親友がリア充でモテまくりです。非リアの俺には気持ちが分からない

かがみもち

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第8章 〝幸せ〟の選択 ─さよならの決意─

117時間目 昔歩いたように

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 僕が着替え等を済ませてから。あれから、心結には店の外で待ってもらうことにした。ずぶぬれの彼女に、傘を持たせて、濡れないようにした。

 僕は、店内からでるか迷っている。心結とこんなところでまた再会するとは思ってもいなかったし、今、こんな状況じゃ、なにをしでかすか分からない。

 こんなこと考えるのは最低だと分かっている。不誠実だと分かっている。でも、濡れた髪が艶やかで色っぽくて、生唾を飲んでしまう。そういう欲求が体から溢れでそうになるのを必死で堪えて、僕は大きく深呼吸をした。

 それから、勇気をだして店内にでた。心結は冬の寒さと濡れた体のせいで寒いのだろう。ぷるぷると小刻みに体を震わせていた。

「……寒いの?」

「う、ん……、傘忘れなければ濡れなかったのに……」

 心結は傘を忘れたことに少し後悔しているようだ。しかし、僕らはこれからなにをするというのだろうか。

 心結の家まで送るにしても僕は住所が分からないし、この様子だとすぐにはいけない距離なのだろう。

 となると、もう答えはひとつしかなかった。

「心結、ひとまず僕の家に来なよ」

 こんなこと、言いたくない。

 好きだった人が──元恋人が自分の部屋にくるなどよからぬことしか起こりそうにないから。

 でも、このままずっとそばにいるなど到底僕には出来ることではなかった。

 ──

 恋人の家に行く──よく小説などでは甘酸っぱい青春として起こるイベントだと思うわ。二人だけの空間でお互いの鼓動さえも聞こえちゃいそうな環境ではドキドキするのは間違いないわね。それはとても素敵なことなのだけど、でも、私たちはそうはいかない。

 橙太の家に行く、そうなったのは私が傘を忘れたから。彼の家は以前再会したときに行った彼の実家ではなくて、一人暮らしのアパートらしいわね。

 橙太は多くのことを話したがらない。かつてもこうやって二人で歩いて学校から帰ったときには私の方がいっぱい話していたし、どちらかというと彼は聞き役だったわ。

 歩いて二十分くらいの時間が経ち、私たちはほぼ無言で道を歩く。

 この無言の時間がもどかしく、話したくても話せない。昔、話せていたのが嘘だと思うように私は辛い気持ちを抑える。

「ここ、だよ」

 橙太の声で今まで下げていた目線をあげることができた。

 訪れたのは私が住んでいる学生アパートよりもひとつ規模が小さいアパート。

 ぱっと見でも築数十年を越えていることが分かる外装のそれの二階へ続く寂れた階段へと私たちは向かった。
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