上 下
205 / 244
第8章 〝幸せ〟の選択 ─さよならの決意─

107・8時間目 暗闇を見つめて

しおりを挟む
「『中腹の展望スポットまであと一・五キロ』だって……?」

 えぇ……。嘘だろ。ここまでかなり歩いてきたのに。そう思っていたが、これが現実なのだ。

「まだ上があるのか……。三石、大丈夫かい?」

「うん、この景色見てちょっと安心した。さ、俺、復活! 敦志、山内! 行こうぜ!」

 遼太郎は、どうやら少し落ち着いたようだ。いつも通りの元気さで俺たちを引っ張ってくれる。

「小春、行こうか」

「うん、敦志君」

 俺たちは再び、手を握り合い、道なき道を再び、歩き始めた。

 道を進んでいると、色々なことが起こった。

 まず、山の中だからか、すごく暗い。スマホのライトで照らしていない場所はほとんどなにも見えない。

 そして、急に肌寒くなってきたことだ。幸いにも、俺と小春は少し寒いと感じるくらいだったが、遼太郎は体を震わせていた。

 山の天気や気候は変わりやすいと言うが、大小関わらず、どの山も同じようだ。寒い。十一月ってこんなに寒かったっけ。

 あと、これはまだ中腹の休憩場所から少し歩いた頃の話だ。

 俺たちは慎重に歩きながら、ゆっくりながら確実に中腹へと歩いていた。

「あっ! あれって!」

 前にいた遼太郎が何かを見つけて大声を出した。いや、実際はそんなに声を張っていないのだろうけど、山の静寂がその声を大きくしているだけなのかも知れない。

「どうしたの? 三石。……あっ! 確かにいるね!」

 側にいた裕太も何かに気がついたようで、何やら二人は話していた。

「おいおい、大丈夫か。何がいるんだよ」

 俺は小春のペースに合わせながら、早足で二人の側によった。

「敦志、あれ見てよ。猫じゃない……?」

「猫……? どこにいるんだよ……」

 ライトを照らして見てみると、倒れた木の上に確かに一匹の黒猫がのんきにこちらを見ていた。

「しかも、黒猫じゃねぇか」

「黒猫だけど……。何かよくないことでもあるの……? あっ、黒猫って確か不幸を呼ぶって言うし……。俺たちヤバイんじゃない? どーしよ! どーしよ!」

「んー、確かに三石の言ってることも一理あるけど、なんでこんなところに猫が……。普通はいないはずだけど」

「ほらぁ! 山内がそう言ってるなら俺たちやべぇじゃん! なにこれ、どうなるの!? この物語ここで完結!? まだ高校二年生だけど‼」

「おいおい……。メタな発言はやめろよ……。奇妙だけど、たまたまここを住みかにしてる猫にあっただけだろ? とりあえず、行くぞ」

「敦志! あの猫敦志が歩き出したと同時にどっか行ったんだけど!? こわっ! 俺もう無理ー!」

「だあぁ! もう、行くぞほら!」

 俺はびびる遼太郎を無理矢理連れていった。抵抗はしなかったからよかったけど、遼太郎が暗いところが苦手なのはこれからは配慮しようそう思った。

 そして、今、山のちょうど中腹。

 一回目の休憩場所と同様、立て看板には『頂上の展望台まであと一キロ』と書かれていた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

『器のちっちゃな、ふとちょ先輩』

小川敦人
青春
大学卒業後、スポーツジムで働き始めた蓮見吾一。彼は個性豊かな同僚たちに囲まれながら、仕事の楽しさと難しさを学んでいく。特に気分屋で繊細な「器の小さい」中田先輩に振り回される日々。ジム内の人間模様や恋愛模様が交錯しながらも、吾一は仲間との絆を深めていく。やがて訪れるイベントのトラブルを通じて、中田先輩の意外な一面が明らかになり、彼の成長を目の当たりにする。笑いあり、切なさありの職場青春ストーリー。

転校して来た美少女が前幼なじみだった件。

ながしょー
青春
 ある日のHR。担任の呼び声とともに教室に入ってきた子は、とてつもない美少女だった。この世とはかけ離れた美貌に、男子はおろか、女子すらも言葉を詰まらせ、何も声が出てこない模様。モデルでもやっていたのか?そんなことを思いながら、彼女の自己紹介などを聞いていると、担任の先生がふと、俺の方を……いや、隣の席を指差す。今朝から気になってはいたが、彼女のための席だったということに今知ったのだが……男子たちの目線が異様に悪意の籠ったものに感じるが気のせいか?とにもかくにも隣の席が学校一の美少女ということになったわけで……。  このときの俺はまだ気づいていなかった。この子を軸として俺の身の回りが修羅場と化すことに。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

モブが公園で泣いていた少女に、ハンカチを渡したらなぜか友達になりました~彼女の可愛いところを知っている男子はこの世で俺だけ~

くまたに
青春
冷姫と呼ばれる美少女と友達になった。 初めての異性の友達と、新しいことに沢山挑戦してみることに。 そんな中彼女が見せる幸せそうに笑う表情を知っている男子は、恐らくモブ一人。 冷姫とモブによる砂糖のように甘い日々は誰にもバレることなく隠し通すことができるのか! カクヨム・小説家になろうでも記載しています!

将棋部の眼鏡美少女を抱いた

junk
青春
将棋部の青春恋愛ストーリーです

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

小学生をもう一度

廣瀬純一
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

処理中です...