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第5章 桜と君と青春と ~再会の友、再開の時~
66時間目 生きたモン勝ち
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そして、時は流れ、俺は朝顔の事を記憶から消した。
楽しかった時間を思い出してしまうから。
だけど、今、敦志達のおかげで思い出した。
悲しみはある、だけど、苦しみはない。
「まぁ、こんなモンだ。あーっ! クッソ……涙が止まらねェよ……。だっせェな俺、後輩達の前で泣くなンてよ……」
「……グスッ……黒沢さん。ごめんなさい。私が泣くのはお門違いなんですけど……あう……朝顔ちゃんっ……!」
「そう……そんな、グスッ……ことが、あったのね……。でも、黒沢君、君も分かっているだろうけど、これは黒沢君達のせいじゃないわ。これだけは分かってて欲しいの……」
森山と神谷さんは号泣している。
「マジっすか……」
敦志はなんだか気が抜けたような表情をしていた。
俺も涙が止まらない。
クッソ、恥ずかしいな。
「ま、まぁ、大丈夫だ。俺は今が幸せだからな。目付きと顔がわりィけど、なんだかんだなついてくれる後輩もいるし、楽器屋の店長の娘もいるし、俺達の事を一番に考えてくれる先輩もいる。だから、俺はこの幸せをいつかは逝く朝顔の所で語ってやりたい。人生は楽しんだモン勝ちだからな。さっ! そろそろお開きにしようぜ。俺はもう疲れたからよ」
本当はもう少し感傷に浸っていたい。
だって、ようやく思い出せた朝顔の存在を否定しているような気分になるから。
でも、もう大丈夫。
俺はもう、独りが恐くない。
ずっと、恐れていた。
気が付いた時には俺は居らず、外にも基本は出れないような場所で暮らしていた。
親父とおふくろはどこなんだと探しても見つからない。
俺の周りには誰もいない。
はずだった。
でも、菫や桃花が居た。
『すいれんって言うのー? よろしくなのー!』
『す、すいれん君、よ、よろしくね……? えへへ……』
『すいれんっ! アメあげるっ!』
あぁ……くっそ、また、涙がでてきちまう。
込み上げてくる止まらない想い。
ガキの頃のなにも理解していない頭で、恋に似た想いは理解していた。
もう、会いたくても会えない。
朝顔……。ありがとうな。
人生に光をくれて。
「ねぇ、黒沢君、朝顔の花言葉は知っているかしら?」
顔が赤くなっている神谷さんは、そんな事を言った。
「分からないッス。なんすか?」
「朝顔ちゃんは青色のワンピースを着ていたのよね? 青色の朝顔は『短い愛』または『儚い恋』よ。その時の黒沢君はきっと、本気で朝顔ちゃんの事が好きだったのかも知れないわね」
そうなのか。
そうなのかも知れない。
俺があの日、持っていたのは恋に似た感情じゃなくて本当の「恋心」だったのかもな。
「ちなみに、朝顔本来の花言葉は『愛情』もしくは『結束』よ。黒沢君が覚えている限り、朝顔ちゃんは生きている。黒沢君の心の中で活き続ける。だから、私達はこの一瞬の青春を楽しまなきゃ行けないのかもね。ありがとう。私も勇気をださなきゃ」
神谷さんの笑顔に不覚にも少しドキッとしてしまった。
が、俺は神谷さんはアイツ──百合がこの世界から消えた事を受け入れるんだと思った。
きっと、彼女はこれから幸せになるだろうな。
神谷さんの青春はあと少しだから。
「敦志も小春もわりぃな。とりあえず、帰る準備しようぜ」
「敦志君……。ごめんね、甘えていい?」
「おう。俺は小春の笑顔が好きだ。だから、嬉し涙はいいけどそれ以外の涙は流させねぇ。小春大丈夫だ」
俺の背で敦志達がイチャイチャし始めたと思うくらいには俺の心は回復していた。
「待ってて、橙太。あなたとちゃんと向き合うから」
神谷さんの決意を俺はちゃんと聞いていた。
なぁ、百合。
俺もちゃんとお前に向き合ってみるよ。
楽しかった時間を思い出してしまうから。
だけど、今、敦志達のおかげで思い出した。
悲しみはある、だけど、苦しみはない。
「まぁ、こんなモンだ。あーっ! クッソ……涙が止まらねェよ……。だっせェな俺、後輩達の前で泣くなンてよ……」
「……グスッ……黒沢さん。ごめんなさい。私が泣くのはお門違いなんですけど……あう……朝顔ちゃんっ……!」
「そう……そんな、グスッ……ことが、あったのね……。でも、黒沢君、君も分かっているだろうけど、これは黒沢君達のせいじゃないわ。これだけは分かってて欲しいの……」
森山と神谷さんは号泣している。
「マジっすか……」
敦志はなんだか気が抜けたような表情をしていた。
俺も涙が止まらない。
クッソ、恥ずかしいな。
「ま、まぁ、大丈夫だ。俺は今が幸せだからな。目付きと顔がわりィけど、なんだかんだなついてくれる後輩もいるし、楽器屋の店長の娘もいるし、俺達の事を一番に考えてくれる先輩もいる。だから、俺はこの幸せをいつかは逝く朝顔の所で語ってやりたい。人生は楽しんだモン勝ちだからな。さっ! そろそろお開きにしようぜ。俺はもう疲れたからよ」
本当はもう少し感傷に浸っていたい。
だって、ようやく思い出せた朝顔の存在を否定しているような気分になるから。
でも、もう大丈夫。
俺はもう、独りが恐くない。
ずっと、恐れていた。
気が付いた時には俺は居らず、外にも基本は出れないような場所で暮らしていた。
親父とおふくろはどこなんだと探しても見つからない。
俺の周りには誰もいない。
はずだった。
でも、菫や桃花が居た。
『すいれんって言うのー? よろしくなのー!』
『す、すいれん君、よ、よろしくね……? えへへ……』
『すいれんっ! アメあげるっ!』
あぁ……くっそ、また、涙がでてきちまう。
込み上げてくる止まらない想い。
ガキの頃のなにも理解していない頭で、恋に似た想いは理解していた。
もう、会いたくても会えない。
朝顔……。ありがとうな。
人生に光をくれて。
「ねぇ、黒沢君、朝顔の花言葉は知っているかしら?」
顔が赤くなっている神谷さんは、そんな事を言った。
「分からないッス。なんすか?」
「朝顔ちゃんは青色のワンピースを着ていたのよね? 青色の朝顔は『短い愛』または『儚い恋』よ。その時の黒沢君はきっと、本気で朝顔ちゃんの事が好きだったのかも知れないわね」
そうなのか。
そうなのかも知れない。
俺があの日、持っていたのは恋に似た感情じゃなくて本当の「恋心」だったのかもな。
「ちなみに、朝顔本来の花言葉は『愛情』もしくは『結束』よ。黒沢君が覚えている限り、朝顔ちゃんは生きている。黒沢君の心の中で活き続ける。だから、私達はこの一瞬の青春を楽しまなきゃ行けないのかもね。ありがとう。私も勇気をださなきゃ」
神谷さんの笑顔に不覚にも少しドキッとしてしまった。
が、俺は神谷さんはアイツ──百合がこの世界から消えた事を受け入れるんだと思った。
きっと、彼女はこれから幸せになるだろうな。
神谷さんの青春はあと少しだから。
「敦志も小春もわりぃな。とりあえず、帰る準備しようぜ」
「敦志君……。ごめんね、甘えていい?」
「おう。俺は小春の笑顔が好きだ。だから、嬉し涙はいいけどそれ以外の涙は流させねぇ。小春大丈夫だ」
俺の背で敦志達がイチャイチャし始めたと思うくらいには俺の心は回復していた。
「待ってて、橙太。あなたとちゃんと向き合うから」
神谷さんの決意を俺はちゃんと聞いていた。
なぁ、百合。
俺もちゃんとお前に向き合ってみるよ。
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