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10章 理不尽との戦い

10-1 締まらない

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「オルト様、帝国に向かう気はないのですか?」

 ルイジィがいつもの笑顔ではなく、真剣な表情で聞いて来た。

 今、デント王国の王城にあるフリント王女の執務室にいるのは、部屋の主であるフリント女王、キュジオ隊長、スレイ、ソイ王国のソイファ王太子、愉快な冒険者仲間グジたち十三人が集合している。
 キュジオ隊長たちはデント王国から一時撤退していた冒険者ギルド上層部との話し合いもした上に、デント王国内に増えた魔物をある程度一掃した。その報告がてら王城に戻ってきたところだ。

 ここにいる者たちは全員俺がオルトだと知っているからこそのオルト様呼びである。

「一応向かう気はあるが、デント王国の諸問題を放置して行くのは心苦しいとは思わないか」

「、、、そうだよなあ、オルが嫌がらせした張本人だからなあ」

 と、キュジオ隊長。

「これらの件はオルぐらいしか処理できないから仕方ないんじゃないか」

 と、スレイ。
 長い付き合いだからよくわかってらっしゃる。

「ルイジィ、心配しなくてもデント王国からしっかり報酬をもらっている」

「そちらを心配しているわけじゃないです」

 珍しくルイジィが負の感情を態度に表している。
 口をとがらせている。
 皆、珍しいものを見ているという目だ。

「最強の盾、確かにもう少し手伝ってほしいという気持ちは強くあるわ。貴方がこんなにも有能だとは思わなかったもの」

 おや?俺も脳筋か戦闘民族だと思われていたんですかね?
 ま、第三者から見れば、俺もあの一族の一員だからな。
 フリント女王は書類を横に置いて、しっかりと俺を見た。

「けれど、宗教国家の聖騎士隊もこの国を調査して帰途に着いたし、報酬分は充分に働いてもらったわ。帝国で何か予定があるのなら、私も貴方の意志に反してここに留めておこうとは思っていない。何かあったら今後も手を貸してほしいとお願いするでしょうけど」

 宗教国家の聖騎士隊の話はオルレアとして対処したので割愛。
 自分の正義を振りかざしてデント王国にわあわあ言っていたが、証拠となる魔力の残滓すら一切出なかったので、特筆することもない。すごすご自国に帰っていった。
 ヤツらとはもう二度と会いたくないが。

「正式なご依頼でしたら、今後ともありがたくお受けいたしますよ」

「オルト様、フリント女王陛下もこう言っていただいていますし、早速帝国に参りましょうよ」

「何でそんなに強く帝国に行くことを勧めるんだ?」

 スレイの目が据わり、一段声を落としてルイジィに尋ねた。
 皇帝の影ルイジィが帝国に行くことを勧めるのは裏があるようにしか見えないのだろう。

 答えないルイジィに。

「帝国がやましいことを考えているから理由も言えないのか。そんな国に行ってオルが幸せになれないなら、オルがわざわざ行く必要はないだろうっ」

 スレイの声が大きくなる。
 俺が帝国に行っても幸せにはなれない。
 それは確かだろう。

「、、、イーティ様が」

 ルイジィが言い淀むなんて相当なことだ。

「イーティが?」

「イーティ様が早くオルト様を連れてこないと、皇帝と皇太子の仕事をボイコットするぞと脅すんです」

「、、、ルイジィを?何で?」

 脅すなら皇帝と皇太子を脅せ。

「イーティ様が仕事をしなかったら、アルティ皇太子が城から逃げ出すじゃないですかっ。坊ちゃんは甘やかされて育ってきたのですからっ」

「超甘やかした張本人が何を言う」

「オル、本心が口から漏れてるぞー」

 おおっとキュジオ隊長が指摘してくれた。
 うんうん、確かにルイジィを脅すには良い手だ。ルイジィは坊ちゃんのためなら何でもする皇帝の影だ。

「それなら、残務を片付けて三日後辺りに帝国へと出発しようか」

 俺は皆に提案した。メンバーがそろっているからちょうどいいか。

「馬車を出すわよ」

「ありがとうございます、フリント女王陛下」

「帝国との国境にこちらの馬車を手配させます。ようやくイーティ様に具体的な日程を報告できます」

 、、、ルイジィ、ほんの少し涙ぐんでないかい?
 そこまで圧を加えられてたの、イーティに。

「俺への手紙にはそこまで書かれてなかったけどなあ」

「そうですね。あの人もオルト様には良い格好をしたいお年頃なので」

 何それ?

 冒険者仲間のグジ一行とスレイはこれからの旅の準備をするために部屋から出ていった。
 魔物退治しながら行くのはいつものことだ。

 ルイジィも帝国に連絡するために部屋から出ていった。

 従者くんが執務室に戻ってくる。

「キュジオ隊長はどうするの?ウィト王国に戻るのか?」

「あー、いや、俺はもう少しだけこの国にいる。オルたちが出発しても、この国がどうにかなっているのを確認してからウィト王国に戻ろうかと」

「、、、兄上に何か連絡する気ある?」

「いや、まったく」

 キュジオ隊長の表情が強がりでも何でもないので、気を使おうとしたこちらの方が困る。

「じゃあ、しばらくはその赤い魔法の盾を待ったままでいてくれ。魔法の剣のピアスを休眠させたままになる」

 キュジオ隊長の目が俺をとらえた。
 キュジオ隊長がウィト王国に戻るまではそのままにしておく方が良いだろう。

「そんな効果があったのかっ」

「俺との連絡用でもあったけど、そのピアスは兄上に居場所や状況を筒抜けにするし、通信もできるしまうから、今回は邪魔されないために、それらを全て抑えておいた」

 キュジオ隊長の居場所が知られなければ、兄上がデント王国に飛んでくる危険性もない。
 俺の結界を壊される危険性もない。
 迎撃をする準備はあるけど、最強の剣にやり過ぎということはない。

「なあ、オル、この赤い魔法の盾、ずっと俺が持っていていいか?」

 ずっと、って。

「そんなに嫌ならそのピアスを兄上に外してもらうのが最善な気がするけど?」

「アイツには外す気がない。俺には外す術がない」

 兄上とキュジオ隊長ってどんな関係なんだ、本当に。

「いいなあ、いいなあ、赤い魔法の盾ー。特別感があるー。俺も欲しいー」

「、、、ソイファ王太子殿下」

 魔法の盾を欲しがるな。
 本来の目的である自分を守ってもらうためでもないし、俺と連絡が取りたいというわけでもない。ただ、ペット扱いしたいがためだけに欲しがる他国の王太子。
 普通はペット扱いするために魔法の盾は欲しがらないぞ。

「というか、ソイファ王太子殿下には五枚以上専属がいるでしょう」

「以上?あの五枚はほとんど夢幻回廊にいるしぃー、オルレアの監視役じゃーん。俺も襟元にくっついてくれている魔法の盾が欲しいぃー」

「駄々っ子ね」

 呆れたようにフリント女王陛下が言った。

「ええーっ、フリントだって欲しいと思っているくせにー。超可愛いんだよ。お菓子を食べている姿なんてさあー」

 と言って、キュジオ隊長の襟元についている赤い魔法の盾にお菓子をやろうとするな。
 キュジオ隊長も外して机の上に置くな。
 餌付けするな。
 夢幻回廊にいる魔法の盾より小さいサイズだが、自分より大きいお菓子を食べていく。

「口があるかどうかもわからないのに、なぜか徐々にお菓子が消えていく。もぐもぐと動く五角形。謎が深まる可愛い存在っ」

「はいはい、、、あら、可愛いわね」

 フリント女王陛下もキュジオ隊長もお菓子を上げだした。
 俺のそばにいた魔法の盾たちも我も我もとお菓子のそばに駆けだす。

 、、、魔法の盾を堪能しましたか?
 お前らもお菓子もらえて良かったな。

「ねえ、最強の盾、魔法の盾を一枚融通してもらえないかしら」

「ほらー、欲しいと思うでしょう」

「私ではなく、リーフに。あの子を守る術として。もちろん報酬は差し上げるわ」

「俺が死んだら、魔法の盾も消えてなくなりますよ」

「ええっ、そんなっ」

 なぜ、ソイファ王太子殿下が叫ぶんだ。。。
 魔力が残っていたら多少は姿を保っていられるだろうが、俺の魔力をすべて失ってしまえば。

「それでも、お願いしたいわ」

「俺は俺自身のための魔法の盾をお願いしたい」

 ソイファ王太子殿下のせいでどうやっても締まらない。
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