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かがみもち 16th anniversary SS
手に入れた青春・もう二度と失いたくない青春
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《前書き》
はじめましての方も、いつも他作品を読んでくださっている方も、おはようございます、こんにちは、こんばんは。
かがみもちです。
数多くある作品のなかからこの作品を選んでいただき、ありがとうございます。
今回の「かがみもちのアレコレ」は章タイトル通り、本日12月20日は僕、かがみもちの誕生日となっております。(ちなみに16歳の高校生です)
エピソードタイトルである【手に入れた青春・もう二度と失いたくない青春】とは一体なにをさすのか、登場人物紹介を読みながら、お考えください!
【登場人物紹介】
高野悠真(たかのゆうま)
────────
中学の頃に部活動で失敗し、好きだった女子を傷つけてしまった少年。その過去ゆえに青春から遠ざかったため、その楽しさを知らない。
────────
雨蔵維月(あまくらいつき)
────────
悠真の高校のクラスメイト。ボーイッシュなイケメン女子。元々は接点が無いに等しかったが、席替えの際に仲良くなる。今では悠真の大切な女友達。
────────
河端爽(かわはたそう)
────────
悠真の親友であり、学年一位の秀才。寡黙でクール。眼鏡を外すとイケメン。
────────
菅原太陽(すがわらたいよう)
────────
悠真が高校で初めて出来た友人。夏頃に告白し付き合った彼女がいて、甘い空気を教室中にばらまくバカップル。(悠真たちは慣れている)
────────
大川蓮生(おおかわれい)
────────
悠真の隣の席で、よく朝早くからスマホゲームに勤しんでいる。たまたまやっているゲームが同じということが判明してからは、仲良くなり、ほぼ毎日下校する仲。
────────
この五人が物語の中心となっています。
それでは、長くなりましたが、本編をお楽しみください!
────
悠真は、ある夢を見ていた。
その夢とは、中学生の頃に野球部に所属していた時、派手に喧嘩をしてしまった少年と高校でもハードな練習をして甲子園を目指す──そんな夢を彼は見ていた。
このとき、悠真がなぜ夢だと気がついていたのかと言うと、自身の意識がやけにハッキリとしていたということに加え、悠真は高校入学前からも、同じような夢を何度も見ているからだ。
悠真は心底からあり得ないと思った。同じ高校に行っていない彼とのそんな未来は実在するはずがないからだ。
悠真の目線で見るその夢はユニフォームの高校名が映らず、その少年以外の表情は分からない。
悠真は、どうすればよいのかとワタワタしていると、顔面にボールが直撃した。
頬に鋭い痛みが走り、体勢を崩したからか、快晴の空がよく見渡せる。
空を見渡したあと、彼の視界は徐々にブラックアウトしていった。
しかし、悠真の意識はある。
眠る際、瞼を閉じるのと同じように、彼は果たして自分が落ちているのか、はたまた宙に浮いているのかどちらか分からない不思議な感覚を覚えながら、どこからともなく現れた一筋の光に包まれた。
その瞬間、眩しくて、思わず目を閉じてしまった。
瞼の裏に焼き付いた光が消えたのを確認してから開けると、校門らしき場所に立っていた。
これまた、ユニフォームと同じく、高校名がもやのようなもので隠されており、分からずといったところだが、悠真は自身の名を呼ばれていることに気がついた。
振り返ると、そこにいたのは、眼鏡をかけた長身の男と悠真よりも身長が小さい黒髪のショートカットの少女だった。
男の方は、悠真に軽く会釈し、少女の方は、ブンブンと手を振っていた。
彼女らは、悠真の中学生の頃の同級生である。
かつての彼は、その少女のことが好きだったが、彼は恋愛に慣れていなかったため、自分勝手な行動をし、彼女を傷つけてしまった。
悠真は、その少女の笑顔があまりにも、綺麗すぎて思わず、見とれてしまっていた。
だが、これは夢なのだと、こんな都合のいいことはないと自分に言い聞かせる。
「ね、悠真。今日皆でスタバに寄らない?」
屈託のない笑顔で少女は悠真を誘った。その眩しさに思わず更に目を悠真は細めてしまった。
「う、ん。大丈夫、だけど……」
これは、本当に夢なのだろうかと悠真は一瞬、思ってしまった。
「やった! さ、いこっ!」
少女の言葉に三人で歩きだした。
悠真はブレザーのポケットに手を突っ込みながら、彼らはお互いの存在を確かめ合うようにギュッと手を繋ぎながら。
中学生の頃から、ずっとそうだったと悠真は思っていた。
彼らは、人目を気にせずにイチャイチャするんだと。
そして、同時にこんなことも思っていた。
かつて、好きだった彼女の手を握っているのは、自分ではないが、隣にいれる、この時間こそが青春なのだろうなと。
***
悠真はゆっくりと目を覚ました。
パチパチとまばたきをすれば、見えてくるのは、シミひとつない白い天井。
寝起きの冴えない頭で自室を見渡していると、ギターケースに入ったアコースティックギターがあったり、大量の小説が入った本棚があったり、勉強机には昨晩も解いていた簿記の問題集があったりと、ここが自身の部屋なのだと気がつく。
そして、同時に思っていた。
(……やっぱり夢か……)
小さくため息をつきながら、悠真はグレーの寝巻き姿のまま、二階にあるリビングに降りた。
そこには、父親がテレビをつけて、朝のニュース番組を見ていた。
「悠真、おはよう。今日テスト最終日やろ? 頑張れよ」
と、父親からの応援の言葉を悠真はもらい、軽い会釈をしながら、軽く返事をした。
時計を見ると、六時二〇分。いつも通りの起床時間だった。
それから、彼は、朝ごはんであるスティックパン(チョコチップ・八本いり)の半分ととうふとわかめのみそ汁を食べて、歯を磨いてから、制服に着替え、家からでた。
「さっむ……」
少し早めに学校に到着し、勉強をしようと思っていた悠真は、冬の寒さに少し辟易してしまう。
悠真は、高校一年生にしてはやや細めの身体なので、寒さに弱い。
なので、ここ数日はマフラーや手袋、カイロといった防寒具を学校へ持っていくことにしている。
中学生の頃から使っている自転車をキコキコと約三〇分ほど漕げば、高校に到着した。
普段、悠真が行く時間帯ならほとんど停まっていない自転車置き場には、たくさんの自転車が停まっていた。
彼にはもう見慣れた、テスト期間の出来事である。
幸いにも、はじっこの方に少しのスペースがあったので、そこに自転車を停めることができた。
悠真のクラスは四階にあるため、長い階段をいつも通り上れば、自身の教室が見えてきた。
なにやら教室内が騒がしいが、少しばかり早く来たクラスの中心人物がいるグループが雑談でもしているのだろうか、なんてことを考えながら、開いていた教室の後ろ扉から入ると、
「悠真、誕生日おめでと!!」
と女子にしては少し低めの中性的な声と共にどこからもなく、クラッカーがパンッと鳴った。
黒板には、『(*´ω`*)高野悠真 HAPPY BIRTHDAY!!(*´ω`*)』の文字と悠真がいつも愛用している顔文字がたくさん書かれていた。
今日、十二月二〇日は、悠真の誕生日である。
当の本人は、試験勉強に追われていたため、すっかり忘れていた。
悠真に挨拶代わりに祝ってくれた少女は、女友達である雨蔵維月という人物だった。
彼女は、悠真より身長が高く、襟元まで切った髪にキリッとした男らしい表情はさながら王子様のような風格を漂わせる。
「悠真、はいこれ。あげるよ」
しかし、今はその王子様らしさはどこやら純粋に悠真の誕生日を祝ってくれるひとりの女友達の姿がそこにあった。
「ありがとう……」
維月から紙袋を受け取った悠真は、その中身を見た。
そこには、茶色の高級感溢れる文庫本のブックカバーとメタリックなロザリオ型のブックマークが入っていた。
「……ありがとう!」
悠真は、改めてお礼を言うと、維月は照れたように頬をポリポリとかいて、笑った。
プレゼントは維月だけではなく、学年一位の親友である河端爽から悠真が欲しかったブランドのシャープペンシルを、彼女持ちで悠真の高校での初めての友人である菅原太陽からは、黒と白のチェックのマフラーを、同じスマホゲームをやっていることで仲良くなり、通学路が同じでほぼ毎日一緒に下校している隣の席である大川蓮生からは、ゲームの課金用にとプリペイドカードをもらった。
「ありがとう……! 本当に……ありがとう!」
こんなことがあっていいのだろうかと悠真は思っていた。
かつて中学生の頃に他人を傷つけた自分は、こうしてきちんと人付き合いをできている。
こうして祝ってくれる友人がいる。
(あぁ、これが──)
悠真は、この時間がとても尊いものに思えた。
それは、今までの自分が経験出来ていなかったからだ。
ずっと、この時間を大切にしたいなと思っている。
(──青春なんだろうね)
青春をまた、悠真は味わったのだ。
──
楽しい時間は、過ぎ去り、頑張らないといけない瞬間が来た。
二学期の期末テスト最終日の試験科目は簿記である。
この科目が終われば、悠真たちは一週間後に控えるテスト返却日とそれからまた約一週間後にある終業式以外は、学校にはいかなくてよくなる。
悠真は、電卓を叩き、合計金額を求め、それを解答用紙に書き込む。
最終問題の仕訳を終え、ひと息つく。
簿記は、一月には検定試験もあるため、極力満点をとっておきたい科目である。
見直しを終えると、テスト終了のチャイムがちょうど鳴った。
──
「いやぁ、終わったね! 悠真と爽は今回も満点?」
テストが終わった放課後の帰り道、悠真たちは高校の最寄り駅にあるラーメン屋を目指して、歩いていた。
なお、悠真と蓮生は自転車を押しながらだ。
維月の質問に、悠真と爽は、肯定の意を示す。
「今回の簿記の試験は、きちんと仕訳さえ出来ていれば解ける問題だからね」
「そうだねー。あと計算ミスさえしなければー……」
そう言って、爽は維月に気がつかれぬようにチラリと蓮生と太陽を見た。
蓮生は電卓を忘れて、太陽は本番に弱いタイプなので仕訳の方法をど忘れしてしまい、かなりの点数を落としてしまったのだ。
悠真たちが通っている高校のコースは、商業科目に力をいれているため、検定試験と同じ七〇点以下の生徒は、問答無用で補習を受けなければならない。
悠真たちの間では、欠点による補習者のことをグループ内でハマっているゲームの重複強化の逆という意味で「凸」という言葉を使っている。
そのゲームは、最高が六凸までがあるのだが、悠真たちの学校も同じく六教科以上欠点を取ると、留年となっている。
それを避けるべく、悠真たちは日々勉学に励んでいるのだが、優等生である悠真や維月、爽は欠点は取ったことはない。爽に至っては、八〇点以下を取ったことがない猛者である。
そうこう話している間に、ラーメン屋に到着し、悠真たちは店内に入店した。ちなみに、このラーメン屋は維月の行きつけである。
中性的な見た目をしている維月は、男女学年の壁を越えて、友人が多い。
入部しているバスケ部では、エース的存在で、一〇月に行われた球技大会では、見事、維月率いる悠真たちのクラスが優勝させた実績を残している。
そんな彼女は、好きな人がいるそうで、大切な友人として、悠真はそれを応援したいところである。しかし、肝心の誰かというのは教えてはくれなかった。
熱気がムンムンと暑苦しい空気を醸し出す店内は、同じ高校の男子生徒の割合が圧倒的に多い。悠真も何度か一人で訪れたことがあるその店は、運動部員と思わしき生徒が特に多かった。
悠真たちは、さっそくラーメンを頼み、テストの自己採点や難しかった問題について話していた。
あーだこーだ言いながら、ラーメンを待っていると、ラーメンは無事に全員分到着した。
「それでは、悠真の誕生日を祝って!」
維月は、かけ声と共に水の入ったグラスを天井に向かって掲げた。全員がグラスを掲げ終えると、
「「「おめでとー!!」」」
と、口々に語られる悠真の祝いの言葉。
それらを受け止めながら、悠真は、豚骨の濃い旨味が凝縮した麺をすすった。
一人で訪れたときよりも、皆でいるときに食べたラーメンの方が格段に美味しいと思え、再び青春を悠真は感じたのだった。
──
それから、悠真たちは、色々な場所で遊んだ。
スターバックスに行って、たまたま友達といた太陽の彼女と遭遇し、その友達も含めて、皆でカラオケに行って、フリーパックで夜遅くまで歌ったりと楽しい一日を過ごした。
その帰り道、爽は悠真とは帰路が逆方向なのでカラオケ店で別れ、太陽は自身の彼女とその友達を送るため、ついさっき別れ、蓮生と維月と共に自転車を押しながら、歩いていた。
「悠真ー! 後ろ乗せてよぉー! おねがーい!」
維月は上目づかいで悠真を見たが、悠真には少しばかり可愛いとは思っただけで、さすがに乗せるまではさせなかった。
「……乗るのはだめだけど、鞄くらいなら、後ろ、乗せときなよ」
「やっさしー! さすがクラスの便利屋だ!」
「ねぇ、バカにしてる?」
「すみませんしたー!」
悠真は過去に他人を傷つけた経験があるからか、その反動で高校では他人に手を貸すようになっていた。
それゆえ、悠真は維月や蓮生たちには、「クラスの便利屋」といじられることが多々あった。
「それにしても、悠真は仲良くなる前はあたしには敬語だったよね。あれ本当にウケたんだけど。女子怖かったんだ?」
悠真は、このメンバーには自身の過去をすべて話している。
部活に入らないのは、中学一年生の頃、人付き合いに失敗したから。
誰も好きにならなくて、異性と関わらなかったのはまた傷つけてしまうのが怖かったから。
だから、女子には敬語で、できる限り丁寧な口調で話していた悠真だったが、維月の男女の壁を越えた接し方によって、「素」の自分での話し方で話すようになった。悠真たちが仲良くなったのはそれからである。
本当に素敵な友人たちと出会えた、心の底から、悠真はこのときそう思った。
「悠真」
維月がそう悠真の名前を呼ぶと、彼はチラリと後ろを見た。
彼女は、両手を後ろに組んで、顔を冬の寒さのせいか赤くしながらはにかんでいたが、チラリと見ただけの悠真は、その表情は分からなかった。
「誕生日おめでとう」
改めて、そう言われ、少し気恥ずかしくなった悠真は、照れ隠しにぶっきらぼうにありがとうと返した。
しかし、維月に言われたその言葉に悠真は、なんとも言えぬ優しい感情が心に芽生えて、とても嬉しく感じた。
高野悠真の物語は、青春は、まだまだこれからだ。
悠真は、その青春を二度と失わないように、大切に噛みしめながら、歩いたのだった。
この楽しい青春が、大切な友人と共に大人になっても、楽しい時間として続きますようにと願いながら。
─end─
《後書き》
いかがでしたか?
この物語は、実際に高校であったことを元に書いています。割合としては、八割ノンフィクション・二割フィクションでしょうか。
そして、僕の他作品を読んでくださった方は少し、違和感を感じた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
また、確かめにきてくれると嬉しいです。
本日は、この物語を読んでくださり、ありがとうございました。
いつも皆様の応援が励みになっております。これからも、ひとつでも一人でも多くの応援をいただけると嬉しいです。
次、他の物語で会えることを楽しみにしております。
──15歳までの僕は、その青春を二度と失わないように、大切に噛みしめながら、歩いたのだった。
16歳の僕は、この楽しい青春が、大切な友人と共に大人になっても、楽しい時間として続きますようにと願いながら、これからも、進んでいく──
はじめましての方も、いつも他作品を読んでくださっている方も、おはようございます、こんにちは、こんばんは。
かがみもちです。
数多くある作品のなかからこの作品を選んでいただき、ありがとうございます。
今回の「かがみもちのアレコレ」は章タイトル通り、本日12月20日は僕、かがみもちの誕生日となっております。(ちなみに16歳の高校生です)
エピソードタイトルである【手に入れた青春・もう二度と失いたくない青春】とは一体なにをさすのか、登場人物紹介を読みながら、お考えください!
【登場人物紹介】
高野悠真(たかのゆうま)
────────
中学の頃に部活動で失敗し、好きだった女子を傷つけてしまった少年。その過去ゆえに青春から遠ざかったため、その楽しさを知らない。
────────
雨蔵維月(あまくらいつき)
────────
悠真の高校のクラスメイト。ボーイッシュなイケメン女子。元々は接点が無いに等しかったが、席替えの際に仲良くなる。今では悠真の大切な女友達。
────────
河端爽(かわはたそう)
────────
悠真の親友であり、学年一位の秀才。寡黙でクール。眼鏡を外すとイケメン。
────────
菅原太陽(すがわらたいよう)
────────
悠真が高校で初めて出来た友人。夏頃に告白し付き合った彼女がいて、甘い空気を教室中にばらまくバカップル。(悠真たちは慣れている)
────────
大川蓮生(おおかわれい)
────────
悠真の隣の席で、よく朝早くからスマホゲームに勤しんでいる。たまたまやっているゲームが同じということが判明してからは、仲良くなり、ほぼ毎日下校する仲。
────────
この五人が物語の中心となっています。
それでは、長くなりましたが、本編をお楽しみください!
────
悠真は、ある夢を見ていた。
その夢とは、中学生の頃に野球部に所属していた時、派手に喧嘩をしてしまった少年と高校でもハードな練習をして甲子園を目指す──そんな夢を彼は見ていた。
このとき、悠真がなぜ夢だと気がついていたのかと言うと、自身の意識がやけにハッキリとしていたということに加え、悠真は高校入学前からも、同じような夢を何度も見ているからだ。
悠真は心底からあり得ないと思った。同じ高校に行っていない彼とのそんな未来は実在するはずがないからだ。
悠真の目線で見るその夢はユニフォームの高校名が映らず、その少年以外の表情は分からない。
悠真は、どうすればよいのかとワタワタしていると、顔面にボールが直撃した。
頬に鋭い痛みが走り、体勢を崩したからか、快晴の空がよく見渡せる。
空を見渡したあと、彼の視界は徐々にブラックアウトしていった。
しかし、悠真の意識はある。
眠る際、瞼を閉じるのと同じように、彼は果たして自分が落ちているのか、はたまた宙に浮いているのかどちらか分からない不思議な感覚を覚えながら、どこからともなく現れた一筋の光に包まれた。
その瞬間、眩しくて、思わず目を閉じてしまった。
瞼の裏に焼き付いた光が消えたのを確認してから開けると、校門らしき場所に立っていた。
これまた、ユニフォームと同じく、高校名がもやのようなもので隠されており、分からずといったところだが、悠真は自身の名を呼ばれていることに気がついた。
振り返ると、そこにいたのは、眼鏡をかけた長身の男と悠真よりも身長が小さい黒髪のショートカットの少女だった。
男の方は、悠真に軽く会釈し、少女の方は、ブンブンと手を振っていた。
彼女らは、悠真の中学生の頃の同級生である。
かつての彼は、その少女のことが好きだったが、彼は恋愛に慣れていなかったため、自分勝手な行動をし、彼女を傷つけてしまった。
悠真は、その少女の笑顔があまりにも、綺麗すぎて思わず、見とれてしまっていた。
だが、これは夢なのだと、こんな都合のいいことはないと自分に言い聞かせる。
「ね、悠真。今日皆でスタバに寄らない?」
屈託のない笑顔で少女は悠真を誘った。その眩しさに思わず更に目を悠真は細めてしまった。
「う、ん。大丈夫、だけど……」
これは、本当に夢なのだろうかと悠真は一瞬、思ってしまった。
「やった! さ、いこっ!」
少女の言葉に三人で歩きだした。
悠真はブレザーのポケットに手を突っ込みながら、彼らはお互いの存在を確かめ合うようにギュッと手を繋ぎながら。
中学生の頃から、ずっとそうだったと悠真は思っていた。
彼らは、人目を気にせずにイチャイチャするんだと。
そして、同時にこんなことも思っていた。
かつて、好きだった彼女の手を握っているのは、自分ではないが、隣にいれる、この時間こそが青春なのだろうなと。
***
悠真はゆっくりと目を覚ました。
パチパチとまばたきをすれば、見えてくるのは、シミひとつない白い天井。
寝起きの冴えない頭で自室を見渡していると、ギターケースに入ったアコースティックギターがあったり、大量の小説が入った本棚があったり、勉強机には昨晩も解いていた簿記の問題集があったりと、ここが自身の部屋なのだと気がつく。
そして、同時に思っていた。
(……やっぱり夢か……)
小さくため息をつきながら、悠真はグレーの寝巻き姿のまま、二階にあるリビングに降りた。
そこには、父親がテレビをつけて、朝のニュース番組を見ていた。
「悠真、おはよう。今日テスト最終日やろ? 頑張れよ」
と、父親からの応援の言葉を悠真はもらい、軽い会釈をしながら、軽く返事をした。
時計を見ると、六時二〇分。いつも通りの起床時間だった。
それから、彼は、朝ごはんであるスティックパン(チョコチップ・八本いり)の半分ととうふとわかめのみそ汁を食べて、歯を磨いてから、制服に着替え、家からでた。
「さっむ……」
少し早めに学校に到着し、勉強をしようと思っていた悠真は、冬の寒さに少し辟易してしまう。
悠真は、高校一年生にしてはやや細めの身体なので、寒さに弱い。
なので、ここ数日はマフラーや手袋、カイロといった防寒具を学校へ持っていくことにしている。
中学生の頃から使っている自転車をキコキコと約三〇分ほど漕げば、高校に到着した。
普段、悠真が行く時間帯ならほとんど停まっていない自転車置き場には、たくさんの自転車が停まっていた。
彼にはもう見慣れた、テスト期間の出来事である。
幸いにも、はじっこの方に少しのスペースがあったので、そこに自転車を停めることができた。
悠真のクラスは四階にあるため、長い階段をいつも通り上れば、自身の教室が見えてきた。
なにやら教室内が騒がしいが、少しばかり早く来たクラスの中心人物がいるグループが雑談でもしているのだろうか、なんてことを考えながら、開いていた教室の後ろ扉から入ると、
「悠真、誕生日おめでと!!」
と女子にしては少し低めの中性的な声と共にどこからもなく、クラッカーがパンッと鳴った。
黒板には、『(*´ω`*)高野悠真 HAPPY BIRTHDAY!!(*´ω`*)』の文字と悠真がいつも愛用している顔文字がたくさん書かれていた。
今日、十二月二〇日は、悠真の誕生日である。
当の本人は、試験勉強に追われていたため、すっかり忘れていた。
悠真に挨拶代わりに祝ってくれた少女は、女友達である雨蔵維月という人物だった。
彼女は、悠真より身長が高く、襟元まで切った髪にキリッとした男らしい表情はさながら王子様のような風格を漂わせる。
「悠真、はいこれ。あげるよ」
しかし、今はその王子様らしさはどこやら純粋に悠真の誕生日を祝ってくれるひとりの女友達の姿がそこにあった。
「ありがとう……」
維月から紙袋を受け取った悠真は、その中身を見た。
そこには、茶色の高級感溢れる文庫本のブックカバーとメタリックなロザリオ型のブックマークが入っていた。
「……ありがとう!」
悠真は、改めてお礼を言うと、維月は照れたように頬をポリポリとかいて、笑った。
プレゼントは維月だけではなく、学年一位の親友である河端爽から悠真が欲しかったブランドのシャープペンシルを、彼女持ちで悠真の高校での初めての友人である菅原太陽からは、黒と白のチェックのマフラーを、同じスマホゲームをやっていることで仲良くなり、通学路が同じでほぼ毎日一緒に下校している隣の席である大川蓮生からは、ゲームの課金用にとプリペイドカードをもらった。
「ありがとう……! 本当に……ありがとう!」
こんなことがあっていいのだろうかと悠真は思っていた。
かつて中学生の頃に他人を傷つけた自分は、こうしてきちんと人付き合いをできている。
こうして祝ってくれる友人がいる。
(あぁ、これが──)
悠真は、この時間がとても尊いものに思えた。
それは、今までの自分が経験出来ていなかったからだ。
ずっと、この時間を大切にしたいなと思っている。
(──青春なんだろうね)
青春をまた、悠真は味わったのだ。
──
楽しい時間は、過ぎ去り、頑張らないといけない瞬間が来た。
二学期の期末テスト最終日の試験科目は簿記である。
この科目が終われば、悠真たちは一週間後に控えるテスト返却日とそれからまた約一週間後にある終業式以外は、学校にはいかなくてよくなる。
悠真は、電卓を叩き、合計金額を求め、それを解答用紙に書き込む。
最終問題の仕訳を終え、ひと息つく。
簿記は、一月には検定試験もあるため、極力満点をとっておきたい科目である。
見直しを終えると、テスト終了のチャイムがちょうど鳴った。
──
「いやぁ、終わったね! 悠真と爽は今回も満点?」
テストが終わった放課後の帰り道、悠真たちは高校の最寄り駅にあるラーメン屋を目指して、歩いていた。
なお、悠真と蓮生は自転車を押しながらだ。
維月の質問に、悠真と爽は、肯定の意を示す。
「今回の簿記の試験は、きちんと仕訳さえ出来ていれば解ける問題だからね」
「そうだねー。あと計算ミスさえしなければー……」
そう言って、爽は維月に気がつかれぬようにチラリと蓮生と太陽を見た。
蓮生は電卓を忘れて、太陽は本番に弱いタイプなので仕訳の方法をど忘れしてしまい、かなりの点数を落としてしまったのだ。
悠真たちが通っている高校のコースは、商業科目に力をいれているため、検定試験と同じ七〇点以下の生徒は、問答無用で補習を受けなければならない。
悠真たちの間では、欠点による補習者のことをグループ内でハマっているゲームの重複強化の逆という意味で「凸」という言葉を使っている。
そのゲームは、最高が六凸までがあるのだが、悠真たちの学校も同じく六教科以上欠点を取ると、留年となっている。
それを避けるべく、悠真たちは日々勉学に励んでいるのだが、優等生である悠真や維月、爽は欠点は取ったことはない。爽に至っては、八〇点以下を取ったことがない猛者である。
そうこう話している間に、ラーメン屋に到着し、悠真たちは店内に入店した。ちなみに、このラーメン屋は維月の行きつけである。
中性的な見た目をしている維月は、男女学年の壁を越えて、友人が多い。
入部しているバスケ部では、エース的存在で、一〇月に行われた球技大会では、見事、維月率いる悠真たちのクラスが優勝させた実績を残している。
そんな彼女は、好きな人がいるそうで、大切な友人として、悠真はそれを応援したいところである。しかし、肝心の誰かというのは教えてはくれなかった。
熱気がムンムンと暑苦しい空気を醸し出す店内は、同じ高校の男子生徒の割合が圧倒的に多い。悠真も何度か一人で訪れたことがあるその店は、運動部員と思わしき生徒が特に多かった。
悠真たちは、さっそくラーメンを頼み、テストの自己採点や難しかった問題について話していた。
あーだこーだ言いながら、ラーメンを待っていると、ラーメンは無事に全員分到着した。
「それでは、悠真の誕生日を祝って!」
維月は、かけ声と共に水の入ったグラスを天井に向かって掲げた。全員がグラスを掲げ終えると、
「「「おめでとー!!」」」
と、口々に語られる悠真の祝いの言葉。
それらを受け止めながら、悠真は、豚骨の濃い旨味が凝縮した麺をすすった。
一人で訪れたときよりも、皆でいるときに食べたラーメンの方が格段に美味しいと思え、再び青春を悠真は感じたのだった。
──
それから、悠真たちは、色々な場所で遊んだ。
スターバックスに行って、たまたま友達といた太陽の彼女と遭遇し、その友達も含めて、皆でカラオケに行って、フリーパックで夜遅くまで歌ったりと楽しい一日を過ごした。
その帰り道、爽は悠真とは帰路が逆方向なのでカラオケ店で別れ、太陽は自身の彼女とその友達を送るため、ついさっき別れ、蓮生と維月と共に自転車を押しながら、歩いていた。
「悠真ー! 後ろ乗せてよぉー! おねがーい!」
維月は上目づかいで悠真を見たが、悠真には少しばかり可愛いとは思っただけで、さすがに乗せるまではさせなかった。
「……乗るのはだめだけど、鞄くらいなら、後ろ、乗せときなよ」
「やっさしー! さすがクラスの便利屋だ!」
「ねぇ、バカにしてる?」
「すみませんしたー!」
悠真は過去に他人を傷つけた経験があるからか、その反動で高校では他人に手を貸すようになっていた。
それゆえ、悠真は維月や蓮生たちには、「クラスの便利屋」といじられることが多々あった。
「それにしても、悠真は仲良くなる前はあたしには敬語だったよね。あれ本当にウケたんだけど。女子怖かったんだ?」
悠真は、このメンバーには自身の過去をすべて話している。
部活に入らないのは、中学一年生の頃、人付き合いに失敗したから。
誰も好きにならなくて、異性と関わらなかったのはまた傷つけてしまうのが怖かったから。
だから、女子には敬語で、できる限り丁寧な口調で話していた悠真だったが、維月の男女の壁を越えた接し方によって、「素」の自分での話し方で話すようになった。悠真たちが仲良くなったのはそれからである。
本当に素敵な友人たちと出会えた、心の底から、悠真はこのときそう思った。
「悠真」
維月がそう悠真の名前を呼ぶと、彼はチラリと後ろを見た。
彼女は、両手を後ろに組んで、顔を冬の寒さのせいか赤くしながらはにかんでいたが、チラリと見ただけの悠真は、その表情は分からなかった。
「誕生日おめでとう」
改めて、そう言われ、少し気恥ずかしくなった悠真は、照れ隠しにぶっきらぼうにありがとうと返した。
しかし、維月に言われたその言葉に悠真は、なんとも言えぬ優しい感情が心に芽生えて、とても嬉しく感じた。
高野悠真の物語は、青春は、まだまだこれからだ。
悠真は、その青春を二度と失わないように、大切に噛みしめながら、歩いたのだった。
この楽しい青春が、大切な友人と共に大人になっても、楽しい時間として続きますようにと願いながら。
─end─
《後書き》
いかがでしたか?
この物語は、実際に高校であったことを元に書いています。割合としては、八割ノンフィクション・二割フィクションでしょうか。
そして、僕の他作品を読んでくださった方は少し、違和感を感じた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
また、確かめにきてくれると嬉しいです。
本日は、この物語を読んでくださり、ありがとうございました。
いつも皆様の応援が励みになっております。これからも、ひとつでも一人でも多くの応援をいただけると嬉しいです。
次、他の物語で会えることを楽しみにしております。
──15歳までの僕は、その青春を二度と失わないように、大切に噛みしめながら、歩いたのだった。
16歳の僕は、この楽しい青春が、大切な友人と共に大人になっても、楽しい時間として続きますようにと願いながら、これからも、進んでいく──
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