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第5章 桜と君と青春と ~再会の友、再開の時~
71・5時間目 私と先輩たち
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「はぁ、はぁ……!」
MISHIHANAという最近見つけたカフェから走ってきた。
こんなに走るのは体育の時間だけ。
いや、言葉足らずだと思う。
走って、逃げてきた。
それはなぜか。
私の初恋の人──そして愛し合った人──裕太君が居たからだ。
二人の友達と一緒に来て、常連客のようだった。
息を整えていると、頭が痛くなった。
「ぁ……ぅ……!」
『山内先輩、二股してたんだって』
『へぇー。そうなんだ。じゃあ、天野って』
『ただ遊ばれていただけなんじゃねw』
違う。
彼はちゃんと私を愛してくれていた。
私は遊ばれてなんていない。
もう、環境が変わった。
のに、名前を覚えていないクラスメイトが言った言葉が幻聴になってまで私を苦しめる。
恋ってなんだろう。愛ってなんだろう。
恋をする女の子なら必ずしも一度は考えた事があるはずだ。
それは、誰にも分からない。
誰も答えを知らない。
模範解答のないのに、答えを探そうとした私は愚かだと思う。
脳裏には、何度も忘れようとした過去の出来事がちらつく。
クラスメイトの根も葉もないただの憶測が私とあの輝かしい思い出を切り刻んでくる。
ボロボロに、思い出させないように。
嫌だ。そんなの。
私は、まだ裕太君の事が──
「あ、の……大丈夫ですか?」
誰かに声をかけられる。
それによって、私の意識は現実に戻される。
幻聴も何事もなかったかのように聞こえなくなる。
優しい声。
「あの、大丈夫ですか?」
私と同い年かひとつした位の少女がこちらを覗き込んでいた。
背中辺りまでありそうな黒髪は黄色いリボンでくくっている。
彼女が首をかしげる度にそれはいたずらっ子のようにぴょこぴょこと動く。
好奇心が旺盛でキラキラとした純粋な瞳。
私より小さい身長なのに胸だけは立派に成長している合法ロリ系の女の子だ。
「だ、大丈夫です。ご心配おかけしてすみません」
「あの……どうして泣いているのですか?」
「えっ?」
頬の辺りに確かに生ぬるい液体が付着していた。
なんで、泣いているのだろう。
外で泣くなんて。人前で泣いてしまうなんて。
「私でよければ、お話聞きますよ? もし、あなたさえ、よければ聞かせてください。一人で抱え込むより誰かに話した方が楽になると思うので。あ、名前教えておきますね。森山小春といいます」
少女──森山さんは、自己紹介をするとにこりと笑った。
「お願い……します」
私は彼女の後についていき、近くの児童公園のベンチで腰をおろして、全てを話した。
誰にも言うつもりはなかった。
ましてや、初対面の人になんて絶対に言わないつもりだった。
けれど、森山さんなら、信じられる。
この人から悪意は感じないから。
「──そうですか……。それはショックでしたね……」
森山さんは、そう呟くと目を瞑って小さく息を吐いた。
話して少しスッキリした。
だけど、ここからが重要だ。
これ以上彼女に考えさせてはいけない。
「お話、聞いていただいてありがとうございます。その、この話は忘れてください。それでは──」
そういって、すぐに立ち去ろうとした。
しかし、
「待ってください!」
彼女の大きな声に反射的に振り返ってしまう。
「私の意見、聞いてください」
まっすぐな彼女のまなざしに曇りも悪意も感じられない。
いつから、私は人を信じられなくなったのだろう。
初対面の私の私情に対して、こんなに向き合ってくれる人がいるのに。
「ごめん……なさい」
私はまた、泣いてしまった。
森山さんに甘えてしまう。
この人は母性がありすぎる。
まるで、実の母親のように、何でも許してくれそうな存在。
私は赤ちゃんのように森山さんに背中を擦られながら、泣いた。
「ぐすっ……。ぁまの……」
「どうしたの?」
いつの間にか森山さんの口調がタメ語に変わっていた。
「天野、優香です。高校一年生です……」
語彙力が小学生に戻ってしまった私は、潤んだ瞳で森山さんを見る。
「そっかぁ。じゃあ、後輩ちゃんだねっ!」
その言葉に胸が熱くなる。
『そっか。後輩だね。これから書記よろしく、天野さん』
この時は「天野さん」だったけれど。
裕太君も同じ言葉をくれた。
「森山、先輩……。まだ泣いていいですか?」
「うん、悲しいときは泣いていいんだよ」
それでは、失礼します。
私は、森山さんの胸のなかで小さく泣いた。
裕太君。
あなたに会えて本当は嬉しかった。
MISHIHANAという最近見つけたカフェから走ってきた。
こんなに走るのは体育の時間だけ。
いや、言葉足らずだと思う。
走って、逃げてきた。
それはなぜか。
私の初恋の人──そして愛し合った人──裕太君が居たからだ。
二人の友達と一緒に来て、常連客のようだった。
息を整えていると、頭が痛くなった。
「ぁ……ぅ……!」
『山内先輩、二股してたんだって』
『へぇー。そうなんだ。じゃあ、天野って』
『ただ遊ばれていただけなんじゃねw』
違う。
彼はちゃんと私を愛してくれていた。
私は遊ばれてなんていない。
もう、環境が変わった。
のに、名前を覚えていないクラスメイトが言った言葉が幻聴になってまで私を苦しめる。
恋ってなんだろう。愛ってなんだろう。
恋をする女の子なら必ずしも一度は考えた事があるはずだ。
それは、誰にも分からない。
誰も答えを知らない。
模範解答のないのに、答えを探そうとした私は愚かだと思う。
脳裏には、何度も忘れようとした過去の出来事がちらつく。
クラスメイトの根も葉もないただの憶測が私とあの輝かしい思い出を切り刻んでくる。
ボロボロに、思い出させないように。
嫌だ。そんなの。
私は、まだ裕太君の事が──
「あ、の……大丈夫ですか?」
誰かに声をかけられる。
それによって、私の意識は現実に戻される。
幻聴も何事もなかったかのように聞こえなくなる。
優しい声。
「あの、大丈夫ですか?」
私と同い年かひとつした位の少女がこちらを覗き込んでいた。
背中辺りまでありそうな黒髪は黄色いリボンでくくっている。
彼女が首をかしげる度にそれはいたずらっ子のようにぴょこぴょこと動く。
好奇心が旺盛でキラキラとした純粋な瞳。
私より小さい身長なのに胸だけは立派に成長している合法ロリ系の女の子だ。
「だ、大丈夫です。ご心配おかけしてすみません」
「あの……どうして泣いているのですか?」
「えっ?」
頬の辺りに確かに生ぬるい液体が付着していた。
なんで、泣いているのだろう。
外で泣くなんて。人前で泣いてしまうなんて。
「私でよければ、お話聞きますよ? もし、あなたさえ、よければ聞かせてください。一人で抱え込むより誰かに話した方が楽になると思うので。あ、名前教えておきますね。森山小春といいます」
少女──森山さんは、自己紹介をするとにこりと笑った。
「お願い……します」
私は彼女の後についていき、近くの児童公園のベンチで腰をおろして、全てを話した。
誰にも言うつもりはなかった。
ましてや、初対面の人になんて絶対に言わないつもりだった。
けれど、森山さんなら、信じられる。
この人から悪意は感じないから。
「──そうですか……。それはショックでしたね……」
森山さんは、そう呟くと目を瞑って小さく息を吐いた。
話して少しスッキリした。
だけど、ここからが重要だ。
これ以上彼女に考えさせてはいけない。
「お話、聞いていただいてありがとうございます。その、この話は忘れてください。それでは──」
そういって、すぐに立ち去ろうとした。
しかし、
「待ってください!」
彼女の大きな声に反射的に振り返ってしまう。
「私の意見、聞いてください」
まっすぐな彼女のまなざしに曇りも悪意も感じられない。
いつから、私は人を信じられなくなったのだろう。
初対面の私の私情に対して、こんなに向き合ってくれる人がいるのに。
「ごめん……なさい」
私はまた、泣いてしまった。
森山さんに甘えてしまう。
この人は母性がありすぎる。
まるで、実の母親のように、何でも許してくれそうな存在。
私は赤ちゃんのように森山さんに背中を擦られながら、泣いた。
「ぐすっ……。ぁまの……」
「どうしたの?」
いつの間にか森山さんの口調がタメ語に変わっていた。
「天野、優香です。高校一年生です……」
語彙力が小学生に戻ってしまった私は、潤んだ瞳で森山さんを見る。
「そっかぁ。じゃあ、後輩ちゃんだねっ!」
その言葉に胸が熱くなる。
『そっか。後輩だね。これから書記よろしく、天野さん』
この時は「天野さん」だったけれど。
裕太君も同じ言葉をくれた。
「森山、先輩……。まだ泣いていいですか?」
「うん、悲しいときは泣いていいんだよ」
それでは、失礼します。
私は、森山さんの胸のなかで小さく泣いた。
裕太君。
あなたに会えて本当は嬉しかった。
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