上 下
157 / 207
8章 頼り切った者たち

8-18 下町散歩 ◆ギル視点◆

しおりを挟む
◆ギル視点◆

 昼過ぎに冒険者ギルドで魔物の買取金額を受け取ると、グジと別れて買い物に出る。
 旅に必要な物を手に入れておく必要があるのだが、冒険者ギルドの周辺は何もかもが高い。
 王都民じゃないことを見抜かれているのだろうか。
 値札もついてないことが多い上に、言い値自体が高い。
 値下げ交渉する気にもなれない。

 仕方ないので、辻馬車に乗り下町に行ってみる。
 王都であっても平民は生活している。
 生活水準が低い地域も必ずある。
 スラム街では身包みはがされる危険性があるので一人では行かないが。

 下町中心地の小さい広場で降りる。
 小さい広場でも辺りには屋台も出ていて人は多い。

「あー、ギルも来たのか」

「に、兄ちゃん、どうしてここに?」

 金髪のカツラをつけた兄ちゃんがいた。
 いつもの黒い服装に魔剣。
 冒険者と言われれば冒険者の格好なのだが騎士にも見えて、格好良すぎる。
 広場にいる女性たちだけでなく、男性までも遠巻きに見ているじゃないか。

「いやさー、王都ってどこの国も同じで物価が高いよなあ。山のなかの街や村の方が運送代がかかるから高いはずなんだけどさー、おかしいよなー」

 兄ちゃんは俺たちと同じで庶民的な感覚を持つ。
 物を買うときも値下げ交渉は当たり前、特に数多く場合は必ず値を下げさせるか、オマケをもらう。

 ウィト王国の街でも同じ行動をしていたからこそ、貴族であっても爵位は低い家なのだろうと、皆で勝手に思っていた。
 だからこそ、上の人間にこき使われる。
 逆らえないからこそ、国外脱出まで考えるのだと。

 最強の盾というのは、他国民も知っているウィト王国の最大の戦力だ。
 失って困るのはウィト王国だろうに。

 あの国で何もなければ、兄ちゃんが庶民的な感覚など持つわけもない。
 彼は侯爵家の一員なのだから。
 ウィト王国の貴族のなかでは一番の権力を持つと言われているバーレイ侯爵家の一員なのに。

「王都民じゃないって見抜かれて吹っ掛けられていたんだと思ったけど」

「ああ、ソイ王国ならばその可能性もあったな。地方にいるときは貴族自体が領主しかいないからどうでも良いが、王都は身分差が激しい。飲食店でもこういう下町の方が楽だ」

 下町にある店は特に身分で席を分けることもしない。
 お高く構えている店は繁華街にでも行けって追い出されるという噂もあるくらい。
 お忍びで来るなら、お忍びらしく平民と同じ席に着けという話だ。

 庶民的な兄ちゃんの方が俺としては安心してしまうが。
 慣れか。

「買い物で来たのか」

「王都から近くの街に向かうにも、消耗品は補充しないといけないからな。十五人も人数がいると補充できるときに補充しておかないといけない」

「いやー、皆様には大変お世話になっております。一人だと本当に適当な旅になっていたよ」

 この最強の盾は最強なので、本気で適当な旅をする可能性があるから怖い。
 彼は旅に必要な物を何も持っていなかった。ので、ソイ王国での野宿の前に必要な物を一式そろえた。
 テントは持っていないのは当然だとしても、食事は魔物討伐して解体して焼いて食べればいいしぃ、野宿もそのまま寝ればいいじゃん、え、寝袋って必要なの?という意識しかなかった。
 ソイ王国でも寒くなってくれば寝袋は必要だ。今、使っていない者たちも持っていることは持っている。宿に連泊するときはきちんと干しているくらいだ。

 兄ちゃんは食事でさえ焼き過ぎてしまった物凄く硬い肉でも美味しいと言って食べてしまう。
 それでも、俺が焼いた肉が一番うまいと味わう舌は持っている。

 この落差を知るごとに、いたたまれなさを感じる。
 ウィト王国は兄ちゃんに何をしたんだと。
 その場にいたとしても俺たちが何をできるわけでもないが、それでも手助けがしたかった。
 そばにいたかった。

「買い物手伝うよ」

「兄ちゃんも見たい物があって、ここまで来たんじゃないのか」

「せっかくここまで来たのだから、直接見ておこうと思っただけだ。あ、そだ。消耗品の補充なら、いい店を知っているぞー」

 何でや?
 兄ちゃんも王都に来るのは初めてだろ。何で前情報を持っているんだ?
 兄ちゃんの肩に五角形の物がキラリと見えた。

「兄ちゃん、道案内してくれ」

「ああ、こっちだ」

 彼はニカっと笑う。
 俺たちに向ける笑顔はソイファ王太子殿下に対するものとも、ルイジィに対するものとも違う。
 仲間だと思ってくれていれば良いなと切に願う。

 戦闘面では全然敵わない。
 だからこそ、俺たちは兄ちゃんの快適旅生活になるようにしなければ。

 グジと冒険者ギルドで別行動にしておいて良かったー。
 兄ちゃんと二人きりでお買い物だっ。
 何たる幸運。
 ありがとう、強運。
 十三人もいると、兄ちゃんと二人きりってなかなか難しいんだよなー。

 デートだ、デート。
 兄ちゃんが露ほどもそう思っていなくとも。




 兄ちゃんのおかげで、大量の荷物さえも魔法の盾で宿屋まで運んでもらえた。
 ふよふよと魔法の盾が宿に向かって空を飛んでいく。
 宿に行ってしまえば、大量の荷物でも十三人で割り振るのでそこまでの量でもない。

 ルイジィも荷物を背負っていることは背負っているのだが、あの中には何が入っているのだろう。
 一度荷物の場所をズラすために持ってみたことがあるのだが、超ド級で重かった。同じくらいというよりも一回り小さいサイズなのに、俺たちの荷物の重さなんて比じゃない。
 帝国にいるという噂でしかなかった皇帝の影が本当にいると知って驚いたが、ルイジィの能力も底が知れない。
 そのルイジィが全然敵わないという最強の盾の実力なんて、本当にわかったものじゃない。

 昨晩、宿の部屋で話されたことは口外禁止である。
 ソイ王国の国民には一切知らされることのない事実だ。
 知られたら、あの戦争の根幹が崩れる。
 最強の盾とともにいたからこそ、知り得た事実。

「ああ、ギル、あの屋台で皆におみやげ買っていかないか。王都一の肉団子だって」

 そこには王都一という謳い文句はどこにも掲げていない。
 長い行列がそれは事実なのだろうと物語る。
 魔法の盾の一枚が浮かびながら、兄ちゃんの袖をがんばって引っ張っている。

 まだ宿の夕食まで時間はある。

「そうだ、兄ちゃん、ついでにそこらに座って味見もしていかないか?」

「おっ、それもそうだな」

 兄ちゃんよりも、袖を引っ張っていた魔法の盾がパヤーと輝いたように見えたのは気のせいだろうか?

「兄ちゃんたちは席取り頼む」

「おう、この魔法の盾の分もよろしく頼んだ」

 屋台がそこかしこにあるので、適当なテーブルとベンチが広場に並んでいる。
 一休みにお茶する者も多い。
 兄ちゃんと魔法の盾がテーブルを確保するのを横目で見ながら、屋台の列に並ぶ。
 待ち侘びて、兄ちゃんが視線を送ってくれるのも嬉しい。

 俺の順番になって、注文しようとした。
 だから、気づくのも反応するのも遅れた。
 先程までいたはずの俺の後ろには誰も並んでおらず、屋台の周囲に人がいなくなっていることを。

「お前、邪魔だ」

 後ろを振り返ったとき、ヤバイと悟った。

 俺はこんなところにまで自分の得物は持ち歩いていない。
 というか、大振りの得物を街中で持ち歩くと冒険者ではなく不審者に見られてしまうので、俺たちは買い物時に持っていくのをやめた。何度警備隊に職質をされたことか。兄ちゃんがいると街の警備隊も素通りするんだけど。

 冒険者の格好をした男は剣を抜いた。
 こんな街中で一切の躊躇なく。

 男は剣を振り被った。

 カキンッ。

 乾いた音が響く。

「兄ちゃんっ」

 感動っ。
 ベンチに座っていたはずの兄ちゃんが魔剣を抜いて、俺の前で男の剣をとめている。

 俺、兄ちゃんに助けられたよっ。
 ん?いつものことか?強い魔物は兄ちゃんが仕留めているからなあ。

「チッ、平民風情がっ。俺様に剣を向けてどうなるのかわかってんのかっ」

「あ?」

 、、、あ、兄ちゃんの声がマジ切れしている。

 その肩にのっている魔法の盾もプンプン怒っている気がするなあ。
 食事の邪魔されたからかな?

「チッ、田舎もんかよっ。俺様はS級冒険者。平民は地面に頭をつけて土下座しろって話だっ」

 、、、S級冒険者。
 そういや、うちの街の門番が言ってたなあ。
 S級冒険者に会ったら平伏って。
 どこの街の冒険者ギルドに行っても、確認するのすっかりうっかり忘れてた。

 けど、首から金色な冒険者カードでもぶら下げてない限り、S級冒険者ってわからないんだけど。
 指名手配犯や賞金首みたいに似顔絵でもどこかに掲示されているのか?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

兄たちが弟を可愛がりすぎです

クロユキ
BL
俺が風邪で寝ていた目が覚めたら異世界!? メイド、王子って、俺も王子!? おっと、俺の自己紹介忘れてた!俺の、名前は坂田春人高校二年、別世界にウィル王子の身体に入っていたんだ!兄王子に振り回されて、俺大丈夫か?! 涙脆く可愛い系に弱い春人の兄王子達に振り回され護衛騎士に迫って慌てていっもハラハラドキドキたまにはバカな事を言ったりとしている主人公春人の話を楽しんでくれたら嬉しいです。 1日の話しが長い物語です。 誤字脱字には気をつけてはいますが、余り気にしないよ~と言う方がいましたら嬉しいです。

その男、有能につき……

大和撫子
BL
 俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか? 「君、どうかしたのかい?」  その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。  黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。  彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。  だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。  大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?  更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

幼い精霊を預けられたので、俺と主様が育ての父母になった件

雪玉 円記
BL
ハイマー辺境領主のグルシエス家に仕える、ディラン・サヘンドラ。 主である辺境伯グルシエス家三男、クリストファーと共に王立学園を卒業し、ハイマー領へと戻る。 その数日後、魔獣討伐のために騎士団と共に出撃したところ、幼い見た目の言葉を話せない子供を拾う。 リアンと名付けたその子供は、クリストファーの思惑でディランと彼を父母と認識してしまった。 個性豊かなグルシエス家、仕える面々、不思議な生き物たちに囲まれ、リアンはのびのびと暮らす。 ある日、世界的宗教であるマナ・ユリエ教の教団騎士であるエイギルがリアンを訪ねてきた。 リアンは次代の世界樹の精霊である。そのため、次のシンボルとして教団に居を移してほしい、と告げるエイギル。 だがリアンはそれを拒否する。リアンが嫌なら、と二人も支持する。 その判断が教皇アーシスの怒髪天をついてしまった。 数週間後、教団騎士団がハイマー辺境領邸を襲撃した。 ディランはリアンとクリストファーを守るため、リアンを迎えにきたエイギルと対峙する。 だが実力の差は大きく、ディランは斬り伏せられ、死の淵を彷徨う。 次に目が覚めた時、ディランはユグドラシルの元にいた。 ユグドラシルが用意したアフタヌーンティーを前に、意識が途絶えたあとのこと、自分とクリストファーの状態、リアンの決断、そして、何故自分とクリストファーがリアンの養親に選ばれたのかを聞かされる。 ユグドラシルに送り出され、意識が戻ったのは襲撃から数日後だった。 後日、リアンが拾ってきた不思議な生き物たちが実は四大元素の精霊たちであると知らされる。 彼らとグルシエス家中の協力を得て、ディランとクリストファーは鍛錬に励む。 一ヶ月後、ディランとクリスは四大精霊を伴い、教団本部がある隣国にいた。 ユグドラシルとリアンの意思を叶えるために。 そして、自分達を圧倒的戦闘力でねじ伏せたエイギルへのリベンジを果たすために──……。 ※一部に流血を含む戦闘シーン、R-15程度のイチャイチャが含まれます。 ※現在、改稿したものを順次投稿中です。  詳しくは最新の近況ボードをご覧ください。

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

処理中です...