241 / 244
第9章 最後の桜と変わる雰囲気
130時間目 自分を見つけて
しおりを挟む
深夜、おそらく、26時くらい。
僕──山内裕太は、布団から這い上がり、先ほどまで眠っていたベッドに腰かけた。
また、この夢だ。
この夢を見ると、決まって深夜に目を覚ましてしまうし、嫌な気分になる。
もう忘れたはずなのに。もう、会うことは無いはずなのに。
どうして、まだ君が出てくるんだ。
カナ。宮浦カナ。
最後に会ったのは、もう二年も前だ。
今、彼女がどこで何をしているか全く分からないし、知る必要もないと思うけど、時おり彼女がこうして出てきては僕の歩みを止めさせることに苦痛を感じた。
どうしても、彼女を忘れていない自分がいるのに腹が立つ。
楽しかった思い出があったからだろうか。それとも、あれだけのことをされて被害者妄想に浸っているのだろうか。
そんなことはあってならない。僕はもう前に進まなきゃいけないんだから。
カナはもう、会うことはないはずだ。でも、もし万が一、億が一。また会うことになれば、僕はどんな顔をすればいいのだろうか。
きっと、合わせる顔どころか次はあのとき敦志が動いていなければ僕に触れていたナイフも次こそ触れて僕を傷つけるかもしれない。
そう思うとゾッとして眠れない。怖い。今思えば、死の恐怖はすぐそばにあったのだ。
僕が何か問題を起こしてしまえば、社会的な死が待っている。
その影響は家族にも大きく響いてしまう。父の仕事は。母の仕事は。
そして、敦志たちにだってきっと。
僕は何かを一人でやっていけて、人よりも出来ることが多い代わりに誰かに迷惑をかけなければいけないようだ。
なんでだと叫びたくなる。僕は、悟ってしまう。
自分は人より何かを出来ることにより、夢や欲がなくなってきているのだと──。
***
外に出てきてからもうすぐ二年になるなんて信じられないと私は思った。
二年も経てば、街並みもかつての風景すらも私の記憶からはなくなって、一人ぼっちになった自分の家にたどり着いた。
どうしても、ここには帰ってきたかった。
誰もいない暗い夜道を一人で歩く。補導対象の時間だけど、幸いにも道中で警察に会うことはなかった。むしろ、こっちの方が好都合だった。
かつて私が見たこの家は悪臭が立ち込め、異様なほど静まったリビングに二度とご飯をキッチンに立ってくれない横たわった母親とべっとりと赤いものがついた包丁があった。
一人では可哀想だったから、数日後に見つけた、ロープを握りしめながら、部屋のタンスに腰掛けるように眠っていた父親と一緒に庭に埋めてあげた。
「……ふふっ、もうすぐ夜明けね」
ここに帰ってきたのには理由がある。ちゃんと彼に今の私を知ってもらうために。
僕──山内裕太は、布団から這い上がり、先ほどまで眠っていたベッドに腰かけた。
また、この夢だ。
この夢を見ると、決まって深夜に目を覚ましてしまうし、嫌な気分になる。
もう忘れたはずなのに。もう、会うことは無いはずなのに。
どうして、まだ君が出てくるんだ。
カナ。宮浦カナ。
最後に会ったのは、もう二年も前だ。
今、彼女がどこで何をしているか全く分からないし、知る必要もないと思うけど、時おり彼女がこうして出てきては僕の歩みを止めさせることに苦痛を感じた。
どうしても、彼女を忘れていない自分がいるのに腹が立つ。
楽しかった思い出があったからだろうか。それとも、あれだけのことをされて被害者妄想に浸っているのだろうか。
そんなことはあってならない。僕はもう前に進まなきゃいけないんだから。
カナはもう、会うことはないはずだ。でも、もし万が一、億が一。また会うことになれば、僕はどんな顔をすればいいのだろうか。
きっと、合わせる顔どころか次はあのとき敦志が動いていなければ僕に触れていたナイフも次こそ触れて僕を傷つけるかもしれない。
そう思うとゾッとして眠れない。怖い。今思えば、死の恐怖はすぐそばにあったのだ。
僕が何か問題を起こしてしまえば、社会的な死が待っている。
その影響は家族にも大きく響いてしまう。父の仕事は。母の仕事は。
そして、敦志たちにだってきっと。
僕は何かを一人でやっていけて、人よりも出来ることが多い代わりに誰かに迷惑をかけなければいけないようだ。
なんでだと叫びたくなる。僕は、悟ってしまう。
自分は人より何かを出来ることにより、夢や欲がなくなってきているのだと──。
***
外に出てきてからもうすぐ二年になるなんて信じられないと私は思った。
二年も経てば、街並みもかつての風景すらも私の記憶からはなくなって、一人ぼっちになった自分の家にたどり着いた。
どうしても、ここには帰ってきたかった。
誰もいない暗い夜道を一人で歩く。補導対象の時間だけど、幸いにも道中で警察に会うことはなかった。むしろ、こっちの方が好都合だった。
かつて私が見たこの家は悪臭が立ち込め、異様なほど静まったリビングに二度とご飯をキッチンに立ってくれない横たわった母親とべっとりと赤いものがついた包丁があった。
一人では可哀想だったから、数日後に見つけた、ロープを握りしめながら、部屋のタンスに腰掛けるように眠っていた父親と一緒に庭に埋めてあげた。
「……ふふっ、もうすぐ夜明けね」
ここに帰ってきたのには理由がある。ちゃんと彼に今の私を知ってもらうために。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
切り札の男
古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。
ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。
理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。
そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。
その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。
彼はその挑発に乗ってしまうが……
小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。
プレッシャァー 〜農高校球児の成り上がり〜
三日月コウヤ
青春
父親の異常な教育によって一人野球同然でマウンドに登り続けた主人公赤坂輝明(あかさかてるあき)。
父の他界後母親と暮らすようになり一年。母親の母校である農業高校で個性の強いチームメイトと生活を共にしながらありきたりでありながらかけがえのないモノを取り戻しながら一緒に苦難を乗り越えて甲子園目指す。そんなお話です
*進行速度遅めですがご了承ください
*この作品はカクヨムでも投稿しております
先輩に振られた。でも、いとこと幼馴染が結婚したいという想いを伝えてくる。俺を振った先輩は、間に合わない。恋、デレデレ、甘々でラブラブな青春。
のんびりとゆっくり
青春
俺、海春夢海(うみはるゆめうみ)。俺は高校一年生の時、先輩に振られた。高校二年生の始業式の日、俺は、いとこの春島紗緒里(はるしまさおり)ちゃんと再会を果たす。彼女は、幼い頃もかわいかったが、より一層かわいくなっていた。彼女は、俺に恋している。そして、婚約して結婚したい、と言ってきている。戸惑いながらも、彼女の熱い想いに、次第に彼女に傾いていく俺の心。そして、かわいい子で幼馴染の夏森寿々子(なつもりすずこ)ちゃんも、俺と婚約して結婚してほしい、という気持ちを伝えてきた。先輩は、その後、付き合ってほしいと言ってきたが、間に合わない。俺のデレデレ、甘々でラブラブな青春が、今始まろうとしている。この作品は、「小説家になろう」様「カクヨム」様にも投稿しています。「小説家になろう」様「カクヨム」様への投稿は、「先輩に振られた俺。でも、その後、いとこと幼馴染が婚約して結婚したい、という想いを一生懸命伝えてくる。俺を振った先輩が付き合ってほしいと言ってきても、間に合わない。恋、デレデレ、甘々でラブラブな青春。」という題名でしています。
真っ白なあのコ
冴月希衣@商業BL販売中
青春
【私だけの、キラキラ輝く純白の蝶々。ずっとずっと、一緒にいましょうね】
一見、儚げな美少女、花村ましろ。
見た目も性格も良いのに、全然彼氏ができない。というより、告白した男子全てに断られ続けて、玉砕の連続記録更新中。
めげずに、今度こそと気合いを入れてバスケ部の人気者に告白する、ましろだけど?
ガールズラブです。苦手な方はUターンお願いします。
☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*☆
◆本文、画像の無断転載禁止◆
No reproduction or republication without written permission.
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる