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第2章EX ~高校1年の夏の最後の1日~
30・7時間目 夏休み最後の出会い
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「なんで?」
目の前には、幼馴染みだった森山小春が居る。
いつしか見た最後の記憶ではバッサリ切っていたショートカットは影も形もなく、セミロングの黒髪。
変わりのないくりくりとした大きな目。
それでいて、みずみずしそうな唇。
身長は150㎝くらいの小さな体に似合わぬ大きな胸部。
真夏というのに長袖の薄い桃色のロングスカート。
彼女はクスクスと記憶通りに笑って、
「なんでって、私、家この辺りだから」
「引っ越し先ってここだったんだ」
「うん。 ありがとうね。 私の事覚えていてくれて」
何がと言おうとしたが、記憶が蘇る。
彼女はそういえば俺のある一種の『親友』だったんだ。
ー
「えっと、待って、もう一回言って」
ある日の中学の梅雨の帰り道。
彼女は水玉の薄い水色の傘を差しながら、俺にこう言った。
「だからさ、私と高橋君って、親友じゃない?」
「親友? 友達じゃなくて?」
俺はこの時、親友と友達の違いが分からなかった。
だから、別に区別をする言い方をしなくていいと思っていた。
「んー。 友達は学校で仲良くするって感じで親友は外で二人っきりでも遊べるって感じかな。 まぁ、親友と友達との一番の違いは思ったことをすぐに口に出せる存在かな。 私は高橋君に結構悩みとか聞いてもらっているでしょ?」
「まぁ、確かにそうだけど。 でも、そういうのって変な目で見られないの?」
「見られることはないでしょ。 私はどんな噂をされても平気だし」
「それは森山だけで、俺は違うって事もあるだろ?」
「そうなの?」
「いや、別にどっちでもいいんだけどさ」
俺は今と変わらぬ格好で彼女の隣を歩いている。
時折、肩がぶつかるが、なんて事はない。
俺は彼女に恋をすることはないし、彼女もまた、俺に恋をするなんて事はない。
「しっかし、いつまでこの雨は続くんだか」
「まぁ、別にいいでしょ? 外の練習サボれるし」
「雨練習が嫌だから言っているんだけどな」
「頑張って、たまに私が絵のデザインとして見に来てあげるから」
「あざーす」
俺達はそんな意味もなにもない会話をしていた。
そして、彼女と別れる十字路に着いた時、彼女はこの時よりも5㎝くらい小さな体をクルリと回転させ、笑顔を見せて言った。
「じゃ、野球頑張って」
「おう、そっちもコンクールまでに絵を頑張れよ」
じゃあねとドップラー効果をかけながら、彼女は夕焼けに呑み込まれていった。
ただこの時は純粋に楽しかった日々を送っていた。
梅雨が明け、秋に差し掛かろうとしているときだった。
俺は野球の練習で最後の鍵閉め当番だったため、グラウンドから4階にある部室まで行かなければいけない。
この時の階段がキツい。
部活で体力を消耗してしまっているため、足があがりにくい。
真っ暗で静かな階段をあがっているとなんとか無事に4階に辿り着いた。
「フゥ・・・。 まだ歩かなきゃ行けねぇのかよ」
俺は愚痴を吐きつつ、暗い廊下を歩く。
俺は何かの声が聞こえた。
「なんだ?」
恐る恐る近づいてみると暗くてよく見えなかったが【美術室】と書かれていた。
聞き耳を立てていると女子の泣き声と男子の荒い息遣い。
しかも男子は複数人のようだ。
俺は持っていたバットやらグローブやらを廊下の隅に置いて好奇心だけで、ドアを開けた。
「「あ?」」
俺と誰かのまぬけな声が重なったのは同時だった。
そして、好奇心はすぐに怒りへと変わった。
唐突に理解した。
薄暗かったが、彼女が、森山小春が、何か酷い事をされている事に。
こんな感情は1度も沸かなかった。
誰かを殺してでも助けなきゃいけないという思いが。
「なにやってんだお前らァァァ!!」
電気をすぐに点けると見たくもないものが目に入った。
森山小春の制服がビリビリに破かれていた。
下着がチラチラと見える。
そこには男子が3人。
「な、なんで?! 高橋が!?」
「殴りかかってくるぞ?!」
「あの、クソが。 邪魔しやがって!」
俺は止まらぬ勢いでまず、近くにいた小柄な男子の腹に一撃をいれた。
彼は体を「く」の字に曲げて、机やイスと共に吹き飛ぶ。
「は、はぁ?!」
動揺しているヤツには、顔に一発。
彼は美術準備室のドアまで転がった。
男子だから傷つこうが構わない。
手に彼の鼻血だろうか、赤いものがついた。
俺は腰が抜けていて立てないであろうリーダー格のような男子に、一発お見舞いしてやると拳を振り上げたその時、
「君達! 何をやっているんだね!!」
一斉に皆がドアの方向を向いた。
そこには保健室の先生が立っていた。
それから、俺達は担任の先生や教頭、学年主任と話し合いになった。
結果、俺の暴行は正当防衛だが、やりすぎだと少し注意を受けた。
親には一応ということで連絡が行き、親の教育上、いくら大切な人を守るためだといっても暴力は良くないと怒られた。
森山は、その日から俺に話しかけなくなった。
と、いうか話す機会が無くなった。
元々、俺から話しかける事が無かったからだ。
彼女は次の日から保健室登校となった。
俺は、別に対した事は無い。
元々友達は居る。
それが一人減っただけだ。
なのに、なのに、
なんでこんなに悲しいのだろうか。
と思いながら、2学期を過ごしていた。
寒さが本格的になって来た頃、俺は放課後に担任の先生に呼ばれた。
小さな会議室のような部屋で俺は待っていると担任の先生が入ってきて、ソファに座ると、第一声にこう言った。
「森山さんは、転校しました」
と。
俺はそうですかと言い、あれからの彼女の様子を聞いた。
先生は、今は少し良くなったと言い、それ以外は言わなかった。
俺は、それっきり彼女の事を忘れていた。
ー
そうだった。
彼女の事を全て思い出した。
俺は、今は元気な彼女を見て、安心した。
「で、お前はどうなんだ?」
彼女の顔が上がる。
「わ、私?」
うんと頷く。
「私は今はもう平気よ」
彼女は笑顔でそう言った。
目の前には、幼馴染みだった森山小春が居る。
いつしか見た最後の記憶ではバッサリ切っていたショートカットは影も形もなく、セミロングの黒髪。
変わりのないくりくりとした大きな目。
それでいて、みずみずしそうな唇。
身長は150㎝くらいの小さな体に似合わぬ大きな胸部。
真夏というのに長袖の薄い桃色のロングスカート。
彼女はクスクスと記憶通りに笑って、
「なんでって、私、家この辺りだから」
「引っ越し先ってここだったんだ」
「うん。 ありがとうね。 私の事覚えていてくれて」
何がと言おうとしたが、記憶が蘇る。
彼女はそういえば俺のある一種の『親友』だったんだ。
ー
「えっと、待って、もう一回言って」
ある日の中学の梅雨の帰り道。
彼女は水玉の薄い水色の傘を差しながら、俺にこう言った。
「だからさ、私と高橋君って、親友じゃない?」
「親友? 友達じゃなくて?」
俺はこの時、親友と友達の違いが分からなかった。
だから、別に区別をする言い方をしなくていいと思っていた。
「んー。 友達は学校で仲良くするって感じで親友は外で二人っきりでも遊べるって感じかな。 まぁ、親友と友達との一番の違いは思ったことをすぐに口に出せる存在かな。 私は高橋君に結構悩みとか聞いてもらっているでしょ?」
「まぁ、確かにそうだけど。 でも、そういうのって変な目で見られないの?」
「見られることはないでしょ。 私はどんな噂をされても平気だし」
「それは森山だけで、俺は違うって事もあるだろ?」
「そうなの?」
「いや、別にどっちでもいいんだけどさ」
俺は今と変わらぬ格好で彼女の隣を歩いている。
時折、肩がぶつかるが、なんて事はない。
俺は彼女に恋をすることはないし、彼女もまた、俺に恋をするなんて事はない。
「しっかし、いつまでこの雨は続くんだか」
「まぁ、別にいいでしょ? 外の練習サボれるし」
「雨練習が嫌だから言っているんだけどな」
「頑張って、たまに私が絵のデザインとして見に来てあげるから」
「あざーす」
俺達はそんな意味もなにもない会話をしていた。
そして、彼女と別れる十字路に着いた時、彼女はこの時よりも5㎝くらい小さな体をクルリと回転させ、笑顔を見せて言った。
「じゃ、野球頑張って」
「おう、そっちもコンクールまでに絵を頑張れよ」
じゃあねとドップラー効果をかけながら、彼女は夕焼けに呑み込まれていった。
ただこの時は純粋に楽しかった日々を送っていた。
梅雨が明け、秋に差し掛かろうとしているときだった。
俺は野球の練習で最後の鍵閉め当番だったため、グラウンドから4階にある部室まで行かなければいけない。
この時の階段がキツい。
部活で体力を消耗してしまっているため、足があがりにくい。
真っ暗で静かな階段をあがっているとなんとか無事に4階に辿り着いた。
「フゥ・・・。 まだ歩かなきゃ行けねぇのかよ」
俺は愚痴を吐きつつ、暗い廊下を歩く。
俺は何かの声が聞こえた。
「なんだ?」
恐る恐る近づいてみると暗くてよく見えなかったが【美術室】と書かれていた。
聞き耳を立てていると女子の泣き声と男子の荒い息遣い。
しかも男子は複数人のようだ。
俺は持っていたバットやらグローブやらを廊下の隅に置いて好奇心だけで、ドアを開けた。
「「あ?」」
俺と誰かのまぬけな声が重なったのは同時だった。
そして、好奇心はすぐに怒りへと変わった。
唐突に理解した。
薄暗かったが、彼女が、森山小春が、何か酷い事をされている事に。
こんな感情は1度も沸かなかった。
誰かを殺してでも助けなきゃいけないという思いが。
「なにやってんだお前らァァァ!!」
電気をすぐに点けると見たくもないものが目に入った。
森山小春の制服がビリビリに破かれていた。
下着がチラチラと見える。
そこには男子が3人。
「な、なんで?! 高橋が!?」
「殴りかかってくるぞ?!」
「あの、クソが。 邪魔しやがって!」
俺は止まらぬ勢いでまず、近くにいた小柄な男子の腹に一撃をいれた。
彼は体を「く」の字に曲げて、机やイスと共に吹き飛ぶ。
「は、はぁ?!」
動揺しているヤツには、顔に一発。
彼は美術準備室のドアまで転がった。
男子だから傷つこうが構わない。
手に彼の鼻血だろうか、赤いものがついた。
俺は腰が抜けていて立てないであろうリーダー格のような男子に、一発お見舞いしてやると拳を振り上げたその時、
「君達! 何をやっているんだね!!」
一斉に皆がドアの方向を向いた。
そこには保健室の先生が立っていた。
それから、俺達は担任の先生や教頭、学年主任と話し合いになった。
結果、俺の暴行は正当防衛だが、やりすぎだと少し注意を受けた。
親には一応ということで連絡が行き、親の教育上、いくら大切な人を守るためだといっても暴力は良くないと怒られた。
森山は、その日から俺に話しかけなくなった。
と、いうか話す機会が無くなった。
元々、俺から話しかける事が無かったからだ。
彼女は次の日から保健室登校となった。
俺は、別に対した事は無い。
元々友達は居る。
それが一人減っただけだ。
なのに、なのに、
なんでこんなに悲しいのだろうか。
と思いながら、2学期を過ごしていた。
寒さが本格的になって来た頃、俺は放課後に担任の先生に呼ばれた。
小さな会議室のような部屋で俺は待っていると担任の先生が入ってきて、ソファに座ると、第一声にこう言った。
「森山さんは、転校しました」
と。
俺はそうですかと言い、あれからの彼女の様子を聞いた。
先生は、今は少し良くなったと言い、それ以外は言わなかった。
俺は、それっきり彼女の事を忘れていた。
ー
そうだった。
彼女の事を全て思い出した。
俺は、今は元気な彼女を見て、安心した。
「で、お前はどうなんだ?」
彼女の顔が上がる。
「わ、私?」
うんと頷く。
「私は今はもう平気よ」
彼女は笑顔でそう言った。
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