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第8章 〝幸せ〟の選択 ─さよならの決意─

106・2時間目 思いの距離

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 文化祭が終わってからというもの、クラスのバカップルで有名な拓也と仲良くなった。

 以前は席が近くてもそんなに話さなかったが、ここ最近は裕太たちと同じくらい他愛もない話をすることが多い。

「皆浮かれてるよな……。あれ? あいつら、付き合ってたっけ?」

 拓也の声に彼が目を向けた方を見ると、かつてはそこに存在しなかった距離が縮まっている二人の男女がいた。

 笑いあっている姿を見ると、小春との初々しい日々を思い浮かべる。

 あのときは照れまくっていたからなぁ。

「なんか、このクラスだけでもカップルが結構増えたらしいぜ? そっちはどうよ?」

「俺たちはもうラブラブだからなぁ。高橋はたしか他校の子だっけ? 遠距離って寂しくねぇ? すぐに会えない距離にいるのは俺は嫌だな」

 拓也の声に改めて考えさせられる小春との距離。別に他の県に住んでいるわけじゃないし、電車を数本乗り継げば会える距離だ。

 でも、学校が同じだけで、一週間のうち、五日は必ず会える。

 ほとんどの時間を共に過ごせる。

 俺たちにはそれがない。

「俺って遠距離なのか……。うーん、俺の恋愛っておかしいのか?」

「いや、そういうわけじゃないな。ほら、高校生ってどうしても同じ学校の子と関わりがあるから、それでお互いを好きになる……みたいな。ま、高橋みたいに中学から好きで偶然にも再会してそれでも好きだったってケースが稀だからな。もちろん、それが悪いとかそんなんじゃないけどな」

 少し暗くなった俺に必死に弁解をする拓也。

「まぁ、恋人同士になってからがスタートだもんな。俺たちはかれこれ、七ヶ月くらいだけど、高橋は来月で一年だろ? 充分円満じゃね? だから距離に焦ることねぇよ」

 拓也がそう言ったところで、恋人である咲希さきが教室にやってきた。

「拓也ぁ! おはよっ!」

「よっ、咲希。……じゃあな、高橋」

「おう」

 咲希と腕組みをしながら、教室の奥の方に歩いていく二人。

 その二人を見ていると、やはり脳裏に浮かぶのは小春の顔。

「恋人との距離、か」

 らしくねぇな。こんなことで悩むなんて。

 あと一ヶ月で小春と付き合って一年。時間だけが積もった恋愛じゃないはずだ。

 想いを伝えあった。言葉を見つけあった。意心地の良さを感じあった。

独りよがりの恋じゃないはずだ。

「恋って難しいのな……」

 分かっていたはずだった。他校の子と付き合うと言うことが、難しいということを。

 それでも、想いは伝わっている。

 小春は俺の隣で笑顔でいてくれているだろ。

 小春はいつも楽しそうにしてくれているだろ。

 俺は小春を大切に想っているだろ。

 それでも、分からないことがある。

 恋愛初心者でモテたことのない俺には、分からない。

 小春への想いがちゃんと伝わっているかどうか。
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