を取ったり、海まで出向いて魚を取ってきたり、森の中の魔獣を狩って解体したりしてるからね。そのために必要な武器を保管したり作ったり直したりしなきゃいけないしね」
それはつまり、食物を得るために戦っている人たちがいるという事だ。ごくりと息を呑んだ。もし、ここで暮らすうえで必要になる食糧を自分たちで取ってこいなんて言われたら……きっと私達は飢え死にしてしまいそうな気がしてならない。
「別に雪ちゃん達に狩ってこーいなんて言わないから大丈夫だよ」
心配に思っていたのがヴェル君に筒抜けだったのか……私ははぐらかすように笑うしかなかった。
「でもね」
「うん?」
急に真剣な声色になったヴェル君に、私は首を傾げて生唾を飲み込んだ。こんな真剣な面持ちでなんだろう……まったくもって予測できない。
私は彼の顔を真っすぐ見つめ、言葉を紡がれるのを待った。それは、私のそばに立っている静と真兄も同じようだった。
「あんた達は探されている身だ。もしかしたら、向こうも強行突破してくるかもしれない……だから」
「身を守るためにも武術を身に着けたほうがいい……という事か?」
ヴェル君の言葉に、一番早く真意に気付いたのは真兄だった。ヴェル君の言葉を遮って問いかけるその姿は凄く真剣そのもので、真兄の視線はとても怖かった。
「うん、そういう事。俺やインキュバス、サキュバスだけじゃ守り切れないと思う。ここにいる人たちは、もともとは人界の人達が変異しただけだから、獣を狩ることは出来ても戦う事は出来ない」
「でも‼ それなら、私達だって……別の世界から来たんだし」
戦えるはずがない、と私は言いたかった。言いたかったけど、言葉を飲み込んでしまった。ヴェル君から道すがら話を聞いていたじゃないか。私達はこの世界の、しかも魔国の王から生み出された存在……七つの大罪だって。
「雪ちゃんも気付いたみたいだね。七つの大罪は魔王デモンから生み出された存在……生きていた当時は凄まじい力を持っていた」
「確かにその七つの大罪の生まれ変わりかもしれないけど……でも、その記憶だってないし、戦ったこともないし……」
いきなり武術を身に着けたほうがいいと言われても“恐怖”の方が勝ってしまうのは凄く仕方のない事だと思う。
── 私がもっと……強ければ…… ──
「……っ⁉」
聞こえた声に反射的に私は後ろを振り返った。けれど、そこには誰も居ない。違う、そこじゃない。聞こえてきたのは後ろじゃない……どこから?
── 強く、なりたい……もっともっと……強く…… ──
「な、に……?」
「雪ちゃん?」
あたりをきょろきょろと見渡す私に、静は私の名前を心配そうに呼んだ。けれど、私はそれに答える余裕を持ち合わせていなかった。
だって、聞こえてくる声は周りからではなくて、私の頭の中からだったから。
── 強さが……欲しい…… ──
自分の頭の中から聞こえてきていると理解した途端、すっと胸に落ちる何かを感じた。ああ、これは過去の私だ。かつて七つの大罪として生きていた頃の私だ。
「強く……なり、たい……」
「⁉」
私のぼそっと呟いた言葉に、ピクリと反応を示したのはヴェル君だった。その反応からして“思い出してくれた”と思ったのだろう。だけど、私は思い出したわけじゃない。ただ、聞こえた声が響いた言葉が“私だ”と思わせてきた。認識させてきた。心が、魂が、震えるものを感じただけだった。
「……そう、だね。思い出したわけじゃないけど、過去の私は“強くなりたい”と願っていた。だから……私はきっと、ここで怖いから辞めるって選択をしたら後悔することになる気がする」
たぶんきっと、それは間違っていないだろうと私は確信していた。戦えない私を守って誰かが傷つく姿を、私はきっと真っすぐ見つめられない。きっと逃げてしまう。そして私は後悔をして心が擦り切れていくんだ。
そんな未来を私は望んでいないし、皆を置いて逃げるなんて考えたくない。出来る事なら守られるより守りたい。想像してみたら、より一層そう思えた。
月の塔の中へ入って、開口一番に出た言葉はそれだった。いや、本当に凄いんだって。外で見た以上の広さで、塔の中央には上へ続く螺旋廻廊。上を見上げれば斜めに昇っていく天井。そこにきっといろんな人の部屋があるんだろうなって思った。つまり、この塔は魔国に住んでいる人たちが共同で暮らす場所……という事だ。
「住人の部屋の他に、食堂、浴場、図書室、武器庫、鍛冶作業場、食糧庫兼解体場、応接間……そして、今は不在の王の間があるよ」
「結構いろいろあるんだ……」
「食べ物は森の中で木の実を取ったり、海まで出向いて魚を取ってきたり、森の中の魔獣を狩って解体したりしてるからね。そのために必要な武器を保管したり作ったり直したりしなきゃいけないしね」
それはつまり、食物を得るために戦っている人たちがいるという事だ。ごくりと息を呑んだ。もし、ここで暮らすうえで必要になる食糧を自分たちで取ってこいなんて言われたら……きっと私達は飢え死にしてしまいそうな気がしてならない。
「別に雪ちゃん達に狩ってこーいなんて言わないから大丈夫だよ」
心配に思っていたのがヴェル君に筒抜けだったのか……私ははぐらかすように笑うしかなかった。
「でもね」
「うん?」
急に真剣な声色になったヴェル君に、私は首を傾げて生唾を飲み込んだ。こんな真剣な面持ちでなんだろう……まったくもって予測できない。
私は彼の顔を真っすぐ見つめ、言葉を紡がれるのを待った。それは、私のそばに立っている静と真兄も同じようだった。
「あんた達は探されている身だ。もしかしたら、向こうも強行突破してくるかもしれない……だから」
「身を守るためにも武術を身に着けたほうがいい……という事か?」
ヴェル君の言葉に、一番早く真意に気付いたのは真兄だった。ヴェル君の言葉を遮って問いかけるその姿は凄く真剣そのもので、真兄の視線はとても怖かった。
「うん、そういう事。俺やインキュバス、サキュバスだけじゃ守り切れないと思う。ここにいる人たちは、もともとは人界の人達が変異しただけだから、獣を狩ることは出来ても戦う事は出来ない」
「でも‼ それなら、私達だって……別の世界から来たんだし」
戦えるはずがない、と私は言いたかった。言いたかったけど、言葉を飲み込んでしまった。ヴェル君から道すがら話を聞いていたじゃないか。私達はこの世界の、しかも魔国の王から生み出された存在……七つの大罪だって。
「雪ちゃんも気付いたみたいだね。七つの大罪は魔王デモンから生み出された存在……生きていた当時は凄まじい力を持っていた」
「確かにその七つの大罪の生まれ変わりかもしれないけど……でも、その記憶だってないし、戦ったこともないし……」
いきなり武術を身に着けたほうがいいと言われても“恐怖”の方が勝ってしまうのは凄く仕方のない事だと思う。
── 私がもっと……強ければ…… ──
「……っ⁉」
聞こえた声に反射的に私は後ろを振り返った。けれど、そこには誰も居ない。違う、そこじゃない。聞こえてきたのは後ろじゃない……どこから?
── 強く、なりたい……もっともっと……強く…… ──
「な、に……?」
「雪ちゃん?」
あたりをきょろきょろと見渡す私に、静は私の名前を心配そうに呼んだ。けれど、私はそれに答える余裕を持ち合わせていなかった。
だって、聞こえてくる声は周りからではなくて、私の頭の中からだったから。
── 強さが……欲しい…… ──
自分の頭の中から聞こえてきていると理解した途端、すっと胸に落ちる何かを感じた。ああ、これは過去の私だ。かつて七つの大罪として生きていた頃の私だ。
「強く……なり、たい……」
「⁉」
私のぼそっと呟いた言葉に、ピクリと反応を示したのはヴェル君だった。その反応からして“思い出してくれた”と思ったのだろう。だけど、私は思い出したわけじゃない。ただ、聞こえた声が響いた言葉が“私だ”と思わせてきた。認識させてきた。心が、魂が、震えるものを感じただけだった。
「……そう、だね。思い出したわけじゃないけど、過去の私は“強くなりたい”と願っていた。だから……私はきっと、ここで怖いから辞めるって選択をしたら後悔することになる気がする」
たぶんきっと、それは間違っていないだろうと私は確信していた。戦えない私を守って誰かが傷つく姿を、私はきっと真っすぐ見つめられない。きっと逃げてしまう。そして私は後悔をして心が擦り切れていくんだ。
そんな未来を私は望んでいないし、皆を置いて逃げるなんて考えたくない。出来る事なら守られるより守りたい。想像してみたら、より一層そう思えた。
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