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⒋ ラベンダー城下町にて

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「ただいまミルキーパンケーキが三十人限定で、半額の日だよー! あと残り、たったの三人っ。これを機会に、ぜひふわふわ甘パンケーキを試してみてはいか
がー?」

「今日のおすすめは、お隣の首都ユーシアンから仕入れた、今流行りのメープルシロップチーズサンドで一す! 甘いシロップと極上のチーズが合わさった、絶妙なハーモニーが体験出来ます!」

 ここはフォンテイン家の城下町である、ラベンダー城下町。賑わっている城下町を、ステラは一人で・・・歩いていた。──強盗なども、たまに発生する街なのに。

(普通、貴族の令嬢が町へ行くとなったら、護衛を三人はつけるよね……)

 護衛が三人だけなのも、はっきりいって少ない。伯爵家令嬢ならば、最低でも八人はつけるべきだ。
 ちなみに、ステラの護衛は0人。──論外である。

(私の姉とかが出かける際は、臨時でやとった護衛を二十名はつけるくせに)

 家族からの差別は、こんな所でも現れている。
 もちろん、護衛を私にもつけろっ! とは言わない。何度か襲われたことはあるが、本で読んで習得した護身術で上手く対処できているからだ。

(今日は、どんな仕事を押し付けられたんだっけ
一?)

 私は分厚い書類をパラパラめくりながら、城下町を歩く。
 書類の内容は主に、市場の価格調査と作物の出荷状況。……あとは、市場の治安や客層などの調査に使うものだ。
 これらは全て国に提出する用だから、丁寧に作らなければいけない。

(めんどー)

 どうして、城下町に来なければいけなくなったんだっけ? と考えると、ステラはすぐに思い出す。
 昼食で家族に宣戦布告した後自分の部屋で昼食を食べていたら、次男あにに呼ばれたんだった。

『お父様から伝言だ。フィレンシア王家から、これらの書類に書いてある項目にそって、調査をしてこいという手紙が来た。分かりやすく丁寧に、明日の朝までにまとねてこい』

 そう次男あには言うと、すぐに立ち去っていった。まぁつまり、面倒ごとを押し付けられたのである。しかも、国からの命令だから、失敗は出来ない。

(自分でやれよ! お前は一応、名ばかりだけど領主だろ!?)

 父に押し返したいが、それは出来ない。
 ──何故かって? これの提出期限は、三日後だからだよ!! 王家に送る時間を考えたら、明日には完成させないといけないのである。

(父がやっても、絶対に終わらなさそうだもん……)

 百枚近くある資料を見て、ステラは気が遠くなる。しかも、この資料が渡されたのは半年前らしい。

(早く渡せよ! こういう重要な書類は!!)

 仕方がないので、ステラはメインストリートから聞き込みに回ることにする。今日埋める書類は、城下町の治安や客層についての三十枚くらい。

 残りの生産量とかは明日、記録帳とにらめっこしながら終わらせるつもりである。
 やりたくないけど、我慢。徹夜でやれば、何とか終わりそうだ。

「──すいません。このラベンダー城下町に関する質問に、いくつか答えてもらってもよろしいでしょうか?」

 ステラはメインストリートに店を構えている女主人のうち、特に優しそうな人に話しかけた。
 ……男主人は怒らせたら怖いから、パス!

「あぁん? 役人があたしに何の用だよ? こっちは商売で忙しいんだ。ごっこ遊びなんかに付き合っている暇はねぇ。さっさと失せろ!」

 もっと優しそうな人に話しかけたらぁ? って思っている人、絶対にいるよね?
 違うんだよ! 本当に優しくない人は、無視してくるの! この女主人はめっちゃ優しい方なのー!!

「──そこをなんとか、お願いします。えっと、この店の商品をいくつか買いますので!」

 ちなみにここで女主人に金を握らせたら、私が捕まる。でも商品を買うくらいなら、まぁ──。
 うん、限りなく黒に近いグレーだ。
 よって、問題なし!

「ふーん……。それじゃあ、何を買ってくれるのかな? ──お前さん、金はあまり持っていなさそうだが」

 ですよねー。私やっぱり、伯爵令嬢に見えませんよねー。
 私が女主人に“私、これでもフォンテイン伯爵家の次女なんです!”って言っても、笑ってこう返されそうだもん。

 あっっは! お前さん、全然面白くない冗談をいうね。不敬罪で捕まっても、あたしは知らないよ。

 ──みたいな感じで。
 ま、とりあえず女主人の店で、何を買うか決めないと。予算は大体、10シリウスなんだよね。

「こちらのハーブオイルを5本、合計10シリウス買いましょう」

 出来るだけ背筋を伸ばして、はっきりとした口調で言う。──その方が、交渉で舐められることも減りそうだからだ。

「ふーん……。まぁお前さんは、それ以上お金を持っていなさそうだな。本来はその二倍は買ってもらうところだが──」

 意味ありげに間を置いたあと、女主人はにやりと笑って言った。

「今回はお前さんの活躍・・を期待して、6本・・でよしとしてやる。──良いか?」

 女主人の表情は、“今後うちの店をひいきにしてくれるなら” と語っている。──ステラを役人かなんかだと思っているのだろう。

「えぇ、もちろんです。お約束通り、ハーブオイルを5本・・買いましょうか」
「おやおや、6本・・も買ってくれるのかい。嬉しいねぇ」

 うっ、さろげなく6本を5本にしたのにバレた! 商人って何だか、手強いね……。




♢ ♤ ♧ ♡ ♢ ♤ ♧ ♡ ♢ ♤ ♧ ♡



 女主人に質問して答えてもらった後、ステラは路地裏へ入った。治安を調査するためには、商店街の色々な場所を調べなければいけない。

(えーっと、ここら辺にあるのは飲食店かぁ……)

 もちろん三年前の記録だが、今も残っていると信じておこう。──うん、五つあったのだから、一つくらいは残っているに違いない!!

「あっ、あった!」

 小さく呟いたステラの百メートルほど先には、小さな飲食店らしき建物。ちなみに道の途中にはかなりのガラクタやゴミが捨てられていて、歩きにくい。

(ここら辺の治安はDプラス、かな)

 ガラクタをけってどかしながら、ステラは進む。──うん、家族が行きたがらなかったのも納得だ。
 だからといって、私に押しつけるのも良くないと思うけどね!!
 でもゴロつきとかは別に出なさそ──。

(……っっっ!!)

「おいおいっ、嬢ちゃん。こんな所で一人歩き回っていたら、危ないぞぉー」
「そうだなぁ、オッチャン達が家に帰らせてあげるよう」
「おいっ、こいつ護衛をつれてねぇわ」
「え、まじで? それじゃさっさと捕まえるか」

 一瞬で、四人のゴロつきに囲まれた。──それは別に良い。こんなやつらは簡単に倒せる。
 ただ。
 ゴロつきはもう一人いて、小さな女の子の首にナイフを突きつけていた。女の子はブルブル震えている。

「その子を離してあげて下さい」

 私は両手を捕まれたまま、ゴロつきに言う。護身術を習っていたとはいえ、この状況はかなりきつい。
 女の子を守ったままコイツらを倒すなど、もってのほかだ。

「おいっ、こいつを縄で縛れ」

 はぁ、残念ながらお店を開くという夢は叶わなかったか。これからどうなるんだろう──。

「こんなところで貴族・・さらいとは、感心しないな?」

 ステラの目の前に現れた彼は──。
 百合の花の家紋とシルバーの髪が輝いていた。




♢ ♤ ♧ ♡ ♢ ♤ ♧ ♡ ♢ ♤ ♧ ♡


 毎度毎度、更新時間が変わってしまいすいません。
 次回は、来週の水曜日17時半頃に更新予定です!
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