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第3章 選択の文化祭とすれ違う思惑 ~友のために、自分のために~
44・8時間目 情念
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幼い頃、ヒーローに憧れたことがある。
僕は、昔からよくまっすぐで素直な子だねと周りの大人から言われていた。
そんなまっすぐで素直な僕は、いつしかテレビで放送されていた仮面を被ったヒーローの某番組の主人公である「ヒーロー」に憧れを抱いていた。
その主人公は素直な性格で、いじめを受けている人を守り、他人の頼みを断らなかった。
そんな人間になりたくて、僕は優しくなった。
もともと、優しい性格だった。
だけど、もっと優しくなった。
小学校低学年の頃、カナ以外にひとり、無視されている男の子がいた。
その子は、本当にいじめられていた。
『なー、お前は敵やれよ、な』
『いたい! いたい! いたっ!』
彼は、かなりの回数殴られていたと思う。
『おいー! そうじゃないだろ? 反撃しろよー』
僕は、この時、動けないでいた。
だけど、ある日。
『お前は、敵。敵は叩かれる。いいな?』
もう名前も覚えていない子からグーパンチが飛び出した。
僕は、そのいじめられっ子の正面に行き、両手でパンチを受け止めた。
『山内っ! おまっ!』
なぜか、その子が怒気のある言葉を発し、
『いいから、そういうの』
といい、どこかへ行ってしまった。
__________
それから、いじめは続いた。
これは、僕の後悔の物語だ。
あるときは。
『でさ、これから駄菓子屋行かない?』
『えー、俺金ないしなぁー、あ』
『よーぉ、お前そういや、親居なくて金持ってるんだろ? 金くれよ』
『えっ? まじて? 親居ねぇの?』
『おい、やめろ』
僕は、彼を守るようにしていた。
カナと違って彼は、僕の事を偽善者扱いしていたけど、僕はそれでも守った。
僕には、影響は無かった。
一時期、カナ以外のクラスメイトから無視された事はあったけど、カナがいたから、どうでも良かった。
2週間ほど経てば、無視は無くなっていた。
そして、カナにも何か悪い影響は無かったと思う。
『げっ、山内! お前またかよ。コイツに偽善者って言われてんのにまだ分からないのかよ?』
『何度でもやってみろ! 僕は彼を守る!』
『ふーん、んじゃ、パッパとボコるかー!』
取り巻きの3人が、殴りにかかろうと、走ってくるが、彼らを見て、鼻で笑う余裕が僕にはあった。
この当時から、僕は元プロボクサーや元オリンピック選手に鍛え上げられていた。
夏休みも宿題を終わらせながら、だった。
なんで、そんな事をしているかというと、父親の権力で、僕を一刻も早く国に貢献できる、悪い言い方だと、国にとって都合の良い人間を作りたかったのだろう。
だから、そのためには、体を作る必要があったのだ。
いくら頭が良くても、体をすぐ壊す議員など即座に首を獲られる。
この当時は、柔道の元オリンピック選手に鍛え上げられていた。
相手の重心が前の方に来ているなぁ……。
よーぉし。
巴投げ!
僕は彼らの裾を掴み、投げる。
この技は、重心が前に来ている時や重心がぶれている時にとてもかかりやすい技だ。
案の定、3人は呆気なく、倒れ伏せた。
……死んでないよね。
『はぁ?! ま、いいや。また次ボコってやるから、覚えておけ』
と、言って、彼らのリーダーらしき子は半泣きになりながら、逃げていった。
『……』
彼の顔は、晴れることはなかった。
これは小学校6年生の頃の話だ。
その後も彼へのいじめは絶えなかった。
その度に、僕は守ったが、彼の顔はやはり、明るくなることはなかった。
そして、小学校を卒業した。
卒業式の時、彼をいじめた子達は泣いていた。
なぜ、人をいじめ、傷付けたくせに、泣けるのか。
僕には理解できなかった。
そして、中学校に入学した。
地元の中学校だった僕らだけれど、彼をいじめた子達は別の地元の中学校に行っていたのだ。
だからもう彼はいじめられることはないと安心していた。
入学してから1週間ほど経ったある日、カナと登校し、朝のホームルームまでカナや後に中学の頃の友達となる子達と話していた。
いじめられていた彼はいつも登校してきている時間に来なかった。
そして、担任の先生が来て、ホームルームが始まる。
……はずだったのに。
僕は、担任の先生が言った事を信じたくなかった。
だけども、現実だ。
受け止めなければいけない。
彼は自殺していた。
どんな方法だったのか分からない。
だけど、その事実が、僕に突き刺さった。
そして、彼の事を僕は時が経つにつれ、忘れた。
自身が誰かの“ヒーロー”に成れなかったという罪悪感を隠して。
練習も疎かになっていた。
ある日、ボクシングの元世界チャンピオンになった選手に殴られ、そのあと、言われた。
「裕太、お前は、大切なものを失った。それは成りたい自分だ。お前は何に成りたい?」
なりたい自分?
成りたい自分は、ヒーローだ。
誰かを護れるヒーローだ。
だけど、それは昔の話。
今は普通の中学生になりたい。
僕はその日、大事な物を二つその人に頂いた。
ひとつは、本当になりたい自分への問い。
もうひとつ、それは、ある技だ。
__________
僕の言葉に、カナの目付きが変わった。
人を殺す目付きだ。
カナは、怒り任せに、ナイフを持って走ってきた。
昔のヒーローになりたかった僕なら、女の子を傷付けることなんて死んでもやらなかった。
今も、基本的には傷付けなくない。
だけど、目の前の女は違う。
彼女は、宮浦加奈。
僕のクソ野郎で、大切な人。
あの時の問いの、答えはこれです。
僕は、
〈ありのままの自分を受け入れられる自分〉
に成りたい。
カナが振ったナイフが、僕のお腹に触れる瞬間、僕は身を退いて、クロスしていた、右腕を、振るう。
通常のボクシングでは、ナイフではなく相手の腕が交差する。
この交差するのが、ポイントでこれが出来なければ、こちらに全ての力が返ってくるという非常に難易度が高く危険な技。
__________
『お前に教える技だ。この交差するカウンター技を』
『クロスカウンターという』
__________
秘技!
クロスカウンター!
その勢い良く放った右腕はカナの頭身に直撃した。
僕は、昔からよくまっすぐで素直な子だねと周りの大人から言われていた。
そんなまっすぐで素直な僕は、いつしかテレビで放送されていた仮面を被ったヒーローの某番組の主人公である「ヒーロー」に憧れを抱いていた。
その主人公は素直な性格で、いじめを受けている人を守り、他人の頼みを断らなかった。
そんな人間になりたくて、僕は優しくなった。
もともと、優しい性格だった。
だけど、もっと優しくなった。
小学校低学年の頃、カナ以外にひとり、無視されている男の子がいた。
その子は、本当にいじめられていた。
『なー、お前は敵やれよ、な』
『いたい! いたい! いたっ!』
彼は、かなりの回数殴られていたと思う。
『おいー! そうじゃないだろ? 反撃しろよー』
僕は、この時、動けないでいた。
だけど、ある日。
『お前は、敵。敵は叩かれる。いいな?』
もう名前も覚えていない子からグーパンチが飛び出した。
僕は、そのいじめられっ子の正面に行き、両手でパンチを受け止めた。
『山内っ! おまっ!』
なぜか、その子が怒気のある言葉を発し、
『いいから、そういうの』
といい、どこかへ行ってしまった。
__________
それから、いじめは続いた。
これは、僕の後悔の物語だ。
あるときは。
『でさ、これから駄菓子屋行かない?』
『えー、俺金ないしなぁー、あ』
『よーぉ、お前そういや、親居なくて金持ってるんだろ? 金くれよ』
『えっ? まじて? 親居ねぇの?』
『おい、やめろ』
僕は、彼を守るようにしていた。
カナと違って彼は、僕の事を偽善者扱いしていたけど、僕はそれでも守った。
僕には、影響は無かった。
一時期、カナ以外のクラスメイトから無視された事はあったけど、カナがいたから、どうでも良かった。
2週間ほど経てば、無視は無くなっていた。
そして、カナにも何か悪い影響は無かったと思う。
『げっ、山内! お前またかよ。コイツに偽善者って言われてんのにまだ分からないのかよ?』
『何度でもやってみろ! 僕は彼を守る!』
『ふーん、んじゃ、パッパとボコるかー!』
取り巻きの3人が、殴りにかかろうと、走ってくるが、彼らを見て、鼻で笑う余裕が僕にはあった。
この当時から、僕は元プロボクサーや元オリンピック選手に鍛え上げられていた。
夏休みも宿題を終わらせながら、だった。
なんで、そんな事をしているかというと、父親の権力で、僕を一刻も早く国に貢献できる、悪い言い方だと、国にとって都合の良い人間を作りたかったのだろう。
だから、そのためには、体を作る必要があったのだ。
いくら頭が良くても、体をすぐ壊す議員など即座に首を獲られる。
この当時は、柔道の元オリンピック選手に鍛え上げられていた。
相手の重心が前の方に来ているなぁ……。
よーぉし。
巴投げ!
僕は彼らの裾を掴み、投げる。
この技は、重心が前に来ている時や重心がぶれている時にとてもかかりやすい技だ。
案の定、3人は呆気なく、倒れ伏せた。
……死んでないよね。
『はぁ?! ま、いいや。また次ボコってやるから、覚えておけ』
と、言って、彼らのリーダーらしき子は半泣きになりながら、逃げていった。
『……』
彼の顔は、晴れることはなかった。
これは小学校6年生の頃の話だ。
その後も彼へのいじめは絶えなかった。
その度に、僕は守ったが、彼の顔はやはり、明るくなることはなかった。
そして、小学校を卒業した。
卒業式の時、彼をいじめた子達は泣いていた。
なぜ、人をいじめ、傷付けたくせに、泣けるのか。
僕には理解できなかった。
そして、中学校に入学した。
地元の中学校だった僕らだけれど、彼をいじめた子達は別の地元の中学校に行っていたのだ。
だからもう彼はいじめられることはないと安心していた。
入学してから1週間ほど経ったある日、カナと登校し、朝のホームルームまでカナや後に中学の頃の友達となる子達と話していた。
いじめられていた彼はいつも登校してきている時間に来なかった。
そして、担任の先生が来て、ホームルームが始まる。
……はずだったのに。
僕は、担任の先生が言った事を信じたくなかった。
だけども、現実だ。
受け止めなければいけない。
彼は自殺していた。
どんな方法だったのか分からない。
だけど、その事実が、僕に突き刺さった。
そして、彼の事を僕は時が経つにつれ、忘れた。
自身が誰かの“ヒーロー”に成れなかったという罪悪感を隠して。
練習も疎かになっていた。
ある日、ボクシングの元世界チャンピオンになった選手に殴られ、そのあと、言われた。
「裕太、お前は、大切なものを失った。それは成りたい自分だ。お前は何に成りたい?」
なりたい自分?
成りたい自分は、ヒーローだ。
誰かを護れるヒーローだ。
だけど、それは昔の話。
今は普通の中学生になりたい。
僕はその日、大事な物を二つその人に頂いた。
ひとつは、本当になりたい自分への問い。
もうひとつ、それは、ある技だ。
__________
僕の言葉に、カナの目付きが変わった。
人を殺す目付きだ。
カナは、怒り任せに、ナイフを持って走ってきた。
昔のヒーローになりたかった僕なら、女の子を傷付けることなんて死んでもやらなかった。
今も、基本的には傷付けなくない。
だけど、目の前の女は違う。
彼女は、宮浦加奈。
僕のクソ野郎で、大切な人。
あの時の問いの、答えはこれです。
僕は、
〈ありのままの自分を受け入れられる自分〉
に成りたい。
カナが振ったナイフが、僕のお腹に触れる瞬間、僕は身を退いて、クロスしていた、右腕を、振るう。
通常のボクシングでは、ナイフではなく相手の腕が交差する。
この交差するのが、ポイントでこれが出来なければ、こちらに全ての力が返ってくるという非常に難易度が高く危険な技。
__________
『お前に教える技だ。この交差するカウンター技を』
『クロスカウンターという』
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秘技!
クロスカウンター!
その勢い良く放った右腕はカナの頭身に直撃した。
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