親友がリア充でモテまくりです。非リアの俺には気持ちが分からない

かがみもち

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第4章 1年の締めくくりと次のステップ ~青い1日と温かな雪~

55・3時間目 大晦日の音楽

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ガタンゴトンガタンゴトン……。
地下鉄でそこに行くのは初めてだ。
初めに買いに行った時は黒沢センパイに連れていってもらったから、これで2度目の訪問である。
その時は彼女とは友達だか、今は違う。
森山は俺の恋人だし、こんなの結婚の許可を取りに行くみたいだ。
なんか、こっわ。
昼過ぎ、俺達が向かっているのは、楽器屋「MORIYAMA」。
森山のお義父さんが経営している楽器屋だ。
前回は黒沢センパイのおかげで割と平常心を保てていたが、今回は前回と違って大きく変わっている。
俺が森山の彼氏だということだ。
自分の彼女のお義父さんに会いに行くんだ。
怖いに決まってる。
まぁ、裕太と遼太郎が居るだけで緊張は幾分かほぐれる。
電車を乗り換えて、森山の家から最寄りの駅に着く。
俺は今の森山の家を知らない。
かつて住んでいた家は知っているが、そこはもう空き家。
今はどうなのか知らないが、この前たまたまバイト帰りに通ったとき、照明が点いていたので誰かが引っ越してあそこに住んだのだろう。
駅から地上に登り、徒歩でそこを目指す。
「敦志らしいね。でも、勇気要るよ。だってもう森山さんは敦志の彼女なんだもんね?」
「オイコラ、裕太。俺マジで緊張してるんだけど」
「はい、息吸ってー! 吐いてー! 深呼吸して落ち着いて! はい!」
「はい! じゃ、ねぇよ! 何度もやってるけど無理なの!」
ギャーギャーと言い合いをしている間に着いてしまった。
「……開いててよかった」
「それじゃあ、入ろうよ」
「ちょ、まだ、心の準備が……!」
俺は無理矢理楽器屋の中に押し込まれる。
「いらっしゃいませー!」
店内に響く低い声。
それと同時に今まで聴こえていたギターの音色が止まった。
「おや、高橋君じゃないか。久しぶりだね。あ、文化祭、お疲れさま。カッコよかったよ。今日は、どんな用件で?」
「あ、いや、特にないんすけど。楽器見たくなったんで来ました」
我ながらやべぇ言い訳だった。
つーか、遼太郎と裕太。
早く入ってこい。
ふと、目に留まったのは、椅子にもたれて、アコースティックギターを弾いている少年。
「店長、『ユメミグサ』のここのコードが分からないんすけど、どうやったら弾けますか?」
ボソボソと小さな声で彼は言う。
「あっ、と、とりあえず高橋君。楽器を見て回ってくれ。自由に演奏しても構わないから」
「あ、もしよければ、俺が教えましょうか?」
「いいのかい? それじゃあ頼むよ」
俺は少年の前に行き、自己紹介をする。
「俺は高橋敦志だ。よろしくな。俺はギター弾き初めて半年も経ってねぇけど分からなかったら一緒に練習しよう」
少年は、俺を見る。
暗く澱んだ瞳。
全てがつまらないと言わんばかりの顔。
第一印象は、根暗な少年だった。
「僕は……鷹乃です。鷹乃祐麻たかのゆうま。よろしくお願いします。高橋さん」
「鷹乃は今何歳だ?」
「3月で15になります。えっと、だから今年から高校生です」
「おっ、後輩じゃねぇか。私立校の志望校は?」
「清王高等学校です」
「おおー! マジで! 俺、そこの1年生だ。受験頑張れよ!」
「はい。頑張ります。とりあえず、弾ける所まで弾きますね」
彼は、少し笑って、楽譜に向き合う。
その瞬間、澱んだ瞳に少し光が差し込んだ。
その曲は、過去に大切な人にキチンと向き合わなかったせいでその人の真意に気が付かず、自分勝手な物語でその人を傷付けてしまい、それを曲の主人公は後悔し、もし戻れたら……と願う曲だ。
彼は、まるで自分自身がそんな後悔を経験したような感じだった。
「サビが難しいです」
「あ~、ヤバイな。俺無理かも知れねぇ。でも、やってみる」
すぐ横に置いてあったエレキギターを拝借し、そのメロディーを弾く。
少しつっかえた所があったが初見にしては上出来だろう。
俺達は、練習を重ね、数十分が経った時、
「あっ、やってるやってる。どう鷹乃君。この人教え方上手いでしょ?」
「裕太さん、そうっすね。高橋さんすごいっす」
鷹乃はそういって、俺にキラキラした眼差しを送る。
時計を見て、あっと声を漏らした。
「すみません。ちょっと用事があるので帰ります。店長に鷹乃祐麻は帰りましたって伝えてもらっていいですか?」
「あぁ。了解。その、頑張れよ」
「あざます。それじゃあ」
鷹乃は、スタスタと歩いて店内からでていった。
「次俺の所だけど、どうする?」
「ちょっと弾いていくか」
「それじゃあ、アレだね」
残った俺達は、顔を見合わせ、思い出の曲を弾く。
遼太郎はドラムセットを拝借し、組み立て、裕太もベースを拝借し、チューニング等をして、準備する。
「んじゃ、弾くか」
「青春のページっ!」
俺達は、その約3分の1曲にこれからの想いを込めて歌った。
現在時刻15時。
最後の一音が消えるまで、俺達は音楽の世界にいた。
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