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第7章 光ある文化祭 ─優しさと後悔の罪─
98・3時間目 出来ることを
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敦志たちが文化祭の準備をしていたその頃──
「いっ!」
指がつってしまい、僕は反射的にピックを落としてしまった。
自由に動かせない左手にいらだってしまう。
ダメだ。もっと練習をしなきゃいけないのに。
痛みに耐えながら、なんとか右手で落としたピックを拾う。
「……鷹乃、大丈夫? 少し休んだ方がいいんじゃない?」
女子としては低い声が、僕を心配してくれた。
その声の人物は、僕より背が高くて襟元まで切った髪が特徴的なボーイッシュなクラスメイトだった。
彼女は、僕らのバンドメンバーのボーカルとして今回参加してくれている。
あまり接点はないけど、「男子よりもイケメン」と男子の間では囁かれていて結構人気者だ。
「……ありがとう。でも、僕が一番足を引っ張ってるし、頑張らないといけないから。もう少しだけ頑張るよ」
彼女と喋っていると、少しずつ左手の痛みが消え去る。
ギターを弾いたことがあると言っても、甘かった。
基本的なコードしか弾けなくて、ピッキングは独学だったから、音色を上手く表現することが出来ない。
独学では限界があった。
もう、その限界が近づいてきていたのだ。
「祐麻は本当に努力家だよな」
そう言いながら、タオルを投げてきたのは、以前、テストの日に一緒に教室に向かった友人だった。彼とは、同じゲームをやっていることで仲良くなった。
タオルをキャッチしてから、
「そうかな。でも、僕はアイツの方がすごいと思うけど」
そう言うと、僕はさっきからベースをずっと弾いている眼鏡をかけた友人を指さした。
友人は、あぁと言いながら、彼に近づき、
「さすが学年一位だよな。勉強も楽器も弾けるとかスペック高すぎ! この隠れイケメンめ!」
バシバシと肩を叩いた。
それに少し眉を潜めながら、学年一位の友人は、
「別に……。俺はそんなにスペックは高くない。というかその絡みは俺以外に使うのは止めなよ」
フンと鼻を鳴らして、彼はそう言う。
あー、これはうっとうしいって思っているときの仕草だな。
僕は、彼の仕草で大体どんな心情なのかが分かる。
鼻をフンと鳴らせば、うっとうしいと思っていて、口角を少し上にあげれば、嬉しいと思っている。
一応、彼は高校では一番仲がいいのでそれくらいは分かるのだ。
「……鷹乃」
学年一位の友人は僕の名前を呼ぶ。
「どうしたの?」
そう言うと、小さく鼻をスンと鳴らして、
「あんまり、無茶をしちゃだめだよ……」
と言ってくれた。
彼なりの優しさだろう。
学年一位で隠れイケメン。心までイケメンとなると彼がモテまくるのは時間の問題だろう。
「ありがとう」
僕は、そう言うと、ギターを構えた。
中学の頃からずっと愛用しているアコースティックギターを。
さぁ、やらなきゃ。
もう、立ち止まってる時間は無いんだから。
今、自分のやるべきことをやろう。
「いっ!」
指がつってしまい、僕は反射的にピックを落としてしまった。
自由に動かせない左手にいらだってしまう。
ダメだ。もっと練習をしなきゃいけないのに。
痛みに耐えながら、なんとか右手で落としたピックを拾う。
「……鷹乃、大丈夫? 少し休んだ方がいいんじゃない?」
女子としては低い声が、僕を心配してくれた。
その声の人物は、僕より背が高くて襟元まで切った髪が特徴的なボーイッシュなクラスメイトだった。
彼女は、僕らのバンドメンバーのボーカルとして今回参加してくれている。
あまり接点はないけど、「男子よりもイケメン」と男子の間では囁かれていて結構人気者だ。
「……ありがとう。でも、僕が一番足を引っ張ってるし、頑張らないといけないから。もう少しだけ頑張るよ」
彼女と喋っていると、少しずつ左手の痛みが消え去る。
ギターを弾いたことがあると言っても、甘かった。
基本的なコードしか弾けなくて、ピッキングは独学だったから、音色を上手く表現することが出来ない。
独学では限界があった。
もう、その限界が近づいてきていたのだ。
「祐麻は本当に努力家だよな」
そう言いながら、タオルを投げてきたのは、以前、テストの日に一緒に教室に向かった友人だった。彼とは、同じゲームをやっていることで仲良くなった。
タオルをキャッチしてから、
「そうかな。でも、僕はアイツの方がすごいと思うけど」
そう言うと、僕はさっきからベースをずっと弾いている眼鏡をかけた友人を指さした。
友人は、あぁと言いながら、彼に近づき、
「さすが学年一位だよな。勉強も楽器も弾けるとかスペック高すぎ! この隠れイケメンめ!」
バシバシと肩を叩いた。
それに少し眉を潜めながら、学年一位の友人は、
「別に……。俺はそんなにスペックは高くない。というかその絡みは俺以外に使うのは止めなよ」
フンと鼻を鳴らして、彼はそう言う。
あー、これはうっとうしいって思っているときの仕草だな。
僕は、彼の仕草で大体どんな心情なのかが分かる。
鼻をフンと鳴らせば、うっとうしいと思っていて、口角を少し上にあげれば、嬉しいと思っている。
一応、彼は高校では一番仲がいいのでそれくらいは分かるのだ。
「……鷹乃」
学年一位の友人は僕の名前を呼ぶ。
「どうしたの?」
そう言うと、小さく鼻をスンと鳴らして、
「あんまり、無茶をしちゃだめだよ……」
と言ってくれた。
彼なりの優しさだろう。
学年一位で隠れイケメン。心までイケメンとなると彼がモテまくるのは時間の問題だろう。
「ありがとう」
僕は、そう言うと、ギターを構えた。
中学の頃からずっと愛用しているアコースティックギターを。
さぁ、やらなきゃ。
もう、立ち止まってる時間は無いんだから。
今、自分のやるべきことをやろう。
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