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第9章 最後の桜と変わる雰囲気

124時間目 最後の体育大会②

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 敦志のハチマキを結び終えてから、開会式の挨拶ために僕──山内裕太は演台のそばで立っていた。

 三年間、ここから見る皆の楽しそうな顔はとっても見ていて準備したかいがあったなと思わせてくれる。特に僕らの学年──三年生は最後の体育大会だから、皆気合いが入っていて楽しむ気が満々だ。

「──以上で、学校長の話でした。続きまして、開会の言葉。山内君、お願いします」

 きた。ここだ。僕は悠々とした姿で開会宣言をし、今日という一日の始まりのスタートラインを切った。ここから、どんなドラマが始まるのだろうか……なんてベタすぎるか。

 開会宣言を難なく終えて開会式は無事に終了。ラジオ体操も終えて、僕らは自席に戻り、初めの競技である50M走の準備を待った。

「50でるやつー! はよ待機所来いよー!」

 体育担当の先生たちが一斉に呼びかける。皆友人たちと笑いあって、どの種目でるとか関係なしだった。

 僕も今日くらいはいいか。

「二人ともどの競技でるんだっけ?」

 種目決めのときにまとめたけど正直、自分がでる種目しか覚えてなかった。今までなら人の種目も気をつかえたけれど今は勉強に忙しくて自分のことで手一杯だ。

 敦志と三石は顔を見合わせてどの競技をでるか思い出しているようだ。

「あっ、俺だ! しっかり見ててくれー!」

 三石は今思い出したようにいそいそと50M走の待機所へと向かう。

「三石、しっかりして……」

「ちょっと抜けてるところあるよなぁ。まぁ、いいんじゃねぇの」

 敦志はケラケラと笑いながら、パイプ椅子にもたれた。ぎしりという椅子が軋む音が、僕の耳を拾う。

「──ただいまから50M走が始まります。選手の入場です」

 アナウンスをしてくれる司会の子が淡々と告げ、50M走の選手が続々とグラウンドへ入場してくる。その中の後列で三石の姿を見つけた。三石は背が低いからすぐに分かる。それにしても、一年生から順に並んでいるんだろうけど身長高い子が多い。

 スポーツコースの子だろうか、明らかに僕より身長の高い子たちも大勢いた。

 レース開始のピストルの音が鳴り、50M走は始まった。僕は一年生同士で競い合うのかと思っていたけど、男女混合でしかも、学年もバラバラでやるようだ。ハチマキの色がバラバラだったことからそう思った。

 レースを見ていると色々な勝敗があった。

 やはり、年功には勝てず、三年生が圧倒的に差を開いて勝利することもあれば、年功など関係なく、己の体力で逃げて差を開いて勝利を勝ち取る一年生もいれば、ギリギリの勝負をし、判定がかなりシビアな場面で三年生が根性勝ちをするという面白いレースもあった。

 そんなレースも五分足らずで終盤へ向かい、三石の番となった。

 皆、早々に盛り上がる雰囲気から自分の学年を応援する声が飛び交う。

「遼太郎いけー!」

「三石ー! 頑張ってー!」

 僕らも負けじと声援を送る。

 ピストルが放たれたとき、三石は誰の目から見ても分かるほど綺麗なスタートダッシュを決めた。

 それにコンマゼロ点ほど遅れて他の学年の子たちも三石の背中を追いかける。

「三石いいよー!」

「頑張れ!」

 学年皆の声援を受けて三石はさらに加速する。彼に追いつく者はいない。

 五メートルほど差を開いて、三石はトップでゴールした。
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