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第1章【はじまりのモノガタリ】
2罪 七つの大罪(グリモワール)①
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「雪ちゃんに、静ちゃんに、真……か」
「ヴェル君ね、宜しくね」
私たちの名前を復唱しているヴェル君に、私はそう言って右手を差し出した。果たしてヴェル君に握手という概念があるのかは分からないけれど、ついうっかり差し出してしまったのだから引き下がれない。
「ああ、宜しくね、雪ちゃん」
けれど、私の懸念も意味がなかったようで、彼は私の手をぎゅっと握り返してくれた。ホッと安堵して笑顔を浮かべていると、私の隣にすっと静が顔を出した。
「私とも、宜しくお願いしたいわ、ヴェルくん」
「俺ともな」
静の隣に真兄も立って、二人してヴェル君に右手を差し出した。
「二人とも、同時だとヴェル君も握手できないよ」
私のそんな笑いながらの指摘に、二人は顔を見合わせて「確かに」と楽しそうに笑った。本当にこの二人はタイミングが良く被る。そして、そんな二人にヴェル君は差し出された手を軽く叩くようにして「宜しくね」と笑った。
「三人とも仲がいいんだね」
「小さいころからずっと一緒だったもんね、私たち」
ヴェル君の言葉で私は二人との過去を思い返した。初めて会ったのはいつだったか……たぶん幼稚園とかそれくらいの時だったと思う。ただ、ヴェル君には言っても分からないだろうから、そこは割愛するけれども。それでも小さい頃からずっと一緒だったというのは本当だ。思い出には必ず二人の姿がある。記憶にも、写真にも。いつも三人一緒だった。
「なるほどねー……だから、さっき必死に守ろうとしていたわけか」
思い返されるのは魔獣に襲われていた時の事。確かに真兄は静を、静は真兄を真っ先に心配していた。……私は?と思わなくもないが、私と静だったら静の方が「守ってあげなきゃ」と思わせる要素は強いし、私と真兄だったら、男である真兄の方が頼りがいもあって守ってもらえると思えるのだから、当たり前と言えば当たり前の選択とも言える。
小さい頃に大きな犬に追いかけまわされた時もそうだったし、変な男にナンパされたときだってそうだった。図太そうに見える私よりか弱い静を優先するのは当然なんだ。だから、私は自分の身は自分で守れるように強くならなきゃいけない。
「それより、ヴェル君‼ これからどこに行くの?」
話しながら歩いてはいるが、目的地がどこなのかいまだに分からない。いや、目的地は○○ですよって教えられても土地勘のない私たちには分からないと思う。日本のどこか……ならまだわかるかもしれない。だけど、魔獣やら剣やらが出てきた時点で、ここはきっと私たちが居た場所──世界じゃない。だからこそ、ヴェル君に付いて行かざるを得ないというのもあるのだけれど。
「ああ、俺たちが住んでる魔国だよ」
「魔国?」
「そ。人界にある国の一つ」
そうは言われても、いまいちピンとこない。首を傾げて、私は静に視線を向けた。けど、静も何を意味しているのか分からないと言わんばかりに首を左右に振ってきた。
「俺達はどうして魔国っていう国に連れていかれるんだ?」
「それは、あんたたちが関係者だからだよ。そして、あんた達を探している神国の者に捕まらないようにするため」
真兄の問いかけに、即座に答えを返してくれたヴェル君。だけど、意味が分からない。この世界の住人でもない私たちが魔国の関係者? 神国っていう国の人たちに捕まらないようにする? 神国の人たちがなんで私たちを狙うの? 全然意味が分からない。
ちんぷんかんぷんと言わんばかりの私たちの表情に、ヴェル君はくしゃっと笑みを浮かべた。そして「まあ、そういう反応になるよね」とハハッと笑いを零した。だからこそ、余計に私は首を傾げてしまった。とりあえず、ヴェル君の中で完結しないで、私たちにもわかる様に話してほしい。
「ちゃんと説明するよ」
ごめんごめんと笑うヴェル君に、私は「もー」と不満そうに声を漏らした。といっても、説明してもらってきちんと理解ができるかと言われたら、それはさすがに分からない。ヴェルくんの事を疑いたくはないが、関係者と言われても疑う事しか出来ない。
ここは満足するまで問うしかないのか……なんて少しだけ思った。あまり問い詰めるのは好きじゃないんだけどなあ。
「ヴェル君ね、宜しくね」
私たちの名前を復唱しているヴェル君に、私はそう言って右手を差し出した。果たしてヴェル君に握手という概念があるのかは分からないけれど、ついうっかり差し出してしまったのだから引き下がれない。
「ああ、宜しくね、雪ちゃん」
けれど、私の懸念も意味がなかったようで、彼は私の手をぎゅっと握り返してくれた。ホッと安堵して笑顔を浮かべていると、私の隣にすっと静が顔を出した。
「私とも、宜しくお願いしたいわ、ヴェルくん」
「俺ともな」
静の隣に真兄も立って、二人してヴェル君に右手を差し出した。
「二人とも、同時だとヴェル君も握手できないよ」
私のそんな笑いながらの指摘に、二人は顔を見合わせて「確かに」と楽しそうに笑った。本当にこの二人はタイミングが良く被る。そして、そんな二人にヴェル君は差し出された手を軽く叩くようにして「宜しくね」と笑った。
「三人とも仲がいいんだね」
「小さいころからずっと一緒だったもんね、私たち」
ヴェル君の言葉で私は二人との過去を思い返した。初めて会ったのはいつだったか……たぶん幼稚園とかそれくらいの時だったと思う。ただ、ヴェル君には言っても分からないだろうから、そこは割愛するけれども。それでも小さい頃からずっと一緒だったというのは本当だ。思い出には必ず二人の姿がある。記憶にも、写真にも。いつも三人一緒だった。
「なるほどねー……だから、さっき必死に守ろうとしていたわけか」
思い返されるのは魔獣に襲われていた時の事。確かに真兄は静を、静は真兄を真っ先に心配していた。……私は?と思わなくもないが、私と静だったら静の方が「守ってあげなきゃ」と思わせる要素は強いし、私と真兄だったら、男である真兄の方が頼りがいもあって守ってもらえると思えるのだから、当たり前と言えば当たり前の選択とも言える。
小さい頃に大きな犬に追いかけまわされた時もそうだったし、変な男にナンパされたときだってそうだった。図太そうに見える私よりか弱い静を優先するのは当然なんだ。だから、私は自分の身は自分で守れるように強くならなきゃいけない。
「それより、ヴェル君‼ これからどこに行くの?」
話しながら歩いてはいるが、目的地がどこなのかいまだに分からない。いや、目的地は○○ですよって教えられても土地勘のない私たちには分からないと思う。日本のどこか……ならまだわかるかもしれない。だけど、魔獣やら剣やらが出てきた時点で、ここはきっと私たちが居た場所──世界じゃない。だからこそ、ヴェル君に付いて行かざるを得ないというのもあるのだけれど。
「ああ、俺たちが住んでる魔国だよ」
「魔国?」
「そ。人界にある国の一つ」
そうは言われても、いまいちピンとこない。首を傾げて、私は静に視線を向けた。けど、静も何を意味しているのか分からないと言わんばかりに首を左右に振ってきた。
「俺達はどうして魔国っていう国に連れていかれるんだ?」
「それは、あんたたちが関係者だからだよ。そして、あんた達を探している神国の者に捕まらないようにするため」
真兄の問いかけに、即座に答えを返してくれたヴェル君。だけど、意味が分からない。この世界の住人でもない私たちが魔国の関係者? 神国っていう国の人たちに捕まらないようにする? 神国の人たちがなんで私たちを狙うの? 全然意味が分からない。
ちんぷんかんぷんと言わんばかりの私たちの表情に、ヴェル君はくしゃっと笑みを浮かべた。そして「まあ、そういう反応になるよね」とハハッと笑いを零した。だからこそ、余計に私は首を傾げてしまった。とりあえず、ヴェル君の中で完結しないで、私たちにもわかる様に話してほしい。
「ちゃんと説明するよ」
ごめんごめんと笑うヴェル君に、私は「もー」と不満そうに声を漏らした。といっても、説明してもらってきちんと理解ができるかと言われたら、それはさすがに分からない。ヴェルくんの事を疑いたくはないが、関係者と言われても疑う事しか出来ない。
ここは満足するまで問うしかないのか……なんて少しだけ思った。あまり問い詰めるのは好きじゃないんだけどなあ。
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