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第4章 1年の締めくくりと次のステップ ~青い1日と温かな雪~

53時間目 青い1日

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俺は最寄りの駅に10分前に着いた。
「はぁ~……。ヤッバ、緊張する」
「ん? なにに緊張するの?」
ビクッと声の方向に振り向くと、そこには森山が居た。
「ごめん驚かせて。遊園地とか久しぶりだからテンションが上がっちゃって早く来ちゃった」
「お、おう。その、マフラー可愛い、な」
やっべ。つい本音がでちった。
やべぇヤツと思われないだろうかと焦っていると、
「ありがとう。お母さんからのおさがりなんだ。大事に使っていてさ」
「へぇ~。ん、ここで雑談しているのもあれだし、そろそろ行こっか」
「うん。楽しみ!」
森山は俺の横をトテトテと歩いて、地下鉄のホームで電車が来るのを待つ。
今日がクリスマスという日だからか、若い男女のカップルがホームにも、タイミング良く来た電車内にも多い。
電車内では俺達は特に会話をしなかった。
だが、電車を降り、地下から地上に上がって遊園地に向かう途中では、和気藹々と会話を楽しんでいた。
「高橋君、その首に着けているアクセサリーってなに? カッコいいね」
森山が指差すロザリオは太陽光に反射して、キラリと鈍く光る。
「これ? これはロザリオだけど。森山ってそういやなんか着けねぇの?」
「ん~。ピアスとかは可愛いの多いけど着けたくないんだ。それに着ける時、痛いって聞くから」
「あ~、確かにピアスは着ける時痛いらしいな。あ、イヤリングなら挟むだけだから大丈夫だって神谷さんが言ってたっけな。桜のイヤリングとか似合いそう」
神谷さん、マジ感謝っす。
冬休み入ったらバイト行きますね。
「へぇ、知らなかったよ。もし、おでかけ出来たら、行きたいね」
エヘヘと笑う森山。
心の底からこの状況を楽しんでくれているならこれから更に楽しくなることを間違いないなと思う。
13時。
俺達は楽しい会話をしながら、遊園地のゲートをくぐった。


      _______


「高橋君、次はこれ乗ろう!」
「ちょっ、森山まっ……」
ヤバイ。酔った。
俺は絶叫系があまり得意じゃない。
森山は昔から身長が小さかったから中学の時も身長制限に引っ掛かって、アトラクションに乗れなかった事が度々あった。
今は身長は150ほどあるらしく、ギリギリ乗れるらしい。
絶叫系のアトラクションをふたつ乗ってこれからみっつ目のアトラクションを乗る。
「ざ、THE・絶叫フリーフォール……マジでこんなの乗るのか?!」
ビル何個分だよと思うほどの高さまで上昇し、凄い速さで急降下するというアトラクションだが、こんなの俺死んだだろ。
「乗るよー! 2年前に来た時は身長制限で乗れなかったんだもん! 高橋君、そこ座って!」
俺は森山に指定された席に座り、その横に森山が座った。
距離が近くて少しドキドキする。
「えー、この度はTHE・絶叫フリーフォールにご乗車頂きありがとうございますっ! あら~、お二人はカップルですか? お幸せに~」
どうやら、この日のせいで恋人と係りのお姉さんに間違えられた。
「ふふ……。カップルだって」
「クリスマス凄い……なぁ!?」
俺の言葉を最後の一文字を言い切る前に急上昇。
浮遊感に見舞われる。
語尾が白咲さんみたいになった。
そんなのはどうでもいい。ヤバイ。高い高い。
真下を見ると、列に並んで待っている人が豆粒のように見える。
そして、ふと前を向くと、一面広がっているのは、雲ひとつない青空。
「綺麗だな」
「ん? わぁ……。空、綺麗だね。敦志君」
「おう、それにしてもたけぇな」
「ここ、地上ひゃくにじゅ……きゃあああああ!」
「わああぁぁぁぁぁぁぁ!!」
突如急降下。
重力によって押し潰されそうな感覚と空を舞っている爽快感が心を支配する。
そして、もうひとつ心を支配するのは横にいる森山が笑顔で笑ってくれている事に喜びだった。


      _______



アトラクションに乗りまくり、少し遅めの昼食を園内で食べてから時間はあっという間に過ぎた。
俺はどうやら酔いを克服したらしい。
乗り物に乗っても酔わなくなった。
よかった、これで来年の修学旅行は乗り物酔いに襲われなくて楽しめる。
青空が一瞬、暁に染まったが、それはあっという間に過ぎ去り、聖夜の夜へと姿を変えていった。
予報では1日晴れるはずだったが、雪がチラチラと舞い始めた。
俺達はクリスマスツリーを見に行こうと、走っている。
とうとう来た。
言葉が脳内をグルグルと回っている。
『中学の時からずっと好きです。俺と、もしよければ付き合ってください』
一番シンプルだが、一番伝えにくい言葉だ。
「オオーっ! 高橋君写真撮ろう!」
「おう」
俺達はクリスマスツリーをバックに写真を撮る。
ここで、言おう。
心に決めた。
「森山」
俺は彼女の名前を呼ぶ。
きっと、今日という日だからか、ある程度理解はしていたのだろうか。
頬を少し朱に染めて、上目使いで俺を見た。
俺は今どんな顔をしているのだろうか。
森山が1歩こちらに近付いた。
俺も1歩、歩み寄る。
「俺は、森山の事が好きだ」
「中学の時からずっと、友達以上で恋人未満の生活から発展させたかった」
「ありふれた、告白だけど、俺と……付き合ってくださいっ!」
森山は、その言葉を聞いてハッとした顔になった。
待ち望んでいたような表情だった。
「~~~~~~……っ!」
森山の顔から零れ落ちるのは涙。
「……えっへへ。本当にありがとう」
それを拭いながら、
「私も、好き」


その言葉を聞いて、心にあった熱の温度が更にあがった。
「敦志君の事が好き」
この言葉を発した森山の姿を、俺はずっと覚えている。
「こちらこそ、お願いします」
森山は涙を流しながら、笑った。
チラチラと舞う雪が彼女の笑顔を照らしていた。
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