親友がリア充でモテまくりです。非リアの俺には気持ちが分からない

かがみもち

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第8章 〝幸せ〟の選択 ─さよならの決意─

118時間目 君と一緒に

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 心のどこかでは分かっていた。いつか心結が僕の元恋人でもなんでも無くなることが。

 もし、まだ付き合っていれば彼女の進路に口出しを出来たかもしれない。

 もし、普通の友人としての関係を築いていれば、笑いを交えながら進路のことを話せていたのかもしれない。

 でも。

 僕はそのどちらでもなかった。

 彼女の恋人でもなければ友人でもない。かといって他人でもない。

 一番近い距離でないのに彼女の心には僕がいて、一番離れていないのにお互いを求め合う。

 これは、元恋人の未練を絶ちきれなかった者同士の傷の舐め合いでしかない。

「実はね、県外の大学院に行くのよ……」

 その言葉に時間が止まった。どちらかがお菓子の袋を漁る音も、暖房の起動音も、雨がアスファルトを打つ音すらも、聞こえない。

「……」

 その言葉に何も言えなかった。ただ驚くほど胸が締め付けられて痛い。痛すぎる。

 この先、彼女が何を言うか知ってる。想像はしたくない。

 経ちきりたいと思っていた元恋人の残像。中学生の頃から変わらない笑顔の記憶をぼんやりと見つめ空虚──『無』の三年間を送っていた。あれから大人になった心結は睡蓮と共に再び現れた。

 今更になって、僕は彼女に伝え忘れていることを思い出した。

 毎年、誕生日を祝っていた。彼女がひとつ大人になる度に、幸せが増えると信じて疑わなかった。

 中学卒業おめでとう、高校入学おめでとう、大学生頑張れ。どの言葉ももう言えない。

 青臭い記憶だけが妄想に混じって頭のなかをよぎっていく。

「だから、だから、ね」

 心結は常に笑っていた。男女問わず明るい笑顔でさばさばとした性格で、無理のない範囲で誰かの助けになり、その笑顔に心を惹かれた人は大勢いた。

 女子の友達より男子の友達が多かった彼女。そばにいれば大人のお姉さんのような余裕を持った態度で接してくれて、まるで僕は彼氏じゃなくて弟みたいだと何度も言われた。

 でも、今の彼女はまだ泣いていなかった。これまでの日々が幸せだというようにこれからの日々を何か願うような顔をしていたから。

 この部屋には音などしない。心結が泣く音もなく、鼻をすする音なんてない。お互い、最後は最期には笑って今度こそお別れしようと、特にあの日、連絡だけしかしなくて逃げた僕だからこそ、笑ってお別れしたいと思った。

 上手に笑えなくてもいい。真顔じゃない悲しみでもない他の表情が欲しい。でも、やっぱり僕は笑えない。笑い方を教えてくれよ。誰でもいいから。この青春の呪いを立ちきってくれよ。

「心結」

 大丈夫。誰もきってくれないから。

 もう、自分できるしかない。

「さようなら。今までありがとう。大好きだったよ」

 僕の心には笑顔はない。表情にもです、嬉しいなんて感情はでない。

 でも、好きだった人を優しく見ることができたと思うんだ。
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