親友がリア充でモテまくりです。非リアの俺には気持ちが分からない

かがみもち

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第3章 選択の文化祭とすれ違う思惑 ~友のために、自分のために~

35時間目 おとうさん

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MISHIHANAに出てから、歩くこと、30分くらいだろうか。
もうすでに、空は夕日がかかっており、空は少しずつ暗くなってきている。
トコトコと黒沢センパイの隣を俺は歩いて、遼太郎と裕太はその1歩ほど後ろに下がって話している。
「でよォ、白膠のヤロウ、パンケーキ大量に作っていったんだわ・・・。 これから出張でなかなか帰ってこれないって言ってたしよォ、また、食うのよろしくなァ」
「いやいやいや、白膠さんなんで毎度のようにそんな大量に作って行くんすか?! それにここどこっすか? めっちゃ歩いてますよね?! 黒沢センパイ、マジでバイクとかないんすか?」
「ア? しゃあねェだろ? 結構遠いんだからよ! バイクねェ、取りたいけど金が貯まってからだな。 免許取るのに時間も金もかかるからなァ。 あ」
黒沢センパイは、クルリと俺達のほうを向き、
「お前ら、金は?」
「お金ですか?」
山内が聞く。
「一応、それぞれ3万はあります。 バイトで貯めたお金です」
「ん、なら大抵のものは買えるか・・・。 高橋、お前は何をするんだ?」
「俺っすか? 一応、今ギターです」
「あと、ボーカルもでしょ?」
遼太郎が俺に言う。
「オォ、いいけど大変だぞ。 文化祭いつだァ? まだ1ヶ月近くあるのか?」
「はい、後1ヶ月と半分くらいです」
「なら、よゆーだな。 んじゃ急ぐぞ」
「あっ! ちょっと、走らないでくださいよ。 速いっすね!? 体力オバケですね?!」
「敦志、僕らも急ごう!! 黒沢さん、予想以上に速かったよ!」
全速力で走っている裕太と遼太郎。
「おいっ! ちょ・・・。 まてぇぇー!!」
俺も3人に負けないほどの速さで走った。
        ー
「まじで速いって・・・。 体力どうなってんの・・・」
ハアハアと肩で息をして立ち止まっている。
着いたところは、コンビニの隣に佇む、レトロな感じの楽器屋。
自転車置き場には錆びた自転車が大量に置かれており、吊り下げられたプレートには寂れた文字で【楽器店 MORIYAMA】と書かれていた。
もりやま・・・。
森山・・・?!
いや、まさかな。
俺はふとあの夏休み最後の夜に見た、森山の笑顔を思い出す。
きっと顔は赤く染まっているのだろう。
恋なんてしてない。
してないはずだ。
彼女は、俺の事なんて恋愛対象に見ていないのだから。
だって、あの夜に『私、恋とかはしないよ』と言っていたのだから。
だから、違うはずだ。
もう期待なんてするな。
恋はしない。
「オーイ、高橋。 どうした?」
「あっ、いや、なんにもないです」
突然降りかかった言葉に酷く動揺する。
「ほら、行くぞ」
「うーす、店長こんちはっす。 あ、この間言ってたやつら、連れてきました」
黒沢センパイに促されるままに店内に入ると一面楽器だらけだった。
ギター、ベース、ドラム、ピアノ、サックス、琴、キーボード、なにか良く分からない楽器のパーツまでズラリと店内を囲んでいた。
アゴヒゲを生やし、丸眼鏡をかけた身長170後半、もしくは180を越えているくらいの長身のオッサンがニコリと微笑んでいた。
「えっと、君達が? 初めまして。 ここの店長をやっております。 森山訓正もりやまくにまさと言います。 よろしく。 さっそくだけど・・・ん? 君って?」
訓正さんは、俺を見るなり眼鏡の奥の目を細めて、じっと見つめてくる。
森山。
もしかして。
「あ、あの・・・」
俺が弱々しい声で言うと、
「ん? なんだい?」
「あの、森山って、森山小春さんのお義父さんですか?」
俺は勇気を振り絞り、森山の事を聞いた。
すると、訓正さんは細めた目を次は見開いて、
「娘の事を知っているのか? 特徴的な髪の毛といい、悪っぽい目付きといい・・・、まさか、娘が最近話している高橋敦志君かね?」
娘。
この人は・・・。
森山のお父さん。
「はっ、はい! 俺が高橋です。 高橋敦志です!」
ようやくお互いの考えが一致したように、中々解けないパスルを解いたときのような気分になった。
「そうか。 君が娘を助けてくれた。 グズッ・・・。 んん! 本当に、あの時はありがとう」
訓正さんは少し目尻に涙を溜め、鼻をすすりながら、そういった。
「いや、こちらこそ。 小春さんが居なかったら、俺は親友が居ない中学生活を送ることになっていましたし。 本当にこちらこそ、ありがとうございます」
「すまないね。 突然見苦しい所を見せてしまって、では楽器を選んでくれたまえ。 試演も可能だから、勝手に弾いておくれ」
俺達は、そう言われ、恐る恐る近くにあった楽器にそれぞれ触れた。
赤色のボディのエレキギターだった。
さっそく、黒沢センパイからピックを借りて、弾く。
「あ、あれ?」
音がほとんど出ない。
一番簡単なコードであるEmコードを弾こうとしている。
指は合っているのに音が聞こえない。
俺の異変に気付いたのだろう、黒沢センパイが、
「あ、高橋、お前、アンプに繋いでるか?」
「アンプ? アンプってなんすか?」
「アンプも知らねェのかよ。 アンプつーのは、エレアコやエレキに繋いで大きな音をだす機械だよ」
「へぇー、そんな物もあるんすね」
「逆に今までなんでそれ知らなかったンだ?」
再度、「試演可能」と書かれたアンプに、繋いであったシールドと呼ばれるものを刺し、ギターを弾いてみると、さっきとは比べ物にならないほどの大きな音が鳴った。
「すげぇすげぇ、すげぇっすね!」
「まぁ、初めの頃のエレキの音は感動するよな」
ドアが開いて、何やらお客さんが来た。
少々猫背気味の身長160くらいの中学生がギターを背負って来た。
「あ、店長こんちはっす。 あの、弦切れたんで自分で直すから買い足しに来たんすよ」
「おお、久しぶりだな。 どうだった? 初ライブは?」
「大成功でした」
「そうかそうか。 なら良かった。 早く金貯めて、エレアコにするかピックアップ買えよ!」
「ありがとうございます。 そうすっね。 またその内来ます」
「じゃあなー!」
その中学生は、ギターの弦を購入すると、さっさと帰っていった。
「さっきの子、凄いっすね、黒沢センパイ。 ライブですよ?」
「あー、なんか見たことある気が・・・。 最近良くライブ配信とかしてる子だな。 ま、お前らはすぐに追い付く」
「んじゃ、これにします」
俺は真っ赤なギターを手に持つ。
金属のずしりとした重みが伝わってくる。
「パパー、お疲れさま」
また、ドアが開いた。
そこには、黒沢センパイと訓正さん以外が口を開いた。
『あっ・・・』
俺も、裕太も、三石も、こんなに早い再会に固まった。
「あ、れ? 高橋君? それに山内君と三石君も。 ギター買うって、ここだったの?」
森山の声が、店内に響いた。
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