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10章 理不尽との戦い

10-13 理不尽な夜1

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 この場にいる皇帝とアルティ皇太子が味方だと思ってはいけない。
 彼らは帝国の利となる行動をする。
 皇帝の正妃がどんなに失礼なことを仕出かしたとしても、ただ切ることしかしない。
 そういう国である。

「招きに応じてくれて嬉しいよ、ソイファ王太子殿下、オルレア殿」

「こちらこそお招きありがとうございます、皇帝陛下」

 堅苦しい挨拶はそこそこにして、この広く豪華な調度品に囲まれた部屋で、各々勝手にソファに座る。
 皇帝とアルティ皇太子が同じソファにかけているわけでもない。
 三人掛けのソファがそこかしこに並ぶ、謎の空間だ。
 皇帝には複数の妻がいるので、不思議ではないのか?

 ま、俺はソイファ王太子殿下の隣に座るけどね。
 ソイファ王太子殿下はとりあえず皇帝の向かいのソファに座った。

「オルレア殿は酒にするか?」

 皇帝に声をかけてもらったが、今日は楽しく酔える酒にはなりそうにない。

「本日は家族団らんのお茶会と呼ばれてきましたので、私はお茶をいただきます」

「家族団らん、ねえ」

 皇帝が意味ありげな視線をアルティ皇太子に向けた。
 アルティ皇太子は自分の母親も妻もこの場に同席させていない。
 アルティ皇太子は素知らぬ顔だ。ま、誰も好き好んで、自分の母親でもない正妃の矢面に立たせようとする者はいないはず。

 ん?
 まさか、帝国の家族団らんってそういう意味なのか?
 帝国では家族内でも戦いの場が家族団らんなのかっ?

「いや、違うと思うぞ、オルレア」

 ソイファ王太子殿下が顔も見ていないのに、俺の考えを読んだ。
 ふっ、さすがだな、ソイファ王太子殿下。義兄上だけのことはある。

「そうかな。当たらずとも遠からずだと思うけど」

「皇帝一家と、帝国の一般的な家族を同じにしたらいけない」

 、、、ソイファ王太子殿下も肯定しているじゃん。

 皇帝とアルティ皇太子の前には酒が置かれた。
 彼らにとってはどう転んでもいいと思っているのだから。
 自分たちの浅はかな考えを、後で後悔するがいい。
 
 飲み物と食べ物が客人に振る舞い終わったと同時に、部屋に数人が押しかけて来た。

「皇帝陛下、久しぶりに貴方に会いたくてこっそり来てしまいましたわ」

 頭も下げず、皇帝陛下にのみ擦り寄る女性が正妃。
 それがこの国の女性だ。
 他国の人間などどうでもいい。帝国だけがすべてだ。
 後ろには豪華なドレスを着こんだ女性が並ぶ。他の王妃ではない。

「ふむ、可愛いことを言っても、お前は離宮から離れられないはずだが」

「貴方がなかなか会いに来てくれないのですから、私の方から会いに来るしかないじゃありませんか」

「この城には多くの客人が来る。お前に友好的な者ばかりではないぞ」

 この皇帝は正妃に強く言えないのか?
 だから、金で解決されてしまったのか。

「そうね、友好的な者ばかりではないわね」

 ゾッとするような冷たい目を向けられた。
 帝国ならではの、敵対する者には容赦がない。

 そんな目を向けられても、ソイファ王太子殿下も微動だにせずに笑顔である。

「そうですね、我々は帝国に対して友好的であろうと考えていますよ、今は」

 貴方がたの行動如何によっては変わりますが、というソイファ王太子殿下のお言葉である。
 彼らにとってこの皮肉もどうでもいいのだろう。

「私も意志の強い方は嫌いではありません。ただ、我々に敵対されるという意志が強いのならば、この場にいるのはふさわしくないと思いますが」

 皇帝に排除しろ、と暗に伝えてみた。
 まあ、無理だから、この場を設けたのだろうが。

「ふふっ、皇帝陛下に会いたいのは私だけではありません。貴方の息子もです」

 そこに現れたのは第八皇子リューティ。
 正妃は堂々と貴方の息子と言った。
 部屋に入ってきたリューティは困惑の表情を浮かべている。
 それもそうだ、血のつながった息子ではないのだから。子に罪はなしと正妃の子、皇族として生きる機会を得ただけなのだから、皇帝と養子縁組もしていない。

「ははは、帝国では真に強い者が皇帝となる。それだけだ」

 俺が考えていたより帝国の皇帝は家庭内で立場が弱いのかなあ。
 不倫されて自分の息子ではないと証明されているのに、そのおかげで跡継ぎ争いに負けても皇太子の奴隷にもならずに生き長らえさせたのに、皇帝は正妃に何も言えないのか?

 可哀想。

「何か言いたいことでも?」

 皇帝が俺に向かって聞いた。

「、、、ここの護衛もなぜ正妃を取り押さえないのかと」

「あら嫌だ。野蛮な考え方をされる方なのですねえ。これだから異国民は」

 正妃が扇で顔を隠しながら、横目で俺を見る。
 異国民。
 帝国至上主義が帝国以外の者を蔑視して使う言葉である。
 友好を掲げて帝国に訪れたものに使っていい言葉ではない。

「そうですねえ、我が陣営以外誰も気づいていないようですのでお伝え申し上げますが、皇帝陛下も皇太子殿下もこの場にいる他の者もすでに十数回はその方に殺されてますよ」

「は?」

「え?」

「まあ、爆破が成功していても、もちろんソイ王国側の者は私が護りますが」

 ニッコリにこにこオルレアスマイル発動ー。
 仲間には俺が何を言っても反応するなと言っている。ソイファ王太子殿下も緑の魔法の盾を使って、何言っちゃってるのーっ、と騒いでいるが、顔は涼し気なイケメンだ。

「オルレア殿、我々が貴方に命を助けられたとでも?」

「そうですね。命の恩人になりますね。帝国の方々は恩を仇で返すので、恩返しはいりませんよ」

「何を言ってらっしゃるのかしら、この方は。あきれてものも言えませんわ」

 きちんと言っているじゃないですかー。じゃあ、黙っておけって話だ。
 正妃はそれでも何度も押している。
 顔には出さないが。後ろの女性に苛立ちを伝えている。

「これもまた一応お伝えしておきますが、貴方がお連れになった魔導士では貴方の身は守れませんよ。リューティ殿の威力が上です」

 正妃の後ろで立っている大勢の女性は魔導士。
 すべて正妃を守るためだけに陣を張っている。
 正妃の斜め後ろでまだ立ったままのリューティの表情が強張った。

「は、母上、まさか」

「敵国の者の言葉など聞かなくていいのよ。現に今、何も起こってないじゃない」

 友好のための一団として来ているのに、敵国と言うのか、この正妃は。

「ええ、以前、皇帝陛下一同がウィト王国にお越しいただいた際も第八皇子の何百回も起爆スイッチを押し続けていたのですから。皇帝、皇太子になるべき息子たちがすべていなくなる最適な条件でしたからね。ついでにウィト王国の王都が吹き飛ばして責任を押しつけ攻め入ろうとしたのでしょうけど」

「この方は妄想好きなのかしら。証拠もなしに正妃に物を申すなどと大それたことをされるのね」

「証拠があっても揉み消すことが好きな国家でしょう、こちらは。それに妄想好きなどと根も葉もないことを言われたのはどなたの口でしょう」

「あら、ソイ王国は我が帝国に喧嘩を売る気なのですか」

 正妃の唇がつり上がった。

「おや、喧嘩を売ったのは帝国の間違いでしょう。ここに本来離宮に幽閉されているはずの場違いな女性が来ているのですから」

「オルレア殿、」

 ソファから立ち上がったのは、アルティ皇太子だ。

「私は、帝国が喧嘩を売っていると言ったのですよ、皇帝陛下」

 俺は笑顔のままだ。

「もし、正妃を下がらせないままでいたら、どうする気だ?」

 皇帝の顔にはまだ余裕がある。
 この場に、俺の身柄があり、仲間がここにいるから、人質にでも肉の壁にでもできると思っているのか。

「我々は何もしませんよ。ただ、超災害級の魔物がこの帝都で暴れるだけで」

 超笑顔で俺は答える。

「、、、オルレア」

 口に出して俺を呼んだのはソイファ王太子殿下。
 質問は緑の魔法の盾を通して念話でしましょうよー。

「まさか、他国に恨まれてもってヤツかっ」

「そう、帝国の場合は因果応報だからいいんじゃないか?俺、いつか仕返しをしたいと長い間思っていたんだ。コレがこの好機」

「オ、オルレア殿、その超災害級の魔物って何だ」

「災害級の魔物と言ってもその強さは千差万別じゃないか。その中でも最たる強さを誇る魔物ってことだよ」

「さ、最強の盾は災害級の魔物まで召喚できるのか?」

「何を言っているんだ、皇帝陛下。急に湧いて出た超災害級が間違って帝国に落ちてしまうだけだ。さすがに巨体だから、私にはどうしようもない。その間に帝国は崩壊しているのでしょうねえ」

 皇帝以下帝国陣営の顔色が変わった。
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