【完結】結城菜穂の日本一周バイク旅

永倉伊織

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第3話 大窪寺

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翌朝

鳥のさえずりで目を覚ます。

テントから顔を出すと澄み切った空気が心地よい。

菜穂は寝袋から這い出し、顔を洗って身支度を整える。

「さて、今日は大窪寺を目指すか」

菜穂はそう呟き、テントを撤収し始める。

手慣れた手つきでテントを畳みバイクに荷物を積み込む。出発前に持ってきたおにぎりを頬張りながら

「香川で有名な山田家の釜ぶっかけうどん、絶対に食べたいんだよね」

菜穂は地図アプリを確認する。『うどん本陣山田家』は、大窪寺に向かう途中に位置しているようだ。

菜穂は相棒に跨がりエンジンをかける。相棒は今日も御機嫌なエンジン音を響かせる。

出発すると県道から再び国道へと入りバイクを走らせる。

朝の空気はひんやりとしていて気持ちが良い。菜穂昨日までの疲れが嘘のように体が軽くなっているのを感じる。

しばらく走ると、『うどん本陣山田家』の看板が見えてきた。菜穂はバイクを駐車場に停め店内へと入る。

店内は広々としていて落ち着いた雰囲気だ。菜穂はメニューを見て『釜ぶっかけ』を注文する。


「すいませーん、釜ぶっかけお願いします。」

「釜ぶっかけですね。かしこまりました」

店員はにこやかにそう言うと厨房へと戻っていく。菜穂は水を飲みながら運ばれてくるのを待つ。

しばらくすると、店員が『釜ぶっかけ』を運んできた。湯気が立ち上り食欲をそそる。菜穂は箸を取り、うどんをすすり始める。

「うーん、美味しい!」

菜穂は思わずそう呟く。うどんはコシがあってつるつると喉を通る。出汁はあっさりとしていて上品な味わいだ。菜穂は夢中でうどんをすすり、あっという間に完食してしまう。

「ごちそうさまでした!」

菜穂は店員にそう言うと店を後にする。お腹も満たされ気分も高揚してきた。菜穂は再び相棒に跨がり大窪寺へと向かう。

道の両側には、緑豊かな木々が茂り時折美しい景色が広がる。

菜穂は心地よい風を感じながら相棒を走らせる。

 しばらく走ると道端に小さなお堂が見えてきた。菜穂は相棒を停め、お堂の前で手を合わせる。

 「道中安全、お願いします」

 菜穂はそう呟き、再び相棒に跨がる。

 山道を登り続けると、やがて大窪寺の駐車場へと到着した。菜穂は相棒を駐車場に停め、ヘルメットを脱ぐ。

 大窪寺は四国八十八ヶ所霊場の第八十八番札所。つまり、ここは遍路の終着点であり、『逆うち』と呼ばれる八十八番から一番を目指す人達にとっては出発点でもある。

 駐車場には多くの車やバイクが停まっており、多くの遍路姿の人々が歩いている。

菜穂は深呼吸をし大窪寺の境内へと足を踏み入れる。

 境内は荘厳な雰囲気に包まれており多くの参拝客で賑わっている。菜穂は本堂へと向かい、お賽銭を入れ手を合わせる。

 「ここまで来られたこと、感謝します」

 菜穂はそう呟いた。

 本堂の隣には大師堂がある。菜穂は大師堂にも参拝し、弘法大師に感謝の気持ちを伝える。

 大窪寺の境内を歩いていると、様々な人々の姿を目にする。遍路を終え、安堵の表情を浮かべている人。これから遍路を始めようと決意を新たにしている人。

菜穂はそれぞれの表情を見ていると、様々な思いが込み上げてくる。

 大窪寺は菜穂にとって単なる寺ではなく、人生の岐路に立つ場所なのかもしれない。

 菜穂は境内の隅にある休憩所で腰を下ろし、自動販売機で買ったお茶を飲む。温かいお茶が疲れた体に染み渡る。

 「さて、次はどこへ行こうか」

菜穂はそう呟き、スマートフォンの地図アプリを開く。

四国にはまだまだ知らない魅力的な場所がたくさんあるはずだ。

 ふと、徳島ラーメンのことが頭をよぎる。

濃厚な豚骨醤油スープに、甘辛く煮込まれた豚バラ肉。四国を旅するなら、ぜひとも味わっておきたいご当地グルメだ。

 「徳島ラーメン、食べたいなぁ」

 菜穂は地図アプリで徳島駅の位置を確認する。大窪寺からは少し距離があるようだ。

 「よし、徳島駅を目指そう」

 菜穂はそう決意し、休憩所を後にする。再び相棒に跨がりエンジンをかける。

 大窪寺を後にし徳島駅へと向かう。山道を下り再び国道へと入る。相棒は軽快に走り景色が次々と移り変わっていく。

 菜穂は風を感じながら、これからの旅に思いを馳せる。

徳島ラーメン、そして、その先に待っている出会いや発見。どんな物語が待っているのだろうか。

 しばらくすると空模様が怪しくなってきた。空を見上げ少し不安になる。

 「雨、降らないといいけど…」

 相棒のスピードを少し上げ、まだしばらく距離がある徳島駅へと急ぐ。





つづく。
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