132 / 244
第5章 桜と君と青春と ~再会の友、再開の時~
75時間目 本当の気持ちは
しおりを挟む
敦志、本当にやってくれたよね……。
僕らは今、このデパートの施設内にある映画館に足を運んでいる。
正直、優香とは話すのも気まずい。
だけど、こう二人きりにさせられたら話さざるを得ない。
「優香」
「……なんですか。裕太君……」
よかったのは、二人きりの時だけ、彼女は僕の事を『裕太君』と呼んでくれる。
てっきり、嫌われているのかと思っていたからほっとする。
「観たい映画、ある?」
「なんでもいいです。裕太君とならなんでも」
さらっとドキッとさせるような事を言う。
きっと、自覚は無いのだろうけど。
「そ、そっか……」
会話は長く続かない。
だが、今は仕方がない。
これは、敦志達が考えた優香と仲直りするための方法だから。
※※※
【4月25日】
森山先輩がこの時に提案をしなければ、山内先輩と天野さんの仲は二度と元には戻らなかったと、高橋先輩は語っていました。
その意見には賛成です。
なぜなら、僕にも彼女がいたことがあってその子と別れ際に大喧嘩をしてしまいました。
だけど、今は頼れて可愛い後輩のひとりです。
人間関係は生物。
すぐに腐りやすく、元通りにはなりにくいのです。
山内先輩の判断はきっと正しかったんだろうなぁ。
※※※
小春の横に並んで歩くことも慣れてきた。
最近の彼女は大胆になってきている気がする。
まさか、天野がトイレに行っている間、こんな事を言い出すなんて。
『山内君、別行動しない?』
きっと二人の距離が縮まるようにと思って言った事だろう。
さすがに苦笑いせずにはいられなかった。
「なんか、無理言っちゃったかな……」
小春はまだその事を根に持っているらしく、しょぼーんと落ち込んでいる。
「そんな事ないと思うぞ。裕太だって天野と仲直りしたいはずだから」
ちなみに小春には付き合っていたという事は伝えていない。
仲悪くなった後輩とだけ伝えてある。
「そっか。ねぇ、敦志君、手、握っていい?」
「お、おう」
そっと小春の手を握る。
まだ二回目だから、人の肌の温もりに慣れない。
お互いドキドキしながら歩いていると、館内アナウンスが鳴った。
【ピンポンパンポーン♪ 本日はお越しくださりまことにありがとうございます。一時より、大公園にて『大冒険パラダイム』様より特別コンサートのお時間でごさいます。是非、ご来場お願いいたします。繰り返します……】
とのアナウンスが鳴って、小春は目を輝かせながら、
「敦志君、行こうよー!」
とおもちゃをねだる子供のような無垢な目でこちらを見てきた。
そんな目をされたら、行かざるを得ない。
「おう、行こうか」
小春は握っている手に力を込めた。
そして、
「ほら、あとちょっとで始まるよ!」
小走り程度に歩くスピードを速めた。
子供のように純粋に。
俺はそれがたまらなくって自然と笑顔になった。
──
映画館に着くと、僕らは話し合った。
「やっぱりさっきの言葉は撤回します。ホラー映画以外にしてください」
「僕もホラーはダメだよ……。これは?」
「アクション映画ですか。スピーティーで爽快感があっていいと思いますが、私はあまり好みではないです」
「じゃあ、これだね」
僕は10年後に初恋の人と再会する恋愛小説を指差す。
たしか、シリーズもので今回は初恋の人の父親がでてくるような……たしかそんな宣伝をしていたのを思い出す。
だけど、優香は首を縦に振らなかった。
「……これがいいです」
優香が指差すのは、本屋で大きなポップに「祝! 映画化!」と書かれた恋愛小説が原作の映画だった。
「……これじゃ、だめですか?」
上目遣いで、こちらをチラチラと見る優香。
昔なら、抱きしめていたがもう、そんな事は出来ない。
「じゃあ、チケット買ってくるよ」
「……裕太君、お金……」
「大丈夫」
そう言って、チケット売り場に向かう。
受付のお姉さんに観る映画のタイトルを伝えて、お金を払う。
そして、チケットを受けとるのを待っていると、後ろから三人の高校生らしき声が聞こえた。
「なに観る?」
「オイ、決めてなかったのかよ?! 俺らなんかお前があんのかと思ってついてきたんだけど!?」
「ドリンクってどこで買うの~? シュ────ウ! メガネ────ィ!」
「うん、ちょい待て、先になに観るか決めようぜ? なんでお前、先にドリンク買おうとしてんだよ! ファミレスじゃねぇんだからよ。ここ」
「おっ、ここ電子マネー使えるじゃん。ラッキー、ポイント5倍デーは今日までだからジャンジャン使わないとね」
「話題の統一性無さすぎだろ……。あーも、なんでもいいから選ぼ? 俺が恥ずいわ。ほら、前にいる白髪の人が選んでた恋愛映画でよくね? 面白そうだし」
「恋愛? リア充のたまり場じゃん」
「い────やぁぁ! 爆破してしまう────!」
「お前らうるせぇ! 静かにしろ!」
こんな感じでやり取りがあり、僕はクスリと笑ってしまった。
「こちらチケットになります」
「ありがとうございます」
僕は笑顔でお姉さんからチケットを受け取ると、優香の所に戻った。
「さーせん」
すれ違い様に、後ろにいたパーカーを着た男子高校生の一人が僕に謝ってきた。
「いえいえ」
笑顔で返すと、彼らは固まった。
「……あの人、ヤバくね? ちょーイケメンじゃね?」
「モデルさんじゃない?」
「インスタで出てるそこらの男よりイケメンじゃない~?」
小声で話しているつもりだろうが、バッチリ聞こえている。
イケメンと言われて嬉しくないことはない。
「おかえりなさい。裕太君」
「ただいま。優香、いこっか」
「はいっ!」
一瞬だけでいい。
空気が3年前に戻ってほしい。
映画を観ている間、優香は頭ポンポンのシーンに目を輝かせて見ていた。
純粋にそれでいて楽しそうに子供っぽく観ているその姿は付き合っていた時の甘える顔と同じ。
もう一度だけ、特別にならなくてもいいから、君と一緒に居たい。
そうして、映画が終わると、優香は涙をぬぐっていた。
僕も少し感動して泣きそうだった。
「……ハンカチ、使う?」
「ありがとう、ございます。裕太君」
優香はハンカチで涙をぬぐってからこう言った。
「信じてあげられなくてごめんなさい」
優香も罪悪感は持っていたのかもしれない。
僕の事をずっと信じていたのかもしれない。
だけど、信じたくなくてあんな別れ方をしたのだろう。
「僕のほうこそ、ごめん。ちゃんと優香の想いに気が付かなくてごめん」
彼女の瞳から、また涙が溢れる。
「裕太君、やり直しましょう」
「私たちはまだ、お互いの事を知りません。この3年間を埋めるために」
「私と友達からやり直してくれませんか?」
「もちろん」
僕らは、特別にこだわりを持ちすぎた。
そうしなきゃ、離れてしまうと思っていたから。
だから、ここからやり直す。
恋人でもなく、親友でもない。
友達としての大切な時間から。
僕らは今、このデパートの施設内にある映画館に足を運んでいる。
正直、優香とは話すのも気まずい。
だけど、こう二人きりにさせられたら話さざるを得ない。
「優香」
「……なんですか。裕太君……」
よかったのは、二人きりの時だけ、彼女は僕の事を『裕太君』と呼んでくれる。
てっきり、嫌われているのかと思っていたからほっとする。
「観たい映画、ある?」
「なんでもいいです。裕太君とならなんでも」
さらっとドキッとさせるような事を言う。
きっと、自覚は無いのだろうけど。
「そ、そっか……」
会話は長く続かない。
だが、今は仕方がない。
これは、敦志達が考えた優香と仲直りするための方法だから。
※※※
【4月25日】
森山先輩がこの時に提案をしなければ、山内先輩と天野さんの仲は二度と元には戻らなかったと、高橋先輩は語っていました。
その意見には賛成です。
なぜなら、僕にも彼女がいたことがあってその子と別れ際に大喧嘩をしてしまいました。
だけど、今は頼れて可愛い後輩のひとりです。
人間関係は生物。
すぐに腐りやすく、元通りにはなりにくいのです。
山内先輩の判断はきっと正しかったんだろうなぁ。
※※※
小春の横に並んで歩くことも慣れてきた。
最近の彼女は大胆になってきている気がする。
まさか、天野がトイレに行っている間、こんな事を言い出すなんて。
『山内君、別行動しない?』
きっと二人の距離が縮まるようにと思って言った事だろう。
さすがに苦笑いせずにはいられなかった。
「なんか、無理言っちゃったかな……」
小春はまだその事を根に持っているらしく、しょぼーんと落ち込んでいる。
「そんな事ないと思うぞ。裕太だって天野と仲直りしたいはずだから」
ちなみに小春には付き合っていたという事は伝えていない。
仲悪くなった後輩とだけ伝えてある。
「そっか。ねぇ、敦志君、手、握っていい?」
「お、おう」
そっと小春の手を握る。
まだ二回目だから、人の肌の温もりに慣れない。
お互いドキドキしながら歩いていると、館内アナウンスが鳴った。
【ピンポンパンポーン♪ 本日はお越しくださりまことにありがとうございます。一時より、大公園にて『大冒険パラダイム』様より特別コンサートのお時間でごさいます。是非、ご来場お願いいたします。繰り返します……】
とのアナウンスが鳴って、小春は目を輝かせながら、
「敦志君、行こうよー!」
とおもちゃをねだる子供のような無垢な目でこちらを見てきた。
そんな目をされたら、行かざるを得ない。
「おう、行こうか」
小春は握っている手に力を込めた。
そして、
「ほら、あとちょっとで始まるよ!」
小走り程度に歩くスピードを速めた。
子供のように純粋に。
俺はそれがたまらなくって自然と笑顔になった。
──
映画館に着くと、僕らは話し合った。
「やっぱりさっきの言葉は撤回します。ホラー映画以外にしてください」
「僕もホラーはダメだよ……。これは?」
「アクション映画ですか。スピーティーで爽快感があっていいと思いますが、私はあまり好みではないです」
「じゃあ、これだね」
僕は10年後に初恋の人と再会する恋愛小説を指差す。
たしか、シリーズもので今回は初恋の人の父親がでてくるような……たしかそんな宣伝をしていたのを思い出す。
だけど、優香は首を縦に振らなかった。
「……これがいいです」
優香が指差すのは、本屋で大きなポップに「祝! 映画化!」と書かれた恋愛小説が原作の映画だった。
「……これじゃ、だめですか?」
上目遣いで、こちらをチラチラと見る優香。
昔なら、抱きしめていたがもう、そんな事は出来ない。
「じゃあ、チケット買ってくるよ」
「……裕太君、お金……」
「大丈夫」
そう言って、チケット売り場に向かう。
受付のお姉さんに観る映画のタイトルを伝えて、お金を払う。
そして、チケットを受けとるのを待っていると、後ろから三人の高校生らしき声が聞こえた。
「なに観る?」
「オイ、決めてなかったのかよ?! 俺らなんかお前があんのかと思ってついてきたんだけど!?」
「ドリンクってどこで買うの~? シュ────ウ! メガネ────ィ!」
「うん、ちょい待て、先になに観るか決めようぜ? なんでお前、先にドリンク買おうとしてんだよ! ファミレスじゃねぇんだからよ。ここ」
「おっ、ここ電子マネー使えるじゃん。ラッキー、ポイント5倍デーは今日までだからジャンジャン使わないとね」
「話題の統一性無さすぎだろ……。あーも、なんでもいいから選ぼ? 俺が恥ずいわ。ほら、前にいる白髪の人が選んでた恋愛映画でよくね? 面白そうだし」
「恋愛? リア充のたまり場じゃん」
「い────やぁぁ! 爆破してしまう────!」
「お前らうるせぇ! 静かにしろ!」
こんな感じでやり取りがあり、僕はクスリと笑ってしまった。
「こちらチケットになります」
「ありがとうございます」
僕は笑顔でお姉さんからチケットを受け取ると、優香の所に戻った。
「さーせん」
すれ違い様に、後ろにいたパーカーを着た男子高校生の一人が僕に謝ってきた。
「いえいえ」
笑顔で返すと、彼らは固まった。
「……あの人、ヤバくね? ちょーイケメンじゃね?」
「モデルさんじゃない?」
「インスタで出てるそこらの男よりイケメンじゃない~?」
小声で話しているつもりだろうが、バッチリ聞こえている。
イケメンと言われて嬉しくないことはない。
「おかえりなさい。裕太君」
「ただいま。優香、いこっか」
「はいっ!」
一瞬だけでいい。
空気が3年前に戻ってほしい。
映画を観ている間、優香は頭ポンポンのシーンに目を輝かせて見ていた。
純粋にそれでいて楽しそうに子供っぽく観ているその姿は付き合っていた時の甘える顔と同じ。
もう一度だけ、特別にならなくてもいいから、君と一緒に居たい。
そうして、映画が終わると、優香は涙をぬぐっていた。
僕も少し感動して泣きそうだった。
「……ハンカチ、使う?」
「ありがとう、ございます。裕太君」
優香はハンカチで涙をぬぐってからこう言った。
「信じてあげられなくてごめんなさい」
優香も罪悪感は持っていたのかもしれない。
僕の事をずっと信じていたのかもしれない。
だけど、信じたくなくてあんな別れ方をしたのだろう。
「僕のほうこそ、ごめん。ちゃんと優香の想いに気が付かなくてごめん」
彼女の瞳から、また涙が溢れる。
「裕太君、やり直しましょう」
「私たちはまだ、お互いの事を知りません。この3年間を埋めるために」
「私と友達からやり直してくれませんか?」
「もちろん」
僕らは、特別にこだわりを持ちすぎた。
そうしなきゃ、離れてしまうと思っていたから。
だから、ここからやり直す。
恋人でもなく、親友でもない。
友達としての大切な時間から。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~
八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」
ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。
蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。
これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。
一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「南風の頃に」~ノダケンとその仲間達~
kitamitio
青春
合格するはずのなかった札幌の超難関高に入学してしまった野球少年の野田賢治は、野球部員たちの執拗な勧誘を逃れ陸上部に入部する。北海道の海沿いの田舎町で育った彼は仲間たちの優秀さに引け目を感じる生活を送っていたが、長年続けて来た野球との違いに戸惑いながらも陸上競技にのめりこんでいく。「自主自律」を校訓とする私服の学校に敢えて詰襟の学生服を着ていくことで自分自身の存在を主張しようとしていた野田賢治。それでも新しい仲間が広がっていく中で少しずつ変わっていくものがあった。そして、隠していた野田賢治自身の過去について少しずつ知らされていく……。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる