上 下
87 / 244
第4章 1年の締めくくりと次のステップ ~青い1日と温かな雪~

46時間目 似た者どうし

しおりを挟む
ー時間を少し巻き戻して、文化祭終了後のことー

「♪~♪~♪♪~」
今日は楽しかったなぁ。
夕焼けの空には、うっすらと月が欠けてでてきている。
もうすぐ12月だから暗くなるのも速くなってきた。
私は少し早めに歩いて電車に乗る。
地下鉄は、時間の感覚を忘れさせてくれる。
ガタンゴトンと4駅分、暖房の効いた箱の中でいて、それから見慣れた景色が目にはいる。
私の家はここから歩いて15分ほど。
すぐに着く。
信号が青になるのを待っていると、黒沢さんに良く似たフード付きの服装を着ている人がいた。
この時の私は黒沢さんだと思っていた。
この人がこの辺りを彷徨うろつくなんて珍しい……。
半年ほど前の私なら絶対知人が居ても声をかけなかった。
だけど、最近は良く知人に会うから話しかける。
ふと、私の中でイタズラ心が働いた。
黒沢さんを脅かしてやろうというイタズラ心が。
そっと、背後に近づき、肩をツンツンとつつく。
ビクリとその肩は小刻みに素早く震え、
「ひゃいっ!」
と女の子の声が聞こえ、見間違えたと思った時、フードが外れて水色の髪の女の子がなぜか「ごめんなさい!」とドップラー効果をかけて、ものすごい速さで走って逃げていく。
「あっ、ちょっと……!」
私は、走って追いかけようとするも女の子が速すぎるのか私が走るのが遅すぎるのか、きっと後者だと思うけれど、全然追い付けない。
「ハァハァ……。速い……。やっと、見つけた……」
その子は私の家の近くにある公園のベンチに座っていた。
その公園にはよく。幼稚園帰りの子供達がいるが、もう5時だからかあたりがうす暗いため居ない。
私は呼吸を落ち着かせた後、ベンチに近付き、
「隣、いいですか?」
と、聞く。
初めて女の子の顔を見た。
フードと髪で顔が隠れているけれど、整っている顔と、可愛らしい一重の桃色の瞳。
私が黒沢さんと勘違いしたフード付きの紺色のロングパーカー、白いブラウス、黒色のロングスカート。
両手で私も持っている若者に人気のブランドものの茶色のバッグを包み込むように持っている。
彼女は、コクリと頷く。
私は、そろりと横に座る。
「……」
「…………」
……壊滅的に気まずいよぉ。
ときおり、強さを増して吹く風の音が異常に大きく聴こえるほど、私達がいる公園は静寂に満ちていた。
さっきから、女の子がチラチラとこちらの様子を伺ってくる。
なんだろう……とても気になる。
私は勇気を出して話しかけることにした。
「あ、あのぅ……」
突然、破られた静寂に私は驚く。
数秒後言おうとしていた言葉は驚きに書き消された。同じことを言おうとしていたから。
「はっ、はい! どうしましたか?」
先輩だということも配慮して敬語を私は使う。
「あなた、さっきの、人ですよね?」
嘘をつく必要はないので、
「はい、その、すみませんでした。知り合いだと思っていたので」
「いえ……。あっ、敬語は大丈夫ですよ。私も高校生なので。その制服……高校生ですよね?」
「そうですか。では……。あ、その前に名前教えておくね。私の名前は森山小春と言います」
同じ高校生だということが分かったので、緊張の糸が一気に緩まった。
「小春ちゃん、でいいかな? ちょっと話を聞いて欲しくて……。いいかな? 私は女郎舞花めろうまいか。よろしくね」
私はよろしくと言うと、舞花ちゃんは初めて笑ってくれた。
「話ってなにかな?」
「その、ね」
引かれるのは分かっているんだけどと自嘲気味に笑って、ひと呼吸置いてから、
「小春ちゃんの家に泊まらせて欲しいの。実は私、家出していて」
家出。
中学の、あの事件があった後、私はなんどもしようとした。
結局、行き先は高橋君の家で、何度もお父さんに心配かけたのは良く覚えている。
「私の家は……きっと無理だと思う。ごめん、力になれなくて」
そういうと、
「ううん。いいの。ありがとうね」
このまま、舞花ちゃんを置いておくわけにもいかない。
私は、ふと、思い出した。
かつて家出少年を受け入れたあの人なら……。

「舞花ちゃん、私の知り合いに家出少年を受け入れた事がある人がいるんだけど、その人なら受け入れてくれるかも……」
「本当に……?」
舞花ちゃんは、今日一番目を大きくして驚いていた。
私は、黒沢さんの電話番号を入力。
そして、通話ボタンをタップする。
何回かのコールオンが鳴り響く。
8回目のコールオンで、【通話中】と表示された。
私は飛び付くように言う。スピーカーをオンにするのも忘れない。
「あっ、あのっ! 黒沢さん今大丈夫ですか?!」
『もしもしなの~! おー……! 小春ちゃん久しぶりなのー! 睡蓮は今用事なのー! どうしたのー?』
電話にでたのは菫ちゃんだった。
「菫ちゃん?! あ、あの……信じられないと思いますが今、家出の女の子がいましてどうしたらいいのか迷っていて……」
『ん~、今から私の所来れるのー? 電車代は後でだすから来て欲しいの~! そこでその子にもゆっくり話を聞きたいの~!』
「わっ、分かりましたっ! 今からいきます!」
『待ってるの~!』
その言葉を最後に電話は切れた。
私は横に座っている舞花ちゃんを見た。
「舞花ちゃん、行こうか」
「う、うんっ。ありがとう。小春ちゃん」
舞花ちゃんが笑った。
私達は、黒沢さんや高橋君が住む地域に向かうため、電車に乗った。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

俺にはロシア人ハーフの許嫁がいるらしい。

夜兎ましろ
青春
 高校入学から約半年が経ったある日。  俺たちのクラスに転入生がやってきたのだが、その転入生は俺――雪村翔(ゆきむら しょう)が幼い頃に結婚を誓い合ったロシア人ハーフの美少女だった……!?

黄昏は悲しき堕天使達のシュプール

Mr.M
青春
『ほろ苦い青春と淡い初恋の思い出は・・  黄昏色に染まる校庭で沈みゆく太陽と共に  儚くも露と消えていく』 ある朝、 目を覚ますとそこは二十年前の世界だった。 小学校六年生に戻った俺を取り巻く 懐かしい顔ぶれ。 優しい先生。 いじめっ子のグループ。 クラスで一番美しい少女。 そして。 密かに想い続けていた初恋の少女。 この世界は嘘と欺瞞に満ちている。 愛を語るには幼過ぎる少女達と 愛を語るには汚れ過ぎた大人。 少女は天使の様な微笑みで嘘を吐き、 大人は平然と他人を騙す。 ある時、 俺は隣のクラスの一人の少女の名前を思い出した。 そしてそれは大きな謎と後悔を俺に残した。 夕日に少女の涙が落ちる時、 俺は彼女達の笑顔と 失われた真実を 取り戻すことができるのだろうか。

優秀賞受賞作【スプリンターズ】少女達の駆ける理由

棚丘えりん
青春
(2022/8/31)アルファポリス・第13回ドリーム小説大賞で優秀賞受賞、読者投票2位。 (2022/7/28)エブリスタ新作セレクション(編集部からオススメ作品をご紹介!)に掲載。 女子短距離界に突如として現れた、孤独な天才スプリンター瑠那。 彼女への大敗を切っ掛けに陸上競技を捨てた陽子。 高校入学により偶然再会した二人を中心に、物語は動き出す。 「一人で走るのは寂しいな」 「本気で走るから。本気で追いかけるからさ。勝負しよう」 孤独な中学時代を過ごし、仲間とリレーを知らない瑠那のため。 そして儚くも美しい瑠那の走りを間近で感じるため。 陽子は挫折を乗り越え、再び心を燃やして走り出す。 待ち受けるのは個性豊かなスプリンターズ(短距離選手達)。 彼女達にもまた『駆ける理由』がある。 想いと想いをスピードの世界でぶつけ合う、女子高生達のリレーを中心とした陸上競技の物語。 陸上部って結構メジャーな部活だし(プロスポーツとしてはマイナーだけど)昔やってたよ~って人も多そうですよね。 それなのに何故! どうして! 陸上部、特に短距離を舞台にした小説はこんなにも少ないんでしょうか! というか少ないどころじゃなく有名作は『一瞬の風になれ』しかないような状況。 嘘だろ~全国の陸上ファンは何を読めばいいんだ。うわーん。 ということで、書き始めました。 陸上競技って、なかなか結構、面白いんですよ。ということが伝われば嬉しいですね。 表紙は荒野羊仔先生(https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/520209117)が描いてくれました。

切り札の男

古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。 ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。 理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。 そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。 その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。 彼はその挑発に乗ってしまうが…… 小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。

榛名の園

ひかり企画
青春
荒れた14歳から17歳位までの、女子少年院経験記など、あたしの自伝小説を書いて見ました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

プレッシャァー 〜農高校球児の成り上がり〜

三日月コウヤ
青春
父親の異常な教育によって一人野球同然でマウンドに登り続けた主人公赤坂輝明(あかさかてるあき)。 父の他界後母親と暮らすようになり一年。母親の母校である農業高校で個性の強いチームメイトと生活を共にしながらありきたりでありながらかけがえのないモノを取り戻しながら一緒に苦難を乗り越えて甲子園目指す。そんなお話です *進行速度遅めですがご了承ください *この作品はカクヨムでも投稿しております

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...