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第9章 最後の桜と変わる雰囲気

126時間目 将来のこと

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 体育大会楽しかったな。でも今年で最後だと思うとなんか物足りない気がするなぁ。敦志や山内は更に、そして鷹乃君の友達ともだいぶ親睦を深めれたことだし、今年も楽しくやっていけそう!

 いやぁ、楽しみだなぁ。

「三石ー! ここの問題解いてみろー!」

 やっべ、俺当てられてたじゃん!

 数学の時間、これまでのことを思い出しニヤニヤしているやつがここにいるけどさ。それにしてもどうしよ、解けてないんだが!

「おーい? どーしたぁ?」

 数学の先生怖すぎィ!

 そもそも敦志みたいな凶暴な顔……じゃなくて! グラサンかけちゃダメでしょ!

「あ、え、その、今ちょっと解けないです」

「じゃあいつ解くんだぁ? 今だろぉ?」

 どこかの先生のような言い方をして、教室中に笑いが起きた。いや、そうだけど! 分かってるけど!

 こうなったら俺は動くしかない。俺は断腸の思いで黒板前に向かった。

 ──

 さっきの授業は散々だった。当てられた問題は小さな計算ミスをして間違え、チョークの粉が制服についた。おかけでカーディガンが汚れてしまったので今は脱いでいる。

「ちぇっ、今日はついてないなぁ」

「災難だったなぁ。あの先生答えるまですっげぇ圧かけてくるもんな」

 敦志が笑いながら言うけど笑い事じゃないくらいあの先生の圧は結構怖い。泣き出した女子生徒がいるほどだ。

 今日の授業はこれで終わり、終礼が始まるまでこうやって話しているのはいいけど、そろそろアレの時期だよな。

「もうすぐ、期末試験だな」

「夏休み……俺たちにあるのか?」

「ふふ、塾、自習、勉強だろうね」

「裕太」「山内」

「「余計なこと言わないでくれるか!?」」

 ただでさえ憂鬱な勉強だというのに更にしんどくなっちゃうじゃないか!

 敦志と被ったその言葉は山内を苦笑いさせることに留まった。

「おーい、そんじゃあ、終礼始めるぞ」

 担任の先生が教室に入ってきた。重低音に富んだ声や盛り上がった筋肉は凛々しさや男らしさを感じさせ、いかにも体育教師という姿を見させてくれる。

「今配ったプリントな、進路についてのことだからしっかり親御さんと考えて来週までに提出してくれよ」

 でた、進路希望調査。高校生の第二の敵……。

 進路か。将来のことなんて、分からない。分かるはずがない。未来を決めたって、必ずそうなるってことじゃないのに。それを決めつけるのはどうなんだろうかと思う。

 上手くいくはずなら意味が無い。上手くいかないと。

「進路……」

 胸のなかにはフワッとした将来像を掴もうとする俺自身に対する漠然とする不安。それは強烈に襲いかかるときもあれば、今みたいに少しだけ不安にすることだってある。

 半年後の自分すら俺には見えない。だから、来年の自分なんて、大学生の自分なんて想像できない。

 やりたいことがないのなら、とりあえず、親のために就職のために、大学に行く方がいいに決まってるけど、金が少ない家庭で、母子家庭で、苦労している俺は。

 ──親の貴重な金を使って大学に行くか、今からでも働いて未来のために金を稼ぐか。

 どっちを選べばいいんだ。

 未来のことは誰にも分からない。明日のことは明日にならなきゃ分からない。どうかこの悩んでいる時間がむだにならないように俺はもう一度、進路希望調査の紙を見直した。
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