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第9章 最後の桜と変わる雰囲気

130時間目 自分を見つけて

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 深夜、おそらく、26時くらい。

 僕──山内裕太は、布団から這い上がり、先ほどまで眠っていたベッドに腰かけた。

 また、この夢だ。

 この夢を見ると、決まって深夜に目を覚ましてしまうし、嫌な気分になる。

 もう忘れたはずなのに。もう、会うことは無いはずなのに。

 どうして、まだ君が出てくるんだ。

 カナ。宮浦みやうらカナ。

 最後に会ったのは、もう二年も前だ。

 今、彼女がどこで何をしているか全く分からないし、知る必要もないと思うけど、時おり彼女がこうして出てきては僕の歩みを止めさせることに苦痛を感じた。

 どうしても、彼女を忘れていない自分がいるのに腹が立つ。

 楽しかった思い出があったからだろうか。それとも、あれだけのことをされて被害者妄想に浸っているのだろうか。

 そんなことはあってならない。僕はもう前に進まなきゃいけないんだから。

 カナはもう、会うことはないはずだ。でも、もし万が一、億が一。また会うことになれば、僕はどんな顔をすればいいのだろうか。

 きっと、合わせる顔どころか次はあのとき敦志が動いていなければ僕に触れていたナイフも次こそ触れて僕を傷つけるかもしれない。

 そう思うとゾッとして眠れない。怖い。今思えば、死の恐怖はすぐそばにあったのだ。

 僕が何か問題を起こしてしまえば、社会的な死が待っている。

 その影響は家族にも大きく響いてしまう。父の仕事は。母の仕事は。

 そして、敦志たちにだってきっと。

 僕は何かを一人でやっていけて、人よりも出来ることが多い代わりに誰かに迷惑をかけなければいけないようだ。

 なんでだと叫びたくなる。僕は、悟ってしまう。

 自分は人より何かを出来ることにより、夢や欲がなくなってきているのだと──。

 ***

 外に出てきてからもうすぐ二年になるなんて信じられないと私は思った。

 二年も経てば、街並みもかつての風景すらも私の記憶からはなくなって、一人ぼっちになった自分の家にたどり着いた。

 どうしても、ここには帰ってきたかった。

 誰もいない暗い夜道を一人で歩く。補導対象の時間だけど、幸いにも道中で警察に会うことはなかった。むしろ、こっちの方が好都合だった。

 かつて私が見たこの家は悪臭が立ち込め、異様なほど静まったリビングに二度とご飯をキッチンに立ってくれない横たわった母親とべっとりと赤いものがついた包丁があった。

 一人では可哀想だったから、数日後に見つけた、ロープを握りしめながら、部屋のタンスに腰掛けるように眠っていた父親と一緒に庭に埋めてあげた。

「……ふふっ、もうすぐ夜明けね」

 ここに帰ってきたのには理由がある。ちゃんと彼に今の私を知ってもらうために。
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