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第8章 空へ

閑話 マニメルヌサゴケロロス

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side:とある上級貴族


よし!

今日はいつも以上に気合いを入れなければならん

何故なら今お茶会で話題の絶えないピスケス伯爵夫人である、アストレアが主催するお茶会に招待されたのだからな!


あの女、この国における私の重要性をやっと理解したか

王国十二家だかなんだか知らぬが、所詮は
レヴァティ伯爵の妻という立場を利用しているだけではないか!


だがしかし、あの女が扱っているシャンプー等の美容品は私の妻をはじめ、ご婦人方に引く手数多の大人気商品

にも関わらず、忌々しい事にほとんどの商品は中立派にしか販売していない。ムスカ侯爵家当主である私を蔑ろにしおってからに!

だが、今回はあの女から直接の招待、おそらくは私を他派閥との窓口にして美容品を売りたいとでも考えているのであろう。

殊勝な心掛けは認めてやっても良い

そもそも、あんな女より私の方が適任だったのだ。ご婦人方も私のように高貴な身分の者から美容品を買いたいだろうからな

ガハハハハハハハハハ♪





「ムスカ侯爵、ご無沙汰しております。」

「おおっ、久しいなグリード男爵そなたも招待されておったのか」

「はい、私とアストレア様はほとんど面識も無いのですが、どういう訳かアストレア様から直接招待をされました」

「案ずる事は無い、何を企もうとも所詮は女の浅知恵、むしろ何処までやれるか我らの胸を貸してやろうではないか(笑)」

「しかしながら、最近はアストレア様が出席されないお茶会では、招待しても理由を付けて欠席される方が多数おられると聞きます。アストレア様とは良好な関係を築かれる方が良いかと愚考致しますが」

「女共の目当てはキャラバンシティ発祥の菓子であろう、女は甘い物が好きだからな

アストレアはキャラバンシティの領主代行という立場を利用して、料理や菓子を手に入れてお茶会で振る舞っているのだろう

とは言え、料理人共にキャラバンシティで登録された菓子や料理のレシピを渡して作らせても上手くいかんのは問題だ。

噂では王妃様や王女様まで新しき菓子に興味を示されているらしい。癪だがここは素直に頭を下げてアストレアと義を深めるべきだな、グリード男爵付いて参れ」

「はっ、お供致します!」



◇     ◇     ◇



「アストレア殿、本日はお招き頂きありがとうございます。」

「あら、ムスカ侯爵にグリード男爵じゃない、来てくれて嬉しいわぁ♪楽しんで頂けてるかしら?」

「それはもう存分に、今日用意された料理や菓子はどれも素晴らしい物ばかりですな♪正直に申しましてアストレア殿が羨ましい限りですぞ!」

「ふふふ、私はたまたま購入出来る立場に居ただけよ。

今日はね、どうしてもお茶会に来たいと言うので知り合いを連れて来てるのよ、紹介するわね、ミリアリア、、、あら?さっきまでここに居たのに」

「ミリアリアと言うとキャラバンシティの商業ギルドマスターの事ですかな?」

「ええそうよ、まったくあの子は迷子にならないように離れないでって言ったのに」

「それなら、あそこで菓子に夢中になっておいでのようだ」

「本当ね、ミリアリア!何してるの早くこっちに来なさい」



「あっ?!アストレア様申し訳ありません、でも、このお菓子ハチミツかけるとすっごい美味しいんですよ♪」

「それはスコーンね」

「スコーン?、、、何処かで聞いた事あるような気が」

「それはそうでしょう、シンさんがあなたに教えたら喜んでくれなかったって落ち込んでたわよ」

「そういえば(汗)でもでも、シン君もこんなに美味しい物ならちゃんと教えてくれれば良いのにー!」

「シンさんのお菓子がどれも美味しいのは知ってるでしょうに、戻ったら一緒に謝りましょうね」

「、、、はい」



「まぁまぁアストレア殿仕方ありません、ミリアリア殿はお茶会に慣れておられぬようですから」

「ムスカ侯爵にグリード男爵もお騒がせしました」

「ミリアリア殿お気になさらず、しかしこのような場には相応しくない行動であった事は事実

これだから眠れる森のエルフは一部の者から『マヌケ』なマニメルヌサゴケロロス、と呼ばれるのです」

「グリード男爵言葉を慎みたまえ、木の上で1日中寝て過ごすだけのマニメルヌサゴケロロスと違い、エルフは魔法が得意なのだからな」

「そうでした!眠れる森のエルフはほとんどが人族の街には出て来ませんから、つい忘れていました」

「魔法が使えないマニメルヌサゴケロロスとは違うのだよグリード男爵、魔法が使えない『マヌケ』とはな

魔法が得意だからこそ眠れる森に引きこもっていても重宝されるのだから

良かったですなぁ、魔法が得意で♪もし魔法が使えなければマニメルヌサゴケロロスと区別がつかぬ所だったわ、ガハハハ♪」

「ムスカ侯爵の仰る通りです、ミリアリア殿本当に魔法が得意で良かったですね」

「「わはははははははははは♪」」



◇     ◇     ◇


side:アストレア



「ぐぬぬぬ!!アストレアさまぁ~(泣)」

「はいはい、ミリアリア泣かないの。これも予定通りでしょ」

「だって、あいつら酷いんですよぉ~(泣)」



もう、ミリアリアったら仕方ないわねぇ、こういう事も想定して打ち合わせをしたのに。気持ちは分かるけど

でも相手を油断させるにはちょうど良いかしら♪




「さあさあ、ムスカ侯爵もグリード男爵もせっかく来られたのですから、新作のパンを使った料理を食べてみて下さい。
生ハムサンドと、甘いメロンパンはいかがかしら」

「ほぉ、サンドとやらはキャラバンシティ発祥の料理なのは知っていますが、メロンパンは初耳ですな。ではいただくとしよう」

「ムッ、ムスカ侯爵!このメロンパンというパン驚くほど柔らかいです!!」

「騒ぐなグリード男爵、、、むぅ、こちらの生ハムサンドのパンなど外側はパリッと程よい固さにも関わらず中は驚くほど柔らかい、アストレア殿このパンはいったい」

「ふふふ、驚いて頂けたのなら作って貰った甲斐があるというものです♪

最初に申し上げた通りそれは新作のパンなのですけど、パン作りというのは手間隙が凄くかかるんですってね、私はそういうの詳しく無いんですけど

それが偶然にもエルフにパン作りの才能があると分かったんです。今日のパンは全てミリアリアと知り合いのエルフが作ったんですよ。ねっ、ミリアリア♪」

「はい、本当に偶然なんですけど唯一の取り柄の魔法がパン作りに役立つ事が分かりまして」

「これからはパン作りの技術を応用した料理やお菓子が沢山出来るでしょうねぇ、池田屋商会からもパンを作れるエルフを増やして欲しいと言われてますから」


ざわざわざわざわざわざわざわざ


ふっふっふっ、わざと周囲に聞こえるように大きな声を出したから、皆さん私達の会話に注目し出したわね

さて、ムスカ侯爵はどう出るかしら


「なっ、なるほど、しかしパンを作れるエルフを増やすという事はパンの販売でもされるのですかな?」

「ええ、そのつもりです。パンを使ったお茶会に相応しい料理とお菓子も練習中ですが、沢山は作れないので当面は受注販売のみになりますけど

ムスカ侯爵の言う通り魔法が得意で本当に良かったですよ♪

それに引き換えムスカ侯爵が羨ましい限りです、得意な事など無くても『侯爵』という高貴な身分さえあればチヤホヤされるんですから」

「ぐっ!ミリアリア、今の発言は不敬」「いけませんムスカ侯爵!このような場でエルフとの関係を悪化させれば、王都の者達も黙ってはいられなくなります!」

「フンッ!アストレア殿申し訳ありませんが我々は忙しいので、これにて失礼します。グリード男爵行くぞ!」

「はっ!」






「アストレア様、あんなんで良かったんですか?全然物足りないんですけど(怒)」

「焦りは禁物よミリアリア、それにここに居る皆さんはあのお馬鹿さん達と、眠れる森のエルフとの関係が悪い事は再確認したでしょうから

あとはどちらに付いた方が得なのか、じっくり教えてあげれば良いわ」

「むぅ、、、凄く不満ですけどアストレア様がそう言うなら」




ふふふ、ミリアリアには悪いけどこういうのはじっくり確実にやるのが鉄則なのよ

種は蒔いたから、この種が芽吹いて花開くまでに、シンさんとお話して新しい商品を用意して貰いましょ♪

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