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第1章【はじまりのモノガタリ】
1罪 召喚①
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「雪ちゃん‼」
聞こえた声は誰の声なんだろう。遠くから聞こえているようにも聞こえるし、なんなら水の中に沈んでいるみたいにくぐもっても聞こえる。まるで頭の中にもやがかかっているみたいに聞こえて、はっきりしなくて気持ち悪い。私は今どうなっているのか。前も後ろも、右も左も、上も下も、何もかもがわからなかった。ただ分かっているのは、聞こえてくる声が知っている人の声のように聞こえることと、その声を聞くと胸がぎゅっと熱くなる事だけだ。
「雪ちゃん、俺だよ、ヴェルだよ‼」
「…………ヴぇ、る」
「そうだよ、雪ちゃん‼ お願いだから、正気を取り戻して…………っ」
彼の言葉に意識を向けるけれど、発する言葉はたどたどしかった。だけど、その名前は懐かしくて、愛おしくて、狂おしい程に心臓が高鳴った。ヴぇる…………ヴェル…………ああ、その名前は誰だったっけ。
* * *
「いってきまーす」
私、熊木 雪は玄関で大きな声を上げてから扉を閉めた。制服に袖を通し、今日からまた高校生活が始まる。いつもと少し違うのは毎朝挨拶をしていた病弱な妹に挨拶が出来ていないことかな。
「おはよう、雪ちゃん」
「おはよう、静」
玄関の鍵を閉めて振り返ると、そこには幼馴染であり親友の黒曜 静の姿があった。
ウェーブした髪を肩くらいまで伸ばしたままの私とは違って、彼女は毎日決まった髪型をしている。三つ編みとお団子がトレードマークとでもいえばいいのかな。その見た目は大和撫子の様で、彼女は美人でよくモテる。私達の周りの異性はみんな、静に夢中になる。
とても……羨ましい。
私は静のように大和撫子の様にはなれないし、どちらかといえば“おてんば”とよく言われる部類だ。
「ごめん、待たせちゃったかな?」
「そんなに待っていないから大丈夫よ」
私の問いに静はにっこりと微笑んで答えてくれた。彼女はいつもこうだ。遅れようと責めてこない。
「おはよう、二人とも」
春風に吹かれて桜の花びらが舞う中、会話を楽しむ私たちに声をかけてきたのは私と静の幼馴染の天城 真だ。
私達より一つ年上で、お兄さん的存在だ。だからとても頼りになるし、頼もしい。けど、周りには真面目すぎるとか、何を考えているのか分からないって言われていて、ちょっと首を傾げてしまう。確かに真面目な人ではあると思うけど、そんなに何を考えているのか分からない人ではないはずなんだけどなあ。だって、真兄は静の事がとっても大切で大好きっていうのも、見ていると丸分かりなんだもん。
「おはよう、真兄」
「おはよう、真兄さん」
私と静は二人で一度顔を見合わせてから笑顔を浮かべ、真兄の方へ視線を向けた。
一昨年、高校に入ったばかり頃は、真兄ではなくて真先輩や天城先輩と呼んだ方がいいかな? と静と笑って話した事を思い出す。
もうあれから二年が経ったのかと思うと、時間の経過はとても早いなと思った。十五歳だった私も、もう十七歳だ。といっても誕生日の早い私はすぐに十八歳になってしまう。
去年も一昨年もいろいろな事があったし、初めてのこともたくさんあったから……というのも原因ではあるとは思う。
聞こえた声は誰の声なんだろう。遠くから聞こえているようにも聞こえるし、なんなら水の中に沈んでいるみたいにくぐもっても聞こえる。まるで頭の中にもやがかかっているみたいに聞こえて、はっきりしなくて気持ち悪い。私は今どうなっているのか。前も後ろも、右も左も、上も下も、何もかもがわからなかった。ただ分かっているのは、聞こえてくる声が知っている人の声のように聞こえることと、その声を聞くと胸がぎゅっと熱くなる事だけだ。
「雪ちゃん、俺だよ、ヴェルだよ‼」
「…………ヴぇ、る」
「そうだよ、雪ちゃん‼ お願いだから、正気を取り戻して…………っ」
彼の言葉に意識を向けるけれど、発する言葉はたどたどしかった。だけど、その名前は懐かしくて、愛おしくて、狂おしい程に心臓が高鳴った。ヴぇる…………ヴェル…………ああ、その名前は誰だったっけ。
* * *
「いってきまーす」
私、熊木 雪は玄関で大きな声を上げてから扉を閉めた。制服に袖を通し、今日からまた高校生活が始まる。いつもと少し違うのは毎朝挨拶をしていた病弱な妹に挨拶が出来ていないことかな。
「おはよう、雪ちゃん」
「おはよう、静」
玄関の鍵を閉めて振り返ると、そこには幼馴染であり親友の黒曜 静の姿があった。
ウェーブした髪を肩くらいまで伸ばしたままの私とは違って、彼女は毎日決まった髪型をしている。三つ編みとお団子がトレードマークとでもいえばいいのかな。その見た目は大和撫子の様で、彼女は美人でよくモテる。私達の周りの異性はみんな、静に夢中になる。
とても……羨ましい。
私は静のように大和撫子の様にはなれないし、どちらかといえば“おてんば”とよく言われる部類だ。
「ごめん、待たせちゃったかな?」
「そんなに待っていないから大丈夫よ」
私の問いに静はにっこりと微笑んで答えてくれた。彼女はいつもこうだ。遅れようと責めてこない。
「おはよう、二人とも」
春風に吹かれて桜の花びらが舞う中、会話を楽しむ私たちに声をかけてきたのは私と静の幼馴染の天城 真だ。
私達より一つ年上で、お兄さん的存在だ。だからとても頼りになるし、頼もしい。けど、周りには真面目すぎるとか、何を考えているのか分からないって言われていて、ちょっと首を傾げてしまう。確かに真面目な人ではあると思うけど、そんなに何を考えているのか分からない人ではないはずなんだけどなあ。だって、真兄は静の事がとっても大切で大好きっていうのも、見ていると丸分かりなんだもん。
「おはよう、真兄」
「おはよう、真兄さん」
私と静は二人で一度顔を見合わせてから笑顔を浮かべ、真兄の方へ視線を向けた。
一昨年、高校に入ったばかり頃は、真兄ではなくて真先輩や天城先輩と呼んだ方がいいかな? と静と笑って話した事を思い出す。
もうあれから二年が経ったのかと思うと、時間の経過はとても早いなと思った。十五歳だった私も、もう十七歳だ。といっても誕生日の早い私はすぐに十八歳になってしまう。
去年も一昨年もいろいろな事があったし、初めてのこともたくさんあったから……というのも原因ではあるとは思う。
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