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第8章 〝幸せ〟の選択 ─さよならの決意─
114・3時間目 ちゃんと言葉に出来てることが
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「黒沢センパイって最近はなにしてるんすか?」
MISHIHANAへ向かっている途中、俺は黒沢センパイに聞いてみた。最近、俺がバイトに行っていないと言うこともあるが、黒沢センパイがなにをしているか分からない。この人には背中を押してもらったし、なにかと恩がある。
「そうだなァ、特に変わったこともねェが、舞花がコンビニのバイトを始めたことだな」
マイカと聞いて、一瞬名前がでてこなかったが、黒沢センパイたちと一緒に暮らしている家出少女の女郎のことかと俺は思った。
「へぇ、バイトが一人増えたんすね。あれ、女郎……さんって俺たちと同い年でしたっけ?」
「あぁ、そうだな。今年から高校三年生だ」
あまり気にしたことなかったが、彼女の家庭はかなり問題なのではないかと思う。女郎が来たのは一年の頃。年頃の娘が一年も失踪しているのに未だ見つかっていない。そんなことが起きているのだから。
女郎の両親はどんな思いでいるのだろうか。
「アイツは、俺たちに話したがらねェンだ。不安にしたくないのか分からねェけどな。俺たちも無理に聞こうとしねェ。アイツの口から話してくれるまで待つ、つもりだ」
無理に聞こうしない。黒沢センパイの優しさだろう。
「黒沢センパイってどうしてそんなに優しいんすかね……」
「おいおい、敦志ィ、どうした? らしくねェこと言いやがってよ」
俺のぼやきに黒沢センパイは心配そうな顔を見せた。始めてみたわこんな心配そうな顔。
俺は言っていいのか迷った。自分の将来がすごく不安なんだと言いたいが、黒沢センパイはどんなアドバイスをくれるのだろうかという好奇心と甘えていてはだめだという自律心がない交ぜになって暴れている。
でも、俺はこの人の言葉に救われている。
「実は──」
俺は将来が不安なこと、勉強が就職後に通用するのかを黒沢センパイに伝えた。
***
「──なるほどなァ。高校生らしい悩みじゃねェか」
まさかそんなことで敦志が悩んでいるとは俺は知らなかったンだ。敦志は悩みなんてなくてへらへらしていると思っていたからなァ。
自分の将来に不安を感じるようになったってことは、将来を見る覚悟が出来たということだろう。高校三年生という大学受験という一大イベントのせいでもあるが、それでも適当に選ぶヤツもいるし、敦志は自分の将来をちゃんと見つめていることになる。
「どうしたら、いいですかね」
不安は一生付きまとう。これは生きている限り心情の片隅にあるものだ。
「不安は消えねェ。その不安が消えたと思っても、次の不安がやってくるからな」
「でも、忘れることは出来るンだ」
「忘れる、ですか」
「あぁ、あとちゃんと自分の状況を把握することだな。敦志、お前はちゃんと言葉に出来てるだろ? それが出来てるから大丈夫なんだ」
これくらいかァ。たまたま読んだ本に載っていた言葉を引用しただけだが、これで救われるならいいだろう。
「そうっすか。ありがとうございます」
敦志は俺より数歩先に歩いた。
お前なら大丈夫だ。
MISHIHANAへ向かっている途中、俺は黒沢センパイに聞いてみた。最近、俺がバイトに行っていないと言うこともあるが、黒沢センパイがなにをしているか分からない。この人には背中を押してもらったし、なにかと恩がある。
「そうだなァ、特に変わったこともねェが、舞花がコンビニのバイトを始めたことだな」
マイカと聞いて、一瞬名前がでてこなかったが、黒沢センパイたちと一緒に暮らしている家出少女の女郎のことかと俺は思った。
「へぇ、バイトが一人増えたんすね。あれ、女郎……さんって俺たちと同い年でしたっけ?」
「あぁ、そうだな。今年から高校三年生だ」
あまり気にしたことなかったが、彼女の家庭はかなり問題なのではないかと思う。女郎が来たのは一年の頃。年頃の娘が一年も失踪しているのに未だ見つかっていない。そんなことが起きているのだから。
女郎の両親はどんな思いでいるのだろうか。
「アイツは、俺たちに話したがらねェンだ。不安にしたくないのか分からねェけどな。俺たちも無理に聞こうとしねェ。アイツの口から話してくれるまで待つ、つもりだ」
無理に聞こうしない。黒沢センパイの優しさだろう。
「黒沢センパイってどうしてそんなに優しいんすかね……」
「おいおい、敦志ィ、どうした? らしくねェこと言いやがってよ」
俺のぼやきに黒沢センパイは心配そうな顔を見せた。始めてみたわこんな心配そうな顔。
俺は言っていいのか迷った。自分の将来がすごく不安なんだと言いたいが、黒沢センパイはどんなアドバイスをくれるのだろうかという好奇心と甘えていてはだめだという自律心がない交ぜになって暴れている。
でも、俺はこの人の言葉に救われている。
「実は──」
俺は将来が不安なこと、勉強が就職後に通用するのかを黒沢センパイに伝えた。
***
「──なるほどなァ。高校生らしい悩みじゃねェか」
まさかそんなことで敦志が悩んでいるとは俺は知らなかったンだ。敦志は悩みなんてなくてへらへらしていると思っていたからなァ。
自分の将来に不安を感じるようになったってことは、将来を見る覚悟が出来たということだろう。高校三年生という大学受験という一大イベントのせいでもあるが、それでも適当に選ぶヤツもいるし、敦志は自分の将来をちゃんと見つめていることになる。
「どうしたら、いいですかね」
不安は一生付きまとう。これは生きている限り心情の片隅にあるものだ。
「不安は消えねェ。その不安が消えたと思っても、次の不安がやってくるからな」
「でも、忘れることは出来るンだ」
「忘れる、ですか」
「あぁ、あとちゃんと自分の状況を把握することだな。敦志、お前はちゃんと言葉に出来てるだろ? それが出来てるから大丈夫なんだ」
これくらいかァ。たまたま読んだ本に載っていた言葉を引用しただけだが、これで救われるならいいだろう。
「そうっすか。ありがとうございます」
敦志は俺より数歩先に歩いた。
お前なら大丈夫だ。
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