親友がリア充でモテまくりです。非リアの俺には気持ちが分からない

かがみもち

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第4章 1年の締めくくりと次のステップ ~青い1日と温かな雪~

47時間目 本当の優しさ

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今まで生きづらかった。
母親も父親も私を“家族だから”といった理由で理想を押し付けてくるから。
成績優秀で従順な人間……ようは都合のよい人間などいるわけないのに。
結局、誰もが自身の理想を他人に押し付けて生きている。
私も、先輩は優しくあるべきだとか、友達はいつでも側にいるべきだとか、思っていた。
だけど、それは本当の自分自身ではない事を私はよく知っている。
だから、私はそれが嫌で逃げ出してきた。


        __________


小春ちゃんに連れられ、電車を数十分の間、乗り、そこから数分歩くと少し古い長屋に着く。
表札には『黒沢』と表記されており、小春ちゃんが言っていたクロサワさんとはきっと家主さんの事だと思った。
小春ちゃんはインターフォンを押して、返事を待つ。
『はーい! 今行くのー!』
電話でも聞いた聞いていて心地よいソプラノの声の持ち主が、スミレさんなのだろう。
数分後、ドアが開き、小柄なショートボブの女性が出てきた。
「小春ちゃんー! 久しぶりなのー! えっと、あなたが舞花ちゃんなのー? とりあえず、遠慮せずにあがってほしいのー!」
私は少し困惑して小春ちゃんの方を見る。
彼女は、「お言葉に甘えさせてもらおっか」と言い、先導する。
私はその後を追う。
もちろん、私も小春ちゃんも、おじゃましますというのは忘れない。
廊下には、スミレさん達の写真が飾ってあった。
スミレさんの他に3人の男の人と女性の写真……きっと集合写真だと思う写真が一番最初に飾ってある。
その他にもコンビニの制服を着た集合写真にも写っていた紅い目の男の人と高校生らしきボサボサな髪の男の人とのツーショット写真、これも集合写真に写っていた紫色の髪の小柄な男の人と白髪のイケメンな男の人の本屋でのバイト中の写真もあった。
「……~で、~……なんだ。だから行ってくる」
「アァ、了解だ。俺達も後から合流する」
階段を登るにつれ、リビングと思わしき場所から男の人の声が聞こえる。
話終えたのだろう一人の男性が階段を登っている途中ですれ違う。
「あっ、孝木ー! いってらっしゃいなのー!」
スミレさんがコウキと呼ばれる人に話しかける。
コウキさんは、警察の制服を着ていて、警官なんだなと思った。
先程、集合写真で見たガタイの良い人だろう。
「あぁ、いってくる。 おっ、こっはるちゃーん! ひっさしぶりー! 元気にしてたー?」
チャラい。
あんまり好みではない。
「あはは……。お久しぶりです」
小春ちゃんも苦笑いだ。
「じっあねー!」
コウキさんは、私にも向けて手を振ると鼻歌を歌いながら、家を出ていった。
「オイ」
私達は声の方を見る。
そこには黒のジャージを着ている男の人としてはかなり長めのストレートヘアーの紅い目の男の人がいた。
この人が、きっとクロサワさんなのだろう。
クロサワさんは、私をじっと見て、
「ンー。お前が、小春が言ってる家出少女かァ?」
「えっ、えっと、その……」
「ま、とりあえず、座れ」
クロサワさんは、椅子を指差す。
私達は椅子に座ると、スミレさんが、
「二人ともお茶は紅茶でいいのー?」
と聞いてくれた。
なんて気の利く人なのだろうと尊敬する。
「お願いします」
答えて、クロサワさんに向き合う。
小春ちゃんは横でいてくれている。
「ンじゃ、とりあえず俺が聞くことに答えてくれねェか? 別に答えなくなきャ答えなくていい」
クロサワさんは続けて、
「まず、俺の名前は黒沢睡蓮。さっき俺と喋っていたヤツが白膠。後ろで紅茶淹れてるのが菫。あともう一人、桃花ってのと、そこでアホみたいなツラして寝てンのがバイト先の先輩」
黒沢さんは、苦笑いをしながらソファで寝ている女性を指差す。
付き合っているのだろうか、と疑問が浮かんだが無視しておいた。
菫さんが、紅茶を持ってきてくれたので礼を言う。
彼女は黒沢さんのバイト先の先輩に毛布をかけている。
優しい。
「えっと、それじゃあ、黒沢さん。その、私は女郎舞花です。よろしくお願いします……」
私は当たり障りない自己紹介をすます。
「睡蓮で構わねェ。名字で呼ばれるのはあまり好きじャねェからな。舞花、よろしくなァ。ンじゃ、舞花はこれからどうしたい?」
さりげなく名前で呼ばれていることに少し恥ずかしくなったが、きっと敬語はいらないという意味だと勝手に解釈した。
「えっ、わ、私は、睡蓮君達のサポートをしたい。例えば、洗濯物を畳んだり、掃除をしたり。少しでも負担を減らせるようにしたい……」
男の人の名前を下の名前で呼ぶのは久しぶりだった。
流石に呼び捨てにするのは抵抗があるので睡蓮君と呼ぶ。
彼は、考えるそぶりを見せずに、
「正直間に合ってるなァ。けど、意気込みは悪くねェ。最悪、敦志の代わりに俺の所でバイトをしてもらうってのも、あるからな」
間に合ってると言われ、無理かと思ったがそうではなかった。
もしアツシという人の代わりにバイトをすればここに住ませてもらえる。
「それでもいいので泊まらせてください!」
睡蓮君は、少し悩んで、
「分かった。俺は認める。……俺は別に孝木じゃねェからどこから来たとかなんで家出をしたとか聞かねェ。少しでも、家に帰りたくなかったら帰っていい。部屋は空いてる。そこを使え。ほい、鍵」
放り投げられた鍵を受け取る。
やっと、生活が安定する。
「本当に、ありがとう、ございます」
菫さんが、寄ってきて、
「舞花ちゃん、よろしくなのー!」
と言ってくれた。
「うん。よろしくね。菫ちゃん」
私は、小春ちゃんを見る。
「良かったね」
ニコリと微笑んでくれた。
私には彼女が「本当の優しさ」を持っているのだと感じた。
「ありがとう、本当にありがとう」
こうして、家出をしてからちょうど半年後の今日。
私は居場所を見つけた。
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