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10章 理不尽との戦い

10-11 もし誠実だったのならば ◆イーティ視点◆

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◆イーティ視点◆

 もう少し私にも魔法が使えていたのなら、オルトのことを理解できていただろうか。

 ソイ王国のソイファ王太子、彼はオルトとともに仲良く同じ馬車で登場した。
 オルトは最初にウィト王国の学校で出会ったときと同じく、双子の姉オルレアに扮していた。
 オルレアの婚約者なのだから一緒にいるのは仕方のないことで、皇帝の影のルイジィからもそのような連絡を受けていた。

 隣にいるのが自分ではなくて悔しい。
 それが彼ら二人を見たときの感想だ。

 オルトがオルレアに扮しているため、婚約者なのに会うのさえ彼らの動向を窺う必要がある。
 弟アルティの動きが邪魔したが、使いの者が上手く誘導してくれた。
 しかし、オルトの口から直接伝えられたのは別れ。
 婚約解消だった。

 そして、今、目の前の男から渡されたのは、オルトに贈った婚約指輪。

「ソイファ王太子殿下、貴方は私より後にオルトとの出会いがあったように思っていたが、実は幼い頃に知り合っていたのか?」

「へ?」

 今まで営業スマイルだったのに、素で不思議がられた。

「いや、実際の出会いはイーティ殿より遅いぞ」

「では、貴方の性格なのか。オルトがここまで懐深く入れるのも珍しい」

 手には返された婚約指輪。コレを預けるということはオルトに信頼されているということだし、王太子だから高額の代物でもすんなり返すと思っていたからこそだ。

「ははは、ここに来るまでにいろいろあったからなあ」

 多少乾いた笑い。
 やらかした後であっても、オルトが受け入れてくれているのであれば羨ましい。

「貴方とは対等な関係を築けているということか」

「、、、そもそも、俺たちは対等ではないぞ」

 何を言ってんの、って顔をしているが、、、キミが、要約するとオルトとは対等な関係を築けってことを言わなかった?
 空耳だったのかな?

「では、なぜそんな短期間に仲良くなれたんだ?」

「義兄弟だからな」

「、、、は?」

 私の笑顔が固まった。
 オルレアの婚約者だから、結婚すれば確かにそうなる。
 そして、義兄弟の関係が対等かというと対等ではないだろう。義理でも兄と弟なのだから。

 が、オルトにとってそんな肩書が何の意味があるのか。

「は?」

「二度も言わなくとも聞こえている。だがしかし、この点に関しては説明しない。永遠に悩め」

 この男は悩むほどの価値もないことだと言っているようだが?
 オルトは家族に何の期待もしていないと思っていたが、あの家族に対して、ということだったのか。
 新しい関係を結ぶ家族はまた別の縁か。

「確かにオルレア殿と結婚すれば、貴方はオルトに対して義兄となる。けれど、オルトはそれだけで無条件に心を許すだろうか」

「ソウダネー」

 答える気は本当になさそうだ。
 私に贈ってくれた魔法の盾の指輪だが、オルトが魔法の盾を贈るということ自体は特に珍しいことではないようだ。
 ルイジィからの連絡によると、オルトはキュジオ、リーフ王女、そしてこのソイファ王太子に小さい魔法の盾を渡している。
 ソイファ王太子は自ら要求したということだが。

 テーブルの上のお菓子を、何枚もの魔法の盾がもぐもぐと頬張っている。
 、、、数がどんどん増えていっているが、どれだけもらったんだ?
 これがオルトからの信頼の証なのだろうか。
 お菓子で餌付けしているようにしか見えないところもあるが。。。

 私を見るより魔法の盾を見る目が優しいので、こちらが素なのだろう。

「言い訳にしか聞こえないと思うが、私は帝国の跡継ぎ争いで死ぬ可能性の方が高かった。それでも、抱いてほしいと望む女性がいたから抱いた。死ぬのならせめて子を、と思ったのだが」

 ソイファ王太子の目がごくごく普通のものに戻って私を見た。

「イーティ殿、貴方は年齢が年齢だし、死ぬ前に子を成しても良いと思える女性がいたということは幸いだ。それは責められることではない。けれど、貴方は帝国の皇太子にならないという意味をもう少し深く考えるべきだった」

「ああ、本当にそうだ」

 オルトに婚約を望んだのは本心からだ。
 いずれバーレイ侯爵家によって婚約を解消するものであったとしても、もう一度結婚を申し込もうと思っていた。

「一応言っておくが、貴方が直接的にその女性や子に手を下さなくとも、もしものときは一生オルトの信頼をなくす。そのぐらいのことはわかっていると思うが」

「ご忠告ありがとう」

「ご忠告ついでに、その指輪は外すな。血のつながった弟の第八皇子、もう皇子ではないが、そいつから身を守るためには絶対に必要だ。そいつが意図しなくとも。オルトが作った物を無下に扱うな」

「、、、オルトに聞いたのか?」

「いいやー、このぐらいの情報ならうちの諜報員でも集められる」

 ソイファ王太子は口の端で笑った。
 その顔嫌いと言わんばかりに、多くの魔法の盾がペシペシとソイファ王太子を叩く。
 どこからともなく大量のお菓子がテーブルに降ってくると、魔法の盾が喜んでソイファ王太子から離れる。

 ソイファ王太子の目がそれでも淀んでいる。

「、、、俺はその指輪を預かるまで、その指輪の実物を見たことはなかった。オルトが手袋をしていたせいもあるが、誰にも見せなかったのは誰にも奪われなくなかったのだろう。それほど大切にされてきたのにな」

 呆れている。
 帝国の皇帝になる気がなかったのなら、初めから女性に手を出すな、と。
 もしも皇帝になれていたなら、と考えるだけ無駄なことである。

 それでも、あのときはその選択肢しかなかった。
 だからこそ、オルトも。




 私はソイファ王太子に会いに行って正解だった。

 ソイ王国のソイファ王太子について調査結果は、そこまで良いものではない。
 笑顔で他人の懐に入り込むのに長けた人物。

 そして、人を利用する。

 ソイ王国自体がそこまで高評価の国ではない。
 戦争国家であるため、イー商会の進出はそこまで進んでいない国だ。
 だからといって、帝国のようにどこの国でも喧嘩を売っているわけでもなく、南方の国と延々と戦っている。
 領土拡大とは別の思惑があるとしか思えない戦争の仕方だ。

 彼にとって私とオルトの婚約が破談になった方が好都合だろう。

 オルトには後ろ盾がない。
 ウィト王国もバーレイ侯爵家も彼を捜し出せない。
 そして、オルトはいつか私の元にやって来ると思っている。
 帝国にも何度も手紙が来ているから、商会等の伝手を頼っていろいろと画策しているようだが、諜報員など養成してない国だ。どうにも拙い。

 彼らも、オルトがオルレアとして正式にソイ王国の親善の一団として来てしまえば、おいそれと手を出せない。
 本物かどうか確認する術を持たない。
 ソイファ王太子殿下はオルレアの後ろ盾になっているようで、オルトも守っている。
 武力では誰もオルトには敵わない。
 けれど、権力では搦め手を使うこともしばしばだ。

 国が絡んでくる場合、オルトは国を壊滅させることもできるが、平和裏に進めるためには権力も必要だ。

 本当はその役割を私がしたかったのだけど。
 手紙に書けば良かったのか?
 正直に話していれば?
 それでも、オルトの決意は変わらなかったように思う。

 私が皇帝の実子ではない証拠だ。
 皇帝はどれだけ妻たちの元に通っても子ができなかった。
 運よく第六皇子アルティだけが血のつながった実子だった。
 皇帝の血はあまりにも濃くなり過ぎて、弊害が生まれている。
 それは子が産まれにくいこと。

 おそらくそれはアルティにも受け継がれている。
 どれだけ多くの皇妃を娶っても、皇子が産まれる可能性は限りなく低い。
 皇妃たちが他の男性と関係を持たなかったなら、跡継ぎ争い自体が存在しなくなる可能性は高いのだ。




 私は首を横に振った。
 そういうことではない。
 オルトはただ誰か隣にいてほしかった。それだけだ。
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