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9章 理想と現実と、嫌がらせ

9-23 惨状の後始末1

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「なあ、お前たち、徹夜してまでこんなところで戦っていた理由は何だ?」

「もちろんイーティ様の婚約者に変な虫を寄せ付けないためです」

「喧嘩を売られたから買ったまでだ」

「、、、そうか」

 スレイの返答はその通りなのだろうが、ルイジィの答えは真実なのか?
 考えてわからない回答は、考えるだけ時間の無駄だろう。

 何で俺がとめるまで喧嘩し続けていたのか。
 ルイジィの思惑はルイジィにしかわからない。日記にでもその理由を吐露してほしいよ。ルイジィは日記なんか書かないけど。

 そもそも、ルイジィはイーティに仕えていない。
 イーティからの手紙はルイジィから手渡されるが、ルイジィが転送の魔道具を持っているからだ。
 帝国との連絡用で、手紙や書類のやり取りができる程度の代物だ。

 スレイとルイジィは王城の近くの大通りで一晩中喧嘩していた。
 時計塔がある広場からもすぐそこだ。
 うるさいとは確かに思っていたが、殴り合いという派手な喧嘩ではなく剣での静かな戦いだ。
 騒ぎにならなかったのは、もっと大きな騒ぎがあったからだ。国中で。
 ただの喧嘩なんてかまっている暇がデント王国の国民にはなかった。

 そして、今はたいていの者が家に帰って寝ている。
 亡霊たちが朝日とともに綺麗に消えたのを見て、ホッとしてから。
 今、何も影響せずに普段通りの日常的な活動ができるのは、亡霊騒ぎなど知らずにぐっすり熟睡して周囲が大声で騒いでいても起きなかった猛者だけだ。
 わりとそのような図太い神経持ちが一定数いるのが怖い。
 デント王国国民、恐るべし。

「ま、スレイにも良い訓練になったんじゃないか。ウィト王国にはこーんな戦い方するヤツとは戦う機会がないだろ」

「確かにそうだが、喧嘩を売られた意味がわからない」

「、、、だよな」

 先程の答えが真実だと、スレイも思っていないようだ。
 スレイにもルイジィにも怪我はない。服が多少汚れているが。
 お互い手を抜いていたわけでもないのに。
 一晩戦っていたはずなのに、お互いケロっとしている。
 コイツらは一晩程度なら戦い続けても問題ないくらいの訓練を積んでいる。

「で、スレイはこの後どうするんだ?」

「オルについていきたい」

 即答された。
 スレイが関係ないのにわざわざこの国に来た意味。

「十五人も十六人も変わらないか。ルイジィ以外は皆、冒険者だ。俺たちは魔物や盗賊の討伐して金を稼いでいるけど、お前はどうする」

「オルのそばにいられるのなら、俺も冒険者になる」

「それはそれは残念ですねえ。今のデント王国では冒険者ギルドは一時撤退しておりますから、冒険者登録はできませんよー」

 ニヤニヤ笑顔のルイジィがいた。
 何だろう。
 ルイジィはスレイが一緒に行動するのは嫌なのだろうか?
 十三人のソイ王国の冒険者仲間もいるのに?

 スレイがウィト王国の者だからだろうか。

「スレイ、冒険者ギルドに登録するのは、デント王国に冒険者ギルドが復活するか、俺たちが他国に移動してからでも遅くない。気にするな」

「ところで、兄ちゃん、この後どうするんだ?帝国に行くのか」

 グジが尋ねてきた。
 一応ギルに余分に作ってもらった朝食を二人に渡す。残りの皆は時計塔で泊まったのでお片付けをしている。
 スレイはすぐに包みを外し、サンドウィッチを頬張る。

「いや、さすがに後始末しないといけないだろ。亡霊は成仏できたと言っても、魔法陣は下手に残しておくと厄介だし、長年の爪痕が色濃く残っているからなあ。キュジオ隊長がこの国にいる間にいろいろ後始末しておいた方が後々問題にもならない」

「オルは元気そうだね。朝までしっかり寝れた?」

「俺たちは野営時と同じように見張りをたてながら交替で寝ていたぞ。魔法の盾は亡霊たちの話を聞いていたようだが」

「想像に難くない」

 スレイは俺の魔法の盾を良く知っているから想像しやすいのだろう。
 アイツらはお茶とお菓子があれば喜んで永遠にダベっていられる。今のアイツらはソイファ王太子殿下の夢幻回廊担当が羨ましい、が合言葉である。

「ソイ王国にはアンデッド系のダンジョンはないからなあ。時計塔に閉じ籠っていたからといって、俺はキミたちが情けないとは思わないよ」

「、、、ソイファ王太子殿下、なぜここに?」

 急に現れて、オーバーアクションするな。
 噂を口にすらしてなかったのに。
 単独での空間転移魔法が得意と言っても、王太子が他国に一人で出入りするな。密入国だぞ。

「だからといって、亡霊が辺りにいて周囲が助けを求めているのもかまわず、喧嘩していた二人を称賛することもしないけど」

「オチをつけるな」

「ま、隣国だから対応が迅速にできるんだ。冒険者ギルドにも国境封鎖の解除を連絡しておいた。それに宗教国家の聖騎士隊が動くようだから、時間稼ぎ程度の手は打ってあげたけど、この国に調査には来てしまうだろうね」

「それ、デント王国の当事者がいないところで、その件を話しても意味ないでしょう」

「えー、後始末するって言うから教えてあげたのにー。聖騎士の方はさっさと動いておかないと厄介だよ」

「ああ、それもそうだな」

 じゃ、ちゃっちゃとやっちゃうか。
 えいっ。

「って、すぐに後始末しちゃった最強の盾が怖い。デント王国の国中にも伸びていた魔法陣が綺麗になくなった」

 遠い目をするソイファ王太子殿下。
 さっさと動けって言ったのは誰だよ。
 証拠隠滅は早急に。

「まあ、兄ちゃんですから」

「納得するな、慣れるな、非常識から」

「人が少ない内に何もかもやっておいた方が無難だなー」

「やだわっ、この子。二人が崩壊させた大通りをあっさり修復したわよっ」

 ソイファ王太子殿下、オネエ言葉にしても可愛くありませんよ。

「目撃者は少ない内に。昨日のことを夢でも見たのではないかと、物証は残らないように」

「大通りを切り刻む前にとめればいいのにっ」

「亡霊たちに追われて逃げ惑っている人々のなかを掻き分けて行くのはちょっと」

「、、、キミってそういうところあるよねえ。それでも、大怪我しそうだったら魔法の盾を出動させる気だったでしょう」

「いや、大怪我はしないんじゃないか。スレイは俺の魔剣を持っているし」

 ソイファ王太子殿下が自分が言いたかったことと違うという目をしたが。
 そこでスレイが俺を見た。

「この魔剣、ソニア嬢が預かっていたんだけど、道中は俺が持っていた方が有効活用できたから、俺が持っていた」

 はい、とスレイが頑固爺ルイジィ魔剣を渡そうとする。

 んー、どうしよう。二本も魔剣を持っていても仕方がない。
 俺は二刀流でもない。
 このままスレイが持っていてもらった方が好都合。
 スレイと妖艶マイア様魔剣の相性も悪くはなさそうだけど、、、妖艶マイア様魔剣が手玉に取りそうだ。
 頑固爺ルイジィ魔剣の方がスレイと息が合う気がする。

「スレイ、しばらくこの魔剣預かっていてくれるか」

「え、」

 不思議そうな顔のスレイと、完全に傷ついた表情の魔剣。
 いやいや、魔剣がそこまで傷つくことある?
 持ち主なんて長い人生コロコロ変わっていたでしょ。

「スレイは一緒にいる大切な友人であり仲間だ。守ってほしいし、成長も促してほしい。それを頼れるのは他にはいない」

 これは魔剣に言った。
 魔剣の機嫌を取らないといけないなんて、世の中って不思議だな。

 しっかたねえなー、と魔剣は超ご機嫌になった。頼れるって言葉が響いたようだ。

 それを感じ取っていたルイジィが微妙に泣きそう。
 ここまでルイジィは単純ではないと思いきや、皇帝やアルティ皇太子に対してはここまで単純な男なのである。
 それ以外はテコでも動かない。非常に頑固な思想をお持ちだ。
 表面上は柔軟に従ったように見えても。

 恐ろしいほどソックリじゃねえか。
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