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第6章EX 常夏と蒼い海 ─少年のリスタート─
90・9時間目 愛の痛み
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明菜が去ってから、数分間は沈黙で包まれていた。
重苦しい空気と果てしなく聞こえる波のさざめき。
青い海に白い砂浜があるこの海辺で俺たちはとてつもない空気をまとっていた。
この空気やべぇ。
試験中にスマホの着信音鳴ってしまったときの焦り具合を越える。
ちなみに、試験中にスマホの電源を切り忘れ、鳴らしてしまったのは後輩である鷹乃の友人。
青ざめた顔をしていたと薄く笑いながら、夏休みにはいる直前に話してくれた。
「……あんたさ」
数分に及ぶ沈黙を破ったのは、沙希だった。
葉瀬は、二股をしていた。
見たところ、葉瀬はオシャレに気を使っているし、顔や言動は不良のそれだが、頼りがいがあってのそれだ。
だが、言葉の節々にトゲを感じて、少なくとも俺は好感は持てない。
裕太や遼太郎と話している方が話しやすい。
女子相手には知らないが、きっと葉瀬は女子相手にそのトゲを隠しているのだろう。
だから、それに騙された女子は葉瀬に好感を抱き、彼に想いを伝える。
そうして、彼は明菜と一緒にいたことから、今回のこれに至ったわけだ。
想いの人がいながらも、自身の欲や好みのために女を選ぶ。
俺が一番嫌いで、一番なりたくない人間だ。
「なんで、私と付き合ってたの?」
過去形。
これが示すものは別れだ。
今から、葉瀬は罵倒され、言葉によって傷つけられる。
だが、沙希や明菜はもっと傷ついている。
「……お前がずっと好きだったからだ」
「中学のときからあんたのこと見てたけど、これだけは知らなかった。あんたさ、三石君のこといじめてたんだって?」
突然、遼太郎の話題になって俺は困惑した。
「あぁ」
これから、なにを言われるのか。
俺は知りたかった。
「なんでなの? 理由は大体分かるけど」
もう、沙希の目は、葉瀬に優しい目など送っていなかった。
ただ事実を知りたいという興味と失望の思いがその目にはあった。
「俺は……」
「あいつみたいに……」
「……誰かから好かれるヤツになりたかった」
「あ、そう」
沙希の答えは感情のないものだった。
「あんたさ」
沙希はきびすを返さずに、じっと葉瀬の目を見た。
いや、睨み付けたといった方が正しいか。
「それって、三石君に嫉妬してただけでしょ」
「誰からも好かれずに心が空っぽになっていく気分はどう?」
「あんたは、誰のために生きてるの?」
そう言い残して、沙希も明菜のように、去っていく。
俺は、ひとまずは修羅場から解放された安堵とこれからどうしたらいいのかという困惑に身を固まらせていた。
葉瀬はへなへなとオノマトペがでそうな様子で、砂浜に座りこんだ。
そして、力なく、
「ははっ……。どうして、俺が好きになったヤツは、みーんな、不幸になってしまうんだろうな……」
髪をかきあげて、そう言った。
重苦しい空気と果てしなく聞こえる波のさざめき。
青い海に白い砂浜があるこの海辺で俺たちはとてつもない空気をまとっていた。
この空気やべぇ。
試験中にスマホの着信音鳴ってしまったときの焦り具合を越える。
ちなみに、試験中にスマホの電源を切り忘れ、鳴らしてしまったのは後輩である鷹乃の友人。
青ざめた顔をしていたと薄く笑いながら、夏休みにはいる直前に話してくれた。
「……あんたさ」
数分に及ぶ沈黙を破ったのは、沙希だった。
葉瀬は、二股をしていた。
見たところ、葉瀬はオシャレに気を使っているし、顔や言動は不良のそれだが、頼りがいがあってのそれだ。
だが、言葉の節々にトゲを感じて、少なくとも俺は好感は持てない。
裕太や遼太郎と話している方が話しやすい。
女子相手には知らないが、きっと葉瀬は女子相手にそのトゲを隠しているのだろう。
だから、それに騙された女子は葉瀬に好感を抱き、彼に想いを伝える。
そうして、彼は明菜と一緒にいたことから、今回のこれに至ったわけだ。
想いの人がいながらも、自身の欲や好みのために女を選ぶ。
俺が一番嫌いで、一番なりたくない人間だ。
「なんで、私と付き合ってたの?」
過去形。
これが示すものは別れだ。
今から、葉瀬は罵倒され、言葉によって傷つけられる。
だが、沙希や明菜はもっと傷ついている。
「……お前がずっと好きだったからだ」
「中学のときからあんたのこと見てたけど、これだけは知らなかった。あんたさ、三石君のこといじめてたんだって?」
突然、遼太郎の話題になって俺は困惑した。
「あぁ」
これから、なにを言われるのか。
俺は知りたかった。
「なんでなの? 理由は大体分かるけど」
もう、沙希の目は、葉瀬に優しい目など送っていなかった。
ただ事実を知りたいという興味と失望の思いがその目にはあった。
「俺は……」
「あいつみたいに……」
「……誰かから好かれるヤツになりたかった」
「あ、そう」
沙希の答えは感情のないものだった。
「あんたさ」
沙希はきびすを返さずに、じっと葉瀬の目を見た。
いや、睨み付けたといった方が正しいか。
「それって、三石君に嫉妬してただけでしょ」
「誰からも好かれずに心が空っぽになっていく気分はどう?」
「あんたは、誰のために生きてるの?」
そう言い残して、沙希も明菜のように、去っていく。
俺は、ひとまずは修羅場から解放された安堵とこれからどうしたらいいのかという困惑に身を固まらせていた。
葉瀬はへなへなとオノマトペがでそうな様子で、砂浜に座りこんだ。
そして、力なく、
「ははっ……。どうして、俺が好きになったヤツは、みーんな、不幸になってしまうんだろうな……」
髪をかきあげて、そう言った。
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