天才侍、異世界に!!

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009 学園

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合否発表とクラス配分が行われる
正門前に設置された掲示板に張り出された合理発表の紙
配当クラスと共に受験番号が書かれている

悔しげな顔をするものも居れば喜んだ者もいる
誇らしげな奴も居れば、喪失したような奴も居る
十人十色、各々が各々の反応を起こしていた

アビスとメアリーは当然、合格である
だが、アビスに喜んだ様子はさほど無い
まるで予測でもしていたかの様な態度である

対してメアリーは

「やりましたよ!!」

と喜びを顕にしアビスの手を両手で掴み上下に振り回していた
アビスはそれを脇目に気にせず正門を通り校舎に歩んで行く
左手は深淵の闇でも取り出して来たかのような黒色が鈍く光沢する聖柄の太刀が鞘走らぬよう
柄の末端に乗せられ、右手は横を着いて来るメアリーに掴まれたままである
その状態を芳しく思わない人物が居る

「おい!! メアリー様に容易く触れるな下民が!!」

誰が見ようと貴族であると分かりそうな3人集、その態度は大きい
アビスは常日頃、衣装は全て黒く今もズボンとシャツ共に黒く丈の長いコートも黒である
黒、それで統一された服装は華美では無く多少草臥れて見えるのだった
貴族は大抵華美な衣装、平民は黒じゃなくともアビスの様な草臥れた衣装

平民が一概に高価なコートを着れるわけも、高い入学料と授業料の学園に入れる訳でも無い
多少大きな商家の出、その推理が一般的だろう
商家の出、幾ら大きい商家であろうと爵位を与えられていないのなら平民
貴族から見て平民は下民なのだ、馬鹿貴族が罵るのも無理は無い

「我はマントス男爵家、第1男 ファッドだぞ!! 無礼だ、跪け!!名を名乗ってみよ!!」

「そうだ!!ファッド様の御前だぞ!!」「頭が高い、頭が高い!!」

2人が冷たい眼で見ている間にも3人は騒ぎ立てる
途端、アビスの周囲に黒煙が燻った
それは、明確な殺意を持ったのと同義 メアリーは咄嗟に止めに入る

「ダメです!!」

アビスの右腕を抱くように掴み後ろに引き寄せる
当然、その豊満な双丘を腕に押し付けることになるのだが
普段なら羞恥し悶えるだろうが、緊急時である気にも留めない
押し潰されるのも構わず全力で後ろに引き寄せている

その状態を見て、3人は激昴する
アビスは、1人冷静だった

「興奮するな、ゴブリンか?
貴様らの方が頭が高い、俺はエルド公爵家 第1男アビス
即刻跪き名乗れ、さもなくば私断で打首とする」

公爵家以上の位に属する家族は、私断を行うことが出来る
私断、各個人で判断し罪人を処罰する事が可能なのだ
公的機関を挟むこと無く、裁くことが出来る
それは同時に、罪に問われること無く殺人を行えるのだ
今ここでアビスが3人を切り捨てようと、無罪放免 それは確定とされる

「嘘をつくな!!」

信じずして未だ激昴する3人にメアリーは叫んだ

「本当です!! 信じなさい!!」

それは怒っている訳では無い、場の空気で興奮している訳では無い
心配し同時に焦っているのだ、この3人を心配している?
勿論、否だ

じゃあ、アビスか?
否、私断という制度がある それにアビスの過去だって聞かされ数々の殺人を教え込まれてきた

そう、周りで見ている人々を心配しているのだ
アビスの殺戮は、相手の人数が減るのに反比例し所要時間が伸びていく
一人一人に掛ける時間が長いのだ、じっくりと徹底的に痛めつけて殺すのだ
自分に勝負を仕掛けたのが、どれほどの事なのかを教えるように

その姿を、いたいけな学生達に見せる訳には行かないのだ
1度、アビスの記憶を見せてもらった事がある
散々と、アビスの殺戮現場を実際に見せられた
その相手は、魔物から盗賊まで幅広く
だが、それでも耐え切れなかったのだ 2人を殺す時の現場の記憶に

まだ殺人などした事のないような齢15の少年少女に見せていい様な物じゃないのだ
トラウマ 否、その程度で済むはずも無い 精神崩壊くらいするのが当然と言えよう
メアリーだってアビスに色々と叩き込まれた
アビスに喧嘩を売ったのだ、殺されて当然だ と言う思考さえある
だが、元より優しい人間なのだ アビスに殺害を許す訳には行かない

「無視をするな!! 早く跪け!! さもなくば、処刑するぞ!!」

「止めなさい!! 王族命令です!! 即刻その口を閉じなさい!!」

「…メアリー様、何故そのような下民を庇うのです!!」

「本当の阿呆だな、貴様ら
メアリーが俺を庇う? 否、お前らを庇っている
貴様らが死なぬように、してくれているのだ 俺に殺されぬようにな」

その発言に、3人は静止する
まさか、だったのだ
自身でも、不思議な程に納得しうる 自分たちは庇われているのだと
目の前の黒い奴は、王族だろうと手に負えない様な実力を持ち
それで脅しを掛けているのではないか、3人にそんな思考が駆け巡る

「メアリー様、脅されているのでしょう?我らも協力致します!! 国家戦りょ」

言葉が詰まる、否 言い切れなかった
今までの感じた事も無い様な、圧倒的『死』
逸話の龍に睥睨されたかの如く 否、それは龍を遥かに超越する
人智を超えた妖魔の類、3人は跪いた かの試験官同様、身体が降伏したのだ

「面倒臭い、二度と近付くなゴミ共が」

1番アビスの実力を知り得るメアリーでさえ見たことの無いような威圧
周囲を転がる小石でさえ震え上がり浮遊するほどに
取り囲んでいた受験者の野次馬も、たった一瞬の余波で後ろに倒れ込んだ
付き添いの親でさえも、三者三様 だが、全員がアビスを恐れていた

「何の騒ぎじゃ、入学初日に!!」

長い白髪と髭を風に靡かせる小さな老人が、校舎側から飛んでくる
3人の後方に着地すると、途端にアビスを見詰めた
否、見付けたと示すのが適当か 唯ならぬ気配を感じ取り飛んできたのだから

「アビス君だったか、抑えてくれんか?」

弾けるように、威圧は霧散する
浮遊していた小石達は、アビスから遠ざかる様に少し跳び落ちた
威圧が解けても、動ける者は極小数だった

「アビス君、我が学園の結界が軋むような行動は止めてくれんかの」

「止めさせるのが、教員の仕事だ 自発的にやる訳では無い」

「そうかい、仕方が無いね 善処するよ
因みに質問があるんだけど、メアリー君の師匠は君かいの?」

「そうだ」

「そうかい そうかい、じゃっ良い学園生活を送れるよう祈っておくかの」

アビスは返事もせず校舎に歩みを進めた
メアリーは未だに腕を抱いたままである、否 離せないと言った方が最適だろう
老人、所謂園長は周囲の受験者達を介抱した

だが、1人を除いて誰も知らない
今の威圧は、まだ序の口だと
アビスの本気は、誰一人として計り知れないのである
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