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第7章 光ある文化祭 ─優しさと後悔の罪─

92時間目 楽しみの前の壁

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 夏休み明けは、残酷だと思う。

 約一ヶ月間を散々楽しませたあと、その翌日には夏休み明けテストという名の試験が待ち構えているからだ。

 きっと、教師陣は夏休みの間も楽しみながら勉強をしろという意味なんだろうが、正直、どちらかに傾いてしまうのが学生である。

 ものすごくハイレベルな進学校なら、夏休みなんてあって無いようなものだが、俺たちの高校はそんなのではない。

 だが、これを乗り越えなければ、補習という文化祭も万全な状態で楽しめなくなる。

 補習の片手間に文化祭をするなんて嫌だから、今、俺たちは放課後、鷹乃と共に勉強をしているのだけど──

「高橋先輩、ここの公式ってどうでしたっけ?」

「鷹乃、お前それ中学の範囲だぞ……。解の公式って覚えてるか?」

「あぁ、なんかありましたね」

 俺がルーズリーフのはじっこに書いた公式を見せると、彼は、あぁとまた呟いて、問題を解き始めた。

 理解はしてるんだな。

「鷹乃君、そこ、まだ計算出来るよ」

 裕太が、指摘すると、鷹乃は、コテンと首をかしげた。

 そんなしぐさをしてもあんまり可愛くないから、止めろや。

 裕太が、丁寧に解説していくと、ふんふんと鷹乃はうなずきながら、答えをノートに書き込んでいく。

 きっと、努力してるんだろうが、努力量が追いついていないんだろうな。

山内やまうち先輩、ありがとうございます。やっぱ、すごいですね。学年一位は」

「あははっ。ありがとう。でも、君の友達、学年一位でしょ? 彼の方がすごいと思うけど」

 鷹乃がよく一緒にいる友達は学年一位の優等生だ。

 クール系のイケメンだから、学年の壁を越えてお近づきになりたい人は多いらしい。

 彼は、いつも笑顔でそれを断っている。

 彼いわく、友達との日常を大切にしたいから、そうだ。めっちゃ友達想いじゃねぇか。

 鷹乃の勉強を見ていると、数学や科学といった理数科目は苦手だが、英語や国語、現代社会といった文系科目は得意のようだ。

 特に、国語の記述問題は俺たちにもひけをとらないほどだ。

 日頃から、文章に慣れている感じがする。

「んーっ! そろそろ休憩するか」

「ですね、あ、僕、購買で飲み物買ってきますよ。なにか必要ですか?」

「いいのか? 金くらい払うが……」

「大丈夫ですよ。皆さんなにいります?」

 俺たち三人はそれぞれ好きな飲み物を頼み、鷹乃はそれを数回呟きながら、教室のドアを開けて、でていった。

 ──

「ふぅ……」

 夕焼けが廊下を優しく照らして、いつしか見たような景色が目の前に広がっている。

 僕は自分自身がこの状況を楽しんでいることを知った。

 中学の頃、僕は大切な人たちを傷つけた。

 そんな自分に腹が立ったし、傷つけたことを今でも後悔はしている。

 けど、その過去があったから、今、高橋先輩たちと知り合えた未来がある。

 一年ほど前の楽器屋「MORIYAMA モリヤマ」にて、高橋先輩たちはパーカー姿の男の人に連れられて来た。

 僕は、店長さんの指導のもと、修学旅行のレクリエーションのための練習をやっていたから、入店時は気がつかなかったけど、彼らは輝いて見えた。

 ひとつ上の先輩だと知ったときは一年だけ入っていた野球部の先輩を思い出して、どう接すればいいか分からなかったけど。

 志望した高校の先輩だと知ったときはちょっと、焦った。

 また、傷つけられるんじゃないかと思ったからだ。

 でも、高橋先輩たちは違う。

 僕と対等に付き合ってくれるし、分からないところがあっても、頭ごなしに怒らずにキチンと丁寧に教えてくれる。

 そんな先輩たちと出会って、僕は変わった。

「……とりあえず、言われた飲み物買うか」

 久しぶりに感じた楽しい気分。

 友達といるときや独りで趣味を楽しんでいるとは違う、誰かとの対等性を持った楽しくて優しくなる気分だった。
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