上 下
201 / 207
10章 理不尽との戦い

10-15 理不尽な夜3

しおりを挟む
「なあ、オルレア、困ったことにこの話の落としどころがない」

「そうですかね?元々、理不尽なのは帝国側。魔物の一つや二つ落とされても文句は言えないでしょう。天罰なのですから」

「うん、だからね、帝国に魔物を落とす前提として話が進んでいるから困っているんだよ」

 俺は首を捻る。
 俺は帝国に超災害級の魔物を落としたいのだけど。

 ソイファ王太子殿下の意図がわからない。

「オルレア、帝国に魔物を落とさないためにはどうすればいいんだ?」

「さて、そんなこと俺に問われても?」

「天罰で押し通す気か」

 皇帝とアルティ皇太子が同時に声を上げた。
 さすが親子。仲良いな。

 ここはソイファ王太子殿下の夢幻回廊のなか。
 みーんな、囚われの身だ。自由に出入りできる俺以外。
 ソイファ王太子殿下が夢幻回廊にしてから数時間。話は平行線をたどる。

 ソイ王国陣はすでに後ろで、ソイファ王太子殿下が出してくれているお菓子をモシャモシャ食べている。
 それを何十枚も湧いて出てきている魔法の盾にも食べさせている。
 、、、魔法の盾が園児に見えてきた。疲れてきたかな?

 壁に等間隔に並んでいる帝国の護衛たちも羨ましそうに見始めた。

 すでにテーブルに並んでいるのは、ソイファ王太子殿下が出した酒や料理やつまみやお菓子だ。
 帝国の食事は気を抜くと、皇帝や皇太子の食事にも毒が盛られているので要注意だ。
 ソイファ王太子殿下が夢幻回廊で食事をしたがる気持ちもわかる。

 皇帝とアルティ皇太子は酒を飲み、つまみをつまんでいるが、正妃はお茶に口もつけない。
 元皇子のリューティは後方の席に座っており、魔法の盾にお菓子を強奪されている。。。
 やめなさい、たくさんあるのだから。。。

「え?自分たちは天罰が下らないとおっしゃってる???俺に対する仕打ちだけでも数多くあるのに?恐ろしいほどの回数ウィト王国に侵攻しようとしたくせに?」

「その度ごとに我が軍が壊滅的な打撃を受けたのだが」

「帝国の軍って何なんでしょうね。ウジ虫のように湧いて出て来る」

「せめて不死鳥のように甦ると言ってくれんかね?」

 皇帝の言葉に、俺も顔が変になっちゃった。
 オルレアは変顔なんてしない、、、わけじゃなかった。貴族学校に入ってからしていないだけだ。
 オルレアスマイルなんて貴族学校に入学してからだ。
 幼い頃から他人を馬鹿にして、鬼のような形相をしていた。

 たった一人で戦場に立たされるわけでもないのに。
 無理難題を父親から言われることもないのに。

「だから、帝国側も変な冗談を言わないでください。言葉遊びをする度に話が元に戻る」

 ソイファ王太子殿下が呆れたように言った。
 うーん、ソイファ王太子殿下もあの超災害級の魔物がソイ王国からいなくなってくれた方が良いと思うのだけどね。

「だってさー、ウジ虫なんて言われちゃ我が軍が可哀想じゃないか」

 ソイファ王太子殿下も半目になった。

「いい加減、疲れる」

「貴方、別に超災害級の魔物やらを落としてもらえばよろしいのでは?帝国の軍が対応できないわけが」

「お前は黙ってろ」

 皇帝陛下が一喝した。
 現実を見れない者がここで会話してもどうしようもない。

「けれど、ここまで膠着状態が続いて部屋に戻れなければ、睡眠不足はお肌の天敵。お肌が荒れてしまうわ」

 そもそも、お前が突撃しようとしなければこんなことにはなっていない、という全員からの視線は正妃にはどうでもいいようだ。
 皇帝よりもお肌が荒れてしまうことが怖いらしい。
 侍女に鏡を持たせて、自分を見ている。

「それに、イーティに捨てられたのに、この場にいることさえ厚かましい」

 この女性にどのような情報が渡ったのだろう。
 正妃はここにいるのが誰かわかっていて茶番を演じているらしい。

 俺は笑顔のままなのに。

「オルレア、正妃の実家はイーティの実家になるんだぞ」

「そんなことわかってますよ、ソイファ王太子殿下」

「実家を潰したら、イーティにだって被害が及ぶんだぞ」

「だから、わかってますよ。実家が潰れたくらいで、イー商会は傾きませんよ」

 正妃以外の全員が息を飲んだ。
 わかってないのは正妃ぐらいだ。

「もちろん物理的に壊滅させますから安心してください」

 らじゃっ、と帝国担当の大量の魔法の盾が消えていった。テーブルの上に二枚だけが残された。

「、、、魔法の盾はどこに行った?」

「正妃の実家とそれに連なる貴族、軍、商家その他諸々のところに。ま、局地的天災だと思ってくださればよろしいかと」

「人災じゃないのかね」

「皇帝陛下、それを言うならば俺に喧嘩を売った正妃に。その正妃をきちんと処罰されなかった責任者が引き起こした人災とも言えますね」

 それが人情だ、愛情だというならば、きちんと離宮に閉じ込めておくことも必要だ。
 彼女は外交向きではない。火に油を注ぐだけの人物だ。
 帝国至上主義の帝国らしい女性だと言えばそうであり、皇帝が惚れるだけある帝国女性だと言えるが、この場では傍迷惑なだけだ。

「責任は私だと言いたいのか」

「人を攻撃するのなら、攻撃される覚悟を。人を殺すのなら、殺される覚悟をお持ちください。帝国だけは別ではないのです」

「それを言うのなら、ウィト王国だって別ではなかろう」

「何を当たり前のことを。だからこそ、ウィト王国は自ら望んで戦いを仕掛けません」

 ウィト王国は完全なる報復で動く。
 だから、俺は同等の打撃を帝国に返す。

 皇帝が顎に手を当てた。
 目がアルティ皇太子に動く。
 帝国側はようやく何かを悟ったようだ。

「で、ここには何の情報もやって来ないが、外では酷いことになっているのか?」

 皇帝はソイファ王太子殿下に聞いた。

「どうなの、オルレア」

「正妃の実家の壊滅は終了しました。とりあえず人の命だけは奪っていません。もちろん金銀財宝類は炭にしておきましたし、人脈で繋がる屋敷や工場等も潰しました。後は闇や裏にいる関係者の拠点を潰すくらいですね。他国にある拠点もその国にいる魔法の盾が攻撃中ですよ」

「、、、早過ぎるが、そこまでの数がなかったのか?」

 ソイファ王太子殿下はまだ十分も経ってないのに、、、という顔だが、別に一枚の魔法の盾で攻撃しているわけではない。帝国担当は相当の数が帝国に散らばっているし、他国には他国の魔法の盾が大勢いる。
 おっ菓子ーっ、と叫んで攻撃している魔法の盾が一定数以上いるが。。。
 もちろん声は出ていないから、人には聞こえていない。

「いえ、正妃の実家は帝国一の皇族ですよ。本邸以外にも別邸が各地にありました。つながりのある家も多く潰し甲斐があるってものです」

 皇帝の顔が真剣なままなので、正妃がようやく顔色を変えた。
 今まで与太話としか思っていなかったようだ。

「どういうこと?」

「貴方は喧嘩を売る先を間違えたということです。というか、喧嘩はどこにも自ら売らない方がよろしいかと思われますが。ま、今さら後悔しても遅いですし、俺に復讐すると燃えたところで再興は難しいでしょう。帝国の他の皇族や貴族がこの好機を逃しませんから」

 帝国は皇帝のためには一丸となるが、他家同士の繋がりというのは政敵であればあるほど互いの足を引っ張る。
 皇帝がいなければ、帝国は空中分解してもおかしくない人たちの集まりである。
 だから、帝国には力のある皇帝が必要なわけだが。

「コレが身から出た錆というものか。まあ、妻の実家からは相当な額をすでにもらっておいて正解だったな」

 皇帝は頭を押さえるが、しっかりと計算しているようだ。
 すでに正妃には利用できるものがない。

「俺は理不尽には理不尽をお返しすることに致しました」

「ああ。だが、妻の実家には即時実行したにもかかわらず、超災害級の魔物についてはすぐに落とさなかったな。話し合いの余地はあるようだが」

「超災害級の魔物は俺の持ち物じゃないので」

「誰の持ち物でもないぞ」

 ソイファ王太子殿下が間髪入れずに答えた。
 厄介なものは他国に押しつけたいのは山々だが、封印が国境にある二か国はそうもいかない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

兄たちが弟を可愛がりすぎです

クロユキ
BL
俺が風邪で寝ていた目が覚めたら異世界!? メイド、王子って、俺も王子!? おっと、俺の自己紹介忘れてた!俺の、名前は坂田春人高校二年、別世界にウィル王子の身体に入っていたんだ!兄王子に振り回されて、俺大丈夫か?! 涙脆く可愛い系に弱い春人の兄王子達に振り回され護衛騎士に迫って慌てていっもハラハラドキドキたまにはバカな事を言ったりとしている主人公春人の話を楽しんでくれたら嬉しいです。 1日の話しが長い物語です。 誤字脱字には気をつけてはいますが、余り気にしないよ~と言う方がいましたら嬉しいです。

その男、有能につき……

大和撫子
BL
 俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか? 「君、どうかしたのかい?」  その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。  黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。  彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。  だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。  大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?  更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

幼い精霊を預けられたので、俺と主様が育ての父母になった件

雪玉 円記
BL
ハイマー辺境領主のグルシエス家に仕える、ディラン・サヘンドラ。 主である辺境伯グルシエス家三男、クリストファーと共に王立学園を卒業し、ハイマー領へと戻る。 その数日後、魔獣討伐のために騎士団と共に出撃したところ、幼い見た目の言葉を話せない子供を拾う。 リアンと名付けたその子供は、クリストファーの思惑でディランと彼を父母と認識してしまった。 個性豊かなグルシエス家、仕える面々、不思議な生き物たちに囲まれ、リアンはのびのびと暮らす。 ある日、世界的宗教であるマナ・ユリエ教の教団騎士であるエイギルがリアンを訪ねてきた。 リアンは次代の世界樹の精霊である。そのため、次のシンボルとして教団に居を移してほしい、と告げるエイギル。 だがリアンはそれを拒否する。リアンが嫌なら、と二人も支持する。 その判断が教皇アーシスの怒髪天をついてしまった。 数週間後、教団騎士団がハイマー辺境領邸を襲撃した。 ディランはリアンとクリストファーを守るため、リアンを迎えにきたエイギルと対峙する。 だが実力の差は大きく、ディランは斬り伏せられ、死の淵を彷徨う。 次に目が覚めた時、ディランはユグドラシルの元にいた。 ユグドラシルが用意したアフタヌーンティーを前に、意識が途絶えたあとのこと、自分とクリストファーの状態、リアンの決断、そして、何故自分とクリストファーがリアンの養親に選ばれたのかを聞かされる。 ユグドラシルに送り出され、意識が戻ったのは襲撃から数日後だった。 後日、リアンが拾ってきた不思議な生き物たちが実は四大元素の精霊たちであると知らされる。 彼らとグルシエス家中の協力を得て、ディランとクリストファーは鍛錬に励む。 一ヶ月後、ディランとクリスは四大精霊を伴い、教団本部がある隣国にいた。 ユグドラシルとリアンの意思を叶えるために。 そして、自分達を圧倒的戦闘力でねじ伏せたエイギルへのリベンジを果たすために──……。 ※一部に流血を含む戦闘シーン、R-15程度のイチャイチャが含まれます。 ※現在、改稿したものを順次投稿中です。  詳しくは最新の近況ボードをご覧ください。

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

すべてはあなたを守るため

高菜あやめ
BL
【天然超絶美形な王太子×妾のフリした護衛】 Y国の次期国王セレスタン王太子殿下の妾になるため、はるばるX国からやってきたロキ。だが妾とは表向きの姿で、その正体はY国政府の依頼で派遣された『雇われ』護衛だ。戴冠式を一か月後に控え、殿下をあらゆる刺客から守りぬかなくてはならない。しかしこの任務、殿下に素性を知られないことが条件で、そのため武器も取り上げられ、丸腰で護衛をするとか無茶な注文をされる。ロキははたして殿下を守りぬけるのか……愛情深い王太子殿下とポンコツ護衛のほのぼの切ないラブコメディです

処理中です...