上 下
125 / 244
第5章 桜と君と青春と ~再会の友、再開の時~

70時間目 運命があるなら

しおりを挟む
カランと来客を知らせるベルが心地よい音を鳴らす。
平日は昼を過ぎると、お客さんはかなり減って、俺は基本的に手持ちぶさたになる。
こんな時間に女子高生らしき子が来るのはめずらしかったから、俺は声をかけた。
普通に接客だ。
身長ちっさ……。
ドアにいたのは、小柄な女の子。
人工的ではなく、きっと生まれつきなのだろう少しくせ毛の茶髪。
髪型はショートカットだが、前髪はみつあみをしている。
綿を連想させる白い肌。
くりくりとした大きな目。
瞳の中にはまるでライラックが入っているように澄んでいる。
服装はピンクのロングカーディガンに白いシャツ。
サイズが合っていないのか黒いブラのひもが見えている。
黒いスカートは膝下。
茶髪だから、ギャルのような感じを連想していたが、パッと見はおしゃれをした一国のお嬢様を連想させる。
「あ、の……?」
しまった。
ついまじまじと見てしまったから、少女は恥ずかしそうにコテンと首をかしげている。
「あぁ……。カウンターへどうぞ……」
「はい。失礼します」
驚いた。
他人の家じゃあるまいし、店に対して失礼しますという人を俺はあまり見たことなかったから、振り返ってしまった。
「どうかされましたか?」
言葉使いがとても丁寧だ。
少女はまた少し恥ずかしそうにコテンと首をかしげていると、
「あら? お客さん? 初めて見る顔ね」
二階から杏が降りてきた。
彼女は、まだ制服に着替えておらず、Tシャツに短パンというお客さんの前ではあまり見せられない格好だ。
まぁ、ここが店兼自宅なのだから、仕方がないのだけど、さすがにお客さんの前ではTPOをわきまえてほしい。
「あのっ……! 私、華春かしゅん高校の天野優香あまのゆうかと申します。その、お友達がここのカフェが大好きなので私も一度来てみたいなと思い、こちらに参りました」
少女──天野さんは、問わず語りで全てを話してくれた。
なるほど、この子の話し方の謎が解けた。
彼女が通っている華春高校は、全国から入学希望の女の子達が集まる女子高だ。
そこへの入学試験は悛烈を極め、毎年1000人以上の入学希望者がいるが、半数は筆記試験すら受ける事が出来ず、筆記試験を受かっても残っている生徒は100人程度。
超スパルタの女子高と有名だ。
オリンピックの代表選手を多く輩出し、卒業生は大手企業に100パーセント就職。
「ゆ、優香ちゃん……。凄いね!」
杏が、感心したように言う。
いや、本当に凄いよこの子。
「ありがとうございます。これでも、まだまだ未熟者ですので」
おじぎが凄く綺麗だ。
「と、とりあえずなに飲みたい?」
「おすすめはありますでしょうか?」
「カフェオレ飲めるかな?」
「飲めます」
「んじゃ、とびっきり美味しいの作ってあげるよ」
「ありがとうございます」
俺は厨房に戻って、コーヒーをカップにそそぐ。
「……ばか」
杏が、俺を肘でつついてきた。
頬も心なしか膨らんでいるように見える。
まさか、これは……!
初めて、俺の彼女が嫉妬したんですけど。
やっべ。テンションあがるって。
いかんいかん。
カフェオレに集中しよう。
ミルクをたっぷりといれて、出来上がったカフェオレを俺は天野さんに渡す。
「はい、お待たせ。シロップとか欲しかったら遠慮なく言ってね」
「はい。ありがとうございます」
俺はニコニコ顔で厨房に戻る。
「……」
杏が、怖い。
圧がスゴいんですけど。
彼女は、笑顔だが目が笑っていない。
しかも、おまけに黒いオーラが俺には見えて、ゴゴゴと効果音まで聴こえる。
「……今日は楓と寝てあげない。……ふんっ」
杏は不機嫌になったようだ。
「……ごめんて」
俺の平謝りは鼻で笑われてしまった。


──


「ごちそうさまでした。美味しかったです」
手を合わせて、こちらにカップを返してきてくれた。
「喜んでもらえてよかった。また、来てね」
「はい。また、来ますね」
「……じゃあね」
杏はあれから、天野さんに嫉妬していたがさすがに大人の余裕というものを見せなければいけないと思ったのだろう。
そっけない態度ながらも、ちゃんとしている。
彼女が椅子から立ち上がった時、カランと音をたてて扉が開いた。
「いらっしゃいませー! おっ、高橋君じゃないか! 山内君も三石みいし君も! 久しぶりだね!」
「お久しぶりです」
「久しぶりでーす! また、夏にバイト来ていいですか?」
「もちろん」
高橋君と三石君は挨拶をしたものの、山内君は目を見開いて、固まっている。
「……優香……」
裕太ゆうた……君……」
山内君と天野さんが、お互いの名前を呼んだのは同時だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

姉らぶるっ!!

藍染惣右介兵衛
青春
 俺には二人の容姿端麗な姉がいる。 自慢そうに聞こえただろうか?  それは少しばかり誤解だ。 この二人の姉、どちらも重大な欠陥があるのだ…… 次女の青山花穂は高校二年で生徒会長。 外見上はすべて完璧に見える花穂姉ちゃん…… 「花穂姉ちゃん! 下着でウロウロするのやめろよなっ!」 「んじゃ、裸ならいいってことねっ!」 ▼物語概要 【恋愛感情欠落、解離性健忘というトラウマを抱えながら、姉やヒロインに囲まれて成長していく話です】 47万字以上の大長編になります。(2020年11月現在) 【※不健全ラブコメの注意事項】  この作品は通常のラブコメより下品下劣この上なく、ドン引き、ドシモ、変態、マニアック、陰謀と陰毛渦巻くご都合主義のオンパレードです。  それをウリにして、ギャグなどをミックスした作品です。一話(1部分)1800~3000字と短く、四コマ漫画感覚で手軽に読めます。  全編47万字前後となります。読みごたえも初期より増し、ガッツリ読みたい方にもお勧めです。  また、執筆・原作・草案者が男性と女性両方なので、主人公が男にもかかわらず、男性目線からややずれている部分があります。 【元々、小説家になろうで連載していたものを大幅改訂して連載します】 【なろう版から一部、ストーリー展開と主要キャラの名前が変更になりました】 【2017年4月、本幕が完結しました】 序幕・本幕であらかたの謎が解け、メインヒロインが確定します。 【2018年1月、真幕を開始しました】 ここから読み始めると盛大なネタバレになります(汗)

バッサリ〜由紀子の決意

S.H.L
青春
バレー部に入部した由紀子が自慢のロングヘアをバッサリ刈り上げる物語

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

これからの僕の非日常な生活

喜望の岬
青春
何の変哲もない高校2年生、佐野佑(たすく)。 そんな彼の平凡な生活に終止符を打つかのような出来事が起きる……!

処理中です...