テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織

文字の大きさ
上 下
183 / 305
第7章 キャラバンシティ

閑話 バルゴ王国パール事件

しおりを挟む
side:王都のとある高官



わたしは今

王都から離れた場所に領地を持つ、辺境・地方貴族の今年成人した者達のお披露目パーティーに出席している

はぁ

毎年恒例の行事とはいえ実に面倒です。

勿論、このお披露目パーティーの重要性を理解しているからこそ、国王陛下の名代として祝辞を述べるという大役を、全力で全うする所存ではあるのですが・・・



お披露目パーティーの会場は、辺境・地方貴族の領地から毎年ランダムで決められます、

王都から1番遠い場所になると、そこまで馬車で30日程かかる事になります。

移動するのにも少なくないお金と人材が必要ですが、それは仕方ありません、バルゴ王国がそれだけの大国だという証なのですから

問題は

今年のパーティー会場が、王国十二家、アリエス辺境伯領だという事です。

こう言うと勘違いされてしまいますね、アリエス辺境伯家が問題なのではなく王国十二家、全部が問題なのです。

はっきり言って王国十二家は例外無くクセが強い者達の集まりだからです。

そして、彼等の忠誠は現国王陛下では無く、初代国王バルゴ1世と国にあり

現国王を王として不適格と判断すれば、即日クーデターを起こし国のトップをすげ替えて、国を存続させるくらいは当然のようにやってのけます。

彼等の総ては、バルゴ1世とバルゴ王国の未来の為にあるのです。間違っても現国王の為ではありません。

それが王国十二家であり、そんな彼等を慕って自然と集まったのが、今の辺境・地方貴族という者達なのです。なので何気ない仕草のひとつも油断は許されません。



おや?

わたしが憂鬱な気分で居ると向こうからやって来るのは、アリエス辺境伯家を監視する目的で派遣されている、王都の三等書記官であるヤーコフさんですね。


「お久し振りですねヤーコフさん」

「ああ、これはケティさんお久し振りです、1年振りでしょうか?」

「そうですね、ヤーコフさんが辺境伯家に派遣されて以来ですから」

「しかしながらケティさんは少しお疲れでしょうか?王都から来たのですから仕方ありませんが」

「まあ、それも含めて色々あるのですけど、1番は食事でしょうか。

アリエス辺境伯領はまだ良いですけど、この辺りの貴族はお腹を満たす事を1番の目的とした食事を好みますので、豪快な料理ばかりで

それも悪くは無いのですが、毎日続くとなると流石に、、、ははは」

「なるほど、しかしながら今日に限ってはその問題も心配無用でしょう」

「王都から料理人でも雇ったのでしょうか?」

「いえいえ、ケティさんもピスケス伯爵夫人のアストレア様はご存知と思いますが、実は今日のお披露目パーティーにアストレア様が懇意にしている方が出るらしいのですよ

それもあって本日並べられているお菓子は全てアストレア様がご用意された物なんですよ。料理も幾つかご用意されたと聞きましたね」

「はて?
懇意にされている方が出るのは分かりますが、それで何故アストレア様がお菓子をご用意なさるのでしょうか?辺境伯家にも料理人は居るのですから任せるべきでしょう」

「ケティさんはご存知無いのですか?最近各地で作られるようになった新しい保存食や柔らかいパン等のレシピは、全てキャラバンシティにある商会が作って登録しているのですよ。

あそこはアストレア様が領主代行をされてますから、未登録のレシピのひとつやふたつ持っていてもおかしくは無いでしょう。

見た事も無い料理が食べられるなら、ここの料理人も嫌とは言わないでしょうね」

「そういえば、美味しい保存食が出来たと遠征訓練に行く兵士達が喜んでいたような、、、」





「皆様お待たせ致しました、ただいまより新成人お披露目パーティーを始めさせて頂きます。」




「ケティさんそろそろお披露目パーティーが始まりますよ。」

「はぁ、こう言っては失礼ですが、わたしがお披露目パーティーを見る意味はあまり無いのですよね」

「ははは、まあケティさんはお役目で来ているだけですからね、私などはしっかり顔を覚えないといけませんけど、今年は十二家からキャンサー子爵家の四男が出るくらいで、他に覚えるべきなのは、、、まあ5年後に期待ですかね」

「そういえば、アストレア様の懇意にされている方というのはどなたなのでしょうか?」

「ちょっと待って下さいねリストがありますから、、、うーむ、名前を見る限りアストレア様と接点がありそうなのはキャンサー子爵家くらいですけど」

「それは無いでしょう、そもそも派閥が違いますし領地も離れていますから」

「そうなんですよね」



ざわざわざわざわ、ざわざわざわざわざわざわざわざわ、ざわざわざわざわざわ

わたしがヤーコフさんと出席者のリストを見ながら首をかしげていると、何やら会場がざわつき始めました。

その原因を確認するべくわたしも会場を見渡すと


なっ?!


「ヤーコフさん!あれはどなたですか?ヤーコフさん聞いているのですか!」

「はっ?え?ちょっ、ケティさんそんなに揺すられては確認出来ませんよ(泣)」

「失礼!さあヤーコフさん、最後に出て来て舞台の右端に立っているあのお嬢様は何処のどなたなのですか!」

「右端ですね、、、はて?あのようなお方が居たでしょうか?新成人の皆様には一度ご挨拶をしたのですけど」


どうやらヤーコフさんも知らないらしく、しきりにリストを見ているけど、そんな事はどうでもいいのよ!


何なのよあのお嬢様の姿は!

先ずドレスよ、身体に吸い付いているかの如く柔らかそうな素材、そして従来のドレスと違い余計な装飾が無い分、スッキリとしていてそれが身体をとても綺麗に見せている

あのようなデザイン見た事が無い、そもそもドレスの裾が膝までしか無いってどういう事なの?!

しかもスカート部分が見事にぺちゃんこなのに、どうしてあんなに素敵に見えるのよ!

スカートはいかに大きく綺麗に広げるかが大事なんじゃないの?!

駄目押しは身に付けている物よ、ダイヤやエメラルド等の宝石では無くどうして『花』を付けてるの?!

普通の『花』であれば驚かない、あれは普通の『花』では絶対に無いわ!


そして、あれは宝石なのかしら?控え目ながらも光沢のある白い珠が沢山付いているけど、、、分からない、、、分からない事だらけだけど

確実に分かるのはそれらの物が、身に付けているあのお嬢様を際立たせる為の脇役だって事よ


「ケティさん分かりましたよ、あのお嬢様はおそらくパール男爵家のミルキー様です。リストには舞台上での立ち位置も書いてありましたから間違いありません。

いやぁ、女性と言うのは着飾ると別人のように綺麗になるんですねぇ♪」

「はぁ?!ヤーコフ、あんたの目は節穴か?パール男爵家のミルキー様といえば、もっと地味で目立たない『美』とは無縁の顔だったでしょうが!

どこをどう見たらあの舞台上の美女がミルキー様なのよ!」

「ちょっ、ケティさん、私に言われましても、、、ほら!ミルキー様の母君が声をかけられてますし間違いありませんよ、アストレア様も御一緒ですね、懇意にされているのはパール男爵家だったようですね♪」



そんな、、、本当にあれがミルキー様なの?

ちょっと待ってよ

アストレア様と懇意にしているパール男爵家

突然美しくなったミルキー様

少し前から貴族のお茶会で話題が絶えない美容品の噂

その出所は・・・


ッ?!



「ヤーコフ!『イ弍号』案件で王都に緊急連絡!パール男爵家をなんとしてもこちら側に引き入れるように要請して!可能ならピスケス伯爵家もよ!」

「えっ?!ケティさん私にそのような権限はありませんよ(汗)」

「ならアリエス辺境伯にでも頼みなさい!手遅れになったら、わたしと貴方の首が物理的に飛ぶ事になるわよ

わたしは急いで王都に帰って直接報告をします!」

「いっ、急ぎ頼んで参ります!」



◇     ◇     ◇



この日、真珠とドレスと謎の花飾りの情報が王国中を駆け巡り、後にパール事件と呼ばれる出来事となる


そして、もうひとつのパール事件


王国中に衝撃が走った同日、鮮烈なデビューを果たしたパール男爵家令嬢、ミルキー・パール

この日の出来事が切っ掛けで、後にライブラ公爵家の次期当主とめでたく結ばれる事となり

ミルキー・パールをモデルにした『Milky Way』という、名も無き少女のサクセスストーリーの本が出版されると空前の大ヒット

恋する乙女達のバイブルとして永く愛されるようになるのだが



それはまた、別のおはなし。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

レジェンドテイマー ~異世界に召喚されて勇者じゃないから棄てられたけど、絶対に元の世界に帰ると誓う男の物語~

裏影P
ファンタジー
【2022/9/1 一章二章大幅改稿しました。三章作成中です】 宝くじで一等十億円に当選した運河京太郎は、突然異世界に召喚されてしまう。 異世界に召喚された京太郎だったが、京太郎は既に百人以上召喚されているテイマーというクラスだったため、不要と判断されてかえされることになる。 元の世界に帰してくれると思っていた京太郎だったが、その先は死の危険が蔓延る異世界の森だった。 そこで出会った瀕死の蜘蛛の魔物と遭遇し、運よくテイムすることに成功する。 大精霊のウンディーネなど、個性溢れすぎる尖った魔物たちをテイムしていく京太郎だが、自分が元の世界に帰るときにテイムした魔物たちのことや、突然降って湧いた様な強大な力や、伝説級のスキルの存在に葛藤していく。 持っている力に振り回されぬよう、京太郎自身も力に負けない精神力を鍛えようと決意していき、絶対に元の世界に帰ることを胸に、テイマーとして異世界を生き延びていく。 ※カクヨム・小説家になろうにて同時掲載中です。

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

俺! 神獣達のママ(♂)なんです!

青山喜太
ファンタジー
時は、勇者歴2102年。 世界を巻き込む世界大戦から生き延びた、国々の一つアトランタでとある事件が起きた。 王都アトスがたったの一夜、いや正確に言えば10分で崩壊したのである。 その犯人は5体の神獣。 そして破壊の限りを尽くした神獣達はついにはアトス屈指の魔法使いレメンスラーの転移魔法によって散り散りに飛ばされたのである。 一件落着かと思えたこの事件。 だが、そんな中、叫ぶ男が1人。 「ふざけんなぁぁぁあ!!」 王都を見渡せる丘の上でそう叫んでいた彼は、そう何を隠そう──。 神獣達のママ(男)であった……。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

処理中です...