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第5章 桜と君と青春と ~再会の友、再開の時~
67・5時間目 再会の友
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「なんで、お前がここに……」
目の前にいるのは間違いなく、この世界には居ないはずの百合だった。
いや、言い方に少し誤弊があった。
あの頃──中学の頃の純粋で明るかった百合はこの世界にはもう居ない。
だが、百合自身は生きている。
俺はこいつの事を忘れて。
神谷さんは、何が起きたのか理解が追いついてないようだ。
口をぱくぱくさせて百合の事を見つめている。
「なぁ、あれからお前は何をしていたンだ……?」
自分でも分かるほど小さな声量で俺は百合に訪ねた。
「僕は、ずっと家に居た。僕が居た地元を離れて」
ここは俺達の地元だ。
中学までは皆一緒。
神谷さんも、俺も。
そして、百合も。
「久しぶりに思い出話でもしようか。今日は睡蓮、君に話があって来た」
百合の光ひとつ無い眼に俺は吸い込まれそうになる。
コイツの眼が言っているンだ。
わざわざ、ここまで来た旧友をなにも無しに帰らせるはずがないと。
アァ、上等だ。
お前の望み通りにやってやるよ。
「立ち話もなんだ。入ってくれ」
「──やよ……」
振り返ると、神谷さんが肩をプルプルと揺らして、今にも泣きそうな顔で百合の事を睨み付けている。
それを見た時、寒気がした。
神谷さんのそんな顔を俺は初めて見たからだ。
「嫌よ……。橙太。あなた達だけで話を進めないで。また、私の前から消えないで。だから、私も話に入らせて」
神谷さんの目には入らせないと貴方を離さないと言わんばかりに目には炎が宿っていた。
「……分かった。来て──」
俺は久しぶりに神谷さんの名前を誰かが呼んだ事に懐かしさを覚えていた。
※※※
リビングは重い気まずさが溢れ、沈黙が空間を支配していた。
「……」
「…………」
「………………」
だっれも全然喋らねェじゃねェか!
俺は沈黙を破る度胸はねェよ。
心の中の俺は汗ダラダラで脱水症状で死んじまうじゃねェの。
ヤバイって。
百合でも神谷さんでも菫でも舞花でもいいからこの空気を破ってくれェー!
空気に耐えられない俺を察したらしい百合は俺に向かって微笑んだ。
「それにしても、睡蓮。君は変わってないね。そのダルそうな目も。不良風の口調も」
百合は沈黙を破った。
「アァ、俺は全然変わってねェよ。百合、お前は……その、少しあの頃より髪が伸びたンじゃねェか?」
「そう……だね。ずっと部屋に籠っていたからね」
「……」
「…………」
はい、会話終了!
無理、ナンでだよ! マジで! 俺ってこんな喋れなかったっけ!?
つーか、神谷さんもひとことも喋らなかったし!
神谷さん、アンタが喋らねェと意味ねェンだよ!
「百合……。お前、どうして俺達の前から消えたンだよ……」
それは、間違いなく俺の『油断』がもたらした過ちだった。
「睡蓮」「黒沢君」
百合と神谷さんは、驚いたような目を俺に向けた。
「橙太。あなた……本当にどうしたの? 教えて欲しい。私は、あなたが──」
「もういい」
怒気を含んだ橙太の声。
「やめろ。僕はッ──」
「嫌なんだよッ! 僕は、ずっと……ずっと……!」
百合は悲しんだ顔を見せて、リビングから出ていった。
「さようなら、──心結」
神谷さん──神谷心結は、百合が出ていくのを、黙ってみていた。
そして、泣き崩れた。
「あぅぅ……ぁぁぁぁぁ!」
「わぁぁぁぁぁぁぁあん!」
「ごめん、なさい……橙太ぁ……!」
俺はただ、神谷さんが泣き止むまで彼女の背を擦る事しか出来なかった。
目の前にいるのは間違いなく、この世界には居ないはずの百合だった。
いや、言い方に少し誤弊があった。
あの頃──中学の頃の純粋で明るかった百合はこの世界にはもう居ない。
だが、百合自身は生きている。
俺はこいつの事を忘れて。
神谷さんは、何が起きたのか理解が追いついてないようだ。
口をぱくぱくさせて百合の事を見つめている。
「なぁ、あれからお前は何をしていたンだ……?」
自分でも分かるほど小さな声量で俺は百合に訪ねた。
「僕は、ずっと家に居た。僕が居た地元を離れて」
ここは俺達の地元だ。
中学までは皆一緒。
神谷さんも、俺も。
そして、百合も。
「久しぶりに思い出話でもしようか。今日は睡蓮、君に話があって来た」
百合の光ひとつ無い眼に俺は吸い込まれそうになる。
コイツの眼が言っているンだ。
わざわざ、ここまで来た旧友をなにも無しに帰らせるはずがないと。
アァ、上等だ。
お前の望み通りにやってやるよ。
「立ち話もなんだ。入ってくれ」
「──やよ……」
振り返ると、神谷さんが肩をプルプルと揺らして、今にも泣きそうな顔で百合の事を睨み付けている。
それを見た時、寒気がした。
神谷さんのそんな顔を俺は初めて見たからだ。
「嫌よ……。橙太。あなた達だけで話を進めないで。また、私の前から消えないで。だから、私も話に入らせて」
神谷さんの目には入らせないと貴方を離さないと言わんばかりに目には炎が宿っていた。
「……分かった。来て──」
俺は久しぶりに神谷さんの名前を誰かが呼んだ事に懐かしさを覚えていた。
※※※
リビングは重い気まずさが溢れ、沈黙が空間を支配していた。
「……」
「…………」
「………………」
だっれも全然喋らねェじゃねェか!
俺は沈黙を破る度胸はねェよ。
心の中の俺は汗ダラダラで脱水症状で死んじまうじゃねェの。
ヤバイって。
百合でも神谷さんでも菫でも舞花でもいいからこの空気を破ってくれェー!
空気に耐えられない俺を察したらしい百合は俺に向かって微笑んだ。
「それにしても、睡蓮。君は変わってないね。そのダルそうな目も。不良風の口調も」
百合は沈黙を破った。
「アァ、俺は全然変わってねェよ。百合、お前は……その、少しあの頃より髪が伸びたンじゃねェか?」
「そう……だね。ずっと部屋に籠っていたからね」
「……」
「…………」
はい、会話終了!
無理、ナンでだよ! マジで! 俺ってこんな喋れなかったっけ!?
つーか、神谷さんもひとことも喋らなかったし!
神谷さん、アンタが喋らねェと意味ねェンだよ!
「百合……。お前、どうして俺達の前から消えたンだよ……」
それは、間違いなく俺の『油断』がもたらした過ちだった。
「睡蓮」「黒沢君」
百合と神谷さんは、驚いたような目を俺に向けた。
「橙太。あなた……本当にどうしたの? 教えて欲しい。私は、あなたが──」
「もういい」
怒気を含んだ橙太の声。
「やめろ。僕はッ──」
「嫌なんだよッ! 僕は、ずっと……ずっと……!」
百合は悲しんだ顔を見せて、リビングから出ていった。
「さようなら、──心結」
神谷さん──神谷心結は、百合が出ていくのを、黙ってみていた。
そして、泣き崩れた。
「あぅぅ……ぁぁぁぁぁ!」
「わぁぁぁぁぁぁぁあん!」
「ごめん、なさい……橙太ぁ……!」
俺はただ、神谷さんが泣き止むまで彼女の背を擦る事しか出来なかった。
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