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第7章 光ある文化祭 ─優しさと後悔の罪─

93時間目 これからを考えるなら

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 鷹乃が、教室に帰ってきた。

 彼は、両手に四本の缶ジュースを抱えながら、ドアを開けて、俺たちの席にそれらを置いた。

「おかえり。ありがとうな」

「ただいまです。いえいえ、これくらいはさせてください。いつもお世話になってるお礼です」

「そんな世話してねぇけどな」

 鷹乃は、本当に律儀だ。

 自分自身を完成させてる感じがして、俺は結構好感を持っている。

「それにしても、裕太、遼太郎、今年の文化祭ももうすぐだな」

「だね。今年はなにをしたい?」

「はーいはーい! 俺、やりたいことあるけど、言ってもいい?」

「お、なんだ? 遼太郎」

 遼太郎は少し溜めてから、それを言った。

「俺ね、劇したいんだ! 楽しそうでしょ?」

「俺と同じこと考えてんじゃねぇか」

「僕の案ですけどね」

 鷹乃の適切なツッコミに遼太郎と裕太が笑った。

「へぇ、劇か。いいんじゃないかな? テスト終わってからその話を議会でするつもりだからね。案にだしておくよ」

「どんな劇にする? 童話? 現代もの?」

 一足さきに興奮して話す遼太郎をなだめる。

 楽しみな気持ちは分かるが、勉強もしないといけないからな。

「ま、まぁ、とりあえず、今は目の前のために頑張ろうぜ」

「そうだね! やる気出てきたぞ~!」

 遼太郎の人生はきっと、『楽しい』で埋め尽くされてんだろうな。

 最高の人生じゃないか。

 それが、俺や裕太たちでつくったものでよかった。

 それから、俺たちはモクモクと問題を解く。

 鷹乃も科目を切り替えてからは、質問の数も少なくなり、すらすらとノートに答えを書き込んでいった。

 俺たちも、もちろん集中して、問題を解く。

 この時間、集中したことによって、夏休み明けテストの結果が少しずつよくなっていたと気がつくのは結果が返ってきてからのことだ。

──

 あれから、二時間くらい集中していたのだが、辺りから明るさがなくなっていたのに気がつき、俺たちは急いで帰る準備をした。

「そう言えば、高橋先輩たちって」

 鷹乃が、リュックに荷物を入れながら、俺たちに聞いてきた。

「大学とかもう決めていますか?」

「んー、俺はまだだけど。裕太は?」

「僕は一応は決まっているよ。推薦でいくつもりかな」

「山内すごいな! 俺はね、工業関係の大学にいくつもりかな! まだどこかは未定だけど!」

「へぇ、皆さん、それなりに決まっているんですね」

「そういう鷹乃はどうなんだ?」

「僕は親父が税理士をしているので、商業系の大学に行きたいですね。あと、高校在学中に簿記ぼき検定の資格を取りたいですね」

 鷹乃にそんな明確な目標があるなんて知らなかった。

 つーか、なにもまだ決まってねぇの俺だけじゃねぇか。

「でも、高橋先輩の〝なにか〟に縛られない生き方、僕、尊敬してますよ」

 なにかに縛られない生き方ね。

 俺は、そんな生き方はしていないが、自覚がないだけかもしれない。

「まぁ、鷹乃君はまだ一年生だし、その段階で夢や目標を持ってること自体がすごいからね。でも、これからを考えるならそのお父さんと同じ道を進むなら、それにふさわしい勉強をしなくちゃね」

「やっぱり、一年目は地道に努力ですか」

「だね。君の友人みたいになりたければ」

 努力な。

 確かに生きていく上で一番大事なことだろうな。

「頑張れよ。鷹乃」

「はい、もちろんです」

 ニヤリと鷹乃は慣れない笑顔を作って見せた。

 秋の薄闇から涼しい風が、体に当たる。

 さて、テスト頑張るか。
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