この道を歩む

ゆう

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第ニ章:母になる、その途中で

初めての訪問と心の迷い

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冷たい冬の風が吹く土曜の午後、あゆみはすばるの家の前に立っていた。

目の前には、どこか懐かしさを感じる二階建ての家。だが、その扉の向こうにいる子どもたちの存在を思うと、心臓が高鳴り、不安が胸を締め付ける。

「本当に大丈夫かな……。」

自分に言い聞かせるように呟いた後、あゆみは深呼吸をしてインターホンを押した。




「こんにちは。」

玄関のドアが開き、そこには小さな男の子――れんが立っていた。

彼はじっとあゆみを見上げている。大きな目が彼女を観察するように動き、どこか警戒心が滲んでいた。

「れん、如月さんだよ。」
すばるが優しい声で息子に声をかける。

「こんにちは、れんくん。」
あゆみは微笑みながら挨拶したが、その笑顔は少しぎこちなかった。

すると、奥からもう一人、小さな女の子が顔を出した。

「お姉ちゃん、誰?」

彼女――りおは、興味津々の目であゆみを見上げながら言った。その目には、警戒心よりも好奇心が溢れている。

「如月さんだよ。一緒に遊んでくれるよ。」
すばるがりおにそう言うと、彼女は嬉しそうに笑顔を見せた。

「あゆみちゃん!一緒に遊ぼう!」

突然名前を呼ばれたことに驚きながらも、あゆみは「よろしくね」と優しく答えた。




その日、あゆみは子どもたちと数時間を共に過ごすことになった。

「これやって!」
りおが小さな手でおもちゃを持ちながら、あゆみに差し出した。

「うん、やろうか。」
あゆみは少し戸惑いながらも、りおの勢いに押される形で遊び始めた。

一方、れんは少し距離を置いて、二人の様子を静かに見つめていた。

「れんくんも一緒に遊ぶ?」
あゆみが声をかけると、彼は一瞬視線を合わせたが、すぐにそらした。

「いい。」

その短い返事に、あゆみは少しだけ肩を落とした。




りおはすぐにあゆみに懐き、あれこれとおもちゃを持ってきては「これして!」「あれ見て!」と無邪気に誘ってくる。

「りおちゃん、元気いっぱいだね。」
あゆみは笑いながらそう言ったが、内心では緊張が解けない。

彼女の視線の端には、れんの姿があった。
彼は少し離れた場所で、静かにレゴブロックを積み上げている。

その様子を見て、あゆみは心の中で思った。

「お兄ちゃんらしく振る舞おうとしてるのかな。でも……無理してるのかも。」




しばらくすると、れんが積み上げていたブロックが崩れてしまった。

「……。」

彼は何も言わず、静かに崩れたブロックを拾い集める。

「れんくん、大丈夫?」
あゆみはそっと声をかけた。

れんは一瞬彼女を見たが、何も言わずに首を横に振った。

「手伝ってもいい?」

その言葉に、れんは少し驚いたような表情を見せたが、やがて小さく頷いた。




あゆみがれんの隣に座り、一緒にブロックを積み上げ始めると、りおがそれを見て「私もやる!」と加わった。

三人でブロックを積み上げるうちに、自然と笑い声がこぼれるようになった。

「ここ、もう少し高くしようか?」
「じゃあ、僕がこれを乗せる!」

れんの声には、少しずつ明るさが戻ってきた。


帰り道、あゆみは冷たい風を感じながら歩いていた。

玄関先で手を振るれんとりおの姿が目に浮かぶ。無邪気に笑うりおの声、少し控えめながらも優しさを感じさせるれんの仕草。それらすべてが胸に刻まれていた。

しかし、あゆみは足を止めた。

「私は……この子たちのためになれるのかな。」

つぶやいた言葉が冬の空気に溶けていく。

すばると一緒に過ごしたい――その思いは揺るぎないものだった。
だが、その未来にはれんとりおという存在が深く関わっている。それは、あゆみが避けては通れない現実だった。

「先生の隣にいるためには、もっと強くならないといけないのかな……。」

あゆみは自分の中で渦巻く不安と向き合おうとした。

子どもが苦手な自分が、果たして二人にとって何かを与えられる存在になれるのだろうか――その答えはまだ見つからない。

それでも、あゆみは歩き出した。

冷たい風が頬を刺す中、彼女はふと空を見上げた。

「もう少しだけ、頑張ってみよう。」

小さく呟いた言葉は、彼女自身への誓いだった。

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