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8章 頼り切った者たち
8-18 下町散歩 ◆ギル視点◆
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◆ギル視点◆
昼過ぎに冒険者ギルドで魔物の買取金額を受け取ると、グジと別れて買い物に出る。
旅に必要な物を手に入れておく必要があるのだが、冒険者ギルドの周辺は何もかもが高い。
王都民じゃないことを見抜かれているのだろうか。
値札もついてないことが多い上に、言い値自体が高い。
値下げ交渉する気にもなれない。
仕方ないので、辻馬車に乗り下町に行ってみる。
王都であっても平民は生活している。
生活水準が低い地域も必ずある。
スラム街では身包みはがされる危険性があるので一人では行かないが。
下町中心地の小さい広場で降りる。
小さい広場でも辺りには屋台も出ていて人は多い。
「あー、ギルも来たのか」
「に、兄ちゃん、どうしてここに?」
金髪のカツラをつけた兄ちゃんがいた。
いつもの黒い服装に魔剣。
冒険者と言われれば冒険者の格好なのだが騎士にも見えて、格好良すぎる。
広場にいる女性たちだけでなく、男性までも遠巻きに見ているじゃないか。
「いやさー、王都ってどこの国も同じで物価が高いよなあ。山のなかの街や村の方が運送代がかかるから高いはずなんだけどさー、おかしいよなー」
兄ちゃんは俺たちと同じで庶民的な感覚を持つ。
物を買うときも値下げ交渉は当たり前、特に数多く場合は必ず値を下げさせるか、オマケをもらう。
ウィト王国の街でも同じ行動をしていたからこそ、貴族であっても爵位は低い家なのだろうと、皆で勝手に思っていた。
だからこそ、上の人間にこき使われる。
逆らえないからこそ、国外脱出まで考えるのだと。
最強の盾というのは、他国民も知っているウィト王国の最大の戦力だ。
失って困るのはウィト王国だろうに。
あの国で何もなければ、兄ちゃんが庶民的な感覚など持つわけもない。
彼は侯爵家の一員なのだから。
ウィト王国の貴族のなかでは一番の権力を持つと言われているバーレイ侯爵家の一員なのに。
「王都民じゃないって見抜かれて吹っ掛けられていたんだと思ったけど」
「ああ、ソイ王国ならばその可能性もあったな。地方にいるときは貴族自体が領主しかいないからどうでも良いが、王都は身分差が激しい。飲食店でもこういう下町の方が楽だ」
下町にある店は特に身分で席を分けることもしない。
お高く構えている店は繁華街にでも行けって追い出されるという噂もあるくらい。
お忍びで来るなら、お忍びらしく平民と同じ席に着けという話だ。
庶民的な兄ちゃんの方が俺としては安心してしまうが。
慣れか。
「買い物で来たのか」
「王都から近くの街に向かうにも、消耗品は補充しないといけないからな。十五人も人数がいると補充できるときに補充しておかないといけない」
「いやー、皆様には大変お世話になっております。一人だと本当に適当な旅になっていたよ」
この最強の盾は最強なので、本気で適当な旅をする可能性があるから怖い。
彼は旅に必要な物を何も持っていなかった。ので、ソイ王国での野宿の前に必要な物を一式そろえた。
テントは持っていないのは当然だとしても、食事は魔物討伐して解体して焼いて食べればいいしぃ、野宿もそのまま寝ればいいじゃん、え、寝袋って必要なの?という意識しかなかった。
ソイ王国でも寒くなってくれば寝袋は必要だ。今、使っていない者たちも持っていることは持っている。宿に連泊するときはきちんと干しているくらいだ。
兄ちゃんは食事でさえ焼き過ぎてしまった物凄く硬い肉でも美味しいと言って食べてしまう。
それでも、俺が焼いた肉が一番うまいと味わう舌は持っている。
この落差を知るごとに、いたたまれなさを感じる。
ウィト王国は兄ちゃんに何をしたんだと。
その場にいたとしても俺たちが何をできるわけでもないが、それでも手助けがしたかった。
そばにいたかった。
「買い物手伝うよ」
「兄ちゃんも見たい物があって、ここまで来たんじゃないのか」
「せっかくここまで来たのだから、直接見ておこうと思っただけだ。あ、そだ。消耗品の補充なら、いい店を知っているぞー」
何でや?
兄ちゃんも王都に来るのは初めてだろ。何で前情報を持っているんだ?
兄ちゃんの肩に五角形の物がキラリと見えた。
「兄ちゃん、道案内してくれ」
「ああ、こっちだ」
彼はニカっと笑う。
俺たちに向ける笑顔はソイファ王太子殿下に対するものとも、ルイジィに対するものとも違う。
仲間だと思ってくれていれば良いなと切に願う。
戦闘面では全然敵わない。
だからこそ、俺たちは兄ちゃんの快適旅生活になるようにしなければ。
グジと冒険者ギルドで別行動にしておいて良かったー。
兄ちゃんと二人きりでお買い物だっ。
何たる幸運。
ありがとう、強運。
十三人もいると、兄ちゃんと二人きりってなかなか難しいんだよなー。
デートだ、デート。
兄ちゃんが露ほどもそう思っていなくとも。
兄ちゃんのおかげで、大量の荷物さえも魔法の盾で宿屋まで運んでもらえた。
ふよふよと魔法の盾が宿に向かって空を飛んでいく。
宿に行ってしまえば、大量の荷物でも十三人で割り振るのでそこまでの量でもない。
ルイジィも荷物を背負っていることは背負っているのだが、あの中には何が入っているのだろう。
一度荷物の場所をズラすために持ってみたことがあるのだが、超ド級で重かった。同じくらいというよりも一回り小さいサイズなのに、俺たちの荷物の重さなんて比じゃない。
帝国にいるという噂でしかなかった皇帝の影が本当にいると知って驚いたが、ルイジィの能力も底が知れない。
そのルイジィが全然敵わないという最強の盾の実力なんて、本当にわかったものじゃない。
昨晩、宿の部屋で話されたことは口外禁止である。
ソイ王国の国民には一切知らされることのない事実だ。
知られたら、あの戦争の根幹が崩れる。
最強の盾とともにいたからこそ、知り得た事実。
「ああ、ギル、あの屋台で皆におみやげ買っていかないか。王都一の肉団子だって」
そこには王都一という謳い文句はどこにも掲げていない。
長い行列がそれは事実なのだろうと物語る。
魔法の盾の一枚が浮かびながら、兄ちゃんの袖をがんばって引っ張っている。
まだ宿の夕食まで時間はある。
「そうだ、兄ちゃん、ついでにそこらに座って味見もしていかないか?」
「おっ、それもそうだな」
兄ちゃんよりも、袖を引っ張っていた魔法の盾がパヤーと輝いたように見えたのは気のせいだろうか?
「兄ちゃんたちは席取り頼む」
「おう、この魔法の盾の分もよろしく頼んだ」
屋台がそこかしこにあるので、適当なテーブルとベンチが広場に並んでいる。
一休みにお茶する者も多い。
兄ちゃんと魔法の盾がテーブルを確保するのを横目で見ながら、屋台の列に並ぶ。
待ち侘びて、兄ちゃんが視線を送ってくれるのも嬉しい。
俺の順番になって、注文しようとした。
だから、気づくのも反応するのも遅れた。
先程までいたはずの俺の後ろには誰も並んでおらず、屋台の周囲に人がいなくなっていることを。
「お前、邪魔だ」
後ろを振り返ったとき、ヤバイと悟った。
俺はこんなところにまで自分の得物は持ち歩いていない。
というか、大振りの得物を街中で持ち歩くと冒険者ではなく不審者に見られてしまうので、俺たちは買い物時に持っていくのをやめた。何度警備隊に職質をされたことか。兄ちゃんがいると街の警備隊も素通りするんだけど。
冒険者の格好をした男は剣を抜いた。
こんな街中で一切の躊躇なく。
男は剣を振り被った。
カキンッ。
乾いた音が響く。
「兄ちゃんっ」
感動っ。
ベンチに座っていたはずの兄ちゃんが魔剣を抜いて、俺の前で男の剣をとめている。
俺、兄ちゃんに助けられたよっ。
ん?いつものことか?強い魔物は兄ちゃんが仕留めているからなあ。
「チッ、平民風情がっ。俺様に剣を向けてどうなるのかわかってんのかっ」
「あ?」
、、、あ、兄ちゃんの声がマジ切れしている。
その肩にのっている魔法の盾もプンプン怒っている気がするなあ。
食事の邪魔されたからかな?
「チッ、田舎もんかよっ。俺様はS級冒険者。平民は地面に頭をつけて土下座しろって話だっ」
、、、S級冒険者。
そういや、うちの街の門番が言ってたなあ。
S級冒険者に会ったら平伏って。
どこの街の冒険者ギルドに行っても、確認するのすっかりうっかり忘れてた。
けど、首から金色な冒険者カードでもぶら下げてない限り、S級冒険者ってわからないんだけど。
指名手配犯や賞金首みたいに似顔絵でもどこかに掲示されているのか?
昼過ぎに冒険者ギルドで魔物の買取金額を受け取ると、グジと別れて買い物に出る。
旅に必要な物を手に入れておく必要があるのだが、冒険者ギルドの周辺は何もかもが高い。
王都民じゃないことを見抜かれているのだろうか。
値札もついてないことが多い上に、言い値自体が高い。
値下げ交渉する気にもなれない。
仕方ないので、辻馬車に乗り下町に行ってみる。
王都であっても平民は生活している。
生活水準が低い地域も必ずある。
スラム街では身包みはがされる危険性があるので一人では行かないが。
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「あー、ギルも来たのか」
「に、兄ちゃん、どうしてここに?」
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「いやさー、王都ってどこの国も同じで物価が高いよなあ。山のなかの街や村の方が運送代がかかるから高いはずなんだけどさー、おかしいよなー」
兄ちゃんは俺たちと同じで庶民的な感覚を持つ。
物を買うときも値下げ交渉は当たり前、特に数多く場合は必ず値を下げさせるか、オマケをもらう。
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最強の盾というのは、他国民も知っているウィト王国の最大の戦力だ。
失って困るのはウィト王国だろうに。
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彼は侯爵家の一員なのだから。
ウィト王国の貴族のなかでは一番の権力を持つと言われているバーレイ侯爵家の一員なのに。
「王都民じゃないって見抜かれて吹っ掛けられていたんだと思ったけど」
「ああ、ソイ王国ならばその可能性もあったな。地方にいるときは貴族自体が領主しかいないからどうでも良いが、王都は身分差が激しい。飲食店でもこういう下町の方が楽だ」
下町にある店は特に身分で席を分けることもしない。
お高く構えている店は繁華街にでも行けって追い出されるという噂もあるくらい。
お忍びで来るなら、お忍びらしく平民と同じ席に着けという話だ。
庶民的な兄ちゃんの方が俺としては安心してしまうが。
慣れか。
「買い物で来たのか」
「王都から近くの街に向かうにも、消耗品は補充しないといけないからな。十五人も人数がいると補充できるときに補充しておかないといけない」
「いやー、皆様には大変お世話になっております。一人だと本当に適当な旅になっていたよ」
この最強の盾は最強なので、本気で適当な旅をする可能性があるから怖い。
彼は旅に必要な物を何も持っていなかった。ので、ソイ王国での野宿の前に必要な物を一式そろえた。
テントは持っていないのは当然だとしても、食事は魔物討伐して解体して焼いて食べればいいしぃ、野宿もそのまま寝ればいいじゃん、え、寝袋って必要なの?という意識しかなかった。
ソイ王国でも寒くなってくれば寝袋は必要だ。今、使っていない者たちも持っていることは持っている。宿に連泊するときはきちんと干しているくらいだ。
兄ちゃんは食事でさえ焼き過ぎてしまった物凄く硬い肉でも美味しいと言って食べてしまう。
それでも、俺が焼いた肉が一番うまいと味わう舌は持っている。
この落差を知るごとに、いたたまれなさを感じる。
ウィト王国は兄ちゃんに何をしたんだと。
その場にいたとしても俺たちが何をできるわけでもないが、それでも手助けがしたかった。
そばにいたかった。
「買い物手伝うよ」
「兄ちゃんも見たい物があって、ここまで来たんじゃないのか」
「せっかくここまで来たのだから、直接見ておこうと思っただけだ。あ、そだ。消耗品の補充なら、いい店を知っているぞー」
何でや?
兄ちゃんも王都に来るのは初めてだろ。何で前情報を持っているんだ?
兄ちゃんの肩に五角形の物がキラリと見えた。
「兄ちゃん、道案内してくれ」
「ああ、こっちだ」
彼はニカっと笑う。
俺たちに向ける笑顔はソイファ王太子殿下に対するものとも、ルイジィに対するものとも違う。
仲間だと思ってくれていれば良いなと切に願う。
戦闘面では全然敵わない。
だからこそ、俺たちは兄ちゃんの快適旅生活になるようにしなければ。
グジと冒険者ギルドで別行動にしておいて良かったー。
兄ちゃんと二人きりでお買い物だっ。
何たる幸運。
ありがとう、強運。
十三人もいると、兄ちゃんと二人きりってなかなか難しいんだよなー。
デートだ、デート。
兄ちゃんが露ほどもそう思っていなくとも。
兄ちゃんのおかげで、大量の荷物さえも魔法の盾で宿屋まで運んでもらえた。
ふよふよと魔法の盾が宿に向かって空を飛んでいく。
宿に行ってしまえば、大量の荷物でも十三人で割り振るのでそこまでの量でもない。
ルイジィも荷物を背負っていることは背負っているのだが、あの中には何が入っているのだろう。
一度荷物の場所をズラすために持ってみたことがあるのだが、超ド級で重かった。同じくらいというよりも一回り小さいサイズなのに、俺たちの荷物の重さなんて比じゃない。
帝国にいるという噂でしかなかった皇帝の影が本当にいると知って驚いたが、ルイジィの能力も底が知れない。
そのルイジィが全然敵わないという最強の盾の実力なんて、本当にわかったものじゃない。
昨晩、宿の部屋で話されたことは口外禁止である。
ソイ王国の国民には一切知らされることのない事実だ。
知られたら、あの戦争の根幹が崩れる。
最強の盾とともにいたからこそ、知り得た事実。
「ああ、ギル、あの屋台で皆におみやげ買っていかないか。王都一の肉団子だって」
そこには王都一という謳い文句はどこにも掲げていない。
長い行列がそれは事実なのだろうと物語る。
魔法の盾の一枚が浮かびながら、兄ちゃんの袖をがんばって引っ張っている。
まだ宿の夕食まで時間はある。
「そうだ、兄ちゃん、ついでにそこらに座って味見もしていかないか?」
「おっ、それもそうだな」
兄ちゃんよりも、袖を引っ張っていた魔法の盾がパヤーと輝いたように見えたのは気のせいだろうか?
「兄ちゃんたちは席取り頼む」
「おう、この魔法の盾の分もよろしく頼んだ」
屋台がそこかしこにあるので、適当なテーブルとベンチが広場に並んでいる。
一休みにお茶する者も多い。
兄ちゃんと魔法の盾がテーブルを確保するのを横目で見ながら、屋台の列に並ぶ。
待ち侘びて、兄ちゃんが視線を送ってくれるのも嬉しい。
俺の順番になって、注文しようとした。
だから、気づくのも反応するのも遅れた。
先程までいたはずの俺の後ろには誰も並んでおらず、屋台の周囲に人がいなくなっていることを。
「お前、邪魔だ」
後ろを振り返ったとき、ヤバイと悟った。
俺はこんなところにまで自分の得物は持ち歩いていない。
というか、大振りの得物を街中で持ち歩くと冒険者ではなく不審者に見られてしまうので、俺たちは買い物時に持っていくのをやめた。何度警備隊に職質をされたことか。兄ちゃんがいると街の警備隊も素通りするんだけど。
冒険者の格好をした男は剣を抜いた。
こんな街中で一切の躊躇なく。
男は剣を振り被った。
カキンッ。
乾いた音が響く。
「兄ちゃんっ」
感動っ。
ベンチに座っていたはずの兄ちゃんが魔剣を抜いて、俺の前で男の剣をとめている。
俺、兄ちゃんに助けられたよっ。
ん?いつものことか?強い魔物は兄ちゃんが仕留めているからなあ。
「チッ、平民風情がっ。俺様に剣を向けてどうなるのかわかってんのかっ」
「あ?」
、、、あ、兄ちゃんの声がマジ切れしている。
その肩にのっている魔法の盾もプンプン怒っている気がするなあ。
食事の邪魔されたからかな?
「チッ、田舎もんかよっ。俺様はS級冒険者。平民は地面に頭をつけて土下座しろって話だっ」
、、、S級冒険者。
そういや、うちの街の門番が言ってたなあ。
S級冒険者に会ったら平伏って。
どこの街の冒険者ギルドに行っても、確認するのすっかりうっかり忘れてた。
けど、首から金色な冒険者カードでもぶら下げてない限り、S級冒険者ってわからないんだけど。
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