公爵令嬢に転生したので両親の決めた相手と結婚して幸せになります！

第１話 フォルティエス公爵家

黄金色の小麦畑を見下ろすように小高い丘の上に屋敷を構えるフォルティエス公爵家は、俗に言うところの『貧乏田舎貴族』だ。

『公爵』という爵位と広大な領地を国王陛下から賜ってはいるものの、裕福な暮らしが出来るかどうかは領地経営をする当主の手腕に懸かっている。

領地の大半が農地であるが故に、フォルティエス公爵領の人口はその広大な領地に比べると非常に少なく、当たり前だが得られる税収も少ない。

今から約１００年前、フォルティエス家の初代当主が領地経営をしていた頃には、小麦も高値で取り引きされ貴族しか手に入らないような代物だったが

技術の進歩によりかつて高値で取り引きされていた小麦も、今では様々な場所で大量に作られ、とても安く買える庶民には欠かせない食材となっている。


広大な農地で小麦、大麦、トウモロコシ等の安く取り引きされる穀物を大量生産し販売する

いわゆる『薄利多売』方式により、公爵家としての体裁をどうにか保っているフォルティエス公爵家の１日のはとても賑やかに始まる。


「この紅茶を淹れたのは誰？」

「もっ、申し訳ございませんルティーナ様、何か不手際がありましたでしょうか？」


ルティーナに紅茶を淹れたメイドが顔を青くしながら急いで頭を下げると、ルティーナはメイドを睨みつけた。


「温度が５度低いわ、淹れなおしてちょうだい。紅茶はお湯の温度がとても大切なのよ、覚えておきなさい。」

「はっ、はい！」

「ルティーナは人より繊細な味覚を持っているから、少しの違いも敏感に感じ取ってしまうのねぇ♪」


メイドが足早に厨房に行く姿を、フォルティエス公爵家に仕える使用人達は同情の眼差しで見送る。

フォルティエス公爵家の長女ルティーナは、温度の違いはおろか銘柄の違う紅茶の味さえも、区別がつかないほどの馬鹿舌を持っている事は、絶対に触れてはいけない『禁忌』として使用人達は密かに心に刻んでいる。

そんな使用人達の苦労も知らずに、ルティーナは本で得た知識をメイド達にドヤ顔で披露し、それをルティーナの母であるジュリアナが称賛するのが、フォルティエス公爵家の毎朝の風景である。


そんな妻と娘とメイドのやり取りを全く気にする事も無く、静かに紅茶を飲んで居るのがフォルティエス公爵家当主

ヘンリー・フォルティエスである。


奥さんの尻に敷かれる夫の見本のような父を見て、フォルティエス公爵家の二女フィオナはいつも複雑な気持ちになるのだが

それはむしろ父が積極的に尻に敷かれるように動いている事を知っているからでもあった。



キャラメリゼ王国は魔法が発達し、あらゆる物事に魔法を使う『魔法国家』だ。

魔法には『火・水・土・風・光・闇』の６つの属性があり、より多くの属性魔法を扱える事と、より強力な魔法が使える事が

キャラメリゼ王国で出世する１番の近道である。

魔法の才能がある者達はあらゆる場面で国から重用され成り上がり、貴族としての地位を確固たる物にしてきた。


フォルティエス公爵家も類い稀なる魔法の使い手として長年国に仕えて来た事で、歴史ある名家の末席に加わっている。



フィオナの父と母は政略結婚だった。

火魔法が得意な父ヘンリーと、水魔法が使える母ジュリアナ

火と水はいわゆる『矛と盾』の関係にある。

火は水を蒸発させて消し去る事が出来るし、水は火を消火する事が出来る。

では火魔法が使える父親と水魔法が使える母親が結婚したら、その子供は火と水に対して最強になるのでは？

という周囲の考えから、ヘンリーとジュリアナは結婚させられ産まれたのが長女のルティーナだ。

ルティーナは両親の魔法の才能を受け継いだのか、強力な土魔法の使い手である。

土魔法は防壁や堤防を作るなどとても使い勝手が良い魔法なのなだが、プライドの高いルティーナ本人は

「そんなのは私の仕事じゃないわ」と言ってせっかく依頼された仕事を全て断っており、母ジュリアナもそれを当然として受け入れている。


これが類い稀なる魔法の才能がありながらも、長年『貧乏田舎貴族』に甘んじているフォルティエス公爵家である。





つづく。