上 下
168 / 207
9章 理想と現実と、嫌がらせ

9-6 目的地に到着しません

しおりを挟む
「あのー、最強の盾殿ですよねー?」

 血しぶきがついた白い馬車が俺たちの前に現れた。
 真っ赤な血ではなく、色はかなり赤黒くなっている。
 グジたちがそれを見て引いている。
 コレが空飛ぶ馬車なんだけどね。
 女王がいないから、普通に地面を走ってきた。

 御者席に座っているのは青年男性である。
 返り血なんてついていない綺麗な衣装である。

「違います」

「ええっ、違うんですかっ」

 俺がスッパリサッパリ否定したらものすごい驚かれた。
 ええっと、この人誰だっけ。
 初対面なのだから、まず自己紹介しろよ。
 記憶、記憶っと。
 、、、確か、フリント女王のそばにいる従者だったはず。
 顔の記憶が非常に朧気で怪しいが、フリント女王の空飛ぶ白い馬車を貸し出してもらえるのだから間違いない、と思う。
 強烈な人のそばにいる人物って、単体で見るとなかなか思い出せない。
 二人ワンセットで覚えているから。

「私はバーレイ侯爵家長女オルレア・バーレイです」

 キラッキラなオルレアスマイルを浮かべてあげた。
 この国にいる間はオルレアに扮しているので、ずっと長いつけ毛をつけたままである。

「、、、ああ、はい。そういう設定になっているのですね。誰だって密入国者にはなりたくないですものね」

「いえ、出入国管理事務所の職員に女王陛下の命により入国させていただいたので、我々は密入国者ではありません。ただ、貴方の国のご対応により武力行使せざるえなければ、我々が今後この国に出入り禁止になってしまう事態はあり得るのかと思いますが」

「あくまでも我々の対応次第だと?」

「私は平和主義者ですので」

 どうも、この従者とルイジィの口が、どの口が言っている、と動いた気がしたのだが気のせいだろうか。

 俺は相手が喧嘩を売らなければ買ったことはない。
 わざわざ自分から戦争をおっぱじめたい奴なんかいるのか?
 、、、いるか、普通に。
 自分が前線に出ないで済み、利権が絡んでいる場合に。

 戦争をやりたい奴が前に立って戦えよ、といつも思うのだが。
 いつも迷惑を被る最強の盾。

「まあいいでしょう、その辺は。ところで、なぜまだこんなところをトボトボと歩いているんですか?」

「急ぐ旅でもないので」

「あの、、、フリント女王主催の舞踏会は明日なのですけど、日程を勘違いしていらっしゃいますか」

 そう言われてしまうと、女王が招待もしていないのに俺が舞踏会に来ることがなぜ決定しているのだろう、と疑問に思わざる得ない。

「私たちはその舞踏会の招待状を渡されておりませんけれど」

「存じております」

「なら、別に馬車を全速力で走らせても数日の距離にいたところで、何の問題もないのでは?」

 俺、普通に空間転移魔法で行こうと思っていたから、魔物が多い地域でダラダラと討伐していただけだが、何も知らない他人の目からすると、じゃあ何でこの時期にこの国に来たんだよ、とツッコミを入れたくなるのか。

「やだ、もう、この人の相手するの。たかが従者の俺には無理だったんだよ。なかなか見当たらないから嫌な予感がしていたんだよ」

 あ、涙目になって愚痴に変わった。

「この距離じゃ、絶対に間に合わない。フリント様に怒られる。リーフ王女の馬車が何事もなくこの国を進んでいたから安心したのに、オチが最強の盾ってどういうことなんだよ」

「そういうなら、最初から招待状を送ればいいのに」

 俺がにこやかに正論を言うと、従者が近くにいたルイジィを手招きして、そっと封書を手渡した。

「招待状ですね」

「誰宛の?」

「宛名はないです」

 フリント女王はこういう状況を予測していたのではないか?
 俺がオルレア・バーレイだと言い張るのなら、オルト・バーレイへの招待状は受け取らない。

「なら、俺たちのこの行動も予測できそうなものだけど」

「ホントにねえ。ソイ王国の国境の街に馬車を手配しておけば良かった。フリント様はリーフ王女が王城に着く直前には来るわよ、の一点張りだったけど」

「あれ?それだと俺に来てほしいっていう歓迎の声に聞こえてしまうんだが。女王陛下は美人だから、俺を勘違いさせる発言は慎んでほしいなあ」

「くっ、女性のフリしている癖に。男性目線の発言をするくらいなら、オルレア・バーレイだと名乗らなければいいのに」

「ふっ、オルレアは理想の王子様を演じているので、男性目線の発言をするのですよ。貴方こそ何を言っているんですか」

「えっ?俺が変なの、コレ?」

 設定とか発言するからだろ。
 お前もフリント女王の従者ならしっかり演技しろよ。

 ま、この従者はどうでもいいか。

「もう日が落ちる。この辺りの魔物も狩り尽くしたから、野営の準備を始めるぞ」

「ええっっ、何言っているの、この人っ。馬車でも間に合わないって言っているのに、急ぐ素振りを一切見せないっ」

「オルレア様ですからね」

「兄ちゃんだからな」

 お前らも何を言っているんだ。
 お前らは俺が空間転移魔法を使えると知っているだろ。
 この従者にはわざわざ説明せんけど。

 というか、馬車でも間に合わないと言っている時点で、普通なら行くのを諦めると思うけど?
 どうせ間に合わないのなら、急がないよね。
 全員が全員、権力者へ媚を売ると思うな。

 ところで、この従者は明日王城に必要なのか?
 フリント様に怒られる発言していたが。

「今日はどの肉焼こうか。冒険者ギルドの買取価格が高くないのに、うまい肉ってどれかな?」

「それなら昼過ぎに狩った魔物の肉がいいんじゃないか」

「これかー。そういや、デント王国の冒険者ギルドって生きているのか?」

「ああ、どうなんだろうな。この国で買い取ってもらえなければ、次の帝国で売ればいいんじゃないか」

 ギルが答えてくれるが、コホンと後ろで咳払いが聞こえた。
 俺たちは肉を切り分け始める。
 他の者もテントを張ったり、火を起こしたり、水を汲みに行ったり、それぞれ動いている。コイツにかまっている余裕などない。
 完全に暗くなる前にやるべきことはやっておきたいのだ。

「帝国かあ。この国でゴタゴタすると売るのは先の話になるなあ」

「ああ、やっぱりゴタゴタするのか?王女様を女王様の手から救って他国に逃亡ってワケにもいかねえのか」

「他国に逃げるくらいなら、わざわざデント王国に戻って来ない方が良いだろ。従者が招待状を手渡しに来たといっても、ウィト王国にいる限り安全だから」

 ギルと会話を続けていると、再びコホンコホンと咳払い。
 うるさい。

「お前、さっさと帰れよ」

「うわっ、迎えに来た者に対して心無い言葉を浴びせるなんて」

「勝手に招待されていた体にされて、日時は明日だから急げと言われたところで、誰が納得する?」

「ううっ、年下なのに言い負かされるぅー。俺、強い者には弱いって言ったのに」

 フリント女王陛下にか。
 基本的に権力者は正しくなくても暴言でも押し通す。明日までに来いとフリント女王に言われたなら、この国の者なら従うのだろう。できなくても急ぐ姿勢は見せる。
 この国の者なら。

 理不尽な要求はどこの国でもしてくるから、できないものはできないと言わないと状況を悪化させるだけである。

「とりあえず馬車につながれている馬を休ませてやれ。餌は積んでいるのか」

「馬は心配するのに、俺の心配はしてくれない」

「当たり前だろ。敵に媚びうる馬鹿がどこにいる」

 鬱陶しいから口から本音が出てきてしまった。

「魔物肉、デント王国で全部購入するので、どのくらいお持ちか教えてくださーい」

 少し離れた場所で馬を世話する従者が叫んだ。

 じゅうじゅう。
 肉が美味しく焼ける匂いがする。

「今日もうまそう」

「ふっふっふっ、兄ちゃん、今日はスペシャルな漬け込んだタレがあるんだ。仕込んで数日間寝かせたのが美味しい」

 刻んだ薬味やらが大量に入ったタレの瓶をギルが鞄から取り出す。

「おおっ、ギル、天才っ。見た目だけでもうまそう」

「人数が人数だから一食分のタレだが、好評ならたまに作ろう」

「ギルの焼く肉は塩コショウだけでもうまいからなあ」

「あの、、、無視しないでくれますか?」

 従者くんが俺とギルの間に割って入ってきた。
 ギルがものすごく嫌そうな顔になる。
 俺も同じような表情をしていることだろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

兄たちが弟を可愛がりすぎです

クロユキ
BL
俺が風邪で寝ていた目が覚めたら異世界!? メイド、王子って、俺も王子!? おっと、俺の自己紹介忘れてた!俺の、名前は坂田春人高校二年、別世界にウィル王子の身体に入っていたんだ!兄王子に振り回されて、俺大丈夫か?! 涙脆く可愛い系に弱い春人の兄王子達に振り回され護衛騎士に迫って慌てていっもハラハラドキドキたまにはバカな事を言ったりとしている主人公春人の話を楽しんでくれたら嬉しいです。 1日の話しが長い物語です。 誤字脱字には気をつけてはいますが、余り気にしないよ~と言う方がいましたら嬉しいです。

その男、有能につき……

大和撫子
BL
 俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか? 「君、どうかしたのかい?」  その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。  黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。  彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。  だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。  大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?  更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

幼い精霊を預けられたので、俺と主様が育ての父母になった件

雪玉 円記
BL
ハイマー辺境領主のグルシエス家に仕える、ディラン・サヘンドラ。 主である辺境伯グルシエス家三男、クリストファーと共に王立学園を卒業し、ハイマー領へと戻る。 その数日後、魔獣討伐のために騎士団と共に出撃したところ、幼い見た目の言葉を話せない子供を拾う。 リアンと名付けたその子供は、クリストファーの思惑でディランと彼を父母と認識してしまった。 個性豊かなグルシエス家、仕える面々、不思議な生き物たちに囲まれ、リアンはのびのびと暮らす。 ある日、世界的宗教であるマナ・ユリエ教の教団騎士であるエイギルがリアンを訪ねてきた。 リアンは次代の世界樹の精霊である。そのため、次のシンボルとして教団に居を移してほしい、と告げるエイギル。 だがリアンはそれを拒否する。リアンが嫌なら、と二人も支持する。 その判断が教皇アーシスの怒髪天をついてしまった。 数週間後、教団騎士団がハイマー辺境領邸を襲撃した。 ディランはリアンとクリストファーを守るため、リアンを迎えにきたエイギルと対峙する。 だが実力の差は大きく、ディランは斬り伏せられ、死の淵を彷徨う。 次に目が覚めた時、ディランはユグドラシルの元にいた。 ユグドラシルが用意したアフタヌーンティーを前に、意識が途絶えたあとのこと、自分とクリストファーの状態、リアンの決断、そして、何故自分とクリストファーがリアンの養親に選ばれたのかを聞かされる。 ユグドラシルに送り出され、意識が戻ったのは襲撃から数日後だった。 後日、リアンが拾ってきた不思議な生き物たちが実は四大元素の精霊たちであると知らされる。 彼らとグルシエス家中の協力を得て、ディランとクリストファーは鍛錬に励む。 一ヶ月後、ディランとクリスは四大精霊を伴い、教団本部がある隣国にいた。 ユグドラシルとリアンの意思を叶えるために。 そして、自分達を圧倒的戦闘力でねじ伏せたエイギルへのリベンジを果たすために──……。 ※一部に流血を含む戦闘シーン、R-15程度のイチャイチャが含まれます。 ※現在、改稿したものを順次投稿中です。  詳しくは最新の近況ボードをご覧ください。

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

すべてはあなたを守るため

高菜あやめ
BL
【天然超絶美形な王太子×妾のフリした護衛】 Y国の次期国王セレスタン王太子殿下の妾になるため、はるばるX国からやってきたロキ。だが妾とは表向きの姿で、その正体はY国政府の依頼で派遣された『雇われ』護衛だ。戴冠式を一か月後に控え、殿下をあらゆる刺客から守りぬかなくてはならない。しかしこの任務、殿下に素性を知られないことが条件で、そのため武器も取り上げられ、丸腰で護衛をするとか無茶な注文をされる。ロキははたして殿下を守りぬけるのか……愛情深い王太子殿下とポンコツ護衛のほのぼの切ないラブコメディです

処理中です...