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第8章 空へ

第171話 大人って面倒くさいよね

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現在俺の目の前には、ガゼル親方を筆頭にドワーフの親方連中が揃って土下座をしているという

まったくもって嬉しくない状況だ!



「オリビエさん説明をお願いします。」

「その前に、シンさんを巻き込んでしまってごめんなさい。一族を代表して謝罪します。」

「訳アリなんでしょうけど、もうちょっとやり方は考えて欲しかったですよ」

「そこは本当に申し訳ないと思っているのよ、でもシンさんに事前に説明をすると一騎討ちが八百長だったと言われてしまうのよ

一族の掟で、一騎討ちには事情を知らない他種族の者を複数名立ち会わせる必要があったし」

「色々と曲げられない事があるのは理解しますけどね、それでどうして俺が一騎討ちをする事になったんですか?」


「それはすべて火酒のせいなの、火酒なんて私でも1年に1回飲めるかどうかの代物

火酒が買えるのは1部の者だけで、お金を出そうが何をしようが火酒を飲め無い者達が多いのよ

それなのにも関わらず里の長老達は火酒を権力者に売って偉そうにしていたから

里の皆もいい加減うんざりしてたの、お金を出しても努力しても飲めないなら火酒なんて存在しないのと同じよ

そこに降って湧いた火酒よりも美味しいお酒と移住の計画。

はっきり言って大半の者は火酒よりも美味しいかもしれない酒ではなくて、お金を出せば飲めるビール目当てなんだけどね

火酒を知らない者からすれば、シンさんのくれたビールが火酒より美味しいお酒だと信じてるくらいよ」


「お酒って個人の好みもありますから、仮に火酒が不味いと感じる方が居たとしても不思議じゃないですよ」

「そうなのよねぇ、シンさんに出会ってそこは痛感してるわ

それで話を戻して、移住計画に長老達が猛反対しちゃって

そこに居るおじいちゃん、ジャックって言って里の長老達の中では1番若いんだけど、私達と長老達の間に入って収めようとしたんだけど上手くいかなくて

そこで考えたのがシンさんとの一騎討ちなのよ、長老がこれほどの大勢が見てる前で酒の真剣勝負に完敗した事実は重いわ

私達ドワーフは酒の上での出来事を何よりも大切にするから、里の長老達も文句を言えなくなり、表向きは私達の事も認めざるを得ない

これで堂々と胸を張って移住出来るって訳なの」


「失礼かもしれませんが、何処の集落でも起きるであろう、予想出来る揉め事ですから事前に対策はしておいて欲しかったですね」

「そう言われてしまうと何も言えないのだけど、里の長老達も歴史と伝統に囚われて新しい事に目が向かなくなってしまっているから

歴史と伝統を無駄とか不要と言って蔑ろにする気は無いんだけど、無駄に長く続いてるだけの事を歴史だ!伝統だ!と言ってる老人共にはうんざり

ドワーフの火酒が良い例よ、かつてはバルゴ王国で1番の酒だともてはやされていたけれど、その当時から数百年火酒の味は何も変わっていないの

『伝統』の製法を守るという理由でね、それが悪い訳では無いけれど、何の考えも無しに『伝統』だけを守ってもそれは成長を止めてしまうだけ


その事を教えてくれたのは、シンさん、あなたよ

常に新しい事に挑戦して進化させる方法を考える、同時に未来に残すに相応しい事を選び『伝統』として守り抜いていく

それを怠った『伝統』なんてただの害悪でしかないわ、悲しいことに火酒は最早過去の栄光にすがるだけの遺物よ」


「えぇーと、ようするに面倒くさいなんやかんやが沢山あるって事ですね。それでも里の長老さん達と仲が悪くなったままではよろしく無いと思うのですが」

「ふふふ、それは大丈夫よ、無事にウィスキーが完成したら送りつけてやればいいわ、本当に火酒より美味しいお酒が存在すれば向こうも素直に頭を下げられるから

要はきっかけさえあれば何でもいいのよ」


「そうですか。という事はそこで土下座したままの親方さん達は頭を下げるきっかけがあったんですね?」

「そこの連中も当然全てを知っていて、一騎討ちを見守っていた事への謝罪もあるんでしょうけど、どちらかというと

シンさんの機嫌を損ねてもう二度とお酒を売って貰えなくなる事を恐れているだけね」


「あぁ~、なるほど(笑)」



今回の事に関して驚きはしたけど、、、まあそれだけだ、だから親方さん達も土下座しなくていいんだけど

勝手に巻き込んだ罰としてもう少しあのままで居て貰おう♪



「ダンナァ、そろそろ肉が焼けるよぉ」

「おう、ちょうどこっちも話が終わったところだよ、ジャックさんも良かったら一緒にどうですか?」

「ええのか?シン殿には失礼な振る舞いをしたのに」

「ドワーフの掟とか俺には関係無いですから(笑)」

「そう言われてしまうと余計に申し訳無いんじゃがのう」


「ねぇねぇ」

「ん?どうした犬耳のお嬢ちゃん」

「ジャックさんはやっぱりおじいちゃんさんじゃないの?」

「ワシの名前がジャックなだけであって、おじいちゃんじゃよ」

「おじいちゃんジャックさん?」

「いや、おじいちゃんは名前では無いんじゃが、、、困ったのう」



ありゃりゃ?

スミレがジャックさんを困らせている、『おじいちゃん』を名前だと思っているのか?



「あの、ご主人様いいでしょうか?」

「カスミどうしたの?」

「私達獣人はおじいちゃんと呼ばれるまで長生きする人が少なくて、スミレもおじいちゃんという存在を知らないんだと思います。」


なるほど、獣人に限らずこの国の平均寿命は短いし常識を教えてくれる人も居なかったんだろうな

こういうのは知ってるもんだと勝手に思ってたからな、盲点だった


「スミレおいで~、肉が焼けたよ」

「ご主人さまー♪」

「スミレ、ジャックさんはおじいちゃんでもあり、ジャックさんでもあるんだよ」

「んー、分かった♪」


なんとまあ素直で物分かりの良い子なの♪

『おじいちゃん』って言葉はお年寄りと祖父の両方に使うんだけどややこしいから説明は追々していこう


「さあさあ、ジャックさんも遠慮せず飲んで下さいねぇ『シュポッ、トクトクトクトク』はいどうぞ」

「かたじけない」

「それじゃあ、かんぱい」

「「「「「「かんぱい♪」」」」」」

「うむ、かんぱい!んぐんぐんぐっ?!、、、おっおいシン殿!この酒はいったい、、、」

「それは先程飲んだ酒の上位酒って事になるのかな?ビールって名前です。移住してきた方には購入数に上限がありますけど毎日売りますから、良ければ買って下さいね」

「なんと!火酒とは種類が違いすぎて比べ難いが、それでも火酒より旨いと言うても差し支え無いほどの味じゃぞ!

これ程の物が毎日、、、ガハハハハ♪そりゃあ里の者が皆出ていく訳だわい、これはワシも里には戻れんな、フハハハハハハ♪」


ビールを飲んでジャックさんもふっ切れた感じだな(笑)



「あのうシンさん、つかぬ事をお尋ねしますが、私達の分のお酒は無いのでしょうか?」

「ああ、オリビエさんじゃないですかお酒飲みたいですか?」

「ええ、出来れば飲みたいのですけど、シンさん怒ってます?」

「いえ、怒ってはいませんけど、反省はして欲しいのでしばらくお酒は我慢してて下さい」

「分かったわ!私我慢します!」



反省して欲しいと言ってみたものの

オリビエさんの顔が凄く怖い(汗)

怖いっていうか酒を睨んで鼻息も荒いし、ドワーフにとっては酒を目の前にして短時間でも我慢してるなんて奇跡に近いのかもしれんけど、、、


「はぁ、オリビエさんもういいですよ、一緒にお酒飲みましょう。親方さん達も土下座はもういいですから、早く来ないとお酒仕舞っちゃいますよ」


「本当か?やっほぉー♪そうこなくっちゃよ!」

「シンさん本当に良いのでしょうか?」

「ええ、お酒は皆で楽しく飲んだ方が美味しいですから」

「ありがとうシンさん♪良かった、本当に良かった、これ以上我慢したら精神がおかしくなる所だったわ(泣)」



オリビエさんも大袈裟、、、でもないのか泣きながらビールを飲んでるよ


でもねドワーフの皆さん

いろんな面倒事が片付いて嬉しいのは分かりますが

そこの筋肉ムキムキのおっさん共

服を脱いで筋肉自慢するのを止めろー!


おっさんの裸なんて

誰得やねーーーーん(怒)








つづく。
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