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第6章 二人の愛と少年の嘆き
77・5時間目 ひとりの葛藤
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近所のスーパーで買い物をしたあと、俺たちはいつも通り、MISHIHANAを営業した。
スーパーで気がついたことは、上着から慣れない甘い香りが漂っていたことだ。
杏が柔軟剤でも変えたのだろうか。
俺は基本的に料理専門なので、洗濯の細かいことは分からないが、杏が気に入っている匂いならいい。
「んー! 今日も疲れたぁ」
お風呂からあがってきた杏が伸びをしながら、部屋にきた。
ここに引っ越してきた時にルールとして、ノックをすることをルールとしていたけど、最近はほとんどしない。
別にやましいことなんてしないからいいけど。
「お疲れさま。そろそろ……寝る?」
「まだ起きとく! 久しぶりに遊ぼうよ!」
「遊ぶって……もう夜だよ?」
相変わらず、中学生みたいな事を言っている。
オシャレなバーとかで杏と飲んだら楽しいんだろうな。
けど、酒を飲んでもいいのにあまり飲まないのは健康に良くないから。
山崎が遊びにきたら、たまに飲む程度だ。
「いやいや、別にどこかに出かけるってわけじゃないよ。もう私パジャマだし」
「じゃあ、なにするの?」
「トランプしようよ!」
「トランプ? 大富豪とか?」
「ババ抜きしよう! そして、罰ゲームとしね敗者は勝者の言うことを聞くこと!」
「いいけど……」
杏がなにか企んでいるのかと思っていたけど、別にそれくらいなら可愛いものだ。
勝てばいいのだから。
俺は勝負を受けることにした。
杏は地味に上手いシャッフルをしたあと、カードを配る。
やはり、二人でやるとカードの枚数も多くなる。
同じ数字のカードのペアを捨ててから、ゲームを開始。
俺から杏のカードを取ることに。
一枚目は適当に端のカードを取った。
カードのペアができて、一枚捨てる。
そして、杏がカードを取り、一枚捨てた。
次の俺のターンで、フェイントをかけた。
右端のカードをとると見せかけて、左端のカードを取る。
杏は、右端のカードに近づくと、微妙にニヤニヤと笑っていたが、左端にいくと、ニヤニヤがとまった。
わかりやすい。
そうして、攻防を繰り返しながら、俺が三枚、杏が二枚でどちらかにジョーカーを持っている状況となった。
ここでジョーカーを引けば、状況は悪化してしまう。
なんとしても、避けたい。
「……楓、勝負しよう」
杏は、そういって、シャッフルをする。
もちろん、杏本人も見ていない。
これで、完全に運ゲームだ。
俺が選んだのは、真ん中のカード。
それを開くと──
ジョーカーだった。
ちっくしょぉぉぉぉ!
「……やった」
小さく、杏は微笑んで言う。
くっそ、今に見ておけよ!
そう心の中で思ったのも、数分前。
どこで歯車が狂ったのだろうか。
俺は完全に敗北した。
俺は机に突っ伏しているから、ちーんとどこかで効果音が鳴りそうだ。
「罰ゲームはね……」
杏は、そう言いながら、ベットに駆け寄る。
そして、枕を抱いて、上目遣いで、
「……今日も一緒に寝よ?」
と言った。
昨日も寝た。
杏が誘ってきたから、俺はそれに乗った。
別に二日連続は嫌とか思わないが、どうしたのだろうか。
「……別にいいけど、どうしたの?」
俺は、枕を抱きながら、横になった杏に聞く。
「最近、不安なの。私たちは今後どうしているのかなって思って」
久しぶりに聞いた杏の弱々しい声。
中学校の頃、まだ俺が杏に恋心を抱いていなかった時のひ弱な声。
それを想起させる声だった。
結局、俺たちは変わっていない。
不安に押し潰されるのを怖がり、素直な想いを伝えられない。
やっぱり俺たちは──
──どんな関係になっても成長しないな。
「……大丈夫。俺はずっと杏の側にいるよ。頼りないかもしれないけど、辛いときや悲しいときは話してほしい」
ありきたりで、痛くて、思い出したら赤面しそうな言葉。
でも、杏を励ますためなら、いくらだって言える。
俺は、彼女の流れる涙を指で拭ったあと、優しくキスをした。
大丈夫。
もうすぐ、君に最高のサプライズを渡すから。
スーパーで気がついたことは、上着から慣れない甘い香りが漂っていたことだ。
杏が柔軟剤でも変えたのだろうか。
俺は基本的に料理専門なので、洗濯の細かいことは分からないが、杏が気に入っている匂いならいい。
「んー! 今日も疲れたぁ」
お風呂からあがってきた杏が伸びをしながら、部屋にきた。
ここに引っ越してきた時にルールとして、ノックをすることをルールとしていたけど、最近はほとんどしない。
別にやましいことなんてしないからいいけど。
「お疲れさま。そろそろ……寝る?」
「まだ起きとく! 久しぶりに遊ぼうよ!」
「遊ぶって……もう夜だよ?」
相変わらず、中学生みたいな事を言っている。
オシャレなバーとかで杏と飲んだら楽しいんだろうな。
けど、酒を飲んでもいいのにあまり飲まないのは健康に良くないから。
山崎が遊びにきたら、たまに飲む程度だ。
「いやいや、別にどこかに出かけるってわけじゃないよ。もう私パジャマだし」
「じゃあ、なにするの?」
「トランプしようよ!」
「トランプ? 大富豪とか?」
「ババ抜きしよう! そして、罰ゲームとしね敗者は勝者の言うことを聞くこと!」
「いいけど……」
杏がなにか企んでいるのかと思っていたけど、別にそれくらいなら可愛いものだ。
勝てばいいのだから。
俺は勝負を受けることにした。
杏は地味に上手いシャッフルをしたあと、カードを配る。
やはり、二人でやるとカードの枚数も多くなる。
同じ数字のカードのペアを捨ててから、ゲームを開始。
俺から杏のカードを取ることに。
一枚目は適当に端のカードを取った。
カードのペアができて、一枚捨てる。
そして、杏がカードを取り、一枚捨てた。
次の俺のターンで、フェイントをかけた。
右端のカードをとると見せかけて、左端のカードを取る。
杏は、右端のカードに近づくと、微妙にニヤニヤと笑っていたが、左端にいくと、ニヤニヤがとまった。
わかりやすい。
そうして、攻防を繰り返しながら、俺が三枚、杏が二枚でどちらかにジョーカーを持っている状況となった。
ここでジョーカーを引けば、状況は悪化してしまう。
なんとしても、避けたい。
「……楓、勝負しよう」
杏は、そういって、シャッフルをする。
もちろん、杏本人も見ていない。
これで、完全に運ゲームだ。
俺が選んだのは、真ん中のカード。
それを開くと──
ジョーカーだった。
ちっくしょぉぉぉぉ!
「……やった」
小さく、杏は微笑んで言う。
くっそ、今に見ておけよ!
そう心の中で思ったのも、数分前。
どこで歯車が狂ったのだろうか。
俺は完全に敗北した。
俺は机に突っ伏しているから、ちーんとどこかで効果音が鳴りそうだ。
「罰ゲームはね……」
杏は、そう言いながら、ベットに駆け寄る。
そして、枕を抱いて、上目遣いで、
「……今日も一緒に寝よ?」
と言った。
昨日も寝た。
杏が誘ってきたから、俺はそれに乗った。
別に二日連続は嫌とか思わないが、どうしたのだろうか。
「……別にいいけど、どうしたの?」
俺は、枕を抱きながら、横になった杏に聞く。
「最近、不安なの。私たちは今後どうしているのかなって思って」
久しぶりに聞いた杏の弱々しい声。
中学校の頃、まだ俺が杏に恋心を抱いていなかった時のひ弱な声。
それを想起させる声だった。
結局、俺たちは変わっていない。
不安に押し潰されるのを怖がり、素直な想いを伝えられない。
やっぱり俺たちは──
──どんな関係になっても成長しないな。
「……大丈夫。俺はずっと杏の側にいるよ。頼りないかもしれないけど、辛いときや悲しいときは話してほしい」
ありきたりで、痛くて、思い出したら赤面しそうな言葉。
でも、杏を励ますためなら、いくらだって言える。
俺は、彼女の流れる涙を指で拭ったあと、優しくキスをした。
大丈夫。
もうすぐ、君に最高のサプライズを渡すから。
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