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第7章 光ある文化祭 ─優しさと後悔の罪─
105時間目 素晴らしい劇の結末と誓う者は
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「……この町をあなたに絶対に壊させない」
「やってみろ……!」
地味な女子──魔法少女と、オオカミ少年である主人公との闘いが始まってしまった。
突然の内容に、観客たちは驚きを隠せないでいた。
もちろん、僕もそのひとりで、果たしてどんな結末を送るのか、楽しみにしている。
「はあっ!」
「ふっ!」
魔法少女の杖と主人公の爪が交差する度、鋭いSEがなり、これが本当に高校生がする演劇かと思うほど、音響も照明も豪華だった。
「──きゃっ!」
魔法少女の一瞬の隙をついて、主人公は爪で切り裂く。
お互い体力の消耗がひどいのか、肩で息をしているようだ。
「こうなったら……!」
魔法少女の杖に赤い光が集まる。
「業火よ、炎の基として身を滅ぼせ。《破壊の炎》ッ……!」
その言葉と爆発音のSEと共に、赤色のスポットライトが縦横無尽に行く。
観客も、舞台も、そして主人公も赤く染めるそれは、まさしく、《破壊の炎》。
「ぐうぅ!? くっ……! この炎は……!」
業火のあまりにも熱さに悶える主人公。
「やった……!」
そのセリフはダメだろと僕は思う。倒したか類のセリフは基本的には倒せていないんだ。
その予感は当たっていて、主人公は少し体が傷ついて、白髪の一部が赤くなっただけで、ほとんど効果のないように思えた。
「……嘘でしょ!」
「さぁ、次は俺の番だな? 死ねぇ!」
襲いかかってくる主人公。
魔法少女はもう魔力は使い果たしたのだろう。成す術はない。
誰もが絶体絶命と思ったとき、やっぱり、誰かがやってくる。
「──ほっほっほ……。まだまだじゃな。お前は」
現れたのは、ぼろぼろの茶色のコートに杖をついたおじいさんだった。
えー!? なんで老人がここで?
というか、この老人、フード越しだけど誰か分かる気がする。きっと高橋君だな。老人のモノマネ……彼は面白い人間だ。
くくっとかすかな笑い声が聞こえてきたのでふと隣を見てみると、心結が口元を必死で押さえて笑いを堪えていた。
ちらほらと、他の観客からも笑い声が聞こえた。
「おじいさん……? なんでここに‼ 逃げてください!」
魔法少女が必死に説明するが、老人は声高く笑って、こう言った。
「いやいやお嬢さんや。こやつはワシの孫での。ワシらの一族の過ちはワシがかたをつけるのが基本なんじゃ。ま、もっともこんな被害をもたらしよったこいつじゃ。どうせ我を忘れておる」
老人は杖を放り投げると、体をふらふらと動かしながら言った。
「この力を使うのは、何年ぶりじゃったかの。まぁ、やるだけやってみるわい」
突如どこからか煙がわき、老人の姿が見えなくなった。
一体どういうことだ? 一族? なんだなんだ?
そう思っている間にも、徐々に煙は消えていき、老人の姿が露になったが、しかし、彼は本当に老人なのだろうか。
僕が驚いたのは、老人には主人公と同じ耳がついていたからだ。
そして、手にはかぎ爪が生えており、オオカミ男に近い姿だった。
「掟やぶりのお前をワシは許さん」
「じいちゃん、やってみろ。俺を止めてみろよ!」
主人公と老人はそのひと言を合図に同時に動いた。
「がはっ!」
しかし──主人公が突然にしてやられたことを僕は忘れないだろう。
「ん? どうしたんじゃ? 最近の若いもんは根性が足りんのぉ」
「じいちゃん、つえぇよ……」
「ほっほっほ……。なぁに軽く殴っただけじゃ。それより今どんな状況か分かるか?」
「町が壊れてる……」
「そうじゃ、お主は自分の力に溺れてこうなったんじゃ」
「俺が……やったのか……」
「時に人は自分の力を使いすぎて壊れることがある。誰かを守るのはいいことじゃが、使いすぎには注意じゃ」
「俺は、どうすれば……!」
「なぁに、すぐに戻せる子がいるじゃろ……お主、その力でこの町を直せるかの?」
突然指名された魔法少女はびくりと肩を震わせて、
「出来ないことはないですけど……」
と言った。
「なら、やってみるといい」
魔法少女が呪文を唱えると崩れたビルや道路が元通りになった。
「この世界には力で溢れておる。でも、その力を誰のためにどのように使うのか、それはお主ら次第じゃ」
その老人の言葉を最後に劇は終了した。
僕のやるべきこと。
もっと力があれば、心結の想いに応えることが出来たのだろうか。
僕は力が欲しい。
誰かを守る、力が。
「やってみろ……!」
地味な女子──魔法少女と、オオカミ少年である主人公との闘いが始まってしまった。
突然の内容に、観客たちは驚きを隠せないでいた。
もちろん、僕もそのひとりで、果たしてどんな結末を送るのか、楽しみにしている。
「はあっ!」
「ふっ!」
魔法少女の杖と主人公の爪が交差する度、鋭いSEがなり、これが本当に高校生がする演劇かと思うほど、音響も照明も豪華だった。
「──きゃっ!」
魔法少女の一瞬の隙をついて、主人公は爪で切り裂く。
お互い体力の消耗がひどいのか、肩で息をしているようだ。
「こうなったら……!」
魔法少女の杖に赤い光が集まる。
「業火よ、炎の基として身を滅ぼせ。《破壊の炎》ッ……!」
その言葉と爆発音のSEと共に、赤色のスポットライトが縦横無尽に行く。
観客も、舞台も、そして主人公も赤く染めるそれは、まさしく、《破壊の炎》。
「ぐうぅ!? くっ……! この炎は……!」
業火のあまりにも熱さに悶える主人公。
「やった……!」
そのセリフはダメだろと僕は思う。倒したか類のセリフは基本的には倒せていないんだ。
その予感は当たっていて、主人公は少し体が傷ついて、白髪の一部が赤くなっただけで、ほとんど効果のないように思えた。
「……嘘でしょ!」
「さぁ、次は俺の番だな? 死ねぇ!」
襲いかかってくる主人公。
魔法少女はもう魔力は使い果たしたのだろう。成す術はない。
誰もが絶体絶命と思ったとき、やっぱり、誰かがやってくる。
「──ほっほっほ……。まだまだじゃな。お前は」
現れたのは、ぼろぼろの茶色のコートに杖をついたおじいさんだった。
えー!? なんで老人がここで?
というか、この老人、フード越しだけど誰か分かる気がする。きっと高橋君だな。老人のモノマネ……彼は面白い人間だ。
くくっとかすかな笑い声が聞こえてきたのでふと隣を見てみると、心結が口元を必死で押さえて笑いを堪えていた。
ちらほらと、他の観客からも笑い声が聞こえた。
「おじいさん……? なんでここに‼ 逃げてください!」
魔法少女が必死に説明するが、老人は声高く笑って、こう言った。
「いやいやお嬢さんや。こやつはワシの孫での。ワシらの一族の過ちはワシがかたをつけるのが基本なんじゃ。ま、もっともこんな被害をもたらしよったこいつじゃ。どうせ我を忘れておる」
老人は杖を放り投げると、体をふらふらと動かしながら言った。
「この力を使うのは、何年ぶりじゃったかの。まぁ、やるだけやってみるわい」
突如どこからか煙がわき、老人の姿が見えなくなった。
一体どういうことだ? 一族? なんだなんだ?
そう思っている間にも、徐々に煙は消えていき、老人の姿が露になったが、しかし、彼は本当に老人なのだろうか。
僕が驚いたのは、老人には主人公と同じ耳がついていたからだ。
そして、手にはかぎ爪が生えており、オオカミ男に近い姿だった。
「掟やぶりのお前をワシは許さん」
「じいちゃん、やってみろ。俺を止めてみろよ!」
主人公と老人はそのひと言を合図に同時に動いた。
「がはっ!」
しかし──主人公が突然にしてやられたことを僕は忘れないだろう。
「ん? どうしたんじゃ? 最近の若いもんは根性が足りんのぉ」
「じいちゃん、つえぇよ……」
「ほっほっほ……。なぁに軽く殴っただけじゃ。それより今どんな状況か分かるか?」
「町が壊れてる……」
「そうじゃ、お主は自分の力に溺れてこうなったんじゃ」
「俺が……やったのか……」
「時に人は自分の力を使いすぎて壊れることがある。誰かを守るのはいいことじゃが、使いすぎには注意じゃ」
「俺は、どうすれば……!」
「なぁに、すぐに戻せる子がいるじゃろ……お主、その力でこの町を直せるかの?」
突然指名された魔法少女はびくりと肩を震わせて、
「出来ないことはないですけど……」
と言った。
「なら、やってみるといい」
魔法少女が呪文を唱えると崩れたビルや道路が元通りになった。
「この世界には力で溢れておる。でも、その力を誰のためにどのように使うのか、それはお主ら次第じゃ」
その老人の言葉を最後に劇は終了した。
僕のやるべきこと。
もっと力があれば、心結の想いに応えることが出来たのだろうか。
僕は力が欲しい。
誰かを守る、力が。
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