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10章 理不尽との戦い

10-19 夜は明ける ◆ソイファ視点◆

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◆ソイファ視点◆

 帝国からの戻り道、デント王国の王都に寄る。
 と言っても、予定をデント王国側にもきちんと伝えていたので、俺たちがデント王国で勝手に動かないように、フリント女王が馬車の向かいを帝国との国境まで手配してくれていた、というのが正しいところだが。

「貴方まで顔を出さなくていいのよ?」

 馬車はデント王国の王都にある王城にも寄った。
 ソイ王国の王都まで馬車を出してもいいわよと言ってきた。
 俺が乗り続けるわけじゃないから、ありがたく受けておく。
 俺は見るもの見たら、空間転移魔法でソイ王国の王城に帰るので、俺に女王の嫌味が通じるわけがない。

 別に女王が国境封鎖しなければ、ソイ王国とデント王国には普通に国交がある。
 入国審査を適正に受けたデント王国の馬車がソイ王国の街道を走ろうと何の障害もない。

「面白いものは見逃し厳禁っ」

「貴方が何を言っているのかわからないわ」

 本当に困った顔をするのはやめてくれ。
 ここはフリント女王の執務室。この広い広い部屋に、他にいるのは女王の従者くんだけだ。

「最強の盾がー、帝国に残らなかったという時点でー、面白いものがー、見れるとは思いませんかー」

「はっ、そういうことねっ。お兄様はどこに行っているのっ」

 女王は従者に叫んだ。

 フリントはキュジオのことをお兄様と呼ぶことにした。
 デント王国の国民の皆様の頭上にはものすごい数の疑問符が飛んでいる。
 お兄様ならデント王国の国王になる人物なのでは、と。

 誰も直接、フリントに尋ねることはしない。
 ただ、赤い髪と似ている風貌が本当に兄妹なのかもしれない、と思われているようだが、慕っているという意味でお兄様だという可能性も残しておきたいらしい。
 キュジオはデント王国復興に尽力しているのだから。

 実際のところ、フリントもキュジオもデント王国の前のテオシント王国の王族の血を引き継いでいるだけだ。
 だからこそフリントはデント王国の正式な跡継ぎである王女リーフに女王の座を渡そうとしている。
 厳しい教育によって。

「キュジオ様なら今の時間なら訓練場で、騎士団の指導をしてくれています。って、行く気ですかっ。仕事がたまっているのにっ」

「ベルっ、仕事なんて寝る時間を削ればなんとかなるわっ」

 おおぅ、それは危険な思想だぞ。
 睡眠不足で頭がまわらなくなれば負のループに陥るぞ。
 とめないけど。

「見逃したら、一生後悔するわっ」

 そこまでか。
 この女王、意外と熱いぜっ。




 訓練場の観覧席。
 こっそり見に来たのだが。。。
 そこにいるデント王国の騎士の一人に声をかける。

「ねえ、アレ、どうしてああなっているの」

 お兄様VS最強の盾。
 訓練場で最強のカードが切られている。
 一応、二人とも木剣なのだけど、木剣の戦いではない。完全に魔法出てるよね?

「最強の盾殿がキュジオ殿に、約束した模擬戦ー、模擬戦ー、とねだりまして、渋々キュジオ殿が応じている次第です」

「ううっ、さすが最強の盾。胸きゅんの展開を望んだ私をこうも裏切るなんて」

 女王も期待を裏切られましたか。
 俺もです。
 今度こそ告白かっ?と思ったのに、戦っているとは。
 場所が悪かったかな?

 あの子も戦闘脳だよね、意外と。
 あのバーレイ侯爵家の一員だよねー。
 本人は否定したいだろうけど。

 うん。
 本人が楽しそうだからいいか。
 成人していないし、まだまだお子ちゃまでいいではないか。
 彼は子供らしくない幼少時代を過ごしてきたのだから。

「最強S級冒険者ぐらいの実力ないかなー、キュジオ殿はー」

「、、、お兄様はS級ぐらいの実力あると思うけど、最強クラスには入るかしらね?」

 言いたいことが伝わって嬉しいよ、俺は。
 フリントがキツイ目で俺を見ている。

「最強S級冒険者を使って、戦争でも終わらせたいの?」

 その通りだが。
 おそらく、ここで肯定してはいけない問いだ。
 彼女と俺の認識があまりにもかけ離れているからだ。

「災害級の魔物の討伐をしてもらう」

「あら、ソイ王国で?いえ、そうね、ちょっと待って」

 フリントが考え始めた。
 それはほんの数分のことだ。
 最強の盾と戦っているキュジオには相当長い時間だろうが。

「わかったわ。協力するわ」

 、、、何を?

「模擬戦は終了よっ」

 フリントは訓練場で高らかに宣言した。
 まだ戦いたいオルトがえーって顔をしているが、キュジオは助かったという表情を浮かべている。
 そりゃ、普通の神経を持っている人間なら模擬戦でもオルトと戦いたいと思う馬鹿はいないだろう。
 俺も遠慮する。夢幻回廊の中でも逃げる。

「お兄様っ、最強の盾っ、ご相談があるわっ。ソイ王国の冒険者たちも一緒にいらっしゃい」

 訓練場で模擬戦を遠巻きに見ていた野次馬、、、ではなくグジたち一行が動く。
 スレイは言われずとも、オルトとともについてくるだろう。
 今もオルトに飲み物を渡している。
 せめてオルトと同じ年齢なら良かったのに、とデント王国への帰途の馬車でブツブツ呟いていたスレイだ。
 だが、この分なら彼にもチャンスが巡ってくる可能性はあるのかもしれない。。。あるのか?期待を持たせるだけ不憫な気もする。

「せっかくの模擬戦だったのにー」

「死ぬ前に終わって良かった良かった」

 キュジオが震えているのだが。
 人類のなかでキュジオもかなり強い部類に入るのだが?
 最強の剣クリストともに訓練をやり遂げた人物だぞ。

 フリント女王の執務室に戻る。
 従者くんが書類を揃えており、予想より早く戻ってきたフリントを見て安堵している。
 その安堵はもう少し待っていた方が良いと思うよ。

「さて、お兄様、ウィト王国の第三王子親衛隊隊長の座に未練はあるかしら」

「未練?そんなものはまったくないが」

 キュジオはなりたくてなったものじゃないからなあ。
 身分が平民のままだから軋轢がひどかった。彼を推した最強の剣クリストはソイ王国との国境の街にいたため、キュジオのフォローが一切できなかったし、父親のバーレイ侯爵に頼むことさえしていなかった。
 けっこうアイツも好きな奴にひどいことしているよな。
 うん、クリストって最強の剣で顔が良くて地位が高くなければ、社会人として破綻している気がするなあ。

 幼い頃から一緒にいたキュジオがクリストに惚れるわけがない。
 その上、死ねと恨まれている気がしてならない。

「なら、隊長職をスパッとやめて、ソイ王国の災害級魔物討伐隊に加わりなさい」

「いや、ありがたいけど、最強の盾ほどじゃなくても最強S級冒険者十人ぐらいは必要なんだけど」

 今、やめられても討伐隊の人数が揃わない。
 キュジオならソイ王国で雇っておいても良いけど。

「ここにいるじゃない」

 ここにいるのは、フリント、従者くん、キュジオ、スレイ、グジ一行と最強の盾オルト。

「グジたちってS級冒険者だったっけ?」

「ソイファ王太子殿下、、、そんなわけないでしょう。俺がA級冒険者、他はB級、C級です」

「だよね。フリントがS級の実力者だとしても、、、そういや、なぜか皇帝の影ルイジィがオルトについてきていたけど」

 ルイジィは城下でお買い物をしている。
 復興に力を入れているので、デント王国での品揃えも以前とは格段に良くなってきている。

 ルイジィをそのままオルト担当にしたのは、帝国の皇帝も最強の盾をフラフラとさせておく気はない表れだろう。
 別れ際のアルティ皇太子が少々可哀想に思えたくらいだ。
 ただ、ルイジィはアルティ皇太子が皇帝になったときに正式に帝国に戻るという約束なので、まだ少し先の話だ。

 ルイジィを戦力に加えてもいいのか疑問に残るが。

「ま、ルイジィは加えなくてもいいわ。私が魔法を付与してあげる。最強S級冒険者が一時間ぐらい十人以上いれば充分よね」

「あ、俺の他に最強S級冒険者が現場に十人もいれば、討伐に十分もかからない」

 オルトが普通に戦力分析している。
 現場ってところがミソだね。

 フリントが使うのは魔法でのドーピングみたいなものか。
 、、、おそらくそれ相応の副作用もある気がする。
 数日間寝たきりになるくらいなら優しい方か。
 後方支援の体制も整えておくか。
 あの超災害級の魔物が倒されるのなら、彼らは英雄扱いされる。
 そんな彼らを戦地で放置しようものなら、王族は糾弾されかねない。

「、、、もしかして、フリントも来るの?」

「あら、友好国として視察に行ってはダメかしら」

 ニヤリとフリントが笑った。

「うちは大歓迎だけど」

 そこの従者くんが今にも泣き叫びそうな顔をしているのだけど。
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