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9章 理想と現実と、嫌がらせ
9-6 目的地に到着しません
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「あのー、最強の盾殿ですよねー?」
血しぶきがついた白い馬車が俺たちの前に現れた。
真っ赤な血ではなく、色はかなり赤黒くなっている。
グジたちがそれを見て引いている。
コレが空飛ぶ馬車なんだけどね。
女王がいないから、普通に地面を走ってきた。
御者席に座っているのは青年男性である。
返り血なんてついていない綺麗な衣装である。
「違います」
「ええっ、違うんですかっ」
俺がスッパリサッパリ否定したらものすごい驚かれた。
ええっと、この人誰だっけ。
初対面なのだから、まず自己紹介しろよ。
記憶、記憶っと。
、、、確か、フリント女王のそばにいる従者だったはず。
顔の記憶が非常に朧気で怪しいが、フリント女王の空飛ぶ白い馬車を貸し出してもらえるのだから間違いない、と思う。
強烈な人のそばにいる人物って、単体で見るとなかなか思い出せない。
二人ワンセットで覚えているから。
「私はバーレイ侯爵家長女オルレア・バーレイです」
キラッキラなオルレアスマイルを浮かべてあげた。
この国にいる間はオルレアに扮しているので、ずっと長いつけ毛をつけたままである。
「、、、ああ、はい。そういう設定になっているのですね。誰だって密入国者にはなりたくないですものね」
「いえ、出入国管理事務所の職員に女王陛下の命により入国させていただいたので、我々は密入国者ではありません。ただ、貴方の国のご対応により武力行使せざるえなければ、我々が今後この国に出入り禁止になってしまう事態はあり得るのかと思いますが」
「あくまでも我々の対応次第だと?」
「私は平和主義者ですので」
どうも、この従者とルイジィの口が、どの口が言っている、と動いた気がしたのだが気のせいだろうか。
俺は相手が喧嘩を売らなければ買ったことはない。
わざわざ自分から戦争をおっぱじめたい奴なんかいるのか?
、、、いるか、普通に。
自分が前線に出ないで済み、利権が絡んでいる場合に。
戦争をやりたい奴が前に立って戦えよ、といつも思うのだが。
いつも迷惑を被る最強の盾。
「まあいいでしょう、その辺は。ところで、なぜまだこんなところをトボトボと歩いているんですか?」
「急ぐ旅でもないので」
「あの、、、フリント女王主催の舞踏会は明日なのですけど、日程を勘違いしていらっしゃいますか」
そう言われてしまうと、女王が招待もしていないのに俺が舞踏会に来ることがなぜ決定しているのだろう、と疑問に思わざる得ない。
「私たちはその舞踏会の招待状を渡されておりませんけれど」
「存じております」
「なら、別に馬車を全速力で走らせても数日の距離にいたところで、何の問題もないのでは?」
俺、普通に空間転移魔法で行こうと思っていたから、魔物が多い地域でダラダラと討伐していただけだが、何も知らない他人の目からすると、じゃあ何でこの時期にこの国に来たんだよ、とツッコミを入れたくなるのか。
「やだ、もう、この人の相手するの。たかが従者の俺には無理だったんだよ。なかなか見当たらないから嫌な予感がしていたんだよ」
あ、涙目になって愚痴に変わった。
「この距離じゃ、絶対に間に合わない。フリント様に怒られる。リーフ王女の馬車が何事もなくこの国を進んでいたから安心したのに、オチが最強の盾ってどういうことなんだよ」
「そういうなら、最初から招待状を送ればいいのに」
俺がにこやかに正論を言うと、従者が近くにいたルイジィを手招きして、そっと封書を手渡した。
「招待状ですね」
「誰宛の?」
「宛名はないです」
フリント女王はこういう状況を予測していたのではないか?
俺がオルレア・バーレイだと言い張るのなら、オルト・バーレイへの招待状は受け取らない。
「なら、俺たちのこの行動も予測できそうなものだけど」
「ホントにねえ。ソイ王国の国境の街に馬車を手配しておけば良かった。フリント様はリーフ王女が王城に着く直前には来るわよ、の一点張りだったけど」
「あれ?それだと俺に来てほしいっていう歓迎の声に聞こえてしまうんだが。女王陛下は美人だから、俺を勘違いさせる発言は慎んでほしいなあ」
「くっ、女性のフリしている癖に。男性目線の発言をするくらいなら、オルレア・バーレイだと名乗らなければいいのに」
「ふっ、オルレアは理想の王子様を演じているので、男性目線の発言をするのですよ。貴方こそ何を言っているんですか」
「えっ?俺が変なの、コレ?」
設定とか発言するからだろ。
お前もフリント女王の従者ならしっかり演技しろよ。
ま、この従者はどうでもいいか。
「もう日が落ちる。この辺りの魔物も狩り尽くしたから、野営の準備を始めるぞ」
「ええっっ、何言っているの、この人っ。馬車でも間に合わないって言っているのに、急ぐ素振りを一切見せないっ」
「オルレア様ですからね」
「兄ちゃんだからな」
お前らも何を言っているんだ。
お前らは俺が空間転移魔法を使えると知っているだろ。
この従者にはわざわざ説明せんけど。
というか、馬車でも間に合わないと言っている時点で、普通なら行くのを諦めると思うけど?
どうせ間に合わないのなら、急がないよね。
全員が全員、権力者へ媚を売ると思うな。
ところで、この従者は明日王城に必要なのか?
フリント様に怒られる発言していたが。
「今日はどの肉焼こうか。冒険者ギルドの買取価格が高くないのに、うまい肉ってどれかな?」
「それなら昼過ぎに狩った魔物の肉がいいんじゃないか」
「これかー。そういや、デント王国の冒険者ギルドって生きているのか?」
「ああ、どうなんだろうな。この国で買い取ってもらえなければ、次の帝国で売ればいいんじゃないか」
ギルが答えてくれるが、コホンと後ろで咳払いが聞こえた。
俺たちは肉を切り分け始める。
他の者もテントを張ったり、火を起こしたり、水を汲みに行ったり、それぞれ動いている。コイツにかまっている余裕などない。
完全に暗くなる前にやるべきことはやっておきたいのだ。
「帝国かあ。この国でゴタゴタすると売るのは先の話になるなあ」
「ああ、やっぱりゴタゴタするのか?王女様を女王様の手から救って他国に逃亡ってワケにもいかねえのか」
「他国に逃げるくらいなら、わざわざデント王国に戻って来ない方が良いだろ。従者が招待状を手渡しに来たといっても、ウィト王国にいる限り安全だから」
ギルと会話を続けていると、再びコホンコホンと咳払い。
うるさい。
「お前、さっさと帰れよ」
「うわっ、迎えに来た者に対して心無い言葉を浴びせるなんて」
「勝手に招待されていた体にされて、日時は明日だから急げと言われたところで、誰が納得する?」
「ううっ、年下なのに言い負かされるぅー。俺、強い者には弱いって言ったのに」
フリント女王陛下にか。
基本的に権力者は正しくなくても暴言でも押し通す。明日までに来いとフリント女王に言われたなら、この国の者なら従うのだろう。できなくても急ぐ姿勢は見せる。
この国の者なら。
理不尽な要求はどこの国でもしてくるから、できないものはできないと言わないと状況を悪化させるだけである。
「とりあえず馬車につながれている馬を休ませてやれ。餌は積んでいるのか」
「馬は心配するのに、俺の心配はしてくれない」
「当たり前だろ。敵に媚びうる馬鹿がどこにいる」
鬱陶しいから口から本音が出てきてしまった。
「魔物肉、デント王国で全部購入するので、どのくらいお持ちか教えてくださーい」
少し離れた場所で馬を世話する従者が叫んだ。
じゅうじゅう。
肉が美味しく焼ける匂いがする。
「今日もうまそう」
「ふっふっふっ、兄ちゃん、今日はスペシャルな漬け込んだタレがあるんだ。仕込んで数日間寝かせたのが美味しい」
刻んだ薬味やらが大量に入ったタレの瓶をギルが鞄から取り出す。
「おおっ、ギル、天才っ。見た目だけでもうまそう」
「人数が人数だから一食分のタレだが、好評ならたまに作ろう」
「ギルの焼く肉は塩コショウだけでもうまいからなあ」
「あの、、、無視しないでくれますか?」
従者くんが俺とギルの間に割って入ってきた。
ギルがものすごく嫌そうな顔になる。
俺も同じような表情をしていることだろう。
血しぶきがついた白い馬車が俺たちの前に現れた。
真っ赤な血ではなく、色はかなり赤黒くなっている。
グジたちがそれを見て引いている。
コレが空飛ぶ馬車なんだけどね。
女王がいないから、普通に地面を走ってきた。
御者席に座っているのは青年男性である。
返り血なんてついていない綺麗な衣装である。
「違います」
「ええっ、違うんですかっ」
俺がスッパリサッパリ否定したらものすごい驚かれた。
ええっと、この人誰だっけ。
初対面なのだから、まず自己紹介しろよ。
記憶、記憶っと。
、、、確か、フリント女王のそばにいる従者だったはず。
顔の記憶が非常に朧気で怪しいが、フリント女王の空飛ぶ白い馬車を貸し出してもらえるのだから間違いない、と思う。
強烈な人のそばにいる人物って、単体で見るとなかなか思い出せない。
二人ワンセットで覚えているから。
「私はバーレイ侯爵家長女オルレア・バーレイです」
キラッキラなオルレアスマイルを浮かべてあげた。
この国にいる間はオルレアに扮しているので、ずっと長いつけ毛をつけたままである。
「、、、ああ、はい。そういう設定になっているのですね。誰だって密入国者にはなりたくないですものね」
「いえ、出入国管理事務所の職員に女王陛下の命により入国させていただいたので、我々は密入国者ではありません。ただ、貴方の国のご対応により武力行使せざるえなければ、我々が今後この国に出入り禁止になってしまう事態はあり得るのかと思いますが」
「あくまでも我々の対応次第だと?」
「私は平和主義者ですので」
どうも、この従者とルイジィの口が、どの口が言っている、と動いた気がしたのだが気のせいだろうか。
俺は相手が喧嘩を売らなければ買ったことはない。
わざわざ自分から戦争をおっぱじめたい奴なんかいるのか?
、、、いるか、普通に。
自分が前線に出ないで済み、利権が絡んでいる場合に。
戦争をやりたい奴が前に立って戦えよ、といつも思うのだが。
いつも迷惑を被る最強の盾。
「まあいいでしょう、その辺は。ところで、なぜまだこんなところをトボトボと歩いているんですか?」
「急ぐ旅でもないので」
「あの、、、フリント女王主催の舞踏会は明日なのですけど、日程を勘違いしていらっしゃいますか」
そう言われてしまうと、女王が招待もしていないのに俺が舞踏会に来ることがなぜ決定しているのだろう、と疑問に思わざる得ない。
「私たちはその舞踏会の招待状を渡されておりませんけれど」
「存じております」
「なら、別に馬車を全速力で走らせても数日の距離にいたところで、何の問題もないのでは?」
俺、普通に空間転移魔法で行こうと思っていたから、魔物が多い地域でダラダラと討伐していただけだが、何も知らない他人の目からすると、じゃあ何でこの時期にこの国に来たんだよ、とツッコミを入れたくなるのか。
「やだ、もう、この人の相手するの。たかが従者の俺には無理だったんだよ。なかなか見当たらないから嫌な予感がしていたんだよ」
あ、涙目になって愚痴に変わった。
「この距離じゃ、絶対に間に合わない。フリント様に怒られる。リーフ王女の馬車が何事もなくこの国を進んでいたから安心したのに、オチが最強の盾ってどういうことなんだよ」
「そういうなら、最初から招待状を送ればいいのに」
俺がにこやかに正論を言うと、従者が近くにいたルイジィを手招きして、そっと封書を手渡した。
「招待状ですね」
「誰宛の?」
「宛名はないです」
フリント女王はこういう状況を予測していたのではないか?
俺がオルレア・バーレイだと言い張るのなら、オルト・バーレイへの招待状は受け取らない。
「なら、俺たちのこの行動も予測できそうなものだけど」
「ホントにねえ。ソイ王国の国境の街に馬車を手配しておけば良かった。フリント様はリーフ王女が王城に着く直前には来るわよ、の一点張りだったけど」
「あれ?それだと俺に来てほしいっていう歓迎の声に聞こえてしまうんだが。女王陛下は美人だから、俺を勘違いさせる発言は慎んでほしいなあ」
「くっ、女性のフリしている癖に。男性目線の発言をするくらいなら、オルレア・バーレイだと名乗らなければいいのに」
「ふっ、オルレアは理想の王子様を演じているので、男性目線の発言をするのですよ。貴方こそ何を言っているんですか」
「えっ?俺が変なの、コレ?」
設定とか発言するからだろ。
お前もフリント女王の従者ならしっかり演技しろよ。
ま、この従者はどうでもいいか。
「もう日が落ちる。この辺りの魔物も狩り尽くしたから、野営の準備を始めるぞ」
「ええっっ、何言っているの、この人っ。馬車でも間に合わないって言っているのに、急ぐ素振りを一切見せないっ」
「オルレア様ですからね」
「兄ちゃんだからな」
お前らも何を言っているんだ。
お前らは俺が空間転移魔法を使えると知っているだろ。
この従者にはわざわざ説明せんけど。
というか、馬車でも間に合わないと言っている時点で、普通なら行くのを諦めると思うけど?
どうせ間に合わないのなら、急がないよね。
全員が全員、権力者へ媚を売ると思うな。
ところで、この従者は明日王城に必要なのか?
フリント様に怒られる発言していたが。
「今日はどの肉焼こうか。冒険者ギルドの買取価格が高くないのに、うまい肉ってどれかな?」
「それなら昼過ぎに狩った魔物の肉がいいんじゃないか」
「これかー。そういや、デント王国の冒険者ギルドって生きているのか?」
「ああ、どうなんだろうな。この国で買い取ってもらえなければ、次の帝国で売ればいいんじゃないか」
ギルが答えてくれるが、コホンと後ろで咳払いが聞こえた。
俺たちは肉を切り分け始める。
他の者もテントを張ったり、火を起こしたり、水を汲みに行ったり、それぞれ動いている。コイツにかまっている余裕などない。
完全に暗くなる前にやるべきことはやっておきたいのだ。
「帝国かあ。この国でゴタゴタすると売るのは先の話になるなあ」
「ああ、やっぱりゴタゴタするのか?王女様を女王様の手から救って他国に逃亡ってワケにもいかねえのか」
「他国に逃げるくらいなら、わざわざデント王国に戻って来ない方が良いだろ。従者が招待状を手渡しに来たといっても、ウィト王国にいる限り安全だから」
ギルと会話を続けていると、再びコホンコホンと咳払い。
うるさい。
「お前、さっさと帰れよ」
「うわっ、迎えに来た者に対して心無い言葉を浴びせるなんて」
「勝手に招待されていた体にされて、日時は明日だから急げと言われたところで、誰が納得する?」
「ううっ、年下なのに言い負かされるぅー。俺、強い者には弱いって言ったのに」
フリント女王陛下にか。
基本的に権力者は正しくなくても暴言でも押し通す。明日までに来いとフリント女王に言われたなら、この国の者なら従うのだろう。できなくても急ぐ姿勢は見せる。
この国の者なら。
理不尽な要求はどこの国でもしてくるから、できないものはできないと言わないと状況を悪化させるだけである。
「とりあえず馬車につながれている馬を休ませてやれ。餌は積んでいるのか」
「馬は心配するのに、俺の心配はしてくれない」
「当たり前だろ。敵に媚びうる馬鹿がどこにいる」
鬱陶しいから口から本音が出てきてしまった。
「魔物肉、デント王国で全部購入するので、どのくらいお持ちか教えてくださーい」
少し離れた場所で馬を世話する従者が叫んだ。
じゅうじゅう。
肉が美味しく焼ける匂いがする。
「今日もうまそう」
「ふっふっふっ、兄ちゃん、今日はスペシャルな漬け込んだタレがあるんだ。仕込んで数日間寝かせたのが美味しい」
刻んだ薬味やらが大量に入ったタレの瓶をギルが鞄から取り出す。
「おおっ、ギル、天才っ。見た目だけでもうまそう」
「人数が人数だから一食分のタレだが、好評ならたまに作ろう」
「ギルの焼く肉は塩コショウだけでもうまいからなあ」
「あの、、、無視しないでくれますか?」
従者くんが俺とギルの間に割って入ってきた。
ギルがものすごく嫌そうな顔になる。
俺も同じような表情をしていることだろう。
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